特集 スクールユニフォーム/試練になる値上げの判断
2014年09月29日 (月曜日)
制服の値上げに向け、業界が動き出した。来年4月から素材メーカーが学生服メーカーに対し生地の値上げを要請していることに加え、エネルギーや人件費などあらゆるコストが上昇するなか、2016年の入学商戦から制服の値上げが現実味を帯びてきた。来年は消費税が10%に引き上げられる可能性もあり、学校関係者や保護者から反発が出ることは必定だが、生産を維持していくためには、理解を求めていくしか方法はなさそうだ。
変わる原材料価格の形成構造/学生服地値上げの背景
素材メーカー各社が相次いで2015年4月出荷分から学生服地値上げを発表した。同じ商品を同じ価格で安定的に供給することを第一に求められる学生服地で、あえて値上げに踏み切らざるを得ない背景には、ここ数年鮮明になった原材料価格の形成構造の変化がある。
素材メーカー各社とも、値上げの最大の要因に挙げるのが原毛価格の高止まりだ。実際に豪州羊毛の相場は2010年までは1㌔700㌣~1000㌣のレンジで推移していたものが、11年の異常な高騰を経て12年以降は1㌔900㌣~1200㌣のレンジで推移する。
高止まりの背景には、食肉用途との競合という牧羊業界の構造問題がある。食肉生産に転換する農家が少なくないうえに、利益率の高いファインウール生産に偏重する傾向が強まっており、学生服に使用される中番手用ウールの需給が一段とタイトだ。このため現在の羊毛相場の高止まりは一過性の現象ではなく、新たな相場トレンドとして定着したとの見方が強い。
さらに素材メーカーが頭を痛めているのが染料・薬剤価格の高騰。現在、染料・薬剤や原料である中間体のほとんどは中国で生産されているが、中国での環境規制強化によって製造コストが急激に上昇した。このため前年比で10%程度の価格上昇となっているが、とくに学生服地で使用頻度の高い濃色・高堅ろう度品は倍以上に高騰したものも多い。このため染色整理加工のコストが大幅に増加している。
こうした原材料価格の形成構造の変化が、素材メーカーの収益を急激に悪化させたことで、今回の値上げ問題が浮上したといえる。
制服、値上げに動き出すか/問われる制服の存在価値
学生服メーカーは1年前、素材メーカーから生地値改定の打診を受けていたが、突っぱねていた。値上げできなかったのは、市場の激しいシェア争いに加え、学生服メーカーが2007年、16年ぶりに制服の値上げを実施したが、そのとき完全に値上げしきれなかった側面がある。
しかし、素材メーカーにとって、生産コストが上がり続けるなか、「何としてでも上げなければ、工場の存続に関わる」(素材メーカーの関係者)と強い意志を示しており、学生服メーカー各社は対応に迫られる。菅公学生服の尾﨑茂社長は、景気が戻ってきたのは土木・建築など一部であり、「子供の制服にお金をかけられないが、どうしても買わなくてはいけない実情がある」ため、制服そのものを早急に値上げしていく可能性を否定。原材料高が続けば「海外の代替素材の使用も仕方がない」と述べるとともに「(学生服)メーカーの試練のしどきになる」との見方を示す。
トンボの近藤知之社長は、学校に対して制服の値上げを要請すれば「(制服更新による)入札かコンペになる」うえに、「差別化しようとすればコストアップとなる」と懸念。定番品を中心とした店頭販売での価格改定はできても、学校別注品は「価格転嫁が難しい」との見方で「トータルでコストダウンを図る」方法を模索する。
明石被服興業の河合秀文社長は、全体の環境を考えれば、「今秋からある程度、制服の価格改定を説明し、理解を求めていかなくてはいけない」と話す。テレビや新聞などで家庭にとって制服の購入は負担が重いといった議論が増える可能性もあるが、「地道に制服の価値を説明していくしかない」と強調する。
制服文化を見つめ直す/国内生産比率が高い理由
入学式で、何十人、何百人もの新入生全員がおそろいの制服を着用する――一見、当たり前の光景ではあるが、国内に学生服メーカーが存在するからこそ、それが実現できる。
繊維業界全体の衣料品の輸入浸透率は2009年以降、95%を超えており、ほとんどが中国や、アセアン諸国から輸入したものだ。しかし、学生服に限っていえば、輸入はほとんどなく、9割近くは国内生産となる。どうしても入学シーズンに納期が集中することや、生徒の体形に合わせた別注サイズも供給しなければならないなど、国内にしっかりとした生産基盤がなければ、供給するのが難しいことがある。
学生服のどのメーカーも「どんな事情があれ、生徒一人だけ入学式までに制服が間に合わないということは絶対あってはならない」という信念を持つ。制服は日本ならではの文化であり、価格が上がるからといって簡単に制服を廃止するような極端な動きはないだろうが、安さばかり追求するのも限界がある。
今回の値上げ問題では素材メーカーや学生服メーカー、学校関係者、保護者など互いに妥協点を探りながら、より良い制服文化を見つめ直す機会としてとらえていく必要がある。
新たな方向見据える学生服メーカー
厚生労働省は8月に13年の人口動態統計の確定数を発表した。出生数は前年より7415人少ない102万9816人で過去最少を更新した。いずれ100万人を割るのは時間の問題といえる。10年後には新入生が19%減る見通しのなかで、学生服メーカーは新規事業の立ち上げを模索している。
トンボは制服製造や介護・メディカルなどヘルスケア事業で培ったノウハウを生かし、“老犬介護”に特化した製品ブランド「With(ウィズ)」として犬の歩行補助ハーネス(胴輪)を開発。インターネットや動物病院、トリマー(美容院)を中心に販路開拓を進めており、予想以上に反響があるという。
明石被服興業は昨年から「ルコックスポルティフ」ブランドの介護者向けウエアを販売、今年8月からはメディカルウエアの販売にも乗り出した。ルコック全体では今期6億円の売上高を計画、2年後には10億円を視野に入れる。
ほかにも菅公学生服が近々、新規事業について発表を予定している。




