短気は損気・継続は力なり(7)帝人「エルク」(後)V―Lapで性能向上
2013年08月16日 (金曜日)
帝人の高機能クッション材「エルク」は2005年、それまでのわた売りから製品販売へと一歩、踏み出す。旧カネボウ合繊の不織布製品事業の継承がその契機となった。翌年からエルクを使った製品販売が始まる。一つは電車シート材。同社がシート材まで生産し、販売するというもので、同時期に一般寝具の製造販売も始める。「付加価値を高めるだけでなく、それが次の開発にも結び付いた」と現・ライフアメニティ部のアメニティ課構造体担当の佐野照朗課長は言う。
並行する形で、わた売りではあるが、海外市場の開拓にも着手する。「製品展開に乗り出したものの、用途は限定されていた。さらに拡大するには世界に打って出るしかない」。その判断によりブラカップ向けを中心としたわた輸出をスタートする。
そのわた輸出で重要なパートナーとなったのが、中国の不織布メーカーの雅康科技繊維(深セン)とその親会社で成型メーカーである台湾の耀億工業との連携だ。彼らと共同でエルクによるブラカップの開発を推進する。
耐洗濯性の向上など様々な開発が行われ、中国、米国、欧州などのインナーアパレル製品にスペックインを果たす。これがエルクの販売拡大に寄与する。
モノ作りにおける転機も訪れる。それが07年、垂直不織布「V―Lap」の事業化だ。V―Lapは繊維が縦方向に並ぶのが特徴で、ニッケの不織布製造子会社、アンビック(兵庫県姫路市)に、帝人が設備貸与し生産委託するという面白いコラボレーションでもある。
このV―Lapとエルクを組み合わせることで、クッション性、成型性などエルクの特性がさらに高まる。これも規模拡大を後押しした。
V―Lapと組み合わせたエルクは軽量敷ふとんなどで製品化され、通信販売やテレビショッピングで販売中。「右肩上がりで伸びている」と言う。
開発から20年近く、エルクはクッション材として一定の地位を築きつつある。さらなる拡大に向けて同社では海外展開の強化を課題に掲げる。わた輸出先であるイタリアの寝具メーカーと提携した製品事業など新たなビジネスにも乗り出している。
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本連載で取り上げた素材メーカーの3事業には、ターニングポイントがあった。東洋紡スペシャルティズトレーディングの「Zシャツ」はインドネシア生産、旭化成せんい「スマッシュ」は独自不織布への位置づけ変化、帝人のエルクは製品事業への参入だ。ただ、転換期を経て上昇に転じることができたのは、素材が持つ力に加え、企業あるいは担当者の粘り強さによるところも大きい。
まだまだ眠ったままの製品はあるはず。「諦めるのはまだ早い」