帝人フロンティア 社長 日光 信二 氏/モノ作りできる商社/産業資材は海外拡大/解決型ビジネスへ進化
2016年04月27日 (水曜日)
帝人フロンティアはモノ作り商社としてのイメージが確立している。それは恐らく産業資材での強さに起因する。ただ、「商社という軸。言い換えればマーケットインという姿勢に伴うモノ作り」と日光信二社長。そのモノ作りはさらに進化する。素材や縫製品などモノだけでなくビジネスモデルなども含めた「サービスを提供できるソリューション」を追求する。
――貴社は直近でも3つの企業が合併し、それぞれ歴史も異なります。そのうえで、自社のぶれない軸とは何だとお考えですか。
当社の基本はモノ作りを行う商社という点にあります。それをさらに進化させていきます。衣料、産業資材とも加工品を得意としていますし、そこに当社のプレゼンスがあります。例えば日本で初めてタイヤコードを生産したのは旧帝人商事の前身である竹村綿業です。そのDNAが今も残っています。そのDNAが産業資材において商品、用途を広げてきました。もちろん、顧客満足度を高めるためです。
一方、衣料は帝人商事、日商岩井、帝人ファイバー3社のルーツは異なりますが、2012年に旧帝人ファイバーと統合したことで縫製品だけでなく、生地はもちろん、糸開発の力も身に着けました。素材から製品までの開発機能は他社にはない強みですので、今後も掘り下げていきます。
ただ、モノ作りを得意とするとはいえ、軸はあくまでも商社というポジションにあります。それはプロダクトアウトではなくマーケットインという意味です。ある意味、マーケティング活動のなかでモノ作りを行うということです。モノ作りという特徴がなければ市場では受け入れられません。
同時に当社の強みが生かせる、あるいは存在感を発揮できる分野でモノ作りができるかどうかが、今後の成長においてカギを握ると考えています。
つまり、開発力次第ということです。それは糸、生地、縫製品というモノだけでなく、ビジネスモデル、環境配慮も含めたものです。今後はこうしたサービスを提供できるソリューションビジネスを強化していきます。その一つがウエアラブルになります。
――2015年度はモノ作りという強みが生かされたのでしょうか。
帝人フロンティア単体、帝人の製品事業グループとしても前期比増収増益となる見通しです。ともに当初計画を上回りました。けん引したのはスポーツウエア用を中心とする機能素材です。開発品が成果を上げています。
また、ポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」も着実に拡大し、前期比50%増となる模様です。縫製品OEMは円安により苦しい面はありますが、比較的健闘し前年度実績を維持しています。
――得意とする産業資材はいかがですか。
底堅く、安定した伸びを見せました。インテリアは引き続き苦戦していますが、土木資材やフィルター用途、ゴム資材、エアバッグなどが好調でした。産業資材も上期はやや低調でしたが、下期ばん回しました。これまで注力してきた海外事業が成果を上げ始めています。その一つがフィルター用です。
逆浸透膜の支持体向け機能紙はじめフィルター用途は中国、インドネシア、インドなど需要拡大が今後も期待できます。タイのタイヤコード製造子会社であるテイジン・FRA・タイヤコード〈タイランド〉は現在、需要家の認定承認に向けてサンプルワークを進めています。年後半、早ければ第2四半期からビジネスをスタートできる見通しです。
タイのタイヤコード子会社は帝人グループの強みを生かしたパラ系アラミド繊維や高強力レーヨン長繊維使いなど高付加価値品の展開からスタートし、順次汎用品にも広げていく予定です。また、自動車資材ではエアバッグ布も力を入れます。
産業資材は、国内需要の拡大は見込みにくいですが、海外市場は十分可能性があります。今後もタイ、中国、北米を中心に投資拡大を続ける予定です。
――その戦略の具体化がメキシコでの販売子会社設立ですね。
第2四半期には営業を開始します。内装材を中心に自動車資材の販売に力を入れるほか、衣料分野の展開も視野に入れます。
――さて、16年度はグループの中期経営計画最終年度です。景況見通しはいかがですか。
衣料分野は極めて悪い状況ですが、15年度から大きく変わるわけではありません。産業資材も日本国内は好調とは言い切れませんが、衣料、産業資材とも当社の取引先は全般的な商況とは別に健闘している企業が多い。
――製品事業グループとしては16年度連結売上高で3000億円を目指しています。達成に向けた課題は何でしょう。
アパレル業界は厳しい状況が続くでしょうが、申し上げたように伸びている企業もあります。そこに当社の強みを生かしていきます。生地販売先は製品へ、製品の販売先は生地から一貫につなげるなど双方向の展開を強化します。
また、ファッション衣料も機能化している部分があり、機能型ファッションは伸び代があります。そこに生地開発の強みを生かしていきます。ファッション分野での機能化は通常後加工が多いですが、当社は糸からの機能付与が可能です。
先ほど申し上げたソロテックスが伸びているのも他素材との複合品です。相手素材の特徴を生かしながら、機能付与ができるからです。ソロテックスは16年度さらに拡大し、14年度比倍増の年2000㌧規模を目指します。
――海外販売についてはいかがですか。
景気が減速しているとはいえ、中国の消費市場は着実に拡大しています。グループ企業であるポリエステル長繊維織布・染色の南通帝人も業績が回復しています。注力するカジュアル、アウトドア、スポーツ向けが拡大しており、南通帝人の特徴が生きる分野で伸ばしています。
中国ではエアバッグ布製造子会社、日岩帝人汽車安全用布〈南通〉もフル生産中ですので、今年中には生産能力を現状比20%増に拡大します。その他産業資材では先ほど申し上げたタイのタイヤコード製造子会社の販売がスタートするほか、ゴム資材はタイと中国の増強を図ります。
――海外縫製はアセアンへシフトしています。
当社もベトナムを中心にアセアン縫製を強化します。カジュアルウエアは逆ですが、すでにスポーツウエアでは中国3割、アセアン7割となっています。中国は消費市場と位置づけ、タイの糸をインドネシアで織布・編み立てし、ベトナム縫製により中国輸出するなどのビジネスも検討します。ベトナムでは生地調達にも力を入れます。
また、先ほど申し上げたソリューションビジネスの一つとして、ウエアラブル、着る化粧品「ラフィナン」にも力を入れます。ラフィナンは反響も大きく、ファッション誌にも取り上げられていますので、今後の拡大を期待しています。
にっこう・しんじ 1979年旧帝人商事入社。2003年NI帝人商事〈タイランド〉社長、13年6月帝人フロンティア常務産業資材部門長兼工繊・車輌資材本部長、14年6月専務衣料繊維第二部門長、15年4月から帝人グループ執行役員製品事業グループ長兼帝人フロンティア社長。
〈私の好きな1曲/挑戦する気概を思い出す〉
松任谷由実の「あの日に帰りたい」。大学1回生の頃、1975年に流行ったこの曲を聞くと、日光さんは「当時の自分を思い出す」と言う。未熟だが、夢を見ている。しかし切ない。決して若かった時代に戻りたいわけではない。青臭くてもチャレンジする気概。「それを忘れてはならない」ことを、この曲が思い起こさせる。さらに「失敗は許される」とも言う。自ら想像し考えて新しいモデルを作る。たとえうまく行かなくても「その失敗は称賛される」とも。今年の新入社員にも若い頃の思いを「持ち続けてほしい」。