紡績の素材開発/綿紡のウール、毛紡の綿
2015年02月03日 (火曜日)
紡績の素材開発で原料を多様化する動きが強まってきた。綿紡績がウールを、毛紡績が綿を使うといったケースだ。背景には、アパレル・流通が高級志向のモノ作りを進めていることがある。紡績としても得意とするシーズン以外の時期での販売量拡大につなげたいとの狙いも大きい。
<狙いは高級志向と販売期間>
いわゆる“アベノミクス”による株価上昇で資産効果の恩恵にあずかる高所得層の購買力が増し、高額商品の消費が回復する一方、増税や円安による輸入品価格上昇で低所得層の可処分所得が減少し、その層をターゲットとする価格訴求型商品の販売が低迷するという市場の二極化が鮮明になってきた。このためアパレル・流通は高所得層に向けた商品企画を拡大せざるを得ない。その際、素材として注目されるのが天然繊維だ。
一方、綿紡績は本来、春夏物を得意とし、秋冬物は不得手としてきた。ところが近年、秋冬素材として拡大が続いていた合繊保温素材ブームが一巡し、天然繊維志向が強まったことで綿紡績も天然繊維による秋冬素材の開発を重視してきた。そこにアパレル・流通から高級志向のニーズがもたらされる。そこで綿紡績が天然繊維による秋冬素材として注目したのがウールだ。天然繊維のなかで最も機能性に富み、高級素材として消費者への訴求力も期待できるからだ。
このため綿紡績がウール使いの商品ラインアップや提案を拡充した。例えば龍田紡績は、同社がこれまで扱っていた綿・ウール混紡糸「ウールコット」をバージョンアップし、ウール混率を高めた「スーパーウールコット」を開発した。ユニチカトレーディングも複重層紡績糸として芯にウール、鞘に綿を配した「エスファー」を打ち出す。東洋紡STCも東洋紡テクノウールと連携し、独自の長短複合紡績糸「マナード」シリーズでウール・ポリエステル複合の「マナード―W」を綿・ポリエステル複合の「マナード―C」と合わせて提案する。
一方、個性派の毛紡績の間では逆に綿を採用するケースが出てきた。例えば大津毛織は人気の軽量紡毛糸「エアーヤーン」の新タイプとしてウール・綿混紡毛糸「エアーヤーンコットン」を開発した。狙いの一つが販売時期の拡大だ。
ウール人気が継続する一方、毛紡績の悩みはシーズン性が限られ、販売時期が短いこと。紡毛糸はとくにその傾向が強い。そこでウール・綿混とすることで冬物だけでなく秋物から梅春物にまで幅広いシーズンに提案できる。綿混でカジュアルに仕上げることで重衣料だけでなく低目付のセーターやジャージなどに提案することも可能だ。販売時期と用途をともに幅出しできるメリットは大きい。
綿紡がウールの、毛紡が綿の採用を増やすという現象はユニークだ。同時に、それぞれ専業紡績として培った技術とノウハウがある。綿紡が毛紡の、毛紡が綿紡の真似をしても専業には太刀打ちできない。綿紡らしいウール素材、毛紡らしい綿素材という個性を表現できるかがポイントになりそうだ。