特集/安心安全の機能繊維/高まるニーズと安全意識

2013年08月30日 (金曜日)

 今、あらゆる分野で「安心」や「安全」がキーワードになっている。本特集では難燃素材の紹介をはじめ、機能性を担保する検査機関の動き、11月5~8日にドイツのデュッセルドルフで開かれる労働安全衛生分野の世界最大見本市「A+A」(国際労働安全機材・技術展)2013を紹介する。

用途広がる難燃素材

 安心・安全のための機能繊維の一つが難燃素材だ。作業現場や住環境、公共空間など多様な場所で使用されている。

 消防服や工場作業服などユニフォーム向け難燃素材は堅調な動きを見せる。難燃性にストレッチ性や消臭機能を加えた素材の需要が伸びているほか、海外は米国向けが2013年度下期に期待でき、中国も需要拡大が今後見込まれる。

 また、日本では東レが欧米で展開する高視認性難燃生地を国内へ投入するほか、難燃インナーの提案などアイテムも広がっている。

 カーテン向け需要は、後加工剤の規制強化で練り込み難燃繊維が伸びている。これまで難燃性を付与するには、HBCD(ヘキサブロモシクロドデカン)などハロゲン系の臭素系難燃剤を後加工で付与する手法が主流だったが、規制が強まり後加工品市場に非ハロゲン系の練り込み難燃素材が入り込んでいる。

 産業資材向けでは、カネカが前年から大手不織布メーカーなどへ提案を強化し、エアフィルターや自動車内装材用途での拡販につなげる動きが見られる。

カネカ/産業資材向け強化/ユニフォーム堅調

 カネカの難燃性が特徴のモダクリル繊維「カネカロン」は、消防服や工場作業服などユニフォーム向けが堅調のほか、産業資材向けを拡販する。

 カネカロンの難燃向け販売は国内が2割弱、海外が8割強を占める。難燃向けの2014年3月期は前期比横ばいの見通し。国内は今期、防災毛布など寝具用が前期比減、インテリアは低位安定の一方、ユニフォームは堅調に推移する。カネカロンは、綿やレーヨンと混紡しても生地そのものを難燃化できる特徴を持つ。綿混などで風合いや吸湿性を高められる着心地の良さや、メタ系アラミド繊維とのコスト優位性が強みとなっている。

 産業資材は国内販売の約3割を占めるが、前年から大手不織布メーカーなどへ提案を強化しており、エアフィルターや自動車内装材用途での拡販につなげる。

 海外は欧州、アジア、米州の3地域とも消防や電力、石油・ガス関連の作業着などユニフォーム向けが堅調に推移。ただ米州は販売先の一時的な在庫調整があり、13年4~6月は前期を下回ったが、流通在庫が整理される下期での拡販を図る。

 アジアは中国への難燃防護服用途を強化する。「現状の出荷量は少ないが、今後拡大する需要を取り込む」(カネカロン事業部営業第一グループの木村達人難燃・資材チームリーダー)とする。

ダイワボウプログレス/製品で新規販路を開拓/韓国など海外販売も視野

 ダイワボウプログレスは、綿100%難燃加工織物「プロバン」で、溶接用ユニフォーム「ボディバリア」を開発、9月から本格販売する。ボディバリアによる拡販も含めて2014年度はプロバン関連の売上高を前年度比10%増、15年度には50%増とする計画だ。

 同社は4月からプロバンの拡販を目指す「プロバンプロジェクト」を推進する。これまでプロバンのテキスタイル販売のほか、一部別注品としてプロバンによる溶接用ユニフォームを大手建機メーカーに販売してきた実績があり、生地仕様を一部変更してボディバリアを開発した。製品は袖付前掛け、ベスト、腰下前掛け、エプロン、腕カバー、頭巾、難燃タオルをラインアップする。綿100%の吸湿性・快適性に難燃加工による安全性を両立していることが特徴で、洗濯300回後も難燃性の維持を確認している。アラミド繊維などと比較してコストパフォーマンスにも優れる。

 ボディバリアはテキスタイルの既存取引先と競合しない販路で、鉄鋼や金属加工、機械メーカーなど新規取引先の開拓を進める。また既存取引先アパレルからの製品OEM受注にも対応する。商社・代理店を通じた海外販売も視野に入れ、すでに韓国の鉄鋼関連企業への提案を進めているほか、将来的には中国やインドネシアの日系企業での採用を見込む。

クラボウ/米国向け輸出が伸長/輸出比率60%超に

 クラボウの難燃素材「ブレバノ」は、販売量が2009年比3倍に拡大し、とくに米国を中心とした輸出が5倍に伸長している。

 ブレバノは、カネカのモダクリル繊維「プロテックス」と綿を混紡した難燃生地。素材難燃のため洗濯耐久性が高く、綿混による吸水性と肌触りの良さが特徴だ。

 国内は特定アパレル向けなどが伸びており、堅調に推移する。一方、輸出の伸びが顕著で販売総量に占める輸出割合が60%以上に高まっている。

 輸出は米国の有名ワーク製品ブランド、「レッドウイング」の採用をはじめ、石油、ガス、電力関連企業の難燃作業服地向けが拡大する。「油田、ガス開発業者への別注案件も増えてきており、伸び率が高い」(繊維事業部ライフスタイル部の三和二郎部長)。13年度の米国向け輸出は販売先の一時的な在庫調整などがあり、前年度並みを見込む。

 素材では、新たに透湿防水性を高めたブレバノをはじめ、立体構造織組織の高通気織物「風織」やニットで展開し、ニットはポロシャツなどを視野に入れる。またプロテックス、綿混にアラミド繊維を加えて強力性を高めた提案も強化する。

 新規用途創出にも力を入れており、介護・福祉分野などの開拓を進める。

ダイワボウレーヨン/グループ企業と連携/防炎、難燃加工品を開発

 ダイワボウレーヨンは防炎や難燃レーヨン短繊維で、ダイワボウノイ、ダイワボウプログレス、カンボウプラスなどダイワボウグループ企業と連携した加工品の開発に力を入れている。

 同社は様々な機能レーヨン短繊維をラインアップするが、それぞれ需要家と取り組みながら用途開拓を進める。ダイワボウグループとの連携もその一つになる。

 防炎レーヨン短繊維は無機物を練り込んだもの。一方、難燃レーヨン短繊維「DFG」は難燃剤を練り込んだ。

 防炎レーヨンは米国のベッドマット向けが主力。防炎レーヨンを使ったスパンレース不織布などをウレタンとの間に使用することで、燃焼しても無機物だけが骨格として残り、炎によって穴が開くことがないのが特徴だ。

 2007年に全米でベッドマットの防炎規制が施行されたことで、防炎レーヨン需要は急激に増えた。しかし、この数年の間、円高や中国企業の参入などもあり、苦戦が続いた。

 このため、同社ではLOI値(限界酸素指数)を高めた新タイプ「FRL」にシフトを強めてきた。量的には減少しているが、今年に入って円安効果もあり、量的にも採算的にも改善傾向にある。

 今後、防炎レーヨンでは米国輸出も既存のベッド回りだけでなく、家具やいすなど新用途の開拓にも取り組む。

帝人フロンティア/ビームサプライ事業好調/後加工から置き換え狙う

 帝人フロンティアの難燃ポリエステル「スーパーエクスター」は2012年度の売上高が前年度比約20%増加し、13年度も10%増を計画する。レースカーテン向けに昨年から始めたビームサプライ事業が売り上げ拡大に貢献するほか、病院、福祉施設向けで拡販を図る。

 スーパーエクスターは非ハロゲン系難燃成分を繊維に練り込んだ「素材難燃」タイプのため、耐久性が高く染色工程での環境負荷が低い。

 国内向けに販売し、ビームサプライ事業は巻きメートル数に細かく対応する点が支持を受ける。施設向けは、リン系難燃剤による後加工品からの置き換え需要を取り込む。「後加工品との価格差が縮まっている」(繊維素材本部原料部第一課の門脇秀樹課長)ため、レースカーテンをはじめ、後加工が優位なドレープカーテンでも拡販を図る。

 医療・福祉施設用カーテンリース業のキングラン(東京都千代田区)との共同展開も進めるほか、難燃性に抗菌性をプラスするなど多機能で差別化を図る。一般ホームユース用ではニトリとの共同展開を進める。

 用途では主力のカーテン以外に、毛布や車両・資材分野への展開を強化。旧NI帝人商事のインテリア部隊と連携した原糸から製品までの一貫提案も強化する。

JNF「トレビラCS」/欧ランプシェード採用/有松絞りと組み合わせ

 JNF(ジャパン・ニュー・ファイバーズ、大阪市西区)が日本販売総代理店を務めるドイツ・トレビラの難燃ポリエステル「トレビラCS」が、新用途を開拓した。名古屋の伝統工芸品である有松絞り製造のスズサン(名古屋市緑区)が生産するランプシェードだ。

 このランプシェードはトレビラCSとJX日鉱日石エネルギーの直交不織布「ミライフ」を組み合わせた難燃タイプのミライフ「ミライフ トレビラCSグレード」を使用したもの。

 難燃ミライフのスリットヤーンをJNF関係会社である鈴倉インダストリー(新潟県長岡市)で織布し、スズサンが有松絞りの技法で仕上げ、スズサンの独子会社が欧州で販売する。トレビラCSと他素材を複合するなどして、コントラクト用の不燃規制をクリアした。2014年から欧州の店頭に並ぶという。

 また、JNFではトレビラCSだけでなく、抗菌、ストレッチ、吸水速乾など機能ポリエステル繊維の販売も強化している。

 JNFの中啓社長は機能ポリエステル繊維によりアパレル用途へ参入することで「難燃ポリエステルに加えて、日本で全方位展開を始める」と語る。すでに来春夏からはトレビラの機能ポリエステル繊維を使用した衣料品が店頭に並ぶ予定で「2014年はトレビラ躍進の初年度になる」と意気込む。

東レ/高視認、インナー新投入/ユニフォーム向け20%増へ

 東レは、難燃性ユニフォーム向けでメタ系アラミド、難燃アクリル、難燃ポリエステルの3素材を扱い、機能・価格帯を幅広くそろえる。生地販売が主力で、難燃性にストレッチ性や消臭機能を加えた“難燃プラスα”素材が伸びる。電力やガス、エネルギー関連の民間向けがけん引し、消防署など官公庁向けも堅調に推移。今期売上高は前期比20%増を見込む。

 ユニフォーム向けでは新たに英国のトーレ・テキスタイルズ・ヨーロッパ(TTEL)が欧米で展開する高視認性難燃生地「サーモガード ハイ・ヴィジビリティ」を、日本市場へ投入する。アラミド繊維は染色性が低いのが難点だが、ハイ・ヴィジビリティはメタ系アラミドとポリエステルを特殊交織して、高い難燃性を持ちながら高視認対応色に染色可能で、イギリスの化学工場やロンドン地下鉄の保線で納入実績がある。またTTELのメタ系アラミドとフッ素繊維を混紡し摺(しゅう)動性を高めた「サーモガード モルテン・リーペル」のほか、ストレッチ性や吸水性、消臭性を加えた難燃インナーも新投入する。

 カーテン用途の難燃ポリエステル長繊維「アンフラ」は2010年6月販売後、糸ベースで数量が毎年20~30%増で伸長する。非ハロゲン系の素材難燃で主に生地でコントラクト向けに販売する。産業資材向けは、ビル建設の飛散・落下防止ネットなど仮設資材用が堅調に推移する。