特集 産業資材と繊維機械/新たな可能性を切り開く

2014年12月19日 (金曜日)

 繊維の新たな可能性を切り開く分野として注目が高まる産業資材。土木資材や建材、メディカル資材などフィールドは幅広い。近年では繊維強化複合材料(FRP)基材への関心も高まる。そもそも繊維はいつの時代でも先端材料素材として存在していた。そうした繊維の本質を常に具現化してきたのが様々な加工技術とそれを可能にする繊維機械である。今回の特集は先端材料としての繊維の可能性を示すトピックスを紹介すると同時に、繊維機械メーカー・商社の産業資材用繊維機械への取り組みを追った。

東レグループ/成形加工基盤 拡充/炭素繊維で圧倒的プレゼンス

 炭素繊維原糸で圧倒的プレゼンスを持つ東レグループ。11月にはボーイングと新型機「777X」向けに炭素繊維プリプレグを供給し、両社が生産に向けて全社レベルで共同研究していくことに基本合意した。「787」を対象とした包括供給契約も777Xを含めて契約期間を10年以上延長し、東レグループの供給総額は1兆円を超える。

 原糸・プリプレグだけではなく成形加工分野にも積極的に投資する。自動車部材ではプレミアムカーを中心に炭素繊維複合材料(CFRP)の重要が高まっており、この需要の取り込みを進める。その国内拠点の一つがCFRP成形子会社の東レ・カーボンマジック(TCM)だ。このほど新工場棟増設が完了した。

 TCMは作業エリアを従来の2・5倍の規模とし、積層工程の能力増強や大型オートクレーブ機1台を増設したほか、5軸加工NCルーターとマシニングセンター、ウオータージェット裁断機など工作設備も新規に導入。大型三次元検査機や超音波検査機も導入することで航空機の一次構造体部品の開発に必要な設備をそろえる。

 TCMはタイ子会社のカーボンマジック〈タイランド〉(CMTH)でも新工場を建設しており、生産能力を現行の5倍に高める。今後、日本で設計・試作・検査、タイで量産を行う体制となる。CMTHの生産品を一時保管・管理するためにTCMに自動倉庫「モノリス」(総収納パレット1654台)も新設した。東レの日覺昭廣社長は「炭素繊維は東レにとって極めて重要な戦略素材。東レの炭素繊維原糸における圧倒的なプレゼンスとTCMの技術力を融合させ、自動車分野など新たな市場のニーズに応える」と話す。

 川中工程の基盤拡充は欧州でも進行中だ。東レはこのほどイタリアのサーティ(ロンバルディア州コモ県)から欧州での炭素繊維織物・プリプレグ事業を買収することで基本合意した。来年1月からミラノ県レニャーノのサーティの工場資産を継承し、東レ100%子会社のコンポジット・マテリアルズ〈イタリア〉(CTI)として事業を開始する。今回の買収で東レは欧州で自社一貫のサプライチェーンを確立することになる。

トヨタ自動車/未来開く「MIRAI」

 炭素繊維複合材料(CFRP)の新しい用途として期待される自動車分野だが、自動車メーカーは、どのように考えているのか。このほど日本繊維機械学会のセミナーで発表したトヨタ自動車製品原価企画部の河村信也BR軽量化推進室主査が同社の考え方を発表した。

 河村主査は、依然としてCFRPはコスト面から大規模に導入することは難しいとして「金属で可能なことは、徹底して金属を活用する。そのうえで、複合材料など軽量素材の活用を進める」と指摘する。しかし、自動車開発にとって軽量化は燃費向上の面でも重要な意味があることから、限定車種で外装部材にCFRPを使用することで軽量化・低重心化を実現した実例を紹介した。

 こうしたコンセプトの大規模な具体化として大胆にCFRPを採用した「レクサスLFA」の開発事例を挙げ、外装部材への熱可塑性CFRP採用や熱硬化性CFRPによるキャビンモノコックの物性的優位性などを説明した。さらに「トヨタはCFRPの活用として次の段階に入る」として11月に発表した量産型燃料電池自動車「MIRAI」を挙げる。

 MIRAIは、燃料電池(FCスタック)の水素タンクにCFRPを使用することで軽量小型ながら70メガパスカルの高圧に耐える設計を実現。FCスタックのフレームには新開発の熱可塑性CFRPを採用し、加工効率、軽量性と路面干渉時の衝撃吸収性を両立した。MIRAIの登場によって、また一つCFRPの未来が切り開かれたといえよう。

金沢工業大学/革新複合材料研究開発センター設立

 金沢工業大学は今年、産学連携や企業間共同研究開発のプラットホームとなる研究施設「革新複合材料研究開発センター(ICC)」を開設した。鵜澤潔教授・ICC所長は「日本における複合材料分野の課題は“川中・川下”の不在。今後、熱可塑性樹脂複合材料の普及で需要が高まる。それまでに川中のサプライチェーンを形成する必要がある」と指摘。ICCをプラットホームとして産官学連携や各工程の垂直連携による複合材料開発を支援する考えを示す。

 ICCは文部科学省の「革新的イノベーション創出プログラム」の拠点に選定された。研究者、企業、行政が共同研究開発などを行い、異業種・異分野の技術融合によって複合材料の研究開発と市場創造を支援することが狙いだ。

 施設は鉄筋3階建て、延べ床面積4457平方メートルの規模を持つ。1階は大型製造装置・成形・試験評価ゾーンとしてダブルベルトプレス、300トンプレス機、レーザー加工機、疲労検査機、X線CT、フィルム押出成形機、オートクレーブ機などを保有。2階は分析・プロジェクトゾーンとして各種分析機器と会議室を配置する。3階は化学バイオ実験・居住ゾーンとしてバイオ系実験室と分析装置、研究者の居住スペースを設けた。

 11月には名古屋大学ナショナルコンポジットセンター、岐阜大学複合材料研究センターと炭素繊維複合材料に関する連携協定を締結。3大学で「東海・北陸コンポジットハイウェイ」構想の中核として先行する欧州の研究センターに対抗する一大研究開発拠点を担うことになる。