チャレンジ21/新・繊維産業創造/トップに戦略を聞く・NI帝人商事

2001年05月16日 (水曜日)

社長・堤 喜義氏/融和進め相乗効果を

 4月1日付で帝人商事と日商岩井アパレルが合併して新会社「NI帝人商事」が誕生した。重複しないそれぞれの得意分野、機能が合併メリットを大きくしたことで、今期は連結売上高2900億円、経常利益30億円弱を目指す。成功例の少ない合併にあえて踏みこんだ堤喜義新社長は、社内の融和を図ると同時に、社員のモチベーションを高め、〝未来型商社〟を旗印に3年以内の株式上場を視野に入れている。商社の存在感が薄らいでいる中で、新生「NI帝人商事」はいかにコンバーター型高機能を発揮し、繊維専門商社として勝ち残るのか。

*流通構造の激変に対応

  ――正式合併後、約1カ月とわずかですが、これまでの感想は。

 企業合併はこれまで成功例が非常に少ない。それを知りながら、あえて踏みこんだのは、両社の互いのセグメントに無駄な重複がほとんどなかったことがあります。企業風土・文化の違いが合併失敗を招くといったことがありますが、私自身、部・課長との交流を持っていますし、役員同士も積極的に接触している。合併決定にあたり、〝繊維専門〟で生きていこうと決意してくれた者もたくさんいたようです。社員の育った環境や社内ルールを早急に統一していくことで、今後の相乗効果の発揮が期待できます。

 私は個人的に小企業から大企業までの取引を経験し、合併される側の気持ちも味わいました。大阪では5月から毎月誕生日会を開き、その月に生まれた人たちで交流会を持ちます。ありのままの自分を見せようと、私も参加する予定です。東京、名古屋でも社員同士が独自に親交を深めています。

 先日の発足パーティーなどは、女性社員の意見をふんだんに取り入れて私の予想以上に良い場にできました。人の融和はたいへんスムーズに進んでいると思います。

  ――商売立ち上げの感触は。

 昨年末から単価下落など厳しい環境が続いていますが、両社とも顧客に認められたコンバーター機能を持っていたので、商権の維持はうまく行っています。

 アパレル分野をみると、東京はやはり懐が深い。単価ダウン、マーケットの縮小が嘆かれているが、ゾーンが付加価値と量の部分にはっきりと分かれており、この市場には今後期待できそうです。

 また、旧日商岩井アパレルは、毛織物や横編みニット関連が強かったが、これが生産の海外シフトの影響で弱体化している。NI帝人商事としては、新潟、福島のコンバーター機能を再強化し、この分野のビジネス再構築を図りたい。

  ――今期の業績見込みは。

 売上高は単体で2400億~2500億円、連結で2900億円弱です。利益計画は、経常利益を売上高の1%確保を目指します。2003年3月期に売上高3000億円、経常利益をその1%という目標です。

 問題は与信管理です。信用ランクというのは日々変わってしまいますから、与信さえ確保できれば減収でも経常利益の目標は達成できます。

 帝人グループとしては総資産利益率(ROA)に重きを置いていますので、現在の総資産約1100億円のうち、100億円を圧縮し、営業利益ベースのROA3%をさらに引き上げていきます。

*「未来型商社」へ役割発揮

  ――海外での展開は。

 旧帝人商事は、中国にレベルの高い生産拠点を多数持っている。これを取捨選択してトータルコストの削減を行うと同時に、スケールメリットを生かしたコストダウンに努めます。

 最も重要視しているのがベトナムです。優秀な人材が多くいるものの、資金事情などからミシン貸与のリピートやリニューアルがきっちりできていなかった。優れた品質管理ができている生産拠点工場へ再投資していきます。対日のスーツやスポーツ衣料の縫製拠点は質の高さが要求されるので、さらに投資していきたい。

 今後、対日に加え、欧米市場攻略の拠点として中国、ベトナムを中心に据えます。インドネシアは政情の不安定さがあり、少し控えめにならざるを得ませんが、タイは工業資材分野で主要な役割を担います。情報技術(IT)の活用で物流経費を削るとともに、今期中に海外で3億~5億円を投資します。中心は中国、ベトナムの縫製関連です。

 様々な産業資材については、機能素材の複合などで帝人グループとして欧米市場に対応していきます。

  ――海外事業所の統合スケジュールは。

 インドネシアとタイは4月1日付で統合が済みましたが、機能が明らかに異なる米国と香港の両社は当面、統合しない方針です。

 米国と香港はナショナルスタッフが多いので、彼らの処遇問題という面を考えるとハードランディングはできません。ナショナルスタッフが消えることで散逸する商権が出てくる可能性もあります。

 米国では、日商岩井テキスタイルと帝人商事USAが、香港では、ファッションフォース香港と日岩帝人商事香港が1~2年は併存する形になります。

*コンバーター型へ舵取り

  ――帝人グループの9事業グループのうち、流通・製品グループの長を兼務していますが。

 今後は製品ビジネスの比率が高まることは間違いありません。かつてトラッドの分野で好成績を上げていた子会社、テイジンアソシアリテイルは売上高と固定費のバランスが取れておらず、厳しい状況に置かれています。

 「トラサルディ」を扱うテイジンエヴォルテなどブランドビジネスについては、欧米ブランドに対する消費者の見方の変化などがあり、ブランドビジネスの難しさを痛感しています。

 帝人ワオは、返品リスクに対応するため独自でアウトレットショップ2店、新直営店2店を設けるなどそれなりのポジションを持っています。フォークナーはメンズに特化していきますが、当社の中国の生産拠点を活用したコラボレーションの仕組みをすぐにも築いて機能を提供していくことを考えています。

  ――NI帝人商事として流通での役割は。

 当社と帝人子会社との流通での機能の重複はごくわずかなので、ここでも相乗効果が期待できます。当社が新たなブランド商品を導入してブランドの専門店化などの展開を図ることによってアソシアが持つ店舗の再構築に協力していきます。この先2年が生き残りの勝負になるでしょう。また、エヴォルテは2年連続の赤字となっていますので、ライセンシーなどについて私なりの素人の目で事業の是非を判断していくつもりです。

 帝人グループとして連結主体の運営をしていくことが決まっていますが、私自身、流通・製品グループの長に就いています。流通構造の変化が激しいため、採算性が低いものには見切りを付けると同時に、新ビジネスの立ち上げができればと思っています。

  ――アパレル分野ではどう存在感を示す。

 顧客が求める場所に、納期を守り、適正価格で提供することを確実にするのが21世紀に生き残る方法だといえます。これらを確実に実行できないと絶対に〝未来型商社〟にはなれません。

 そのためには、まず産業資材分野でコンバーター機能を確立します。商社金融は終わったとよくいわれますが、銀行だけでは日本のビジネス自体が縮小してしまいます。輸出入業務も簡単ではありません。自社内でこれらの機能を果たそうとしてもすべてを完結させるのは難しいはずなので、商社がその機能を補完したい。金融面は帝人グループで対応できるという強みもあります。

  ――これからの課題は。

 合併したことで、輸出の占める割合が相対的に低下しました。今後は国内が縮小し、輸入が大幅に増えてくることが予想されるので、輸出のウエートが下がらないようバランスをとっていかねばなりません。

*私の情報処理術/フェース・トゥ・フェース

 竹村棉業に入社、そして帝人商事、NI帝人商事と変遷する過程を経験した。その間、重電から弱電、自動車から衣料品まで幅広い世界を見たことで「ゾーンもエリアも広がったし、どんな人の話にも耳を傾ける習慣が付いた」。マスメディアからの情報が多いとはいえ、「フェース・トゥ・フェースは絶対に欠かさない」よう心掛けている。聞き手に回って、人の話から「あつかましくもすべてを吸収する」。経験による取捨選択で面白くなければ捨て、良いものは取っておく。誰彼問わず目線を合わせて交わることで、たくさんのヒントを得てきた。帝人グループのボードメンバー会議は格好の情報源で、「恵まれた環境」で情報を吸収している。