ひと/東レの取締役生産本部(繊維生産)担当に就いた田中 良幸 氏/海外で新製品生む土壌を
2015年08月03日 (月曜日)
「繊維の研究がやりたい」と入社動機は明快。炭素繊維、人工皮革など東レの繊維技術に面白さを感じた。「何でもやらせてくれる風土があった」と振り返る当初は、超電導繊維、「水虫にならない繊維」など様々テーマに取り組んだが、東レの基礎技術から離れたこれらの研究は残念ながら事業化に至らなかった。
そんななかで「今の自分があるのはこれのおかげ」と自負するのがPPS繊維だ。耐熱バグフィルター用途を中心に今や東レの大きな強みに。
エンプラ、フィルム用途を見込んで設立したPPS樹脂工場があったが事業を拡大できず、当時の前田勝之助社長が繊維化のミッションを与えた。その担当が田中さんだ。コンペチターは繊維化に成功していたが、当時の東レではやったことがないテーマ。とくに重合段階で不純物の混入を最小限にする技術の確立に苦労したそうだ。生産トラブルで夜中に電話で呼び出されることも最初のころは頻繁にあった。
ユニクロの「ヒートテック」用素材の開発に当たったときも強烈な思い出。コストと風合いで納得してもらうものに仕上げるため、毎週のように提案に足を運んだ。ある金曜日に見せたサンプルの性能が要望に及ばず、週明け月曜日に持ってくるよう言われ、対応したことも。「新しいものを創るには品質に対する強じんな意志とスピードが必要」であることを学んだ。
「自身の転機」と強調するのは、副社長を務めたフッ素繊維を扱うトーレ・フロロファイバーズ〈アメリカ〉での経験。宇宙船外服、航空機など特殊な用途で展開を広げていったが、それ以上に考え方・働き方が大きく転換したことが印象深い。
とくに、残業をほとんどしない効率的な働き方は、その後の岡崎工場長時にも導入。会議の出席人数、時間、資料削減などで仕事量を1年間で従来比2割減らしたという。
余暇に楽しんでいるマラソンも米国駐在時に始めたそう。それ以前はスポーツとは縁遠かっただけに、米国での経験を通じて自身のライフスタイルが大きく変化した。
今後は生産本部の担当役員として、効率的な働き方を各拠点に呼び掛ける。同時に日本で生み出した新製品、新技術の海外移管、海外拠点自らが現地市場に合った商品を創出できるような基盤作りにも人材育成を含めて取り組み、東レグループの中期経営課題「プロジェクトAP―G2016」に貢献していく。(亮)
たなか・よしゆき 1984年名大大学院工学研究科合成化学専攻修士修了、東レ入社。2006年トーレ・フロロファイバーズ〈アメリカ〉副社長、10年フィラメント技術部長、14年岡崎工場長、15年5月生産本部(繊維生産)担当兼生産技術第1部長兼技術センター企画室参事を経て、6月に取締役就任。趣味はランニング。