トンボ/新しい制服文化を切り開いてきた140年

2016年05月10日 (火曜日)

 学生服製造大手のトンボ(岡山市)はきょう5月10日、創業140周年を迎える。昨年から「140thアニバーサリーマーチャンダイジング(140AMD)」として、これまでに無い取り組みや新ブランド投入など積極的なブランディングに取り組んできた。これからもモノ作りを通じて新しい制服文化を創造する企業としての存在感、魅力を発信し続ける。

〈生産/足袋3足の生産から出発〉

 トンボの原点とも言える玉野本社工場(岡山県玉野市)は1876年の創業時、足袋を製造販売していた。当時は家内工業で1日わずか3足しか作れなかったという。1920年代、岡山県を中心に学生服の生産が盛んになってくると、トンボも30年から学生服の生産を開始。わずか8年の間に年間72万着の学生服を生産するほど、事業規模を拡大した。

 太平洋戦争を経て49年には当時としては最新の設備機械を誇る、原料から糸、布、裁断、縫製まで対応できる一貫生産体制を敷いた。その後も常に最新機器を導入し続ける。2003年にはカッティングセンターを設け、業界に先駆けてCAM裁断を稼働するなど、常に時代の先端を追いかける工場として進化し続けてきた。

 現在の玉野本社工場は2度の台風水害と06年の創業130周年を機に新築し、08年10月に現在の工場が完成。コートやブレザー、セーラー服、スカートなど女子服を中心に月間1万5000着の生産規模を擁する。

 ここ数年、生産面では様々な投資を続けてきた。12年9月には体育衣料や介護・看護衣料を生産する美咲工場(岡山県美咲町)にカッティングセンターを新築、シェアを広げるスポーツ衣料、ヘルスケアの両事業の増産に対応するとともに、QRや納期管理も強化した。

 15年末には、昇華転写プリントの設備を導入し、原反のCAMによる裁断からプリント、縫製までの一貫生産ができる体制を整えた。

 14年7月には国内の生産拠点として8つ目となるトンボ倉吉工房(鳥取県倉吉市)を立ち上げた。ブレザー中心に生産し、当初30人だった人員も現在では50人近くになり、年間約3万点以上を生産する。

 時代の変遷とともに移り変わってきた制服文化にあって、トンボがぶれずに140年間守ってきたのがモノ作りの精神だ。「学生たちの未来を創っていくのが私たちの使命」――その言葉を胸に、きょうも工場は稼働し続ける。

〈研究/世界の制服文化を知る〉

 トンボは20年前、創業120周年の記念事業として、ユニフォーム研究開発センターに「120ホール」を併設、「ユニフォームミュージアム」と「学校制服ショールーム」を設けた。昨年9月には140AMDの一環で、「教育に連なる産業であり、制服を先導する立場にあるものとして、世界の制服文化に思いをはせてもらう」(近藤知之社長)と、世界の制服コレクション・コーナーを設置した。実際に使われている制服を3年余りかけて世界各地から収集したもので、「おそらく他に類を見ないコレクション」(近藤社長)がそろう。

 展示する制服は、昨年寄贈を受けた500年以上の歴史と格式を誇るウィーン少年合唱団の新旧舞台衣装や、カジュアルな米国の制服、北欧、イスラム圏、旧共産圏、南半球(ブラジルなど)とバラエティーに富んだコレクション。英国の指導者階級や文化人を輩出するパブリックスクールのなかでも、とくに有名なザ・ナイン(初期に設立された名門9校)のうち、イートンやハロウ、ラグビー校と、世界のハイソサエティーの子女が多く在学することで有名なゴードンストウン校など著名校の制服一式など新設した。

 また、ミュージアムにはほかにも飛鳥時代から現代までの「学ぶスタイルの変遷」として、詰襟服やタータンチェックなどの「制服のルーツ」、旧JAL歴代のフライトアテンダント一覧などといった「シンボリックなユニフォーム」、裁判官や騎馬警官など「近代制服のルーツとしての英国制服」も展示する。

〈伝統/トンボらしい色合いに〉

 トンボは、140AMDの一環として、英国スコットランドにあるロキャロン社とオリジナルのコーポレートタータン「トンボ140thアニバーサリータータン」を共同開発した。昨年5月15日には東京の英国大使館(千代田区)で開かれたロキャロン社主催の発表会で披露。近藤知之社長は「ビビッドで明るく、頑張ろうという気持ちになれるタータンチェックができた」と、トンボらしいイメージのタータンができ上がったことに満足感を示した。

 ロキャロン社のタータンチェックは、高品質から英国王室の関係者にも愛用者が多いという。コーポレートタータンは、コーポレートカラーなど5色をベースにしたもの。スコットランド自治政府管轄のスコットランドタータン登記所に同柄を申請し、登録されている。

 トンボは1997年からロキャロン社のタータンを学校へ供給しており、全国の小中高へ約100校の納入実績がある。コーポレートタータンの開発を機に、学校へ供給する新たなタータンを「ロキャロン10」として女子10柄、男子4柄も打ち出した。

 ロキャロン社のデザイン&セールス担当取締役のドーウン・ロブソンベル氏は、「暖かい色合いながらもクールに仕上がった」とともに、「生産担当者たちから、(トンボのタータンを)生産していて初めて『楽しい』という言葉を聞いた」というほど、完成度の高いタータンに仕上がったことに満足感を示した。

 また、昨年6月26日には英国大使館で開かれたスコットランド政府フィオナ・ヒスロップ国際開発庁大臣の来日記念レセプションへも、日本の企業を代表する1社としてトンボが招待された。日本の制服アパレルメーカーとして、英国スコットランド発祥の服飾文化を日本に伝える大きな役割を担い、その実績が高く評価されていると再認識。今後も相互の文化、経済交流の橋渡しとなるよう、取り組みを進める。

〈発信/アイデアが商品化される〉

 トンボは11月29日を「いい服の日」として、07年からブランディング活動を進めてきた。10年から商品のアイデア提案を社内だけでなく、全国の学校からも募集し、優秀な作品を発表するイベントを開いてきた。実際、11年に優秀賞に選ばれた、風に吹かれても裾がめくれないスカートと、襟が飛ばないセーラー服は、「メクレーヌ」という商標で実用新案を取得、販売している。

 昨年は、商品のアイデア提案への応募が前回の412点から794点と大幅に増加。高校を中心に多くの学生から応募があった。

 昇華転写プリントを利用したものでは、通常テープを縫い付けるセーラー服の襟のラインや、透け防止・ファッション性を高めたベスト柄をプリントしたシャツなど、すぐに商品化できそうなアイデアが充実。ボタンのかけ違いを減らす「盲学校向けボタン仕様」の制服や、麻痺した手を固定できる「ベルト付きリハビリウエア」など、多くのアイデアが集まった。

〈戦略/新ブランドで市場深耕へ〉

 学生服/「イーストボーイ」

 学生服では、イーストボーイ(東京都渋谷区)とライセンス契約を結び、2017年の入学商戦から学校別注用途へ、制服ブランド「イーストボーイ」の販売に乗り出す。

 イーストボーイは、米国東海岸発祥のトラッドファッションを基調に、ブレザーやチェックのスカートなどに、その伝統とスピリットを継承したスクールウエアで、女子学生を中心に定番スタイルとして人気のブランド。これまで一般の店頭市場でカジュアル制服をけん引してきたイーストボーイのイメージを引き継ぎ、学校別注向けに男女の制服として展開する。

 「大人っぽい」「高級感」「清潔感」をブランドイメージとして、ジャケットやボトム、シャツ、スカート、ネクタイ、リボン、ニット、ソックス、バッグのラインアップを予定。店頭商品でのイーストボーイはウール100%の製品が多いが、学校制服として毎日の着用に耐えられるようにウール50~60%の生地を使いながら、店頭商品と変わらないテーストで商品開発を進める。

 同社がライセンス契約を結ぶ制服ブランドとしては「カンサイスクールフォーム」「ヒロミチナカノ」「オリーブデオリーブスクール」「コムサデモードスクールレーベル」に続き5つ目。価格的に高いゾーンとなるが、全国の公立、私立の中学・高校を中心に市場を広げる。

 介護ウエア/「栗原はるみ」

 介護向けユニフォームでは、人気の料理研究家の栗原はるみ氏とのコラボ企画となるブランド「栗原はるみ」の販売に乗り出した。栗原氏は料理研究家としてのほか、ミリオンセラーの料理本『ごちそうさまが、ききたくて。』をはじめ、ショップ併設のレストラン「ゆとりの空間」やオリジナルブランドの百貨店インショップを展開。メディアの露出も多く幅広い層に知名度を持つ。

 基幹ブランド「キラク」に続き、2年前に「ケアリュクス」を打ち出しているが、今後は訪問介護や在宅のサービスが増えるとの予測から、普段着に近い、家庭的な和みのイメージを求めた結果、栗原氏のブランドと巡り合ったという。

 女性介護士が主なターゲット。施設の外でも着られるベーシックでカジュアルなデザインだが、洗濯頻度の高いアイテムは工業洗濯対応、撥水加工のエプロン、後ろ合わせで着脱しやすい割ぽう着など、同社がこの分野で約20年培った技術とノウハウを生かした。

 体育衣料/「ビクトリー」

 体育衣料では、スポーツブランド「ヨネックス」とともに、自社ブランド「ビクトリー」の発信を強めている。昨年3月末から甲子園球場(兵庫県西宮市)の3塁側の内野フェンスに「トンボスポーツウエアVICTORY」の看板広告を出している。すでに出していた内野フェンス1塁側の「トンボ学生服」の看板広告と合わせ、学生服だけでなくスポーツでも、ブランド「ビクトリー」の知名度向上を狙う。

 商品面では、発色性に優れ、高いデザイン性が可能な昇華転写プリントの商品群を充実させている。他社でもワンポイントで昇華転写プリントを採用する事例は増えているが、ウエアの全面で昇華プリントによるデザインを施しているケースは少なく、他社への優位性を見せる。

 ビクトリーブランドとして打ち出したマーチングバンド・吹奏楽部向けのウエアは、学校の要望があったことから商品化。採用実績もできつつあり、昇華転写プリントを使った商品もそろえる。

〈「トンボ140thアニバーサリータータン」各カラーの意味は…〉

(1)コーポレートカラーの「藍色」(2)自然環境への取り組みを示す「グリーン」(3)伝統を守り、制服文化を守るという意志を示す「ゴールド」(4)イノベーションを示す「オレンジ」(5)ファーストコールカンパニーを示す「ホワイト」――の5色をベースにしている。

〈これからも一歩ずつ歴史刻む/社長 近藤 知之 氏〉

 トンボは5月10日に創業140周年を迎えました。昨年度から2016年度まで2年間にわたり「140thアニバーサリーマーチャンダイジング」を進め、ブランドの啓発活動と、お客さまにさらに喜んでいただけるイベントや、新たなブランドの投入を進めてきました。

 振り返ると創業100周年以降、100周年には「株式会社ハーバード」を設立し、ヤングカジュアルのトレンドにいち早く対応しました。110周年には2015年で30回目の節目を迎えた「『WE LOVE トンボ』絵画コンクール」をスタートさせました。環境教育、文化支援活動として対外的にも大きな評価を頂いています。

 120周年には玉野本社工場の敷地に120ホールを開設し、業界で初めて制服ミュージアムを設立しました。制服の歴史の変遷、諸外国の学校制服など展示し、現在も地域の学校をはじめ多くの見学者を迎え入れています。

 130周年は「テイコク株式会社」から「株式会社トンボ」へ社名変更しました。商品名の「トンボ」と社名を同一にすることでブランディングを向上させ、会社の知名度も随分と上がりました。

 今回の140周年の目標は、最前線のお客さまに喜んでいただけるイベント、新たなブランド商品の販売を成功させることにあり、これを契機に次の時代を創っていかなくてはいけません。当社の創業当初からずっと取引をいただいているお客さまもいます。企業にとって一番大切なことは「企業を存続させること」だと改めて強く感じています。お客さま、社員とともに、これからも一歩ずつ歴史刻んでいきたいと思っております。