秋季総合特集【3】トップインタビュー・商社編/東洋紡STC社長・佐野茂樹氏/商事機能に力点置く/コンバーターを追求
2013年11月13日 (水曜日)
「東洋紡の繊維事業としてだけでなく、旧新興産業の遺伝子を重視する」。東洋紡STCの佐野茂樹社長は強調する。今年10月、社名を東洋紡STCに変更。STCには旧新興産業という意味もある。コンバーターとして変ぼうするため海外生産も積極化。商事会社へと大きく舵を切る。
(さの・しげき)
1975年東洋紡入社、2010年執行役員。12年取締役兼執行役員繊維事業本部長兼東洋紡スペシャルティズトレーディング(現東洋紡STC)社長。
――日本の繊維産業が縮小に歯止めをかけ、反転するには何が必要だとお考えですか。
衣料繊維は規模が小さくなっていますので、日本は限定された部分で生き残る形でしょう。日本はマザー工場として最小限が残り、海外を活用しながら日本市場に対応する方向です。すでに国境はありません。日本だけにこだわる意味も薄れていますし、ボーダーレス化はますます進むでしょう。
――そのなかで貴社はどう変わるのでしょうか。
当社でも2020年に向けて繊維はどうあるべきかを議論していますが、同業他社を意識するように指示をしています。それも紡績ではなく専門商社やメーカー系商社です。当社はメーカー機能を持ったコンバーターとしての在り方を追求します。
私は社長就任時に名前と掛けて「SANOイズム」というスローガンを掲げました。今年度はソリューション(S)、アブロード(A)、ネゴシエート(N)、オープンイノベーション(O)に意味を変えました。顧客視点で考えたソリューション、国内依存から海外に進出するアブロード、そして自ら持たないものは外部との取り組みを進め、技術移転も躊躇せずに行うオープンイノベーションを図っていきます。
その面で東洋紡の繊維事業としてだけでなく、旧新興産業の遺伝子を重視しています。「現状維持 即脱落」との考えの下、当社も変わらねばなりません。東洋紡のブランド力と技術に加えて、旧新興産業の商事会社としての機能を強化します。
10月1日付で、社名を東洋紡スペシャルティズトレーディングから東洋紡STCに変更したのもその一環です。STCはスペシャルティズトレーディングの略だけでなく、旧新興産業という意味もあります。従業員には常々、旧新興産業の遺伝子を忘れるなと言っています。
――中長期な課題は何でしょう。
コンバーティングが一つのキーワードになると考えています。当社はメーカー系商社の中でもスポーツウエアに強みがありますし、同分野は開発と海外展開のけん引車です。ここで負ければ終わりですから、さらに強化します。
また、ユニフォームもワーキングウエアなどは8割が縫製品です。ベトナム、ミャンマーなどチャイナ・プラスワンの強化を図ります。インナーウエアは特徴が生きる分野ですので、今後は中国生産の強化を進めます。
海外販売も課題ですね。インドネシアを中心に第三国の開拓を進めるとともに、ブラジルに拠点を持つ強みを生かした展開も進めていきます。
――短期的に見ると、貴社を中核とする東洋紡の衣料繊維事業は収益改善が進んでいます。
V字回復していますが、数値的には不満ですね。前上期に棚卸資産の評価減があったことから、今上期は2けた億円の収益改善となる見通しです。円安で中東輸出が黒字転換したものの、逆に製品比率が高いスポーツウエアやユニフォームはマイナスの影響を受けています。また、グループ企業ではアクリル短繊維製造の日本エクスラン工業が貢献しました。中国向けの扁平わた輸出が絶好調でした。
――それを踏まえ、下期の商況をどのようにみていますか。
下期は元々、シーズンインです。円安によるコスト上昇についてはなかなか難しいものの、価格転嫁を進めて利益の極大化を図ります。中東輸出も下期は厳しい見通しですが、全体としては目標達成を目指します。ただ、消費増税の反動が来年4月以降は出てくるでしょうから、その面で在庫管理は徹底します。
思い出のオリンピック/ポスターに引かれる
「東京五輪のポスターが印象に残る」という当時12歳だった佐野さん。短距離100㍍のスタートで日の丸があしらわれたデザイン。そこに「カチッとしたTOKYOの文字」に眼を引かれた。佐野さんは書道をたしなむことから文字には「何となく眼が向く」と言う。そのデザインこそがかつての東洋紡ロゴマークを手掛けた亀倉勇作氏だった。想像もできないつながりがあるということか。