特集 差別化ヤーン大全2013/これが注目の差別化ヤーン!/モノ作りのヒントに

2013年08月09日 (金曜日)

 「他社や海外にできないモノ作りの重要性」が叫ばれて久しい。新興国の追い上げによって、もはや定番的な商品は、すべてを海外で生産できるようになったからだ。こうした中、テキスタイル・ニットメーカーが注目するのが、原糸から差別化した商品開発。個性的な原糸を使用することで個性的な最終製品を作ることが可能になる。そして日本には、それを可能にするヤーンメーカーが現在でも多数存在する。

 そこで問題になるのが情報。かつて産地では大手商社や糸商が様々な糸に関する情報を伝える役割を果たした。しかし現在、原糸販売ビジネスの縮小が続いたことで、こうした情報伝達の経路が狭まっている。

 こうした問題点を踏まえ、本紙は今回、素材メーカー、商社、糸加工メーカーなど有力ヤーンサプライヤーの差別化ヤーンを総覧する保存版特集として「差別化ヤーン大全2013」をまとめた。さらに、とくに注目すべき企業の動きもピックアップする。

新内外綿/認知度高まる「バングロ」

 新内外綿の竹繊維紡績糸「バングロ」の認知度が徐々に高まってきた。このほど北陸産地の個性派機業などが相次いでバングロを使ったモノ作りに取り組む。輸出を得意とする機業もバングロを使った商品開発を進めるなど今後への期待感が高まってきた。

 バングロは、京都のベンチャー企業、ETエイトク(京都市北区)と福井産地で竹による商品開発研究を行っていたバンブーグローバル(福井市)と共同開発したもの。特殊な前処理と開繊処理を行い、製織後の晒し加工の工夫によって竹ながら柔らかな風合いが可能だ。

 北陸産地の機業による採用が進むほか、新内外綿でバングロ100%織物も生産し、高級ふとん用側地として採用された。そのほかにも綿交織によるデニム用途などからも引き合いがある。少しずつだが確実に認知度が高まってきた形だ。他社にないユニークな糸だけに、新内外綿では引き続き提案に力を入れる。

 そのほか、カラースラブやツィーディーネップも同社ならではのファンシーヤーン。カラースラブはスラブ部分がポリエステルのため、編み地を一浴でオーバーダイするなどの工夫で様々な生地表情を作ることが可能だ。ツィーディーネップもネップにシルクを採用したバージョンを用意。カラースラブと合わせて2月に愛知県一宮市で開催された糸総合展「ヤーンフェア」の出展したところ好評を博した。同社では引き続きトップ染めによるユニークなファンシーヤーンを中心に需要の掘り起こしを進める戦略だ。

近泉合成繊維/機能が持ち味の「パオ」

 横編み用梳毛糸を得意とする近泉合繊繊維の機能性ニット糸「パオ」が注目を集めている。近年ではセーターなどでも機能性を求める市場のニーズが高まっていることが追い風になる。同社では次なる機能ニット糸の開発にも取り組む。

 パオは三菱レイヨン、旭化成せんいと共同開発したアクリル・キュプラ混梳毛紡績糸。レギュラータイプのパオとアクリル・キュプラ・ウール混の「パオW」をラインアップする。昨年3月に発表したところ、大きな反響を呼んだ。

 三菱レイヨンのアクリル短繊維「ボンネル」のソフトな風合いとハイバルキー性による軽量性に旭化成せんいの「ベンベルグ」の吸湿発熱・制電・調湿・保温機能を融合させた高機能商品だ。発表して1年以上が経過し、徐々にだが市場で認知度が高まっており、最近ではタグやラベルを求める取引先も増加傾向だ。

 同社では引き続き機能性ニット糸の開発を進める。秋冬向け素材だけでは販売期間に限りがあるため、ベンベルグなど天然由来繊維を活用することで春夏素材の開発に取り組み、機能ニット糸の通年対応を強化する方針だ。

 このほか同社では主力商品であるニット糸「ビクトリー」の販売にも力を入れる。三菱レイヨンの抗ピルアクリル50%・防縮ウール50%混のハイレベルな抗ピル性が特徴だ。見本帳販売を中心にセーター、靴下、マフラー、帽子などで重点的に提案する。

モリリン/「パーチェ」に新タイプ

 14春夏シーズンで3年目に入るモリリンの特殊紡績糸「パーチェ」と「リーナ」が好評だ。いずれも、素材にも紡績方法にもこだわった同社ならではの糸だ。パーチェには新タイプも加わった。

 パーチェは、トリアセテート長繊維「ソアロン」に様々な短繊維を特殊な紡績方法で組み合わせた糸だ。三菱レイヨンテキスタイルとの取り組みで展開している。短繊維サイドに超長綿を採用したタイプや、キュプラ、モダールなどを採用したタイプがある。ソアロンが醸し出す絹のような光沢・風合い・ドレープ性と短繊維のカジュアル感の組み合わせの面白さが受け、新しい「エレガンスカジュアル素材」として認知されつつある。14春夏に向けてはこれらに加え、PTT繊維とソアロンを組み合わせたタイプも商品化した。これらの多彩なパーチェの30単と40単を、織布用、編み立て用の両方で備蓄し、ケース単位で販売している。

 「リーナ」は、マイクロキュプラ100%のコンパクト糸だ。紡績糸でありながら、毛羽が非常に少なく、シャープな表面感を表現できる。キュプラの自然で上品なソフト感や光沢も魅力だ。適度なハリ感、ドライ感もある。海外で生産した32単、40単、60単を、織布用、編み立て用に備蓄し、ケース単位で販売している。日本だけでなく、中国でも引き合いが増加しているという。

泉工業/分散染料でも金銀色に

 京都金銀糸産地のラメ糸メーカー、泉工業はこのほど、分散染料で染色してもラメの金銀色が残る後染め対応ラメ糸「スーパージョーテックス」を開発した。

 ラメは通常、ポリエステルフィルムに金や銀、アルミなど金属を真空蒸着する方法で製造する。このためラメ糸を使ったポリエステル織・編み物を分散染料で染色した場合、ラメのフィルムも染まってしまうことから金銀色を残すことが難しい。従来はラメの金銀色を残すためにはカチオン可染ポリエステルを使い、カチオン染色する必要があり、コストがかかった。

 こうした背景から、レギュラーポリエステルと交編・交織して分散染料で染色しても金銀色が残るラメ糸の要望が高まっていた。後染め対応ラメ糸を得意とする泉工業では独自の工夫で「スーパージョーテックス」の開発に成功した。現在、北陸産地の機業などへの提案を進めている。

 また、後晒しタオル用ラメ糸「セルテックス」も注目のラメ糸だ。後晒し後もラメの光沢が残るほか、芯糸に綿糸を使用した丸撚り糸のためポリエステル混率が低い。さらに独自の毛羽制御技術によって従来は難しかったエアジェット織機による緯糸挿入が可能になった。すでに泉州タオル産地の大手タオルメーカーが採用に動くなど注目が高まる。

 このほかにも染色加工なストレッチラメ糸「ニャルマイテル」の提案にも力を入れる。共同開発パートナーである川プロの協力を経て、このほど受注生産による染め糸販売もスタートさせた。

豊島/オーガビッツへ転換推進

 従来の綿花栽培は、大量の殺虫剤や除草剤、化学肥料を用いるため、土壌汚染をはじめ環境負荷が大きい。有機栽培による綿花(オーガニックコットン)への転換が求められる一方で、手間の多さから単価が高くなることが普及の障害になっている。

 豊島の「オーガビッツ」プロジェクトは、現在、65ブランドが採用し、100万枚以上の製品が店頭に並んでいる。同プロジェクトは、オーガニックコットンを手軽に消費者に浸透させていく手法に特徴がある。

 同社が扱うオーガニックコットンを10%以上使用する製品に「オーガビッツ」の下げ札を付ける。混合率を下げ、無理なくオーガニックコットンの需要を伸ばす考えで、「混合率100%のものを10人が使うより、10%のものを1000人に使ってもらう」(溝口量久営業企画室長)ことで拡大させる。

 オーガビッツは、機能ポリエステルとの混紡やアクリル、キュプラとの混紡など機能を付与した素材も展開する。このほか、デザイナーとのコレボレーション企画など、オーガニックコットンと組み合わせるプラットフォーム作りに注力する。採用ブランドの製品化の発想を広げることで、衣料製品としての付加価値を高める仕組みがある。これがオーガビッツの強みだ。原料から製品に至る全社的な連携が支える。