特集・高機能繊維/重点素材に変わりなし/一時停滞も成長見込める
2013年09月12日 (木曜日)
日本は高機能繊維の宝庫だ。パラ系・メタ系のアラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、高強力ポリアリレート繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維など各種高機能繊維を製造販売する。こうした国は世界的に珍しい。環境・安全、省エネ・省力化などに寄与することから、将来的な成長が見込める素材であり、一時的な停滞はあっても、合繊各社にとって重点素材としての位置づけに変わりはない。
日系企業が高シェア/多彩な品種で世界リード
日本化学繊維協会によると、高機能繊維市場における日系企業の設備能力シェア(中国除く)はパラ系アラミド繊維が47%、メタ系アラミド繊維が11%、炭素繊維が68%、高強力ポリエチレン繊維が33%。これは日本が高機能繊維において世界をリードしていることを表す。
ただ、汎用繊維同様、高機能繊維でも韓国・中国も追い上げを見せる。とくに、中国は「第12次五カ年規画」で高機能繊維の拡大に力を入れており、生産能力が拡大している。中国の高機能繊維の生産能力(11年)はパラ系アラミド繊維3300トン、メタ系アラミド繊維1万1000トン、PAN系炭素繊維1万2000トン、高強力ポリエチレン繊維1万7000トンと、日本化学繊維協会は推定する。
新規参入で競合激化も/米韓訴訟の行方に関心
高機能繊維は高強力・高弾性繊維と耐熱・難燃性繊維に大別される。高強力・高弾性繊維はパラ系アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、高強力ポリアレリート繊維など。耐熱・難燃繊維はメタ系アラミド繊維、PPS繊維などで構成する。
パラ系アラミド繊維では米デュポン「ケブラー」(日本では東レとの合弁会社である東レ・デュポンが製造販売)、帝人「トワロン」「テクノーラ」が市場を二分してきたが、韓国コーロン、ヒョースン、中国の煙台泰和新材料、さらに先ごろ、儀征化繊も参入を発表するなど競合が激しくなっている。
こうしたなかで、デュポンが4年前に起こしたコーロンに対する訴訟の行方が注目されている。11年にはコーロンが営業秘密を盗んだとするデュポンの訴えは一審判決で9億2000万ドル(約900億円)という巨額の損害賠償額支払い判決が下され、その後の再審申し立ても棄却。さらに、昨年2月にはコーロンにアラミド繊維製造を20年間停止する差し止め命令が下された。訴訟は継続しており、どのような決着を見るのか。パラ系アラミド繊維だけでなく、高機能繊維メーカーはその行方に高い関心を示している。
競合という面では高強力ポリエチレン繊維も同様だ。オランダ・DSMと東洋紡による「ダイニーマ」と米ハネウェル「スペクトラ」に加え、中国の儀征化繊、さらに帝人がテープ状の「エンデュマックス」を事業化する。
クラレの高強力ポリアレリート繊維「ベクトラン」、東洋紡のPBO繊維「ザイロン」を除けば高強力・高弾性繊維の競合は激しくなっている。
ただ、それは今後も成長が見込めるという表れでもある。
東レ/PPSで中国以外も
東レは米国デュポンとの合弁会社である東レ・デュポンでパラ系アラミド繊維「ケブラー」を製造販売する一方、本体の高機能繊維としてはPPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、フッ素繊維を展開する。ともに世界最大手で、PPS繊維は「トルコン」、フッ素繊維は「テフロン」「トヨフロン」のブランドで製造販売する。
PPS繊維はエンジニアリングプラスチックを繊維化したもので、耐熱性・耐薬品性に優れる。この特徴を生かして、火力発電所用のバグフィルター向けに展開するが、とくに中国が主力マーケットになる。まだまだ電気集塵機が多いことから、バグフィルターの需要増に期待する。
ただ、中国企業も含めてPPS繊維メーカーの競合は激しくなっている。こうしたなかで同社は、中国に営業担当者を置くとともに、中国での開発拠点である東麗繊維研究所〈中国〉でもPPS繊維の開発を行うなど、現地ニーズに対応できる体制を敷く。
また、これまでバグフィルターでは中国向けを主力としてきたが、「火力発電所がある国には市場がある」として、中国以外も含めたグローバル展開にも力を入れる。
テフロン、トヨフロンのフッ素繊維もバグフィルター向けが主力。テフロンはデュポンから買収したものでトヨフロンは東レ・ファインケミカルが製造する。バグフィルターだけでなく、摺動性という特徴を生かした用途開拓も強化している。
東洋紡/高強力、耐熱など豊富
東洋紡は高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」「ツヌーガ」、PBO繊維「ザイロン」、PPS繊維「プロコン」、ポリイミド繊維「P84」など各種高機能繊維を製造販売する。
オランダ・DSMとの合弁会社である日本ダイニーマで生産するダイニーマは2011年に4号機を導入し、年産3200トンに拡大した。ロープ・ネット、耐切創手袋などに加え、接触冷感性を生かした寝装用にも展開する。
ダイニーマはDSMとの共同開発によるゲル紡糸タイプだが、ツヌーガは溶融紡糸による高強力ポリエチレン繊維。後染めもできる独自開発によるスーパー繊維でもある。
強度はダイニーマに劣るものの、耐切創性はダイニーマ並みかプラスαという特性を持つ。耐切創手袋向けで販売を拡大しており、年産300~350トンの生産設備は現在、ほぼフル稼働という。
一方、ザイロンは高強力・高弾性、耐熱性・難燃性に優れるオールマイティーの高機能繊維。各物性とも既存の高機能繊維を上回る。
現在は消防服や耐熱フェルトなどが主力用途で、輸出比率は60%と高い。欧州輸出も20%を占めるが、F1マシンにもレギュレーションによってザイロンが採用されており、米のインディカーやNASカーへの採用を見込む。
プロコン、P84は耐熱性を生かしたバグフィルター向けに展開する。プロコンは火力発電所用、P84は都市ゴミ焼却場用を主力に展開している。
帝人/新メタ系アラミド開発/PPS繊維参入も視野
帝人はオランダ子会社のテイジン・アラミドでパラ系アラミド繊維「トワロン」、高強力ポリエチレンテープ「エンデュマックス」、国内でパラ系アラミド繊維「テクノーラ」、メタ系アラミド繊維「コーネックス」を生産するなど米デュポンと並ぶ高機能繊維大手だ。先ごろ、タイで新タイプのメタ系アラミド繊維の生産を明らかにするなど、新たな一歩も踏み出した。
新タイプのメタ系アラミド繊維は「世界最高レベルの熱防護性」「安定した高い染色性」が特徴で、消防服をはじめ防護衣料用向けに販売する。設備は約45億円を投じ、年産能力2200㌧の新工場をタイ子会社のテイジン〈タイランド〉に設立。2015年7月から稼働する。
また、新規事業としては耐熱・難燃性を持つPPS繊維への再参入を検討する。今年2月、韓国のSKケミカルとの合弁により韓国でPPS樹脂とコンパウンドの製造販売会社の設立を発表したが、この樹脂を活用した繊維の事業化を視野に入れる。
既存事業ではコーネックスが回復基調にある。為替相場の円安化を背景に「好調な欧州輸出」(高機能繊維事業本部の籔谷典弘執行役員営業部門長)が、全体をけん引する。国内では消防服などの防護衣料やバグフィルター、輸出は欧米、中国向けでバグフィルターが主力だが、欧州輸出は自動車ターボチャージャーホース向けが好調という。
一方、テクノーラは国内のゴム資材などが堅調も、コーネックスとは逆に輸出が苦戦。とくに「海底油田用ロープなどが落ち込み、テクノーラ全体として計画比5~10%減」と国産ではパラ系とメタ系で違いを見せる。
高機能繊維全体としては前期、急速な市場変化により苦戦した。このため、今期は慎重な計画を組んだ。
籔谷執行役員は「販売量に見合ったコスト削減と4月からの用途別組織を生かした市場開拓を強化する」考えを示し、その一環で加工品展開も重視する。
クラレ/ベクトラン差別化軌道に/PEIで航空機内装開拓
クラレの高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」が安定成長を見せている。前期販売量は5%増、今期も同程度の伸びを見込む。
世界唯一の繊維であるベクトランだが、繊維資材事業部の福島健機能素材部長は「定番品で一定量を確保しながら、特殊品で付加価値を高める」との基本方針を踏襲しながら販売増を狙う考えを示す。
ベクトランは輸出比率が7~8割を占めるが、ロープなどの定番品に加え、細繊度糸、短繊維による紡績糸、原着糸、加工品など付加価値品が軌道に乗り始めている。為替相場の円安も寄与し、収益性は向上している。
パラ系アラミド繊維と競合もあるが、低吸湿性などのメリットなどを訴求することで、競合分野では量的な確保を図る。付加価値品では細繊度糸と短繊維による紡績糸に力を入れる。産業資材以外では昨今はライダー用ジーンズの裏地向けも拡大している。
同社はベクトランに続く高機能繊維として、耐熱・難燃性が特徴のポリエーテルイミド(PEI)繊維の本格化にも取り組む。航空機用内装材などの用途を開拓中で「14、15年度には軌道に乗せたい」(繊維資材事業部の荒牧潤市場開発チームリーダー)との考えだ。
同繊維はサウジアラビアのサビックが製造販売するPEI樹脂を繊維化したもの。5月に年産500㌧の中量産設備を稼働させたが「試験運転を経て、10月から本格生産を始める」。同繊維はノンハロゲン、ノンリン対応の難燃性、低発煙性、耐熱性、低吸水性、熱可塑性などが特徴で、繊維だが、繊維ではない用途を狙う。
具体的には航空機用内装材を中心に断熱材や吸音材の開発を進めている。また、炭素繊維やガラス繊維と組み合わせたプリプレグとしての展開も見込む。
熱可塑性を持つPEI繊維を樹脂の代わりに使用することで「樹脂含浸の工程を省くことが可能」となる。
東レ・デュポン/ケブラーでTX強化/タイヤ、ゴム資材伸張
東レ・デュポンはパラ系アラミド繊維「ケブラー」で高次加工品に力を入れながら、用途開拓に取り組む。その一つがテキスタイル展開になる。東レや東レグループ企業、さらに東レ合繊クラスターに参画する北陸産地企業などとの連携により、衣料用やカバン地など雑貨用途の生地開発を進めている。
ケブラーはタイヤコードなどのゴム資材や光ファイバーのテンションメンバー(緊張材=光ファイバーの芯に配し伸びを防ぐもの)、防護服などが主力。今上期も主力のタイヤコードやゴム資材向けが好調で、前年同期並みの販売量を維持できる見通しで、下期も上期同等の販売量を見込む。
タイヤコードでは自動車の高機能タイヤでの採用が増えている。他素材との組み合わせによるものだ。また、航空機用タイヤも堅調に推移する。ベルトなどゴム資材用も表面処理加工などの開発が奏功し、シェアを拡大しているという。
こうした産業資材用途では顧客への提案力を高めるため、技術開発の体制強化も検討する。
並行して、開発中の細繊度糸なども活用した衣料用などのテキスタイル分野の開拓にも取り組む。その一環として、11月20、21日に東京国際フォーラムで開催される「JFW―JC」にも初出展する。
「テキスタイルにおけるケブラーの知名度は低い。JFW―JC出展によりブランド力を高めていきたい」と原健太郎ケブラー営業部長は話す。
現在、ケブラーを使ったデニムやリップストップ織物、ケブラー100%織物に樹脂をラミネートした合成皮革などの商品化を進めている。ケブラーを使うことで生地の引き裂き強度などが高まるため、薄地軽量化できる。
同社は東レと米デュポンとの合弁会社で、東海事業場(愛知県東海市)にケブラー生産設備を保有する。デュポンへの供給なしでのフル稼働が課題としている。




