紡績の国内工場/問われる需要開拓・創出策

2013年12月02日 (月曜日)

 昨年までの異常な円高が是正されたことで、紡績の2013年度業績も海外事業の回復を中心に小康状態となりつつある。ただ、国内での繊維需要減退は依然として深刻だ。このため開発の基盤である国内工場をどのように維持していくかは、生産の主力が海外工場に移った今こそ最も重要な課題となる。国内工場の稼働率改善に向けて工場のブランド化、そして新商品による需要開拓・創出の取り組みが加速する。

<ブランド化、新商品開発が加速>

 5万錘の紡績設備を持つ富山工場を国内に擁するシキボウは、富山工場とその生産原糸を「敷島糸工房」のブランドで今年から打ち出す。元来、細番手糸やシルケット糸、ガス焼き糸、精紡交撚糸など一格上の綿糸生産を得意とする富山工場の存在を前面に打ち出しながら、従来とは異なる多品種・小ロット生産への対応を進めることが狙いだ。

 「国内工場が無くなっては、メーカーとしての基盤が失われる」と強調するシキボウの能條武夫社長は「まずはアパレルなどに富山工場にどのような技術があるのか知ってもらうことが重要」と指摘。アパレル・流通の企画担当者などを対象に富山工場を開放し、敷島糸工房見学ツアーを常時開催する。見学会では、その場で簡単な試紡も行うことで別注糸への対応力をアピールしている。

 グループ会社である新内外綿が独自の多品種・小ロット・短納期システムで成功を収めていることから、新内外綿から紡績技術者を出向させるなど生産システムの改革にも取り組む。親会社からグループ会社への出向は一般的だが、グループ会社から親会社への出向は紡績業界では珍しい。それだけにシキボウの本気度がうかがえる。

 今期、北条工場を閉鎖したクラボウ。国内工場は紡織の安城と丸亀、染色加工の徳島と3工場体制となっただけに、これ以上の設備縮小はなんとしても避けたいとの思いが強い。紡績は2工場で8万1520錘の規模があるだけに、特殊糸への特化を単純に進めるだけでは需要閑散期の稼働率低下が防げない。

 このため取り組むのが新商品による需要開拓と創出だ。なかでも注目したのがタオル用原糸。泉州と今治の両タオル産地は現在でも合わせて月間1万コリ強の綿糸を消費する有力需要家であり、中心となる定番カード糸は、近藤紡績所とKBツヅキの大手2社が国産糸のシェアを2分する。

 この市場に割って入ろうとするのが、このほどクラボウが開発したタオル用綿糸「テキサスホワイト」だ。良質のテキサス綿を使用し、タオルに必要な柔らかさ、ハリコシ、吸水性をバランスよく両立すると同時に、比較的値ごろ感のある糸値を実現した。「定番糸に比べれば糸値は若干高いが、地域ブランド品など一格上の企画に最適の糸」(繊維素材部の大島一仁次長)という自信作だ。

 生産を担う丸亀工場では、閑散期を活用して若干の備蓄生産を行うことでクイックデリバリーと値ごろ感のある糸値を両立したことがポイントだろう。クラボウとしては、地域ブランドの成功によって勢いを取り戻しつつあるタオル市場での綿糸需要開拓・創出を進めることで工場稼働率を改善し、国内工場を維持する一助にしようという戦略だ。