特集 コットン・ルネッサンス/キーマンに聞くどうなる?綿花市況

2015年12月08日 (火曜日)

 世界的に繊維の消費量拡大が続くなか、いまなお天然繊維では最大の規模を持つのが綿花だ。今後も綿花は繊維原料の主役であり続けるだろう。今回の特集では商社に2015/16綿花年度の見通しを聞くと同時に有力紡績によるコットンを生かしたモノ作りを紹介する。

〈上値が重く、下値は固い/東洋綿花/代表取締役/岡田光生氏〉

  ――2015/16綿花年度に入りましたが、最近の綿花相場をどのように分析されますか。

 ニューヨーク綿花定期相場はここ数カ月、1ポンド=60セントから65セントの間でボックス相場が続いています。やはりキーポイントは中国の動向です。それまでは65セント前後でボックス相場となっていましたが、ここにきて中国がWTOで規定されるミニマムアクセス79万4000トン以外は綿花輸入を抑制する姿勢を鮮明にしたことで、やや下値が切り下がった形です。

 中国が膨大な国内綿花在庫の消化を優先したことで綿花輸入が伸びないなか、中国経済の減速懸念が強まっていることも上値が重い要因でしょう。

  ――一方で下値も固い展開が続いています。

 世界全体のファンダメンタルを見ると需給は締まっています。ICAC国際綿花諮問委員会の予想では今季15/16綿花年度の世界綿花生産は前季比9%減に対して、世界綿花消費は同2%増です。消費量が生産量を上回る状態が続いており、今季についても消費は全体として減る傾向にありません。

 繊維消費全体に占めるコットンの比率こそ低下していますが、世界の繊維総需要は拡大していますから、綿花の消費量も絶対量では増加が続いています。こうしたファンダメンタルの堅調さが下値を支えています。

 ――今季の見通しをお聞かせください。

 今期もしばらくは上値が重く、下値は固い状況でボックス相場が続く可能性があります。中国経済の減速など外部ショックも織り込まれつつあります。新たに外的なショックでも起こらない限りは、もう一段の下げは考えにくい。

 テキサス州など米国の綿作地帯で収穫期に雨が降るなど、やや天候が不順となっており、今季の綿花の収穫も遅れ気味ですが、こうした状況も綿花相場にとっては上げ材料とまではいかずとも、相場を下支えすることになりそうです。

 年が明けて、春から北半球では来季に向けた綿花の作付も始まります。他の商品作物相場との兼ね合いを含めて、来季に向けた作付がどうなるのかというのも注目です。恐らく相場に動きがあるとすると、そのあたりの状況によるのではないでしょうか。ただ、いまのところ綿花が他の穀物と比較して特段に不利という状況にはないので、作付が大幅に減少するとは考えにくい。

  ――超長綿などハイグレード品については。

 新疆綿の生産量が大きく増えたことで、超長綿もやや値を下げています。ただ、西テキサス産のピマ綿はやや品質が良くないと言われており、新疆綿の品質も思わしくありません。そうなってくるとニッチな分野では適品不足に陥る懸念があります。日本の紡績からすると、このあたりの動きは気になるところでしょう。

〈近年まれなおとなしい相場/豊島/十二部部長/菱川純治氏〉  

――この1年の綿花相場をどのようにご覧になっていますか。

 2015年のニューヨーク綿花定期相場の期近物の価格を振り返りますと、最安値は1月23日の1ポンド57・05セントで、最高値は8月17日の68・30セントです。平均値は64セントあたりになります。1年間のなかで価格の変動が10~11セントくらいしかないのは、近年まれに見るおとなしい相場だったと言えます。

 要因はいくつかありますが、相場の下支え要因としては14/15綿花年度に米綿が比較的早くに売られたことやインド政府による綿花買い上げ政策などがあり、価格が下がりにくかったことがあります。

 一方、上を抑える要因としては、石油価格が下落してポリエステル価格が下がったことや、ドル高により各原産国の生産者(農家)の採算は、自国通貨換算では決して悪くない採算となったため、大きな減産が無かったことなどが挙げられます。

  ――世界の在庫はどのような状況ですか。

 14/15綿花年度の世界在庫は約1億1200万俵でしたが、15/16綿花年度は約1億600万俵に減少する見込みです。しかし依然、世界在庫の約60%は中国の在庫です。

 消費に対してどれだけ在庫があるかという世界平均在庫率は、中国が備蓄を始める2011年までの過去数十年は47%でしたが15/16年度は95%に達しています。この在庫の多さが相場の上を抑えています。

 一方で15/16年度は6年ぶりに消費が生産を上回る予定です。徐々に消費が増えて、在庫が減少に向かっていることは間違いありません。ただ1億俵を超える在庫ですから、これがある程度減少するにはそれなりの時間がかかります。

  ――2016年の綿花相場はどうなりますか。

 16/17年度の生産も中国は減産し、他国も減らすでしょうが、現状のドル高が続く限りは、大きな減産は期待できません。一方で綿花の消費量は減っていませんので、世界在庫の過多は少しずつ解消される方向に向かいます。こういった状況から16年も15年と同じような相場になる可能性が高いと考えます。

  ――今年は新しい取引指標ができました。

 数年前から世界の綿花商が取引所ICEに働きかけていましたが、今年の11月から「WORLD COTTON CONTRACT」という相場が動き始めました。これは米綿だけでなく豪州やブラジル、インド、アフリカの綿花も組み入れた価格です。デリバリーポイントも米国だけでなく、豪州や台湾、マレーシアを入れて、世界の綿花の動きの実態に合わせたものになっています。荷動きは2016年に入ってからですが、これが徐々に浸透し、需要の換気にもつながっていくと考えています。

  

コットンの魅力多彩に

〈クラボウ〉/徳島工場の技術が強み

 クラボウは、徳島工場の加工技術力で実現した高付加価値なコットン素材を打ち出す。その一例が、片面加工の「エアロコーティング」と濃色加工「ディープトーン」だ。

 エアロコーティングは、織物の裏表で異なる加工を付与するもの。徳島工場の設備と加工ノウハウで開発した。エアロコーティングSは片面加工による綿100%の透け防止素材だ。ストレッチ織物への加工も可能なことから婦人白パンツ地として採用が進む。

 また、エアロコーティングWは片面撥水・片面吸水加工。こちらもカジュアルパンツ地で採用が進む。汗ジミを防止するほか、高齢者が悩む尿漏れも目立たないなど様々な可能性を秘める。

 一方、ディープトーンは繊維の内部深くまで染料を浸透させることで実現した濃色加工。黒でもL値13、染色堅ろう度3級以上を確認した。黒以外の染色も可能で、綿100%では難しいとされた深みのある濃色を実現した。徳島工場の染色技術に加え、エレクトロニクス事業部の測色機開発・製造で培った色分析技術が応用されている。

〈シキボウ/ギリシャ綿の四層構造糸登場〉

 シキボウは、富山工場で紡績する差別化綿糸を“ジャパン・メード”として打ち出している。その一つとして、このほどギリシャ綿を使った四層構造紡績糸「オリンピアコットン」を開発した。

 オリンピアコットンは、芯に弾力性のあるハイバルキー綿、鞘にギリシャ綿を配置した粗糸を精紡交撚することで特殊な四層構造を実現。ギリシャ綿による柔らかなタッチを持ちながら、内部のハイバルキー綿や精紡交撚によってかさ高性やドライタッチを生み出す。タオルのパイル用途などに提案する考えだ。

 そのほか、保有する村田機械の渦流精紡機「ボルテックス」で生産する糸を「ドラゴンツイスト」としてリニューアル。綿・ウール混紡や綿・麻混紡など多彩な混紡糸もラインアップした。

 シキボウ江南で加工する連続シルケット加工糸「フィスコ」も注目だ。現在、日本で加工する連続シルケット加工糸は事実上、フィスコしかない。今年はフィスコの販売開始から40周年となるだけに、改めて打ち出しを強化している。

〈ダイワボウノイ/OE糸で独自性発揮〉

 ダイワボウノイは、生産子会社であるダイワボウスピンテックが保有するオープンエンド(OE)精紡機「BD200」を活用したブランディングを推進している。OE精紡機の草分けであるBD200を実働させているのは国内では事実上、同社のみであり、独自性を発揮する戦略だ。

 BD200は、初期型のOE精紡機のため回転速度が遅く、これを生かした様々な風合いのOE糸を生産することが可能だ。冠ブランド「エアコット」も立ち上げた。現在、米綿使い「ニューサウス」、メキシコ綿使い「ブランネロ」、インド産プレオーガニック綿使い「スタージャ」、ふくらみ感が特徴の「エアーパポ」、毛羽が少ない「エアコンパクト」、ドライタッチが魅力の「テキサス7」をラインアップする。このうちテキサス7以外はBD200で紡績した。国内生産では珍しくなったOE精紡でコットンの新しい可能性を追求する。

〈新内外綿/植物と人間の関係を深める〉

 新内外綿は環境や健康について考えるコットン素材に取り組んでいる。その一例が天然由来染料によるトップ染め糸・生地「ボタニカルダイ」だ。食物と人間の関係を深めることをコンセプトとした商品として打ち出し、繊維分野でのボタニカル・マーケットの創出に取り組む。

 ボタニカルダイは、天然由来染料と化学染料を複合することで草木染めの色調と実用的な染色堅ろう度を両立した商品。オーガニックコットンなどをベースに新内外綿は得意とする杢糸で展開する。

 これまでニーズがありながらも技術的に対応が難しかった市場を開拓する商品として人気が高まっている。15春夏向けでも国内外から旺盛な引き合いが寄せられているようだ。

 紡毛調杢糸「けものがすり」もラインアップを拡充した。5番、10番の太番手を加えたほか、新色としてブルーも用意する。

 このほど出展した「JFWジャパン・クリエーション」でもボタニカルダイと並んで人気が高かった。

〈フジボウトレーディング/高級原綿使いを拡充〉

 富士紡ホールディングスでテキスタイル販売を担うフジボウトレーディングは、ニット生地で差別化原綿を使った高級路線へのシフトを強める。また、フジボウテキスタイル和歌山工場の加工技術を生かした風合い加工にも力を入れる。

 婦人カットソー向けニット生地を得意とする同社だが、ここにきて高級原綿を使用した綿ニット生地への引き合いが強まってきた。このためピマ綿使いなど高級原綿使いのラインアップを拡充している。フジボウテキスタイル大分工場で高級綿糸を生産できるのが強みとなる。

 また、フジボウテキスタイル和歌山工場の加工技術に対する評価も高い。微起毛調加工「ローズペトール」はロングセラーだ。最近では耐久柔軟加工「マックソフト」の人気も高い。シアバター加工もユニークな風合い加工として販売量が増える。

 近年、風合い加工へのニーズが高まっているが、加工を担う国内のニット加工場は貴重な存在だ。フジボウテキスタイル和歌山工場との連携も同社の綿素材開発の強みである。