トップインタビュー(1)/東レ 専務繊維事業 本部長 大矢 光雄 氏/一貫型ビジネスを強化/自動車や不織布 重点拡大
2016年10月24日 (月曜日)
東レの大矢光雄専務繊維事業本部長は、来期からの次期中計に向け、糸わたからテキスタイル、縫製までの一貫型ビジネスをさらに強化していくことを衣料用途における重点方針の一つに挙げる。ここでは生産拠点の多様化も進める考えで、長繊維の新拠点も検討するほか、縫製はアフリカをにらんで体制を整備する。産業用ではエアバッグなど自動車関連や、衛生材料用途を中心とする不織布などでグローバルな事業拡大を狙う。
――5年後を見据えた際に取り組むべきこととは何でしょう。
中期的に見ると、世界的に繊維は成長産業であることに変わりなく、世界の繊維生産はポリエステルを中心に人口の伸び以上に拡大していくとみられます。一方、中国はますます成熟化し、量的な拡大は減速するでしょう。ただ、既存の大型設備はある程度残るとともに、高機能繊維へのシフトも進んでいく。合繊の需給ギャップはかなりの部分で残ると見られ、価格を押し下げる要因として注意が必要です。
――日本の状況はどうみますか。
最終消費は横ばいで推移するとみていますが、輸入品の増加は続き、国内生産は漸減していくと予想されます。人口減少もあり、ターゲットとする市場規模は縮小が続くとみています。衣料用途では世界的にSPAが伸長する流れが続くでしょう。縫製地は中国からASEAN(東南アジア諸国連合)地域、バングラデシュにシフトしていますが、米国中心にアフリカの拠点化も含めてグローバルに拡大する動きが加速するとみられます。素材の現地調達化はますます進み、素材メーカーにはグローバルな展開が求められるでしょう。産業用途では自動車を中心にグローバル化が加速しています。部材の現地調達化が拡大していく流れは続き、グローバルな品質、納期対応が必要となります。
――そういった流れへの対応策は。
衣料用では糸わたからテキスタイル、縫製までの一貫型ビジネスをさらに拡大します。そのためにはグローバルな供給体制と技術フォローの両面で体制を強化していくこと。FTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋連携協定)など新たな経済連携の枠組みを先取りして、生産拠点の多様化を積極的に進めていきます。また、中国の動きからすると、今後は高機能、高性能繊維がますますグローバルな戦いになります。新しい価値の研究・開発を今以上に推進し、日常生活を快適に過ごせるウエアの開発を加速します。
――一貫型ビジネスのさらなる強化を図る。
素材バリエーション、一貫型ビジネス、グローバルな事業拠点の3軸全てを重層的に厚くして繊維事業を強化していく方向の中で、一貫型ビジネスの拡充は次期中計でも大きなテーマの一つになります。東レ本体からの投資だけでなく、海外事業会社が主体となる形を含めて、より競争力を高めることができるオペレーションを構築していきます。
――ベトナムでの長繊維事業もテーマとしています。
既存拠点の高度化に加えて新しい拠点も検討していきますが、新拠点ではベトナムが最有力候補になります。今後はグローバルに縫製拠点を広げるとともに、川中のコンバーティング拠点を作っていく。縫製は中国からASEAN、バングラデシュへのシフトが進んでいますが、今後はさらにアフリカを睨む動きになるでしょう。その一方で中国は市場としての高度化が進み、販売の拡大がさらに大きなテーマになります。中国内需の縫製はASEANで、という形もこれからますます大きくなるでしょうから、欧州だけでなく中国市場もにらみサプライチェーンを整備していきます。
――産業用の方向性はいかがですか。
自動車用途ではエアバッグ事業をグローバルに拡大していきます。直近では8月からインドの拠点が稼働し、メキシコでの原糸・基布の一貫生産についても発表しました。これで全極でのエアバッグ生産体制が整いましたので、販売体制も整えながらさらなる拡大を図ります。また、自動車関連はエアバッグ以外もさまざまな商材があります。例えば内装材やフィルター材などですが、それらを含めて自動車用途での拡大を図ります。人工皮革では既にスタートしていますが、その他の商材でもグローバルに体制を構築していくことが課題で、世界を俯瞰(ふかん)して東レグループ全体の利益、売り上げが拡大していくために手を打っていきます。
――不織布も拡大を狙う分野に位置付けています。
不織布は世界でも伸びていますし、日本でも成長している分野です。われわれにとっても確実に拡大していくことが大きなテーマになります。ただ、不織布は素材、用途が多岐に渡り、製法も幅広い。その全てに注力するのではなく、われわれが強いところ、市場が伸長するところに焦点を当てて取り組みを進めます。
――不織布で重点市場は。
衛生材料を中心に拡大していきます。中国、ASEAN、インドなどアジアの衛生材料市場は年率7%の成長を続けていますので、これらの市場で拡大を狙います。そのためには生産背景の整備に加えて出口戦略が大事で、グローバル顧客といかに取り組むかが重要です。そのために商品開発で新しい価値を提案していくことで、各拠点でそれができるかが鍵となります。
――日本の生産拠点についての方向性は。
全素材の生産を維持していく基本方針は変わりません。各拠点とも高度化をさらに進めていきます。これまでの取り組みで高度化は進んでいますが、まだコモディティーの部分も残っているので、新商品開発を加速してさらに高度化を進め、特品が限りなく100%に近い形を目指します。
――ところで本年度上半期はいかがでしたか。
業界全体で見ると、衣料用途は厳しい事業環境でした。昨年の暖冬の影響で追加受注は少なく、期中の円高進行が輸出にも影響を与えています。産業用も自動車生産台数など国内の事業環境は厳しかったですね。そのような中で、東レ本体の繊維事業は一貫型ビジネスの拡大や「トータルコスト競争力強化プロジェクト(TC―Ⅲ)」などに取り組んだことで、上半期は基幹事業としてあるべき利益を確保できた見通しです。また、海外事業会社は比較的順調に推移し、現地通貨ベースでは利益計画を達成した見通しです。
――下半期のポイントは。
市場環境は第1四半期よりも第2四半期の方が厳しくなっており、下半期も同様の状況が続くとみています。環境は厳しいという前提でマネジメントしていくことが必要ですが、基本的にやるべきことは変わりません。売り抜き、高度化、TC―Ⅲなどを徹底的に進め、成長地域、成長領域を確実に取り込んでいくことです。
〈好きな街/九十九里浜の静かな街〉
大矢さんの好きな街は千葉県の大網白里市。九十九里浜の真ん中に位置する街で、自身が18歳まで育った場所でもある。今では「波乗り道路」とも呼ばれる九十九里有料道路が通っているが、ここで過ごしていた40年前はまだそれがなかった。海の近くの静かな街で、波の音が聞こえ、潮の香りが風に運ばれてくる。夏にはやけどしそうになる砂浜でよく遊んだという場所だ。食の面で思い出に残るのはカレーの味で、ポークやビーフではなく、この地のはまぐりカレー。この美味しさが記憶に残り、今でも里帰りした際には、はまぐりのカレーが食べたくなるそうだ。
〈経歴〉
おおや・みつお 1980年東レ入社。2002年長繊維事業部長、08年インドネシア・トーレ・シンセティクス取締役、09年産業資材・衣料素材事業部門長、12年取締役繊維事業本部副本部長、13年テキスタイル事業部門長。14年6月東レインターナショナル社長、16年6月専務繊維事業本部長。