座談会 さらなる飛躍に向けたIT業界のリーディング・ディストリビューターDISの成長戦略
2015年04月24日 (金曜日)
〈出席者〉
ダイワボウ情報システム
代表取締役専務 営業本部長 安永 達哉 氏
取締役西日本営業本部長 豊田 恵造 氏
取締役東日本営業本部長兼広域営業本部長 大内 宏之 氏
取締役販売推進本部長 松本 裕之 氏
ダイワボウホールディングスの中核事業である「ITインフラ流通事業」を担うダイワボウ情報システム(略称DIS)。同社は我が国IT業界のトップディストリビューターとして、約190万アイテムにも上る全世界のあらゆるIT関連商品やサービス&サポートのなかから、顧客にとって必要なものを最適な組み合わせで提案・提供している。その基軸となるのが、北海道から沖縄まで全国津々浦々に設けた約90の営業拠点による「地域密着」営業である。4月1日付でそれぞれ新たな所管部署に就いた4人の本部長に、DISの今後のさらなる飛躍に向けた成長戦略を語っていただいた。
「サービス&サポート」を充実/成熟市場で“複合化”戦略の基本
――IT業界は前々期の2013年度、パソコン(以下PC)OSの「WindowsXP」サポート終了によるリプレースや消費増税の特需などで大活況でした。しかし前年度はその反動で総じて苦戦を余儀なくされた国内市場にあって、DISはしっかり売上高、利益ともに期初目標を達成されたとうかがっています。今期15年度スタートに当たり、それぞれ新たなご担当の立場から抱負をお聞かせ下さい。
安永専務(以下、敬称略) IT業界が大きな変革期を迎えていることは周知の通りですが、そのなかで変わるものと変わらないものとをしっかり見極めながら意欲を持って冷静に対処していきたいと考えています。わたしが旧大和紡績(現ダイワボウホールディングス)の子会社である弊社に入社した当初、繊維出身の多くの上司の方々に同行営業等で指導していただきましたが、その際にはいつも産業の歴史ということを感じていました。それは元々糸を作るのが主な仕事だった紡績など繊維産業が、市場の変化とともに糸がもうからなくなると布を織ることにも参画し、そして製織からやがてはデザインを考えてアパレルなど二次製品をも作るという具合に、産業は成長するに従って複合化の道を辿っています。IT業界におけるプリンタなどもその典型で、市場が成熟したらFAX機能が付き、さらにスキャナ機能、コピー機能が付くといった形でどんどん複合化しています。このように市場が成熟するに従って複合化が進むことは歴史が証明しています。ではわたしたちディストリビューターにとっての複合化とは何なのか。「サービス&サポート(S&S)」の充実にほかなりません。そういった意味でも、今はDISグループの本当の力が試される時だと思っております。
松本取締役(同) 市場の変革期を迎え、非常に難しいドライビングを行う時期にきたと感じています。まず、伸ばさなければならない商品や伸び代の大きな商品と、ある程度成熟した商品との切り分けを行い、大きく伸張する可能性のある分野に人と金を集中することでその分野を大きく伸ばしていく――というのが戦略の軸となります。モバイル事業を中心にビジネスの拡がりを意識した販売推進を行っていきたいと思っています。
大内取締役(同) 4月から東日本のコーポレート事業と、広域・コンシューマ事業、モバイル・サービスの営業部隊を担当します。東日本においては、流通機能を向上しながらディストリビューターとしての役割である質と量をいかに向上させていくかが大きなテーマです。広域・コンシューマに関しては、わたしたちがお客さまに対して販売する意味とは何かという原点に返って戦略を練り直しています。常にDISならではのビジネスとは何かを考えながら、量販ビジネスを展開します。
豊田取締役(同) わたしは西日本のコーポレート事業を担当することになりました。東と違って西の市場はある程度平均化しているように言われますが、地域ごとの個性は大きいと思います。地域に密着し、地域の個性に沿ったビジネスがわたしたちのビジネスと考えています。
各地域に合ったソリューション必要/大都市圏と地方との格差顕在化
――DISは会社設立以来30余年間、日本全国各地でビジネスモデルの横展開などで成長してきましたが、同じ日本市場にあっても地域特性は変わってきていますか。
松本 最近の日本を地域別に見ると、首都圏とそれ以外とでは全く状況が異なります。さらに首都圏以外でも大阪・名古屋とそれ以外とでは違います。つまり大都市圏とその他の地方では状況が大きく異なるために、わたしたちの取り組みも自ずと違ってきます。
大内 確かに前年度を振り返ると、大都市圏は好調で地方にはあまり元気がありませんでした。大都市圏は大手企業の投資を含めてビジネスが相当に加速した年であったと言えます。地方については官公庁・文教を中心にビジネスを進めてきたわけですが、前年度はこの官公庁・文教ビジネスにすらストップがかかる状態になり、非常に苦戦した年でした。
松本 大都市圏へのビジネス集中がさらに加速したことが前年度の特徴です。最も好調だったのが、製造業のなかでもハイ・エンタープライズと呼ばれる大手企業です。つまり製造業は好調だったとはいえ、これは大企業に限定した話であって中小企業の投資は遅れています。
地域的に見ると東名阪はある程度良かったのですが、それ以外の地方は盛り上がらない状況が続いています。今後は東日本、西日本ともに、大都市圏とそれ以外の地域に対しては異なるソリューション展開が必要で、地域に合ったソリューション展開によってお互いを伸ばすような戦略が不可欠です。
豊田 地域のお客さまは、首都圏と比較して当社とのつながりが深いと考えています。またわたしが担当する西日本においては、地域によって商談のなかに地域特性の話が多分に入る地域もあれば、これらの話題にはほとんど入らない地域もあります。隣県同士でも例えば京滋地区と総称される京都と滋賀を比較しても、好んで話される話題はかなり違います。地域によって個性があり、この地域差・個体差を理解したうえでどのようにお客さまとの関係強化を進めていくかが、エリアビジネスを進めていくためには重要だと感じています。
DISグループの総合力生かす/「モバイルファースト」を標榜
――今期の重点戦略をどのようにお考えですか。
大内 今後のビジネスを考えるうえで、首都圏ならずともオリンピックの影響は欠かせません。とくにコーポレート分野では、東京オリンピックに向けて様々な分野で様々なビジネスが生まれてきます。このような状況のなかでわたしたちがビジネスチャンスをものにしていくためには、DISグループとしての総合力が武器となります。サービスを主力ビジネスとするディーアイエスサービス&サポート(Dsas)、SIソリューションのディーアイエスソリューション(DSol)やコンテンツビジネスのディーアイエスアートワークス(Dart)などとの協業を大きな武器として、あらゆる分野のあらゆるビジネスにタッチしていくというのが今期の狙いです。
松本 販売推進においてもそれは同じです。海外からでも可能性の高い商品をDSolの協力を得て日本に持って来ることができます。これをDISが販売して、販売した後はDsasがサポートしていくというような流れが可能です。販売面でのサポートをDSol、販売した後のサポートをDsasがそれぞれ行う。このようなグループ戦略の下に商品が流れていくことが大きな強みになります。
大内 その通りだと思います。DISグループの総合力を武器に、首都圏についてはスピードとパワーでまず量を確保したいと考えています。また地方営業においては地場密着と業務の効率化をテーマに実績作りを行っていきます。地場に密着したきめ細かいサービスという弊社の伝統は健在です。
松本 大都市圏とそれ以外の地域との違いを認識したうえで、それでもなお日本の各地域が結ばれていくような方向性が必要だと考えています。わたしは日本の各地域、各産業分野をつないでいくために「モバイルファースト」が極めて有効と考えており、これはDISの今年の標語にもなっています。いわゆるモバイル系端末を積極的に取り扱うことで、首都圏だけでなく地方にもこれがどんどん普及する。今年発売される「Windows10」を含めて、モバイルはどんどんつながっていきます。販売推進本部で今回新設した販売推進4部とは、モバイルを専門に扱う部門です。広域営業本部傘下のモバイル営業部がモバイルを専門的に販売するということに対応し、モバイルに関して仕入れと販売を一体化した新たな組織を作りました。モバイルは今までの商品とは違って、商流も売り方もお客さまも全く違います。お客さまも今までとは異なる層にアプローチする必要があります。だから新たな部署を新設したわけで、今回の組織変更のポイントだと思います。
大内 確かにモバイルは大きなポイントです。この5月から法改正が施行されるSIMロックフリーの環境は、わたしたちにとって大きなビジネスチャンスです。タブレット、スマートフォンをはじめとするモバイル機器をどのように市場に展開していくか。これに深く関連したSIMビジネスも大きな成長が期待できます。このSIMビジネスについてもわたしたちは積極的にかかわり、市場をリードしていきたいと考えています。
またサービス営業に関しては、従来から取り扱っているWiMAXに関してUQコミュニケーションズさんとの協業をどのように発展させていくのか、コーポレート市場とコンシューマ市場のなかでどのように展開していくのか、それぞれ戦略を練っているところです。さらにクラウドビジネスについては、各メーカーが作成したコンテンツを我々独自の形に直して販売店とともに我々のビジネスとして形を作っていくことを考えています。
豊田 PCをはじめとする従来商品は、お客さまや販売パートナーさまが幾度も経験された商品ですが、モバイルの場合は試行錯誤段階で、本格導入のためにはコスト提案やソリューション提案がまだまだ必須です。モバイル端末は個人レベルでは広く使われていますので、法人のお客さまもモバイル端末の魅力は良くご存じです。しかし実際に社内でどのように使いどのような効果が上がるのか、それがまだよく見えないというのが現状です。当社が「モバイルファースト」と言っても、具体的に提案できなければお客さまは動きません。興味は強くとも導入にまでは至りません。提案こそがモバイルビジネス最大のポイントです。
モバイル端末を販売させていただくためにはまず、お客さまの懐の中に入り、お客さまの社内環境を理解することが必要です。企業ごとに抱える問題は微妙に違いますので、その企業が魅力を感じて実際に効果を上げることのできる提案をいかに工夫できるか。わたしたちの腕の見せどころです。
松本 それはクラウドについても同じことが言えます。クラウドはやればもうかるというビジネスではありません。クラウドをどのようにビジネスとして構築していくかが大きな課題であり、わたしたちとしてはまずこれに最大の努力を注ぐ必要があります。例えばDIS独自のポータルを作って多くの人々に来場してもらい、まずシェアを高める。並行して自由に使っていただくなかで、特定の要素については弊社が用意したルートを利用してもらうとか様々な仕組み作りが考えられます。
豊田 今期西日本営業本部では、社員の再教育や支援部署との協業強化により営業力を強化して質の高いビジネスを確立することを先決、これが次のボリュームにつながると考えています。現時点の当社内でのコーポレート売上比率は東日本が約60%を占める規模ですが、西日本としては質の向上から量の拡大に繋げることで同比率を45%くらいにまで引き上げ、会社全体の底上げにつなげていきたいと考えています。
販売技術向上と「S&S」の充実/クラウドビジネスの成功ポイント
――松本取締役からクラウドの話がありましたが、クラウドビジネスへの取り組みも注目されていますね。
安永 ディストリビューターにとってのクラウドビジネスとは何かを考えています。すでに分野として確立されているEコマースを見ても、実情はなかなか厳しいものがあります。Eコマースの販売管理コストのほとんどは物流コストであり、これをコントロールすることは難しい状況にあります。多くのEコマースはコンシューマが対象ですが、個人宅は留守が多いので結果、再配達も多くなります。このようにEコマースを例にとっても、収益を上げるビジネスモデルの構築は非常に難しいと言えます。しかしながら、わたしたちディストリビューターが収益を上げる方法は存在します。ポイントは二つあるのと思っています。それは販売技術を向上することと、サービス&サポートの2点だと考えます。この基本を抑えたうえで、どのようなビジネスモデルを構築していくかが成功の鍵ではないかと思っております。
我が国におけるIT化の流れをたどってみましょう。企業でのコンピュータ導入の黎明期はメーンフレームと言って巨大コンピュータを1台鎮座させ、それを「時分割多重利用」することにより、たくさんの会社でたくさんの端末を同時に使う方法が一般的でした。ところがパソコンの最重要パーツで演算処理装置のCPU単価がどんどん低下し、それに反して性能が劇的に上がったため、セクションごとにコンピュータを分散設置する「クライアント・サーバー(端末とそれらを集約する記憶装置)」方式により、企業単位でコンピュータを個々に所有することが可能となるダウンサイジングという言葉が流行してきました。しかしながら最近は、たくさんの企業がたくさんの端末を同時に使う、つまり黎明期のメーンフレームと同じ使い方をクラウドと言う形に置き換える傾向が増えています。黎明期と同じように、再度外部に委託するといった形に歴史は繰り返しています。このように繰り返す歴史のなかでも、収益構造は全く違った形へと進化しています。弊社は紡績会社の子会社としてスタートし、時代とともに成長して少なからず企業グループの一翼を担う存在になったわけですが、弊社の将来を考えても同じことが言えます。時代の変化とともにDSolやDsasなどのサービス子会社が将来のDISグループの主役を担う可能性は強いのです。言い換えれば、そのように主役が交代しないと企業の新陳代謝もありません。その意味でも、クラウドが提起する問題は重要な意味を持っています。
大内 話は変わりますが、今年7月15、16日に岩手県盛岡市で「DISワールドinみちのく盛岡」を開催します。来場者は1500人を見込んでいます。文教市場では1人1台のPC設定を目指す「K12」構想がようやく動き始めますので、まずこれが大きなテーマとなり、モバイルとクラウドをもう一つの主要テーマとして展開します。出展いただく各メーカーさまのブースにおいても、激動するIT環境を反映して魅力的な内容が予定されています。マイクロソフトによるWindows10の発売を間近に控えて大いに盛り上がると期待しています。
豊田 全国各地で開催するこの「DISわぁるど」は、ある面IT業界における年中行事の一つとして注目されています。今年は東日本の盛岡ですが、来年度は西日本での開催を予定しています。
8月に注目のWindows10登場/IT環境に劇的変化の可能性
安永 今年8月に発売されるWindows10によって、PCはもちろん世の中のIT環境全体が大きく変わると予想されます。日本の企業ユーザーで最新環境の普及が遅れる傾向が強いのは、欧米市場に比較してユーザーに自己責任の感覚が薄いからだと言われます。オープンソースであるLinuxを見ても、先進諸国のなかでも日本が少ないという現実があります。確かにオープンソースは自己責任でないと使い切れませんので、それなりのリスクがあることは確かです。しかし日本のユーザーはリスクをとることに躊躇(ちゅうちょ)します。だからいくら高性能であってもオープンソース系は日本ではあまり普及しません。
しかしWindows10によって、日本のIT環境は大きな変化を遂げることが予想されます。ベンダーはマイクロソフトですので企業も安心して導入できますし、おまけにPCでもタブレットでもスマートフォンでも全くおなじ環境で使えるという多用性を持っています。ハードの種類は様々でも、OSはWindows10ですべて大丈夫という時代になります。これはコンピュータ環境に劇的な変化をもたらす可能性があり、わたしたちにとっても大きなビジネスチャンスです。難しいことをいかに簡単にするかということがプロの仕事です。
マイクロソフトはWindows10によってこれを実現しようとし、わたしたちはそのディストリビューションのなかでこれを実現しようとしています。
――ありがとうございました。DISグループのさらなる成長を期待しています。