特集 アジア繊維産業Ⅱ/ベトナム・縫製拠点からの進化へ
2014年09月05日 (金曜日)
日本の繊維産業にとって、ベトナムの繊維産業は衣料品生産の縫製拠点として確固たる地位を築いている。近年は生産アイテムが様々な分野に広がり、こと縫製面に関しては“ミニ中国”化が進行している。一方で課題の素材や資材の現地調達についても徐々に商材がそろいつつあり、単なる縫製拠点から次のステージへの進化を目指すムードが高まっている。
“ミニ中国”化が進展
今期に入ってからもベトナムの日本市場向け衣料品縫製は拡大を続けている。現地でも「前年同期と比べて15~20%増えている」(プロミネント〈ベトナム〉)など、ベトナムに拠点を構えてOEM生産を展開する多くの商社が欧米市場向けを上回る、日本向け生産の伸びを指摘する。
その要因は、生産アイテムの急速な広がりにある。1990年代初めに商社がベトナムに縫製拠点を構えて20数年、多くの縫製工場が技術的な成熟やノウハウの蓄積で、様々なアイテムをこなせるようになっている。これまで多かったユニフォームやドレスシャツばかりでなく、中高級ゾーンのヤングレディースやメンズ向けカジュアルウエア全般の発注が増えており、縫製面に関しては“ミニ中国”化が進行している。
ベトナムの最低賃金は地域によって4段階に設定されているが、増加する日本向けのオーダーに対応するため、各社ともホーチミン、ハノイの2大都市近郊から中部のダナン市近郊、さらに賃金の低い地方都市へと縫製工場の開拓を進めている。
同時に日本向けでもより低価格を訴求する商品や実用衣料的なアイテムについては、「カンボジアに専用ラインを確保して生産を始めている」(スミテックス・ベトナム)など、多くの日系企業がより人件費の低いカンボジアやミャンマーに縫製拠点を移している。
着実に進む素材の現地化
ベトナム縫製には当初から「素材がない」という言葉がつきまとっていた。成熟期を迎えつつあるベトナムの縫製業が今後さらに飛躍し、アセアン地域縫製をリードするには、現地で素材が調達でき、素材から縫製までの一貫生産に対応できる拠点になることが欠かせない。
実際、すべての素材を日本や中国からの輸入に頼っていた状況は徐々に変わりつつある。「一部のゾーンの商品については、ある程度の選択肢を提示できる状況」(帝人フロンティア〈ベトナム〉)にまで進化してきた。
現地では国の基幹産業である縫製業の素材の大部分が“領土問題”を抱える中国からの輸入ということで、政府も繊維業界に国産素材を増やすように指示しているといわれている。
ベトナムも交渉に参加するTPP(環太平洋パートナーシップ)の原産国条件にヤーンフォワードが採用される可能性もあり、国営繊維縫製グループ最大手のビナテックスも、現地に進出する日系商社に改めて素材開発で協力を要請するなど、業界挙げて川上、川中産業の育成に取り組む姿勢を見せている。もちろん日系企業もベトナムの国営メーカーや韓国系、台湾系、中国系の素材メーカーと連携を深めており、日本向けに適した素材の開発、生産を進めている。
例えば資材分野では帝人フロンティア〈ベトナム〉が今期からポリエステル縫製糸の現地染色、ストック販売を開始した。衣料素材では昨年設立されたクラレトレーディングベトナムが、初年度から輸入生機を現地で染色して供給する事業をスタートさせ、現地での織布も視野に入れている。
ベトナムはチャイナ・プラスワンの縫製拠点から、アセアンの“繊維強国”という新たなステージに向かう進化の道を歩み始めている。
アンフック/日本法人設立し新規顧客開拓
ベトナムの縫製品メーカー、アンフックは4月に、ベトナム繊維企業として初めて日本法人「アンフック・ジャパン」(大阪市)を設立した。“品質第一”をモットーに日本でOEMの新規顧客を開拓している。
同社は1992年にホーチミン市でミシン40台、従業員60人で創業した。紳士服や子供服、婦人用下着の日本向けOEMでスタートし、現在は靴の工場を含めて7工場、従業員3500人を擁する。
97年にフランス「ピエール・カルダン」ブランドのベトナム、カンボジア、ラオスでの製造販売権を取得し小売業にも進出した。「ピエール・カルダン」と紳士服の自社ブランド「アンフック」の2つのブランドで、ベトナム国内に直営店95店を展開する。
売り上げ構成はOEMが40%、国内販売が60%で、OEMの70%が日本向けだ。ベトナムではTPPの影響で、ロットの大きい米国向けOEMに目を向ける縫製工場が増えるといわれるなか、グエン・ティン・ディエン社長は「これから日本向けのOEMをさらに増やしたい」と方針を語る。
その理由についてディエン社長は「日本企業との取引のなかで、我々も“品質第一”をモットーに掲げてやってきたことで、ここまで成長することができた」と説明する。
日本法人のアンフック・ジャパンは、OEMでの既存顧客とのより密接な関係構築をはじめ新規顧客の開拓、日本素材の研究と調達をミッションとする。
「日本企業に教えてもらった品質とは技術だけではなく、サービスも含めてのことだと考えています」というディエン社長。日本法人を拠点に、日本向けOEMの一層の拡大を目指す。
帝人フロンティア〈ベトナム〉/調達、供給両面で現地化
帝人フロンティアのベトナム現地法人、帝人フロンティア〈ベトナム〉は、素材調達と資材供給の両面で現地化を進める。
同社の売り上げの約80%を占める衣料品のOEM生産について、尾本道生社長は「一部のゾーンの商品については、ある程度現地素材の選択肢がある」と、現地での素材調達状況を説明する。テキスタイルはもちろん裏地や芯地などの部材も含めて、現地での調達比率を上げることが、今後の事業拡大、収益向上のポイントになる。
今後は現地のベトナムメーカーや韓国、台湾系の素材メーカーとの連携を深め、「できるだけ現地で調達可能な部材、素材を増やしていく」(尾本社長)方針だ。そのうえで、これまで中国でしか生産できないと言われていたゾーンの商品やアイテムまでベトナムでの生産を拡大する。
一方、資材分野の事業は今期からポリエステル縫製糸の現地販売を開始した。
日本から原糸を輸入し、ベトナムで染色、日本品質の縫製糸として日系企業などの需要に応えている。縫製糸の販売が順調にスタートしたことで、今後はさらに供給できる商材の幅を広げ、事業の拡大につなげる。
帝人フロンティア〈ベトナム〉は、OEMの素材調達と資材分野の商材供給――両面からの現地化を進めることで、ベトナムの繊維事業を深耕する。
クラレトレーディングベトナム/独自素材を現地で生産
クラレトレーディングのベトナム現地法人、クラレトレーディングベトナムは、①クラレグループの商社として非繊維を含むクラレ商材の販売拠点となる②糸、テキスタイルメーカーとしてクラレトレーディングの独自商材の販売③ハノイを中心とした衣料縫製品事業の強化・拡大――という3つのミッションを持つ。
なかでもベトナム現地での独自素材の生産、供給は、同社がベトナムの繊維産業のなかで、他社とは違う高付加価値化、差別化を打ち出す重要なポイントであり、日本向けに製品を生産するアパレルなど多くの顧客企業に期待されている分野でもある。
昨年8月の設立から1年、すでに現地の台湾系染色加工場と連携、今期は輸入生機をストックしながら現地で染めた素材を供給する具体的なビジネスがスタートした。
別の織・染め一貫工場との連携では、「染色だけでなく現地での織布も視野に入ってきた」と、佐野彰彦社長は今後への手応えを口にする。
日本基準の品質管理や生産管理を徹底し、現地生産による独自素材の安定供給で、将来的には縫製品事業と連携した一貫展開で最終製品での納品にも対応する計画を持つ。同社は日本と同様、原糸、テキスタイル、縫製品のそれぞれの段階で顧客ニーズに最適な形で対応する繊維事業を目指す。
丸紅/素材から一貫生産構築
丸紅のベトナム繊維事業は、ベトナム国営企業や韓国系、台湾系、中国系の素材メーカーとの連携を深め、素材から一貫で対応する衣料製品OEMの構築を図る。
ベトナムでは丸紅テキスタイルアジアパシフィック(MTAP)のホーチミン事務所が、日本向けを中心とした衣料品縫製の生産管理や品質管理を主な業務とする。
ここ数年チャイナ・プラスワンの生産拠点としてベトナムの優位性が改めて見直されたこともあり、取り扱い点数は2けた%の伸びを示す。アイテムも従来のユニフォームやドレスシャツからスポーツやカジュアル全般にまで広がり、「4月からの新年度もその勢いは止まっていない」と高橋秀和所長は指摘する。
MTAPは4月にハノイ事務所を設立し、高橋所長がハノイ事務所長を兼務した。ベトナムでの体制を一段と整え、地方での新たな縫製工場の開拓を進めている。
今後、ベトナムでのOEMは素材の現地調達が質、量ともに問われる。同事務所では「従来以上にベトナムの素材メーカーや韓国、台湾、中国系の素材メーカーと連携を深める」(高橋所長)ことで現地調達を広げる方針を示す。
同時にアセアンを面でとらえて、タイやカンボジア、ミャンマーなどの丸紅グループの繊維拠点と連携することで、より効率的な製品生産を追求する。
プロミネント〈ベトナム〉/今期は内販の成果が結実
伊藤忠商事のベトナム繊維事業の中核拠点、プロミネント〈ベトナム〉は今期、これまで着実に事業環境を整えてきたベトナム市場への販売で、確実に成果を結実させる。
同社の今期(2015年3月期)のここまでの売り上げは、前年同期比15~20%の伸びで推移する。ここ数年の中国からの生産地シフトの動きで日本向けの衣料品生産が大幅に伸びていることに要因がある。
同社の現在の衣料品生産の構成は日本向けが70%を占め、欧州、米国、アジア向けがそれぞれ10%。従来のユニフォームやドレスシャツといったアイテムの数量が落ち着きを見せる半面、レディースやスポーツ分野の生産量が大幅に増えているという。「5年前までは欧米向けが約50%を占めていたが、欧米向けの伸びを上回る形で日本向けが伸びている」と森田洋社長は説明する。
今期は現地、ベトナムでの販売の成果を「きちっと刈り取っていく」(森田社長)方針だ。これまで同社は、現地の消費者のデザイン的な好みなどを調査して製品に反映すると同時に、アパレルやSPA、量販店などに向けた販売ルートを構築してきた。それが今期は「形になって見えてきた」という。今後は既存の衣料品生産に加え、ベトナムを中心としたアセアン市場の成長を製品ビジネスのなかにしっかり取り込んでいく。
スミテックス・ベトナム/中高級品150万着体制へ
スミテックス・インターナショナル(STI)のベトナム現地法人、スミテックス・ベトナム(SVL)は今期、現地スタッフの育成も含めて従来以上に生産力を強化する。とくに中高級ゾーン向け商品では年産150万着体制の早期実現を図る。同社は幅広い衣料品の生産に取り組み、百貨店向け中高級ゾーンの衣料品生産で高い評価を得ている。主力縫製工場サミット・ガーメント・サイゴン(SGS)は「レディース、メンズとも一つのブランドのなかの様々なアイテムで同じ顔を持つ商品を作れる」(杉原教由社長)強みを持つ。同社は数年前から中部ダナン市や中北部のゲアン省の専用ラインで、SGSで培ったノウハウを活用して強化を続けてきた。今期はその成果が表れ、全社の中高級ゾーン衣料品生産で前期比20%増の120万着の生産体制が視野に入ってきた。
杉原社長は「SGSなどで蓄積してきたノウハウをこれまで以上に生かし、3年後には150万着体制にもっていきたい」と目標を掲げる。
強化のポイントとなる現地スタッフの育成に関しても、今期はSVLのベトナム人営業担当者の研修を日本のSTIで行い、日本の顧客にフィットする対応などを学ばせている。




