特集 清潔・衛生と繊維製品/加速する国際化

2015年11月17日 (火曜日)

繊維薬剤メーカー/性能向上、ニーズ対応の両面で

 機能の機能加工を支えるのは繊維加工薬剤メーカーだ。最後の“化粧”を施す陰の主役と言える。防汚性に始まり、消臭や抗菌防臭のほか、抗アレルギーまで繊維製品の清潔・衛生の切り口は広がる。高齢化に伴う介護医療の拡大で消費者ニーズは多様化する一方だが、これに対応して、薬剤メーカーもたゆみなく商品開発を進める。

コタニ化学工業/分野広げ/ロングセラー化

 コタニ化学工業の花粉付着防止剤「クインセッターPOL」は10年を超えるロングセラー商品で、新たな観点からの注目も広がっている。

 あらゆる繊維に使用でき、繊維上に柔軟で強固な樹脂皮膜を形成して花粉付着を防止し、付着した花粉の脱落も容易にする。

 同製品の販売開始は12年前。花粉症対策の加工薬剤では、業界初のリリースだった。

 当初、寝装分野に多かった採用は、ファンデーション汚れや黄砂にも効果を発揮することから靴や衣料へも拡大。アウターのスプリングコートやビーチウエアなどへも広がった。より微小な粉体の試験でも良好な結果を得て、PM2・5対応加工としての注目も高まる。

 乾燥した粉体汚れだけでなく、泥汚れなどの付着防止にも対応した派生品「S―110301」も開発中だ。現在は一般上市前の試作段階ながら、靴や体育衣料向けで採用が進み、洗剤メーカー向けに欧州へも輸出する。

 同社では、「もう一段の性能向上には機能素材との相互補完が欠かせない」との考えから、紡績・合繊メーカーとの共同開発にも取り組む。POLでも各機能糸との組み合わせによる機能向上を目下の開発テーマとする。

洛東化成工業/自社培養設備を強みに

 洛東化成工業は昨年から消臭加工剤「ラクティブ AC」を投入し、高齢者用インナーなどで提案を進めている。

 同製品は特殊糖類を使用した、環境に優しい製品。アンモニアの消臭効果に優れるほか、セルロース繊維に化学結合させバインダーが不必要な点も特徴だ。今後、改良を加え、アンモニア臭以外の消臭効果も高めることを検討する。

 抗菌加工では、シルクプロテインの風合いに抗菌性も付与した柔軟剤「ラクセットK―500SE」やアロエエキス配合の柔軟剤「ラクセットALOE」が制菌活性値2・2をクリアする抗菌性を持ち、インナーやパンスト向けでロングセラーとなっている。

 これらの商品開発には、微生物の受託培養を手掛ける同社の培養設備の寄与も大きい。自社での抗菌試験も可能で、ユーザーの開発ニーズに的確に応える。このほか設備を生かし、繊維皮膚障害試験の現行方式(顕微鏡観察による貼付試験判定)の代替方式の開発にも取り組む。欧州で採用が進む培養細胞を用いた方式を開発している。

三木理研工業/ノンホルマリン加工剤訴求

 三木理研工業は、抗菌機能も持つヒノキ・ヒバなどの天然精油や香料をマイクロカプセル化した加工剤で、ホルマリンを含まないタイプの「リケンレヂン NMC」シリーズを開発、販売している。

 これまでのメラミン系樹脂のカプセルでは、加工布に微量のホルマリンが含まれていた。キャッチャー剤を使うことで極めて微量にまで低減できるものの、ベビーなどの用途ではノンホルマリンへの要望が強かったという。昨年から発売したNMCシリーズはベビー服などの衣料品以外に、化粧品などの分野にも展開している。

 メラミン系樹脂を含め、香りのマイクロカプセルではオリジナルのにおいを求める顧客も多い。このため、同社では顧客の要望に応じ、試作から対応している。

 そのほか、同社消臭加工薬剤のロングセラー商品が「リケンレヂンEB―3」だ。とりわけアルデヒドやノネナールに対して高い消臭効果を発揮する。海外の化学品規制に対応した輸出用の消臭加工剤「EB8―N」もそろえている。

大和化学工業/pH中性の新消臭剤発売

 大和化学工業はこのほど、pHが中性タイプの消臭加工剤「ザオバタック NPH―20」を発売した。製品のpHが中性のため、消臭加工後も生地pHへの影響が少ない。このため、肌に優しい弱酸性への加工も容易となる。

 同社は消臭関連の薬剤で多彩なラインアップを持つが、これまでの消臭加工剤では加工後の生地がアルカリ性となっていた。アルカリ性の生地では酸性への加工が難しく、トラブルにつながることもあった。

 ザオバタック NPH―20はpHでの中性を実現しながら、従来品同様に高い消臭機能を持つ。アンモニア、酢酸など汗の悪臭成分に対して消臭効果を発揮する。ナノサイズの消臭成分が繊維の内部にまで入り込むことにより、洗濯耐久性にも優れる。また、処理浴槽内での消臭成分の沈降が少なく、安定した加工ができる。

 綿、合繊、混紡など幅広い素材に対応し、アウター、インナー、インテリア関係の加工に適する。とくに、高い消臭機能と肌への良さにこだわるスポーツ分野などで注目されそうだ。

大原パラヂウム化学/ラインアップ多彩に展開

 大原パラヂウム化学は、清潔・衛生へのトータルなアプローチを特徴とする。「パラファイン」各シリーズに、多彩な用途の加工剤をそろえている。

 NSシリーズは抗菌性能を軸に、汗臭、加齢臭、生ゴミ臭に対する各消臭機能を併せ持つ。有機、無機、金属化合物を組み合わせ、特殊乳化分散技術で水分散する抗菌消臭機能が特徴の加工剤群だ。

 SBシリーズは主にポリエステルに耐久的な抗菌防臭性を付与。50回以上の工業洗濯耐久性を持つ「SB―50」、少量でカビ菌にも効果を発揮する「SB―70」がそろう。

 抗菌・抗ウイルスのANVシリーズは、銀イオンと細孔の物理的吸着作用とが特徴の「ANV―100」、有機化合物の水溶性ポリマーながら耐洗濯性と無機化合物のように沈降しない作業性が特徴の「ANV―150」や、グレープフルーツ種子から成分抽出した「GPF―100」もラインアップ。

 花粉・ダニに効果を発揮するアレルギー沈静化加工剤ANAシリーズや、花粉付着防止のほかPM2・5の微粒子粉体にも有効なDPシリーズに撥水効果のある「DP―G」もそろえ、抗アレルゲン加工剤も充実する。

清潔・安全支える/検査機関/需要増幅広く支援 

 日本人の清潔・衛生観は諸外国に比べて高いと言われる。そうした日本人の特性に合わせて繊維製品も清潔という機能商品を開発、さらに安全という面でも様々な商品を提供されている。そうした清潔・安全志向の商品開発を支えるのが検査機関の清潔・安全をサポートする試験を紹介する。

カケンテストセンター/生物テストラボを増強

 カケンテストセンターは、大阪事業所の生物テストラボを増強する。現在、生物テストラボでは抗菌、抗かび、バリア性試験など清潔・衛生関連の機能性試験を実施しているが、抗菌性試験を中心に引き合いが増加。さらに抗ウイルス性試験も開始したことから、ラボ拡張を決めた。

 大阪事業所の生物テストラボでは、抗菌や抗かび性試験に加えて、今年から繊維評価技術協議会の「SEK抗ウイルスマーク」のための抗ウイルス性試験も開始した。また、血液バリア性やウイルスバリア性など防護機能性試験にも力を入れる。近年、防護服用途を中心に試験ニーズも高い。このため生物テストラボの拡張で抗ウイルス性試験室を充実させると同時に、そのほかの試験の効率化のための機器導入も進める。

 一方、国内だけでなく海外での試験体制の整備も進めた。新たに中国のグループ会社である上海科懇検験服務(上海カケン)でも抗菌性試験を開始する。これまで一般の機能性試験は実施してきたが、海外でも抗菌性試験のニーズが高まっているためだ。早ければ年内にも運用を開始する予定。

 新たな機能素材が登場した際に、それに対応した試験方法を開発することもカケンテストセンターの強みだ。このほどISO規格が発効した吸汗速乾性試験法と吸湿発熱性試験にもカケン法が採用されている。

QTEC/快適、清潔需要に対応

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、神戸試験センターで抗ウイルス性試験を行う。「抗ウイルスは話題で、繊維以外のユーザーからの依頼も増える。需要に対応するため、キャパシティーを広げる必要があるかもしれない」。

 また、神戸試験センターは繊維評価技術協議会の指定試験機関として抗菌性能評価試験も実施。SEKマークの抗菌防臭加工、制菌加工(一般、特定用途)に対処する。抗菌製品技術協議会の指定検査機関としてプラスチック製品などの抗菌性試験も行っている。海外では上海試験センターが抗菌性試験に対応する。

 SEKマークには抗かび加工繊維製品の認証もあるが、QTECはこの抗かび性能評価試験も行っている。「快適性、清潔性を追求した繊維製品の需要が高まり、こうした試験依頼は増加傾向」にある。

 また、神戸試験センターでは人工血液バリア性試験(JIS T8060)とウイルスバリア性試験(JIS T8061)を開始している。人工血液や血液媒体性病原体に対する防護服材料の耐浸透性を目視によって評価する試験である。

 さらに、QTECは特定芳香族アミンの分析試験所として試験事業者第1号に登録されている。厚労省が特定芳香族アミンの規制を来年4月から開始するが、「現実味が増し、関心は高い」と言う。

ニッセンケン/高視認JIS化で関心大

 「JIS制定で業界の関心が高まっている」。ニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)の東京事業所立石ラボでは、高視認性安全服の試験を行う。10月26日に「JIS T8127(高視認性安全服)」が制定されたことで、視覚的安全性に配慮した衣服への取り組みが活発化しそうだ。

 これはISO20471をJIS化したものだが、キセノン耐候試験でカーボンアーク灯が加わり、測色でも蛍光測色が可能と、国内の実情に合わせて規格化された。12月3日には日本規格協会が、日本防護服研究会、日本保安用品協会とともに「JIS T8127制定説明会」を東京都港区の航空会館7階で開催する。同説明会ではニッセンケンの竹中直防災・安全評価グループ長がISOとの差異や蛍光生地、再帰反射材などについて解説する。

 ニッセンケンはエコテックス共同体の日本唯一の窓口としてエコテックス規格100を認証する。特定芳香族アミン規制が法制化され、「これまでにない企業からの依頼も増えた。業界向けセミナーのほか、個別企業セミナーも月10回のペースで行う。この際、エコテックス認証を取得しようという企業も多い」。来年半ばまでには染料・仕上げ加工剤の認証を行うエコパスポートもスタートする予定。また、立石ラボでは抗ウイルス試験の納期短縮化にも注力する。

ボーケン/抗ウイルス性試験が増加

 ボーケン品質評価機構(ボーケン)は、SEKの抗ウイルス加工マークの認証取得のための試験を大阪事業所で行っている。ISO18184(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に従ったこの試験は「抗ウイルス加工マークがスタートしたことで、素材や薬剤メーカーからの試験依頼が順調に伸びている。今後は素材メーカーの素材を使った製品評価も増える」見通し。試験依頼の集中も予想され、安定した納期のための取り組みも行う。

 11~13日にボーケン東京本部ビルで開かれた「第46回ボーケン展示会」でも、抗ウイルス性試験を展示した。また、中国・杭州では中国の抗菌関係の業界団体であるCIAAが「抗菌産業発展大会」を開催。CIAAと交流するボーケンは会場で抗ウイルス試験関連の講演を行った。

 抗菌性試験は東京、大阪、上海の機能性試験センターで対応。海外では上海に続き、香港、バンコクがSEK指定試験所となった。「日本と同じレベルでの試験が可能」。この抗菌性試験の依頼も順調に伸びているようだ。消臭試験も「需要が大きい」とし、東京、大阪、上海で対応する。肌着や靴下といった商品だけでなく、靴の中敷きやトイレタリー製品など生活用品全般に広がっている。ボーケン展示会では消臭機能の体験コーナーも設置。来場者にアピールしていた。