特集 「ITMA2015」レビュー/IoTなど新たなテーマも浮上

2015年12月22日 (火曜日)

 2015年11月、イタリア・ミラノで世界最大級の国際繊維機械見本市「ITMA2015」が開催された。4年に1度開催されることから、“繊維機械のオリンピック”とも評されるITMA。今回も日本や欧州の繊維機械メーカーが最新の提案を披露した。今回の特集では、その一部を紹介する。

  「ITMA2015」には世界47カ国・地域から1650社以上が出展した。出展企業からは「総じて展示会として成功したのでは」との評価が上がっている。2011年、そして2007年の過去2回の開催と比較して実商談が旺盛だったことから出展企業の表情は明るい。「久しぶりに“ITMAらしい”ITMAになった」との声も上がる。

 出展内容にも変化が生じている。高生産性や省エネ性能は繊維機械開発にとって永遠のテーマであることに変わりなく、今回もほぼすべてのメーカーが既存機種に比べて生産性・省エネ性能が向上した提案を行った。また、産業資材向けのソリューションも重要性がますます大きくなっている。

 こうしたなか、新たなテーマとして浮上しているのがIoT(モノのインターネット)だ。機械をネットワークでつなぎ、一元的に管理することで生産プロセス自体の革新を進めようという動きだ。こうした動きに日本や欧州のメーカーも敏感に反応している。

 例えば村田機械は顧客サポートの統合管理システム「ムラテック・スマート・サポート(MSS)」を披露。自動ワインダーの稼働データ管理システム「ビジュアル・マネージャー+」とボルテックス精紡機の稼働データ管理システム「V―ラボ+」をベースに独自開発の無線ネットワーク機器などを活用し、安定稼働をサポートする。

 津田駒工業は「ツダコマインターネットサポートシステム(TISS)」(仮称)を披露した。ユーザーの織機、準備機械の性能をフルに発揮できるようにするサポートシステムを構築する。織機、準備機械を津田駒工業と結び、稼働改善のバックアップなどを行う構想だ。ピカノールも織機稼働をモバイル端末などで管理できる「ブルー・コネクト」システムを打ち出した。豊田自動織機と島精機製作所が共同開発した織物用デザインシステム「APEX―T」も、ある意味でIoTへの可能性を秘める。

 デジタルテクノロジーの活用という意味では、インクジェット(IJ)捺染機の進化も今回のITMAの特徴だろう。コニカミノルタがワンパス方式のIJ捺染機「ナッセンジャーSP―1」を発表した。すでにワンパス方式を実用化しているMSやストークと合わせて、IJ捺染機の新潮流としてワンパス方式への注目度は高い。生産性はスクリーン捺染機やローターリー捺染機に匹敵するだけに、普及すればプリント工程の在り方を根本的に変えてしまう可能性がある。

最新機種が新時代を切り開く活況だった実商談〉

〈村田機械/汎用性増す「ボルテックス」〉

 村田機械は渦流精紡機「ボルテックスIII870」でポリエステル100%40番手を毎分500メートルの高速で紡績実演して注目された。また、ポリエステル・レーヨン混で10番と12番の太番手も紡績実演。ボルテックスの汎用性が高まったことを印象的だ。

 ボルテックス精紡機では従来、ポリエステル100%糸の紡績は難しいとされてきたが、油剤と精紡室の改良で実用レベルの紡績を実現。今後、機能わたの活用などでボルテックスの可能性が一段と広がる。

 資材用途や作業服用途などでニーズが多い太番手糸の紡績で汎用性も打ち出す。太番手の紡績はスライバーの消費速度が速いため、大容量ケンスを紡機背面に配置するレイアウトも紹介。オープンエンド紡績で一般的な紡機前方やロータ―下方にケンスを配置する方式では大容量ケンスが使用できないため、村田機械の提案ではケンス交換頻度を3分の1に削減できる。

 自動ワインダーではガイドドラム方式の「QPRO」、アームトラバース方式の「FPRO」をそれぞれ「QPROプラス」「FPROプラス」にバージョンアップ。QPROプラスは、新たに上糸センサーを搭載し、サイクルタイム短縮と屑糸削減を実現。

 ほかにも様々なオプション機構を搭載して高生産性、高品質、省エネ性能を高めた。FPROプラスは多品種小ロットの巻き取りが可能なアームトラバース方式が実用レベルに達したことをアピールした。

〈AIKIリオテック/「ATS―600」大好評〉

 AIKIリオテックは、新タイプのスラブヤーン空気加工機「ATS―600」の実機で加工デモを行い、大好評を博した。

 ATS―600は、ナイロンやポリエステルなどの合繊長繊維を、搭載する「メカニカル」「エア」「ローテーション」「ロング」「グラデーション」の5種類のスラブ装置で任意のスラブヤーンに加工する。高いシステム制御技術によって搭載する5種類のスラブの中から任意の2種類を選択して同時加工することもでき、表情豊かなスラブヤーンの生産が可能だ。

 また加工機の全高を従来機よりも高く設計したことで、組み合わせる2種類のスラブ選択も簡単に行える。装置を取り替えることなく、糸の通るルートを選ぶだけで準備が完了し、大幅な省力化につながる。

 会場では実機のデモに、インドや中国、台湾、トルコ、欧州、米国など各国から多くの来場者が集まった。実際、新機種への関心は高く、会期中に展示機も含めた3台の成約が決まるなど、ビジネスも順調なスタートを切っている。元々、インド市場の要望から開発が始まった新機種だが、同社では今後、アジアや中東など広く海外市場への拡販を進めていく。

〈ストーブリ/「サファイアS60」を発表〉

 ストーブリは、新型ドローイング機「サファイアS60」を発表した。糸取り機構を吸引式にすることで異種異番手のドローイング能力が格段に向上している。

 サファイアS60は、ストーブリの「デルタ100」「デルタ110」の後継機の位置づけだ。糸取り機構は従来の畦取り方式のほかセンサー感知による吸引方式に交換が可能になり、とくに吸引方式はニードルレスのため異種異番手のドローイングも可能だ。また、カメラセンサーで糸を監視する糸管理システム「アクティブヤーンマネジメント」も搭載したことで高品質なドローイングを効率的に行える。

 一方、電子ジャカードは「SX」「LX」「LXL」をバージョンアップ。空冷システムの強化やモジュールの材質変更によって耐久性が向上した。また、大口タイプのLXとLXLはパーツに互換性を持たせるなど、改めてラインアップを整備したことになる。

 ITMAではカーペット織機「ションヘルアルファ500イノベーション」を実機展示したが、産業資材向け仕様である「アルファ500TF20」と「アルファ500TF60」もラインアップしている。三次元織物など特殊製織を生かして複合材料基材など先端材料分野への提案を進めたい考えだ。

〈イテマウィービング/「R9500テリー」デビュー〉

イテマウィービングは新型のレピア方式タオル織機「R9500テリー」をデビューさせた。「R9500」も「R9500p」にバージョンアップし、生産性と汎用性を一段と高めている。

 R9500テリーは、イテマグループが持つ要素技術を投入し、満を持して開発したレピア方式のタオル織機。R9500が持つ汎用性に加えて、最大の特徴はパイル長調整機能だ。ファブリックムーブ機構によって同一緯糸上で異なる長さのパイルを形成することが可能だ。すでに有力ユーザーに先行提案しており、日本を含む各国で受注を獲得するなど好発進を見せる。

 一方、レピア織機「R9500p」はメーンモーターに油冷システムを導入し、レピアヘッドも設計を一新し、従来よりも開口角度を浅くした。これによって最高速度は従来機が毎分730回転だったのに対して、R9500pは毎分750回転を可能にしている。

 ITMA2015の会場では衣料用ソリューションに特化した展示を行ったが、ミラノに近い場所にあるサービスセンターにはプロジェクタイル織機を含めて全機種を実機展示している。こちらでは産業資材向けソリューションを中心に提案していた。

〈ピカノール/緯入れ2方式でタオル織機〉

 ピカノールはレピア方式の「テリーマックス」とエアジェット(AJ)方式の「テリープラスサマム」という異なる2つの緯糸挿入方式のオル織機を発表し、タオル製織分野に本格的に参入した。

 テリーマックスは、電子制御によるパイル長調節機能を搭載する。生産性にも優れており、20単糸使いのタオル製織で毎分550回転が可能だ。スペインやポルトガルといった欧州のタオル産地からの引き合いも寄せられており、日本市場にも積極的に提案する方針だ。テリープラスサマムは、同社のAJ織機「オムニプラスサマム」をベースにしたタオル織機。オムニプラスサマム同様に高生産性を打ち出している。

 一方、レピア織機の「オプティマックス」は「オプティマックス―i」に進化。メーンフレームの改良で剛性が強化され、産業資材向け製織に必要な能力が標準装備となった。バリエーションには筬幅5メートル超のガイド付き積極レピア方式の「オプティマックス―iテクニカル」も用意する。

 さらに参考出展として「オプティマックス―i deco fabric」も披露した。レピアヘッドを電子制御で動かし、緯糸を保持する独自の積極レピア方式を紹介し、注目度が高かった。新方式の積極レピア方式として今後の動向が気になるところだ。

〈福原産業貿易/電子柄編み機が進化〉

 福原産業貿易グループは、得意とする電子ジャカード丸編み機をさらに進化させた最新機種を実機出展した。衣料用途ではとくに「クオーターゲージ」技術が注目された。

 クオーターゲージは、表地と裏地で4倍のゲージ差を編成できる技術。シリンダーで7 ゲージ、ダイヤルで28ゲージの編成を行うことで、表裏でまったく異なる表情の丸編み地を生産することが可能だ。汎用性も高く、簡単な部品交換で高速のインターロック機として使用することもできる。

 マットレス地用では、高付加価値化と生産性向上の双方から新機種を紹介した。「M―LEC8BSH」はダブルニット・電子ジャカード機として最高水準の高生産性を実現。欧州で人気の高速機種「M―LEC8BSC」を改良し、口数は38インチで108口、回転数は従来の18回転から24回転に増やして生産性を30%高めた。1日に1000メートル以上の生産が可能だ。

 両面選針で多色使いのジャカード柄でハイゲージの編み地を生産する「M―LEC6DSI」は、とくに電子柄編み機では初となるシリンダー、ダイヤルとも28ゲージを実現。両面選針で、ダイヤル2ポジションの上でシリンダーを従来の2ポジションから3ポジションに増やすことで多彩なデザインを可能とした。

〈島精機製作所/WG横編み機が一段の進化〉

 島精機製作所は、新型のホールガーメント(WG)横編み機「MACH2XS」を披露し、世界に向けてWG横編み機の進化形を発信した。デザインシステム「SDS―ONE APEX3」と組み合わせることで、同社が提唱する“トータル・ファッション”の完成にまた一歩近づいた。

 MACH2XSは4枚ベッドで世界初の可動型シンカーを搭載し、糸を上方から押し込む形でループを移動・編成する。従来機では不可能とされた立体的な編成が可能だ。糸を下方から引き出すための捨て編み部分が不要となり、糸のロスも大幅に削減し、編み幅も小さくなることから生産性も向上する。

 生産性とデザインの汎用性が広がったことで、デザインシステム「SDS―ONE APEX3」と組み合わせることで、究極の多品種・小ロット・短納期生産を実用的なコストで実現する道筋が見えてきた。

 180センチ幅に対応したコンピュータ横編み機「SRY183LP」も紹介した。布帛ライクなニットが生産できるのがこの編み機の特徴だが、180センチ幅まで対応したことで汎用性が高まる。また、「SRY123LP」ではモノフィラメントやラメ糸の編組も実演。スポーツやインテリア用途、さらには資材分野でのニットの可能性を提案している。

〈伊藤忠システック/最新機種を視察ツアー〉

 伊藤忠システックは今回に「ITMA2015」に日本から大規模な視察ツアーを組織した。会場でのアテンドなどを通じて、同社が輸入販売するバンデビーレ、ボーナス、ドルニエ、ペンテック、ディロなど各社の最新提案を日本に紹介している。

 今回、注目された一つがボーナスの新型電子ジャカード「Si」。6144口以上の大型機だが、従来機よりも格段に小型化・高速化している。織機のメーンフレーム上に直接搭載する方式の「スーパーストラクチャー」も電子ジャカードの新しいソリューションといえそうだ。カルダンシャフトを廃してジャカード°独立駆動する方式にも対応している。

 織機ではドルニエが新型レピア織機「P2」を披露した。特徴である棒レピアによる積極レピア方式を生かし、超高密度製織能力を高めた機種だ。筬打ちの最大出力は5キロニュートンに達する。経糸は二重ビームも可能で、テークアップローラーも独立駆動方式を採用して産業資材に特化した機種である。

 産業資材用途ではマゲバの多段シャット織機、金属の製織を含む超ヘビー製織が可能なトリンカの織機やオンテックの接結シート製造機も建材など産業資材用途として注目度が高かった。

 不織布機械ではディロが新型のカード機とクロスラッパーを披露。染色仕上げ機ではペンテックのエアタンブラーの評価が高かった。