トップインタビュー(5)/三菱レイヨン 執行役員 繊維ブロック担当役員 上田 司 氏/今こそ種をまくタイミング/樹脂、化学とのコラボ推進
2016年10月24日 (月曜日)
三菱レイヨンの上田司執行役員繊維ブロック担当役員は、今後に向けて徹底的に差異化を進めていくことを重視する。それは商品面だけでなく、システムやプロセス、マーケットなどを含めてで、本年度下半期以降取り組みを加速する。また、組織面では4月の繊維での統合効果により横の連携が活性化するなど新しい風が吹き込んでいるが、さらに来年4月には三菱化学、三菱樹脂と統合して三菱ケミカルとなる。より大きな統合の中で、樹脂や化学の技術との融合を進め繊維の可能性も広がっていくとみる。
――アクリル短繊維「ボンネル」の上半期はいかがでしたか
主力である中国向けのエコファー用途の市場環境が厳しくなったことの影響を受けました。昨年頃からユーザーの在庫調整の影響が出始めていましたが、アンチダンピング(AD)暫定措置が開始されたこともあり、市場環境はさらに厳しくなりました。商品への評価が高いのでそれなりには動いているのですが、上半期は厳しい状況にありました。
このような中で今後はやり方を変えていく必要があり、既に取り組みを始めています。いつまでもADの影響がと言っているわけにはいきません。やはり重要なのは差異化を徹底的に進めていくことで、それに尽きると思います。差異化というのは商品面だけでなく、システムやプロセス、マーケットなどもあります。原料として差異化していくだけでなく、いろいろな面から取り組みを加速します。
――トリアセテート繊維「ソアロン」はいかがでしたか。
ほぼ計画通りに推移しました。マーケット全体が良くない中で、国内は堅く推移しました。輸出は昨年も伸びましたが、今上半期も前年比増で推移しました。ソアロンはテキスタイルにこだわっていく方針ですが、今後は生産キャパシティーとの整合性をつけていかなければなりません。産地との取り組みを強化するとともに、製造面での投資も行っていきます。
――ソアロンは今後もテキスタイルにこだわっていく。
モノ作りではサポートしていただいているビジネスパートナーとの関係が非常に重要です。素材として存在感があるかどうかが鍵であり、そのためにはモノ作りができるさまざまなパートナーとの取り組みの中で商品を流通させていくことが必要になります。
――ポリプロピレン(PP)繊維はいかがですか。
上半期はカーペット用がほぼ計画通りで、自動車のオプションマット用も堅調に推移し、ほぼ想定した通りになりました。ここはPPというよりも溶融繊維として展開を広げていくことに挑戦していきます。
――4月から三菱レイヨン・テキスタイル、MRCパイレンと一体になりました。
高度化していくマーケットの要望に対し、総合力を発揮していくためにこの形にしました。各素材を深堀りしていくことも重要ですが、総合力での提案も重要で、繊維を一本化することにより発信力を高めていくためです。
――統合効果はいかがですか。
営業は以前まで顧客と単一素材でコミュニケーションを取っていましたが、販売アイテムが広がる中で自分が責任を持ってやるという機運が高まっています。これからもっと深堀りしていく必要がありますが、社内のモチベーションは高まっています。マーケティングを強化するため、4月から繊維グローバルマーケティング部を新設しました。ここは数値面での責任は持ちませんが、自分たちで新しいビジネスを構築していく役割を担います。市場と当社の技術とのマッチングを考えていく中で、ここが営業、加工技術、開発などのメンバーに投げかけていく。それによりこれまで交流がなかった部分でも連携が出てきています。また、加工技術は重要なポジションだと考えていますが、統合後は全素材の加工技術を大阪に集約したことで、横の交流がかなり進んでいます。素材面だけでなく、考え方や技術を含めて複合を進めています。
繊維を一本化することにより、三菱レイヨングループの繊維事業という意識が高まっています。
――下半期の市場環境をどうみますか。
市場環境は厳しいとみています。ただ、中期計画で掲げる「KAITEKI」のモノ作りを進めていくというスタンスに変わりはありません。マーケットは順調ではありませんが、そのような中だからこそ評価されるモノ作りを進めて素材を大切に売っていくことが重要です。
――アクリル短繊維の今後のポイントは。
「ボンネル」としての優位性を改めて認識し、当社として何ができるかを考え直していきます。やはり一般的なモノではなく、新しい切り口が必要です。今こそ足下を固めることに加えて、新しい種をまいてくタイミングだと考えています。繊維グローバルマーケティング部とも連動し、市場、商品など各面で新しい取り組みを加速します。いくつか有望なネタが出てきていますので、形に変えていきます。
――5年後の繊維産業をどうみますか。
まず言えることは、繊維の未来は明るいと思うということです。産業が高度化していく中、機能繊維への期待はますます高まり、日本の繊維メーカーが長年培ってきた技術を生かすことができるでしょう。日本の繊維メーカーは素材の技術や加工の技術を結集して先端性繊維を作ってきましたが、その流れは続くとみています。
また、繊維の技術と異業種のコラボが進んでいく。既に衣料用途だけでなく、自動車や航空機など産業用途での取り組みは進んでいますが、加えて射出成形や切削といった技術との融合などモノ作りの部分でもコラボが出てくるとみています。
当社は4月から三菱化学、三菱樹脂と一緒になって三菱ケミカルとなりますが、三菱化学と三菱樹脂は産業向けに幅広く展開しています。ケミカルと繊維の技術を融合することで何か新しいモノ作りが出てくると期待しています。例えばアクリルには非常に細い繊維が生産できる強みがある。その技術を生かして新しいことができる可能性があるでしょう。樹脂の技術を繊維に生かすこともできます。特に熱可塑の技術はバリエーションを持っていますので、溶融繊維の技術とのコラボなどさまざまな可能性があります。
――来年4月からの新体制で可能性が広がる。
統合後、繊維事業は高機能成形材料部門に入ります。この部門の中には炭素繊維やエンプラ、モールディングなどの事業があり、繊維とは異なる加工技術があります。幅広く産業用途に展開していますので、繊維も産業用途への展開が広がっていくでしょう。化学や樹脂とのコラボを進めることで、より大きな活性化があると期待しています。より大きな枠組みに入ることを活用していかなければなりません。
〈好きな街/NYが第2の故郷〉
上田さんの好きな街は「ソアロン」の輸出担当時に頻繁に訪れたニューヨークのマンハッタンだ。ソアロン輸出は1992年から担当したが、「商売が固まっている」というのがこの街だった。当時は日本の市場も活気があったが、この街はそれ以上だった。最初に訪れた際には「マーケットの大きさ、奥深さに圧倒された」そうだ。商談が終わればすぐに次の先へ向かい、両肩にサンプルをかつぎながら時間が足りないくらいに商談して回った。担当した期間は10年以上。今は担当を離れてこの数年は行っていないが、「第2の故郷」という街だ。
〈経歴〉
うえだ・つかさ 1980年三菱レイヨン入社。2006年長繊維事業部長兼三菱レイヨン・テキスタイル社長、08年執行役員、09年機能繊維ブロック副担当役員、12年富山事業所副事業所長、14年4月繊維ブロック担当役員。