特集 小学生服/様々な切り口で市場広げる

2016年02月18日 (木曜日)

 中学校、高校に比べまだまだ制服着用が少ない小学校。小中一貫校の拡大で制服の採用率が高まる期待があったものの、学生服アパレルにとって「一向に広がらない」領域であることには変わらない。ライフスタイルの変化や安心、安全といった様々な側面から改めて制服の価値を訴求しながら、地道な市場開拓への取り組みが続く。

〈減少し続ける生徒と学校/前年度5万人減の654万人〉

 昨年12月に文部科学省が発表した学校基本調査(2015年確定値)によると、小学校の児童数は、前年度より5万6902人少ない654万3104人で過去最低を更新、ピーク時だった58年度の1349万人に比べ、半減以下となっている。小学校の数は51校減り、2万601校となったが、うち私立は5校増え、227校だった。

 学生服アパレルではこれまでも小学校の制服市場の開拓に取り組んできたが、結果としては市場での制服(標準服も含む)シェアが8~9%と言われ、あまり広がっていないのが実情だ。

 とくに公立小学校では制服導入を判断するのが、学校だけでなく保護者や地域の総意が必要になってくるため、市場開拓が難しい背景がある。「制服は毎日着る服に迷わなくて楽」「家庭環境にかかわらず、皆が着用する」といった利点があるものの、「没個性」「値段が高い」といった声も相変わらず少なくなく、私服の学校へ制服導入をうながすのはかなり困難となっている。

 ただ、学生服アパレルも手をこまねいているわけではない。様々な切り口から小学校へ制服着用の機会を探りながら、少しずつ市場開拓を進める。

〈時代見据えて商品開発/潜在的な需要掘り起こす〉

 制服を直接、学校に広げることが難しくても、制服に対する利便性や優位性は何らかの形でユーザーに広げていくことができるはずだ。菅公学生服の曽山紀浩取締役開発本部長は、以前同社で調査した際、「私服の学校に通学させている児童の保護者の約3割が、私服の着用で困った経験を持っているという結果が出た」と話す。潜在的な需要のなかに漂う「シーズをニーズに変える」ことで活路が開けてくる。

 その一つにライフスタイルの変化がある。「共働きの世帯の増加で、洗濯してもすぐ乾くといった取り扱いやすさなど、市場の環境に沿ったモノ作りを進めてきた」と話すのは、明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)の金田伸吾スクール第一販売部長。

 同社は4年前から販売する消臭、抗菌、防汚機能を持つ空気触媒加工「TioTio」を付与したポロシャツやソックス、セーターなど順調に売り上げを伸ばしている。

 また、洗濯後の速乾性や形態安定性など、ケア的機能に優れたニットシャツ「キャンパスニット」も好調な売れ行きを見せる。店頭商品は価格の安い量販店や衣料品チェーンにシェアを奪われる傾向が強かったが、「量販店に流れた購買層を引き戻す」ためにも、ライフスタイルの変化を意識した商品開発を今後も強める。

 菅公学生服の小学生向け制服「カンコータフウォッシュ」は、家庭洗濯機で100回洗っても、新品とそれほど違いが分からないほどで、前期に比べ5割も売り上げが増加した。

 トンボは4年前、小学生向け制服「トンボ・ジョイ」でこれまでのパターンを見直し、撥水や抗菌防臭など中高生の制服と同じように機能性を強化したことで、既存制服の置き換えを含め、少しずつ販売量が増えてきた。体操服では小学生に知名度がある「瞬足」ブランドを展開する。安原誠商品開発部長は「ニーズを見極めながら、それに応えるべく、商品の提案や供給する」と述べ、市場拡大の突破口を探る。

 各社の制服は、機能性が強化されているだけでなく、今のトレンドに沿って細身でスタイリッシュに見えるシルエットを追求している。また、毎日着用するだけでなく、冠婚葬祭といったイベントでも制服を着用する機会が考えられ、経済的な効果も期待できる。

〈制服価値高める取り組み/需要喚起のきっかけへ〉

 学生服アパレル各社は、制服を採用していない学校に対しても、学校教育の支援といった形で様々な取り組みを進めている。

 菅公学生服は、子供たちの未来を応援する「ドリームプロジェクト」や、教育現場での課題解決を支援するプロジェクト「カンコーマナビプロジェクト」などを通じ、制服価値を広げる。

 トンボは「WE LOVEトンボ」絵画コンクールが昨年、30回目を迎えた。小学生からの応募が多く、15万点以上もの作品が集まった。

 オゴー産業は昨年、主催する「全国地域安全マップコンテスト」が「キッズデザイン賞」(キッズデザイン協議会主催)を受賞した。子供たちの危険回避能力の向上と地域の安全な環境作りに役立つ取り組みで、これまでに取引が無かった学校との関係構築につながることもある。

 制服=お祝い品として需要喚起を仕掛ける動きもある。明石SUCは、入学式での“晴れ着”を意識した打ち出しで、制服を保護する不織布カバーを付けるとともに、パッケージに工場での生産風景のイラストを入れるなど、制服に愛着を持ってもらう工夫を凝らし、ランドセルと並ぶ“お祝い品”としての制服のあり方を模索する。

 制服だけにとらわれず、新たな商品を投入する試みもある。オゴー産業は、防災ずきん付きの多機能ランドセル「プレセーブ」の販売を今春から本格化した。京都教育大学付属桃山小学校で指定を受けたほか、鹿児島県の5校の小学校で推薦を受けるなど、販路が広がる。

〈これからの小中一貫校〉

 少しずつ広がりを見せる小中一貫校。以前に比べ制服採用への期待感は少なくなっているが、中学校への準備段階としての標準服や、一貫校として一体感を持った制服など、新たな発想を持った制服の企画提案が求められている。まさに小中一貫校をきっかけに制服を広げていけるか、学生服アパレルの力量が試されている。