アパレル編/制服文化に花咲かせる次の一手

2015年05月29日 (金曜日)

 少子化で市場が縮小するなか、学生服アパレル各社は、制服価値の向上やブランディングを強化するとともに、学校のニーズを的確に読み取り、新たな戦略を仕掛けている。次の一手は何か、各社の動きを探る。

明石被服興業/新体制でエリア戦略強化/多様なニーズ、的確に対応

 明石被服興業の今入学商戦は、モデルチェンジ(MC)校の獲得数は前年より若干減ったものの、獲得率では前年並みを維持した。生徒数の減少に加え、消費増税の影響で店頭向け商品の販売が減少するなど、市況としては良くないが、「私学の学校では生き残りをかけ、制服を差別化していこうとする動きが強い」(金田伸吾スクール企画販売部長)ことから、制服のグレードアップの提案を強め、質の向上を訴求。「着心地の進化によって、採用につなげる」考えだ。

 同社は今年、創業150周年を迎え、6月から持株会社制を導入し、新たな体制で来入学商戦に臨む。 「明石被服興業(AKASHI H.K.C.)」を事業持株会社とし、生産、物流、財務・管理部門の運営を担いながら、グループ経営の戦略立案や事業統括を進める一方、企画・営業部門を100%出資の新会社「明石スクールユニフォームカンパニー(AKASHI S.U.C.)」に継承し、マーケティング機能の強化を進める。少子化や市場・流通構造の変化などへの対応力を強め、各事業での責任体制の明確化と意思決定の迅速化を図る。

 全国の販売子会社7社を合併・統合、エリア戦略を加速し、多様な顧客ニーズに的確に対応していくことで新たな市場の開拓につなげる。

 6月8日から17日まで本社で開く予定の展示会では引き続き「制服価値を究める」をテーマにニーズに沿った商品群を充実。「制服は“生徒が主役”となり、着用することで生徒の個性を育む」という同社が業界で初めて提唱した考えをしっかり継承しながら、学校のブランド力向上に貢献する。

トンボ/ブランディング強化に全力/プロジェクトが始動

 トンボ(岡山市)の今入学商戦は、中高のMC校のうち約4割を獲得し、昨年の獲得率を上回った。例年よりもMC校そのものが少ないなかで、大型校の獲得もできたことから、「市場でのシェアは高まっている」(安田和弘取締役スクール事業本部長)と分析する。ただ、昨年の消費増税による駆け込み需要の影響があって苦戦気味だったが、詰め襟服の新商品の販売が好調だったことで、売り上げは微増で推移している。

 生徒数は2018年、15年春に比べ5%減る見通しで、「地方はかなり厳しい状況になってくる」。学校との関係強化を進め、6月に東京、7月に名古屋、大阪で開かれる総合展示会では昨年に引き続き「制服検討委員会」をテーマに、「足を運んでもらう展示会から、制服の様々なデザイン、機能などプレゼンテーションし、多様化する学校の要望に応える」形で内容を充実させる。

 5月からは来年創業140周年を迎えることを記念し、2年間にわたる「トンボ140thアニバーサリーマーチャンダイジングプロジェクト」を始動。甲子園球場の三塁側内野への「トンボスポーツウエアVICTORY」の看板広告の設置や、全国ネットのテレビCMの放映などを通じ、改めてブランディングを強化し「トンボ」の知名度を市場へ浸透させる。

 今月15日には東京の英国大使館で、英国スコットランドのロキャロン社と共同開発したオリジナルのコーポレートタータン「トンボ140thアニバーサリータータン」を発表。学校向けに展開する女子向けのタータン10柄、男子向けのタータン4柄の「ロキャロン10」の展開も本格化する。

菅公学生服/地域密着で学校深耕/MC校獲得率は例年以上

 菅公学生服(岡山市)は今入学商戦、全体的にMC校が減る傾向にあったが、問田真司常務は「MC校の獲得率は例年に比べて良かった」と述べた。地域密着に加え、子供たちの夢を支援する「カンコードリームプロジェクト」などで学校との関係深耕が進んでいる成果が出始めている。

 同社は一昨年に北海道で、昨年8月に全国で10社の販社を立ち上げ、地域密着の営業を強化してきた。ドリームプロジェクトや、学校や教育現場での課題解決を支援する「カンコーマナビプロジェクト」も推進。学校の授業のなかで生徒に将来の“なりたい自分”をイメージさせ、夢の実現を支援する「ドリームマップ」などの活動を通じて、学校とのつながりを深めてきた。少子化で学校数が減るなかで「喪失校を極力なくしていくことも課題」(問田常務)との認識も示す。

 学校との関係強化のなかで、岡山南高校との「産学連携実学体験プロジェクト」はその一例。生徒へのキャリア教育や体操服のデザインなど実践的な取り組みを通じて、次世代を担う人材を育てようというものだ。2年目に入り、今度は岡山県赤磐市の磐梨中学校に来年供給する体操服を実際にデザインする。同社としても初めての試みだったが、「若手社員の成長にもつながる」と機会があれば他校にも広げる。

 来入学商戦に向けては、引き続きドリームプロジェクトやマナビプロジェクトなど学校支援を通じ「ソリューション活動をより拡充していく」考え。全国の取引がある販売店と「目標を共有しながら、戦略面でしっかりと取り組む」ことで縮小する市場のなかでも活路を開く。

オゴー産業/大手との差別化、明確に/オリジナル商品が充実

 この数年、新商品の投入を活発化してきたオゴー産業(岡山県倉敷市)は、来入学商戦に向けてマーケティングを一段と強め、販路拡大に取り組む。オリジナルの商品群が充実してきたことで、大手との差別化をより明確にし、市場開拓につなげる動きを加速する。

 同社は4年前から着心地、着やすさを追求した「楽スクール」シリーズとして、ニットシャツや、独自パターン「SASカッティング」を搭載したコンフォートタイプの詰襟服「鳩サクラ・ウイン」、女子学生服「ピース&チェリー」など打ち出し、商品を充実させてきた。

 ただ、この数年、新商品を急ピッチで打ち出してきたことで「マーケティングをさらに充実させ、売れ筋を確認する」(片山一昌営業推進部長)とともに、「大手には無い面を前面に出して、当社を必要とする部分を追求していく」ことに力を注ぐ。

 セコムとの共催で地域の安全な環境作りに貢献する「安全マップコンテスト」は、来春9回目を実施。これをきっかけに関係を構築できた学校もあり、知名度をより高める仕掛けを模索する。2004年から制服や体操服でライセンス契約を結び、商品の売上金額の一部を支援金として国際支援団体に提供する「セーブ・ザ・チルドレン」では、ワークショップを通じ、学校へ啓発活動も進める。

 昨年開発した防災ずきん付きの多機能ランドセルは、実験による検証や、量産に向けてのデザイン、機能性の変更を重ね、来春販売を本格化する予定。地震や津波などの防災だけでなく、普段の通学路での安心、安全についても訴求しながら、新規取引先の開拓につなげる。

児島/企画力をより高める/“新しい視点”でモノ作り

 児島(岡山県倉敷市)は今入学商戦、モデルチェンジ校の獲得が前期並みに推移した。昨年3月、消費増税前の駆け込み需要や、天候不順による採寸日の先送りなどで追加対応に追われたが、今年は追加の発注が1割ほど減っていることに加え、受注率を見ながら対応してきたことで、混乱もなく納期対応ができた。

 来入学商戦に向け、これまで地域を選別しながら、市場開拓を進めてきたが、関東や東海エリアなど、学校が集中する人口の多いところへも販路拡大を模索し、「営業力だけでなく企画力も充実させる」(石合繁則常務)ことで、MC校の獲得につなげる。

 昨年の展示会では偉人の名言をモチーフにした企画・デザインを試み、話題となった。例えばノーベル賞を受賞した物理学者、湯川秀樹の名言「一日、生きることは、一歩、進むことでありたい」からイメージした普通科進学校向けの制服を提案。6月29日~7月3日に本社で開く予定の展示会では「新しい視点や学校からの意見を参考にしながら、より満足してもらえるような企画を打ち出す」考えで、今回は時流で注目されるものをテーマに、制服や体操服の新商品を発表する。

 とくに企画を強化し、中国の自社工場で生産するかばんは前年比2けた%増で売り上げを伸ばし、今年から修理を海外でなく、本社で修理できる体制を整えた。店売りの商品を充実させ、ブランドに負けない収納など機能性でニーズをつかむ。

 ニットの詰め襟服は「標準学生服認証マーク」を取得。ケアが楽であることに加え、布帛に比べ伸縮性があることから、着用しやすいのが特徴。販売量も増えつつある。

瀧本/「カンゴール」の学生服/夏の展示会で初披露

 瀧本は、イギリスのファッションブランド「カンゴール(KANGOL)」を使った学生衣料を7月から展開する。私立校向けを中心にした別注のブレザー、スクールシャツ、かばんなどを展開し、約50校での採用を目標とする。6月から7月にかけて東京、名古屋、大阪、福岡で開く展示会で初披露する。

 今年から学生服市場に参入するミズノとライセンス契約を結び学生服の共同開発やOEMで協力するほか、営業でも商圏が重なる地域で両社の住み分けを行う。瀧本がミズノの商品を仕入れて販売もできるようになった。

 2015年春入学商戦は、新規校、モデルチェンジの獲得校数がともに前年並みで推移した。関東圏や西日本といったエリア別でもほぼ横ばいだった。

 前年は消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要が売り上げに貢献したが、今年はその反動で通常3枚売れたシャツが2枚になるなどの買い控えやオプション品の販売が伸び悩んだ。企画開発部の寺前弘敏部長は「今年4月に入っても需要は想定よりも戻っていない」と見る。

 スクールスポーツ分野の「ロット」ブランドは徐々に増えてきており早期に100校の達成を目指す。柔道着、水着など周辺アイテムの販売も堅調に推移。

 東京拠点は13年に続き14年も、新たな営業人員を増強し、若返りを図るとともにデリバリーを含むサポート体制の基盤強化を進め、関東のモデルチェンジ校の獲得につなげる。

吉善商会/企画・提案力磨く/ユネスコスクールに活路

 吉善商会(東京都中央区)は今春、前年比微増で推移。大型・中堅案件の獲得に加えて「渋谷区から日本橋エリアに移転したことで仕入れ先、販売先が至近になり、業務がグッとスムーズになった」と吉村善和社長は話す。ファッション発信地から繊維の街に移っても制服のトレンドには鋭敏。一般ファッションの影響かスリムなシルエットが好まれるようになっており、細身でも着やすく快適な制服にするため、ネックラインや肩回りなど専業メーカーのテクニックの見せどころと言える。

 現在は企画提案力を強化中で、社内の企画委員会を中心に産学共同の研究や専属デザイナーの起用を進める。コストアップで価格転嫁が課題となるなかで「品質を落とす訳にはいかない」とモノ作りの姿勢はぶれない。

 制服を介した中国との文化交流事業は近年、政治的問題が影を投げかけていたが、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)のユネスコスクールをブリッジとすることで明るさが見えてきた。ユネスコスクールはユネスコ憲章に示されたユネスコの理念を実現するため平和や国際的な連携を実践する学校。世界181カ国・地域に広がり、日本の加盟校は913校(2015年4月現在)。日本の学校と交流を望む中国側からのラブコールで日中の姉妹校提携も実現した。「政治の壁のない国際交流支援事業として、制服事業に結び付けていきたい」としている。

佐藤産業/「良い制服」にこだわり/7月の展示会で発信

 佐藤産業(東京都千代田区)の今春の学校制服商戦は昨シーズンに比べ減収となった。今年2月までは勢いがあったが「3月以降に私立校の案件が伸びず、昨年のような消費増税の反動も無かった」のが要因。服地、副資材など原料費が軒並み上昇しており、利益面も厳しい状況が続く。国内工場を生産背景とした純国産の品質を自負する同社だが「継続していくためには適正価格に理解を頂き、工賃を上げていく必要がある」と話す。

 そんななかでも、品質に妥協しない提案に手応えも感じている。私学向けのハイブランド「エッセスコラ」がある学校で「学区内の制服は似たデザインが多いので差別化したい」と採用され、周辺にも同様の動きが広がる期待がある。あまり着られなくなってきたコートが注目されるのも同社のモノ作りの評価の表われと言える。

 7月9、10日に国際ファッションセンターKFCホール(同墨田区)で展示会を開く。企画・開発から生産・アフターフォローまで、一貫したオンライン管理を実現した生産背景、小ロット・別注制服から納品後の各サイズ常備、さらに小・中・高一貫校や施設分散型提携校へのきめ細やかな対応力やデザイン提案など、在京の学生服アパレルとしての力を総合的に紹介する予定。

ハネクトーン早川/多様化市場に対応/高品質化、効率化を推進

 スクールネクタイ・リボンのトップメーカーであるハネクトーン早川(東京都千代田区)の今春までの商況は受注ベースで若干の落ち込みが見られ、別注も期の後半は伸び悩んだ。新規物件は増えているが、素材の値上がりに加え、特注では生地やデザインが学校ごとに多様化が進んでいることも課題。「どこにどういう提案をすべきか、企画の高品質化と生産の効率化を並行して進めていく必要がある」と話す。

 効率化のため、社内で基幹業務の精査や物流を含めた体制を見直している。リボンやネクタイは特殊な意匠を持ったアイテムだが、技術を持った職人が減り、事業が継続できなくなるケースもある。同社でも「会社が成長していくために人材育成は重要な課題」ととらえ、技術職はもちろん、管理職も研修などでスキルアップし組織強化を図っている。

 企画では、抗菌・防臭、ウオッシャブルなど機能性商品のほか、メガネやスマートフォンを拭けるワイピングクロス付きの商品などの新用途も検討している。

 少子化が進む市場にあって「スクールユニフォーム市場はビジネスユニフォームに比べれば安定しているが、将来的に需要は下がり、小口化傾向が進む」と予測。「競争原理が働くなかでも、学校制服の意義や価値を理解してもらうため、業界が心を一つにして制服の文化を守っていければ」と話す。