東レのGRプロジェクト/社会に浸透する環境対応素材/航空機から衣料、浄水器まで
2014年12月09日 (火曜日)
東レは環境問題の解決につながる事業の拡大をグリーンイノベーション事業拡大(GR)プロジェクトと名付け、前3カ年計画から継続して取り組んでいる。先日、発表したボーイング向け供給拡大など炭素繊維事業が、そのけん引役となっているが、衣料や空気・水環境改善といった、より一般消費者の生活に深くかかわる分野でも、裾野の広がりや事業拡大が起きている。文字通り社会全体を対象に東レの環境に対する取り組みが進んでいる。
炭素繊維がGRをけん引/東レの事業拡大も支える
東レが掲げるGRプロジェクト。地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献する事業の拡大を目指すものだ。中期経営課題「プロジェクトAP―G2016」では、GR事業として16年度に売上高7000億円、20年近傍には同1兆円を目指している。
その達成へ大きな一歩となる取り組みが先日、発表された。炭素繊維「トレカ」プリプレグの、ボーイング向け供給拡大だ。現行の「787」、新型機「777X」向けを含め、このほど基本合意に達した包括的供給契約の期間で東レグループが供給する総額は1兆円を超える見込み。東レの日覺昭廣社長は「GR事業の軸は炭素繊維事業になる」と語り、さらに連結売上高3兆円、営業利益3000億円を掲げる20年近傍の長期経営ビジョンの目標達成に向けても「確実性が増した」と自信を示す。GRプロジェクトは東レグループ全体の事業拡大を支える大きな柱にもなっている。
“鉄より強く、軽い”炭素繊維は燃費向上による省エネ化につながるほか、GRプロジェクトで同社が最も重視する温室効果ガス排出の削減も実現する。注力する航空宇宙用途で優位性を固め、次に見通すのは量産車向けだ。
炭素繊維を採用した量産車の販売が一部の自動車メーカーで始まり、同社の予測より早い形で量産車向け展開に展望が開けてきた。昨年、グループ傘下に加えたラージトウに強みを持つゾルテック社の生産基盤、東レ自身が蓄積した販売ルートを活用し、加工技術まで踏み込みながら炭素繊維事業をさらに伸ばしていく。
3GT繊維、採用加速/快適機能持つバイオ素材
一方、繊維事業のGR製品展開の現状は(1)省エネにつながる温感・冷感機能素材の活用(2)バイオマス由来素材(3)リサイクル――が中心となる。
省エネにつながる温感・冷感素材の活用は、SPAと取り組む機能インナーだ。「年々、進化している」(田中英造副社長繊維事業本部長)保温性や着用快適性を追求する協業の商品開発は、東レのサプライチェーンの広がりとともに順調に伸びている。
繊維GR製品の拡大で注力ポイントの一つであるバイオマス由来素材の拡大も、とくに3GT(ポリトリメチレン・テレフタレート)繊維のスポーツ向けでバリエーションを増やし続ける。
3GT繊維は植物由来の原料を一部に使用するバイオマス由来素材でありながら、バネのような分子構造を持つため“ストレッチ”という機能も備える。同繊維使いの主力素材と言えるスパン調編み物「フィールフィット」は、綿ライクの毛羽感、膨らみがありながら、洗濯後の縮み、色あせ、毛玉などの変化が小さく、吸汗・速乾性、UVカット性にも優れる。
16春夏向けにはナイロン複合も加え、しっとりとした風合い、吸放湿性や接触冷感性を高めた。
ニットパンツの「フレクション」ではメッシュ組織で通気度をアップ。4ウェーストレッチ織物「フレックススキンプラス」は、従来より軽量な3GT繊維で軽量性を追求した新タイプを投入する。
日常にスポーツを取り入れるライフスタイルが浸透するなか、機能性と着用快適性に感性面も求める傾向が強まっている。こうしたトレンドも3GT繊維の裾野の広がりを後押ししている。
バイオマスでは、部分植物由来ポリエステル繊維「エコディアPET」を使用した取り組みも進めている。
11月7、8日に岡山市内で開かれた「ESD(持続発展教育)に関するユネスコ世界会議」の併催イベントには、学生服製造大手の菅公学生服(岡山市)と参加し、エコディアPETを使用した制服や、スポーツウエア、作業服などを展示。“カーボン・サイクル”をアピールした。
菅公学生服はエコディアPETを使用した体育着を開発しているが、これに続き、スクールウエア「カンコーエコスクールBIO」も投入した。
東レは、エコディアPETの本格販売に当たり、原料を作る企業の製糖工場や植物由来エチレングリコールの製造工場を訪問・監査することで、資源までのトレーサビリティー(追跡可能性)を確実にしている。
フィルター、トレビーノ事業/中国の水、空気改善に一助
東レのGR製品は中国の環境汚染問題の解決にも一役買っている。エアフィルター、浄水器「トレビーノ」の両事業が同国で順調に拡大している。
ポリプロピレン・メルトブロー不織布による、エアフィルター事業を展開しているのが中国の東麗合成繊維〈南通〉(TFNL)。
中国でPM2・5が社会問題化し、空気清浄機需要が急拡大している。TFNLのエアフィルター事業も空気清浄機向けが7割、自動車向けが3割という構成だ。
2012年に100万台だった同国の空気清浄機市場は今年、日本並みの300万台が見込まれるという。市場の拡大が今後も期待されるなかで、シェアも伸ばす考えだ。
TFNLによると同社の現在のシェアは日系メーカーを中心に15%ほど。3年後をめどに50%まで高める計画を掲げており、性能の高さや機能性、グループの背景を活用した一貫生産・販売体制で、日系に加え、欧米系やローカルメーカーの需要を取り込んでいく。
自動車向けでも、装着率の向上や高性能品へのニーズの高まりで需要増を見込む。TFNLでは、昨年3月までに素材からフィルター組み立てまでの一貫生産体制を整え、開発のスピードアップを図っている。フル生産が続いていることから、来年3月までには生産能力を現状比2倍に高める計画だ。
浄水器トレビーノも据え置き型、蛇口直結型を中心に成長を続ける。今期の販売数量見通しは前期比約66%増の50万台。本格的な中国展開に乗り出した11年実績の5万台から比べると10倍に達する急激な伸びだ。
同社の調査によると中国の家庭用浄水器の普及率は7%ほど。この時点で日本市場並みの400万台の規模で、今後の伸びも確実視していることから「今年の時点で市場規模は日本と中国が逆転する」(トレビーノ販売部新製品開発課)とみる。
こうした海外での需要拡大をいかに確実に取り込むかがトレビーノ事業での重点課題だ。「まだまだ、やることはある」と現地市場、水質に合わせた商品展開を進める。
すでに12年には、フィルター性能を現地対応化した製品を投入している。中空糸を細径化し、膜面積を従来比30%増やしている。また、日本より水質が劣る中国では、水分中に重金属が含まれるケースも多く、こうした成分をろ過するフィルター性能の改良も必要になってくる。
中国向けトレビーノの展開は市場分析も兼ねた中空糸膜供給の素材ビジネスから始まり、内需の高度化に従って、トレビーノ製品というブランド展開に至った。今後のさらなる市場の発展に伴い、「小型化」という同社がこだわるコンセプトを打ち出すほか、ゴミの削減、省エネにつながる点も訴求していく。