特集 スクールユニフォーム/新しい制服文化を切り開く大手4社の戦略

2015年09月29日 (火曜日)

 少子化の影響が顕著になるなかで、市場でのシェア争いが激しさを増している。学生服メーカーは、これまでのように単に学校へ制服を供給するだけでなく、ニーズにより沿った役割を求められるようになってきた。新たな制服文化が芽吹くなか、大手4社のトップに戦略を聞いた。

明石スクールユニフォームカンパニー/社長/河合 秀文 氏/明確な企業イメージ発信

  ――2015年5月期決算はいかがでしたか。

 売上高が前期比0・4%増の233億円と微増収にとどまりました。モデルチェンジ(MC)校の新規獲得など順調に推移しましたが、物件の小口化や既存校の生徒数減少、昨年あった消費増税による駆け込み需要が今年無かったことで、例年より伸び率が低くなりました。

  ――6月から新体制に移行しています。

 製販を分離し、生産や管理部門を明石被服興業(明石HKC)、企画・営業部門を明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)としてスタートを切りました。

 明石SUCは社名に“スクールユニフォーム”という言葉が入っているように企業イメージを明確にすることで、販売先、消費者に対して制服をしっかりやっていくということを浸透させていきます。全国の販売子会社7社を合併・統合し、8エリアの営業拠点によるフラットな組織となったことで、全社員が同じ立場で営業しているという一体感を高めるとともに、営業マンのスキルアップについても良い方向に行くと思っています。

  ――来入学商戦の進ちょくはいかがですか。

 MC校の獲得については順調に進んでいますが、納品していた既存校の喪失もあって、これまで以上に大手メーカー間によるシェア争いが激しさを増しています。オリジナルのタータンチェックの提案強化などで、新規校の獲得に努めていきます。

 店頭向け商品は素材メーカーとの取り組みによる開発を強めています。昨年からテーマに掲げる「制作価値を究める」に沿った、ストレッチ性・機能性の向上で着心地を高めた全社共通の企画「スマートワン」や、詰め襟服の「ナノウェイブ・プレミアム」が好評で、引き合いが増えています。

 スクールスポーツについても、「デサント」で、新たに洗練されたシルエット、デザインの「エクストラモデル」を投入し、引き続き100校の採用校を目標に掲げています。

  ――今期の見通しは。

15年5月期決算は微増収でしたが、昨年5月期の売上高は前の期に比べ6%の増収だったことを踏まえると、この2年間は平均すれば従来通り3%ずつ順調に伸びています。

 今期も引き続き3%の増収を目標に掲げ、売上高240億円を計画しています。

菅公学生服/社長/尾﨑 茂 氏/総合力を前面に出す

  ――2015年7月期決算の見通しは。

 少子化による制服の販売量の減少や、昨年の消費増税による駆け込み需要がなかった影響で、売上高は前の期の334億円より減収になりそうです。ただ、2013年に変更した「菅公学生服」の社名が浸透し、学生服メーカーとして再認識されてきたこともあり、来年の入学商戦の制服モデルチェンジ(MC)校の獲得については順調に進んでいます。学校の環境が変わってきたなかで、求められている制服が何かをしっかり考え、総合力を全面的に出していくことで、シェアを広げたいと思っています。

  ――総合力とは?

 これまで子供たちの未来を応援する「ドリームプロジェクト」や、教育現場での課題解決を支援する「カンコーマナビプロジェクト」といった取り組みを進め、「カンコー」ブランドの浸透に努めてきました。

 今年11月には学校関係者や取引先向けの展示会「カンコー スクール・ソリューションフェア」を東京や大阪で開く予定です。2年前から異業種の企業と連携しながら、制服・体育着の商品提案と同時に、子供たちの夢や学びの応援、教育現場が抱える様々な課題のソリューションを総合的に支援することを目的に開いてきました。

 今回も協賛企業が増える見通しで“徳育(道徳教育)”のヒントになるような展示会にしていきます。トータル的に支援し、教育現場の課題を解決に導くような取り組みによって、他社と同じ土俵の上では負けない総合力を発揮していきます。

  ――生産面の強化はいかがですか。

 昨年7月から稼働する菅公アパレル大山工場(鳥取県大山町)はすでに従業員が70人から130人と増え、詰め襟服を中心に生産を拡大しています。

  ――今期の方針は。

 一昨年から進める営業拠点の分社化を10社から22社に拡大し、地域により密着し、学校との関係を強化していきます。MC校の獲得では、人的資源を人口が多い都市部に集中させる傾向がありますが、当社は制服を供給する公共の企業だと思っています。採算面も必要ですが、それだけを見るのではなく、人口が少ない地方でも助けになるような存在として、地域密着で事業基盤を固めていきます。

瀧本/社長/高橋 周作 氏/教育現場支える姿勢貫く

  ――2015年6月期決算はいかがでしたか。

 連結ベースで売上高は2%減、利益も前の期比減になりました。新規獲得校数は落ち込んでいませんが、少子化による生徒数減の影響や14年4月の消費増税の反動で想定した以上の買い控えが起き、とりわけスクールシャツ、ベストなどのニット製品が伸び悩み、1人当たりの購買価格が減ったためです。保護者の心理は「増税前に買っておく」から、今は「必要になれば買えばよい」というスタンスになっていると思います。

  ――16年春入学商戦の商況をお聞かせ下さい。

 前の期からアイテム数、素材、商品展開を絞り、コストの削減、収益率の向上に努めてきました。今期から結果に表れてくると思います。6月からの展示会で発表した英ファッションブランド「カンゴール」やスポーツ用品大手ミズノの「ミズノ」ブランドの学生服への問い合わせも増えており、手応えを感じています。学校側のスケジュールを考えれば2年後の2017年春にデビューとなりそうです。

  ――新ブランド投入で業績拡大に追い風ですね。

 あくまでブランドは当社の強みの一つという位置づけです。近年、学校側は学生服を採用する際に公正さを重んじており、ブランドだけでは決まりません。複数社のコンペで、商品だけでなく、企業の総合的な姿勢を見ています。

 一時、女子生徒を中心に制服で入学校を決めるというケースが多々ありましたが、今は変わっています。保護者とともに校風、教育カリキュラム、校舎や設備など総合的に評価したうえで選びます。

 そうしたなか、当社の学生服で学校の魅力を高めるサポートがどこまでできるかが重要だと思います。だからこそ、当社はそれぞれの校訓や教育、環境などの特色にふさわしい制服を提案する姿勢を貫きたいと思います。

  ――今年から素材の価格が上がりました。

 当社も価格を上げる方針です。もうけるための値上げではありません。日本の制服文化を守るための苦渋の選択です。為替、染料価格、縫製などの加工賃、物流コストすべてが上昇傾向にあるなか、現状ではモノ作りが維持できません。現在、学校へ、理解してもらえるよう丁寧な説明を続けています。制服を作る舞台裏を伝えることは簡単ではありませんが、一律にはいかずとも根気強く理解を広めたいと考えています。

トンボ/社長/近藤 知之 氏/ニーズに応える体制へ

 ――2015年6月期決算はいかがでしたか。

 学生服は順調にモデルチェンジ(MC)校を獲得することができましたが、市場の縮小、消費増税の駆け込み需要の反動などで売上高は前期比1%減の255億円となりました。利益面も在庫を見直し、これまでの品番だけではなくサイズも含め、一定期間経過したものを評価落ちにするなど在庫の評価基準を変えたことで減益でした。来入学商戦のMC校については全体的に、今入学商戦と同じ規模で推移していますが、うち4割弱をすでに獲得しており、まずまずの結果となっています。

  ――今期の方針は。

 来年の創業140周年に向け、「トンボ140thアニバーサリーマーチャンダイジングプロジェクト」をスタートしています。甲子園球場での看板広告や、英国ロキャロン社とのコーポレートタータンチェックの開発など、ブランディングを強化してきました。17年の入学商戦からは、新ブランドとして学校別注向けに米国東海岸発祥のトラッドファッションを基調とする「イーストボーイ」を投入していきます。

  ――生産面はいかがですか。

 ブレザーを生産するトンボ倉吉工房(鳥取県倉吉市)の従業員を40人から50人に増やし、昨年の倍増となる1万5000~1万6000点の生産を計画しています。

 また、スクールスポーツ衣料を生産する美咲工場(岡山県美咲町)には11月ごろに昇華プリントの設備を導入し、CAMによる原反裁断からプリント、縫製までの一貫生産ができる体制を整えていきます。昇華プリントは発色性が優れ、高いデザイン性から需要が高まっており、「ヨネックス」「ビクトリー」ブランドの新商品の開発や生産拡大につなげます。

 さらに協力工場とも連携を強めながら国内生産のキャパシティーをしっかり確保していきます。

  ――組織改革も進めています。

 6月にはマーチャンダイジング(MD)や販売強化のため、組織を再編し、「MD本部」「販売本部」を設置しました。少子化で市場が縮小するなか、顧客の要求、要望に応えられる体制にしていくのが目的です。さらに10月には執行役員制度を導入し、意思疎通のスピードアップを図るとともに、若手の登用も進め、モチベーションも高めていきます。