ポリエステル短繊維/グローバル調達へ動き/東レの存在感増すなかで

2016年03月24日 (木曜日)

 不織布用ポリエステル短繊維で、東レの存在感が増している。ユニチカ、帝人と相次いだポリエステル短繊維の構造改革。そのなかで国内生産を堅持し、海外拠点からの輸入も行う東レが注目されるのは当然の流れではある。

〈構造改革の余波が続く〉

 日本のポリエステル短繊維生産量は2015年、前年比8・4%減の13万4287トンとなった。不織布用は衛材向けを中心に堅調も紡績用、詰めわた用が低調とされるが、減産の大きな理由はユニチカと帝人の構造改革が進んだためでもある。ただ、短繊維不織布メーカーはこうした両社の構造改革に伴う原料切り替え作業を完全に終えていない。「ようやくユニチカ品からの切り替えが終わった。これから帝人製わたの作業に入る」企業もあるほどだ。

 不織布の最終用途のなかには、自動車資材のように原料変更が簡単ではない分野が少なくない。原料切り替えによる品質確認はもちろん、需要家からの認定も取らなければならないケースがある。こうした分野を手掛ける短繊維不織布メーカーは、まだ原料変更に伴う各種作業が続く。そのなかで、存在感が高まるのが、東レだ。

 同社は日本の愛媛工場(愛媛県松前町、公称能力=年8万1600トン)でのポリエステル短繊維生産を堅持しているだけではない。マレーシアのペンファイバー(PFR、6万トン)、インドネシアのインドネシア・トーレ・シンセティクス(ITS、7万1640トン)、韓国のトーレ・ケミカル・コリア(TCK、20万1000トン)でも生産する。

 現在、4極で品種住み分けを含めた効率的な生産体制など、グローバルでの競争力を強化する体制整備を進めており、17年度からの次期中期経営計画では「ベストの体制」(三木健一郎産業資材・衣料素材事業部門長)で臨むと言う。

 海外生産品種の高度化も進めるが、その一つが今春からITSで生産する複合繊維だ。芯ポリエステル・鞘ポリエチレンから成る熱融着繊維や伸縮性が特徴のサイド・バイ・サイドわたが生産できる複合繊維は既存設備を改造し、年産6000~7000トンの規模。熱融着繊維は現地の日系不織布メーカー向けに供給するという。これにより、不織布用を主力とする複合繊維生産は愛媛工場、TCKを含めた三極体制とし「同品質品をグローバルで供給できる体制を目指す」と語る。

 財務省・通関統計によると、円安下にありながら15年のポリエステル短繊維輸入量は前年比5697トン(16・8%)増の3万9533トンとなった。増加分のうち3000~4000トンは東レによるTCK輸入であり、同社は16年度、さらに倍増を目指す。

 ただ、短繊維不織布メーカーも、東レ1社に頼るつもりはない。「グローバル調達構造に変更する」とこれまで、原料を国内生産品に頼ってきた企業も動き始めた。供給源が東レに限定されるのは「リスクヘッジの面から好ましいとは言えない」(短繊維不織布メーカー)ためで、複数購買に向けて各社は海外企業からの原料調達活動を活発化させる。

 双日が強みを持つセルロース繊維だけでなく、ポリエステル短繊維の輸入販売に本腰を入れ始めたのもこうした背景があるとみられる。

〈汎用合繊で成長分野/短カット、紙用途拡大〉

 ポリエステルショートカットファイバー(短カット)市場が拡大している。とくに逆浸透膜の支持体用湿式不織布(機能紙)向けの需要が増加しており、今後も短カット全体で年率5%、膜支持体向けでは8%成長が見込まれている。

 業界推定によると、機能紙用ポリエステル短カットの世界需要は月6000トン。この3年間で10%近く成長している。逆浸透膜は単体で強度が得られないため、その補強のために機能紙による支持体を使用するが、原料から機能紙まで日本企業が圧倒的な強さを誇る。

 「和紙の技術を生かした機能紙の技術は海外ではまねできない」(合繊メーカー)と言われるほど。とくに、逆浸透膜用支持体は表面の平滑性、孔径の均一性など要求品質が最も高く、日本のポリエステル短カットを原料とする国産の機能紙が高いシェアを誇る。

 ポリエステル短カットの国内市場規模は月1400トンだが、この数年は年率3~5%成長を続けている。用途は逆浸透膜の支持体のほか、エアフィルターやワイピング材、袋物、印刷基材、電池セパレーターなど。最大用途は逆浸透膜支持体で、全体の40~50%を占めるとみられる。

 膜支持体用の機能紙に求められるポリエステル短カットは均一性に加え、水への分散性など難度が高い。ポリエステルを3㍉~5㍉長にカットすれば簡単にできると思われるが、わずかなミスカットでも機能紙の品質を大きく左右するだけに品質管理も難しく「ノウハウの積み重ねが重要になる。一朝一夕にできるものではない」と言われる。

 その面では汎用繊維でありながら、ポリエステル短繊維でも短カットは高機能繊維であり、逆浸透膜という先端材料分野で活躍している。その逆浸透膜はこの数年、中国の浄水器用として需要が拡大基調にあり、中国では年率10数%の成長が見込まれているほど。それに伴い短カットも拡大するとみられる。

 高機能繊維であるポリエステル短カットで日本の大手は帝人とクラレになるが、帝人はポリエステル短繊維の構造改革として、短カットも松山事業所(愛媛県松山市)に移す超極細タイプを除き、タイ子会社に生産を移す。短カットも韓国、中国がいずれ品質面で追い上げてくるとの前提に立ち、競争力を高める一環という。

 短カットはポリエステル短繊維のなかでは非常に小さな世界だ。その短カットを使用した機能紙も紙のなかではニッチとされるが、技術力を武器に日本が世界で戦える土俵の一つと言える。