フロイデンベルグと東レ/衝撃! バイリーンTOB
2015年09月18日 (金曜日)
2015年8月7日、日本の不織布業界はビッグニュースに揺れた。ドイツ・フロイデンベルグ エスイー(以下F社)と東レが共同で日本バイリーン株式の公開買い付け(TOB)を発表したからだ。TOBによって日本最大の不織布メーカーはどう変わるのか。不織布業界の声を探った。
Fグループ第3の柱に/単体収益向上へ手立てか
昨年8月の第三者割当増資によりF社は33・40%、東レは17・49%の日本バイリーン株式を持つ第1位、2位の大株主だったが、今回のTOBでF社75%、東レ25%出資による合弁会社に日本バイリーンは変わる。プレスリリースによるとTOBは昨年11月にF社が東レに持ち掛けたもの。今年2月末には両者が日本バイリーンに対して、F社が不織布関連技術、東レは原料となるファイバーを提供する従来の協業関係を強化し、F社グループでポリエステルスパンボンド不織布(SB)などを手掛けるフロイデンベルグ・パフォーマンス・マテリアルズ(FPM)、フィルター事業のフロイデンベルグ・フィルトレーション・テクノロジーズ(FFT)に並ぶ第3のビジネスグループとして事業展開することが、日本バイリーンの“収益改善”に向けた最善の選択肢であるとの提案をしたという。
この“収益改善”は何を意味するのか。一つは日本バイリーン単体なのかもしれない。2015年度、日本バイリーンは連結売上高617億円、経常利益64億円を計画する。前期比でそれぞれ9・3%増、69・5%増と好業績だ。しかし、単体は売上高7・7%増も、経常利益8・0%減、これに対して、自動車フロアマットを主力とする北米事業は売上高15・5%増、経常利益18・6%増と売り上げ、利益ともけん引する。経常実額でも単体20億3200万円に対して、北米19億7400万円とほぼ匹敵。その面で北米の1・5倍の売り上げを持つ単体の収益力は物足らない。それにF社と東レがどのような手立てを講じるのか注目される。
プレスリリースによると、TOB後は①FPM、FFTのグローバル戦略と統一した展開に基づき、マーケティング、製品の共同開発、共同投資を協力して進めることで新たな事業機会を創出する②メディカル、電池セパレーター、フィルター製品、自動車用途でF社と共同で新規顧客開拓、技術移転の強化、新規用途開拓に注力し、シェア拡大を図る③東レはファイバー供給・開発を通じて日本バイリーンを支援し、国内での戦略的パートナーとして必要に応じて人事、労働衛生、安全・環境、IT戦略、オペレーションの助言を行う――としている。
東レ 製販で連携強化/供給者からパートナーに
日本バイリーンも両社との連携によるグローバル展開の加速、人材育成面のサポート、共同製品開発、東レからの安定的な原材料調達、国内事業基盤の強化などの効果があるとしているほか、抜本的な施策での柔軟かつ迅速な意思決定、上場廃止によるコスト削減、間接部門のスリム化、直接部門の強化も期待できるとしている。
その日本バイリーンの株式25%を握る東レの狙いは何か。昨年の第三者割当増資により日本バイリーンは東レの持分法適用会社になっており「サプライヤーの1社からパートナーとしての意識が両社に醸成されていた」と東レの三木憲一郎産業資材・衣料素材事業部門長は言う。そしてTOBを契機に「この意識がワンランク上がる」と説明する。
日本バイリーンの不織布技術と、東レのポリエステル短繊維を中心とする差別化素材の開発力を組み合わせて「モノ作りのスピードアップ、高度化が出来る」と三木部門長。
同時に「それぞれの強みを生かした販売展開」も連携の一つに挙げる。日本バイリーンの衣料副資材を東レが欧米アパレル向けに販売するなど「得意な分野、地域に相互乗り入れすることで、事業拡大や収益向上につなげる」と言う。
東レの不織布用ポリエステル短繊維に占める日本バイリーン比率は30%弱。比率は別にして今後絶対量は増えると見られるが、さらにFPM、FFTとも「場合によっては協業もあり得る」など、東レとF社との連携強化も可能性が高まる。
不織布企業はどう見る/「自然な流れ」「脅威」
では、日本の不織布業界はどのように見ているのか。日本バイリーンは1960年、大日本インキ化学工業(現・DIC)、F社、東レの3社合弁により設立されたが、09年に第2位の大株主だったDICが株式売却の意向を表明し、10年に主要株主から外れた。
「DICが抜けた時点でいずれはこうなると思っていた。ただ、もう少し先だと考えていた」との見方を示す不織布メーカーや、「F社100%になると思っていた」との声もある。その面では株主構成は別にしてTOBは自然な流れだったのかもしれない。
そして、TOB完了後も「急激に変わることはないだろう」との見方が大勢を占めながらも、不織布関連企業は少なからず警戒感を示すところが多い。とくに東レの動きが注目されている。
単純な話しでは「今まで東レと商いがあったが、日本バイリーンに移るのではないか」というものや、「日本バイリーンと東レの共同開発が強化されるのは間違いないが、それだけではなく、F社と東レの関係も強まる。グローバルで脅威は増す」という指摘も見られる。
なかには買収価格が最大351億円に上る今回のTOBだけに、ある不織布メーカーは需要家から「外資はリターンがあるから投資している。351億円も使うのだから、不織布はもうかるということ。御社ももうかっているはずだから販売価格を値下げできるのではないか」と笑えない話もあったそうだ。また、東レが重要決議の拒否権が持てる3分の1を握らなかったことも不思議がる声も少なくない。
様々な憶測を呼ぶ今回のTOB。果たして、日本バイリーンはどう変わるのか。TOBの完了は9月24日。完了後はF社が指名する者が日本バイリーン取締役の過半数となるように選任する予定だが、役員体制も含めて不織布業界は日本バイリーンの今後に注目している。
因みにF社は今年、PGIノンウーブンズ(現・AVINTIV)に不織布の世界ナンバーワンの座を奪われた。しかし、日本バイリーンをTOBし子会社化することで、再び第1位に返り咲くことになる。