トップインタビュー(17)/帝人フロンティア 社長 日光 信二 氏/“機能性”がベースになる/消費者への訴求も必須
2016年10月25日 (火曜日)
日光信二社長は、商社が繊維事業を差別化するために自前のメーカー機能がポイントになるとの考えを示す。衣料ではストレッチ性をはじめとした機能の付与が標準的に求められ、同社でも独自の機能素材を使った取り組みが、スポーツからカジュアルへの横展開を含めて「じわじわ増えている」状況だ。産業資材分野でも衣料・介護、防災分野で開発ニーズが高まっている。さらに今後に向けて、必要性を強調するのが、最終消費者へのアピール力になる。
――本年度上半期業績の特徴を教えてください。
前年同期比で増収・増益となりそうで、通期でも同様の着地を見込んでいます。上半期は、当社の強みを生かした分野がけん引しました。糸、生地の販売が前年同期比で増えました。南通帝人、タイ・ナムシリ・インターテックスといった海外拠点からの拡販も、アウトドア、スポーツウエア向け関連で健闘しました。
産業資材分野はエアバッグ事業が好調で、キャパシティー増強と販売拡大を続けています。土木、環境関連も堅調に推移しました。インテリア関連は厳しい戦いが続いてきましたが、構造改革の効果で改善しています。
――製品ビジネスはいかがですか。
OEM(相手先ブランドによる生産)は高バランス織・編み物「デルタ」やポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」など当社独自の機能素材を活用した重衣料、スポーツウエアでの取り組みを毎年、着実に増やしています。強みを持つブラックフォーマルも安定した収益基盤なっています。
ボリュームゾーンでの取り組みも悪くはありませんでした。市場環境に応じた顧客ポートフォリオを重視し、存在感を高める小売り系業態向けを増やすことができました。
逆に下期のOEMは厳しく見ています。昨年の暖冬でアウターが売れず流通在庫が多いので、今年の注文は全般的に良くない状況です。厳冬の予測もあり、そこで冬物が売れれば、追加の対応で、いくらかの上積み効果が期待できますが、スポーツ、重衣料、カジュアルとも環境は厳しいというのが一般的な見方でしょう。
――5年後を見据え、繊維業界はどのような方向に向かっていくと思いますか。
衣料品市場は、高価格帯のゾーンとこなれた価格のボリュームゾーンの二極分化が進んでいくと思います。市場で元気があるのは、セレクトショップ系のブランドや、こなれた価格でカジュアルファッションを展開している企業です。トレンドと品質、両方に見る目がある消費者が増えているということでしょう。こうした中で、当社が存在感を発揮するために、ベースにあるのは“機能”だと考えています。ストレッチ性や吸水速乾性など、機能が標準的に求められている傾向にあるからです。実際、ソロテックス使いの売上高は3割増を続け、デルタもスポーツからカジュアルへの横展開を増やしています。機能を基盤にそこから“ファッション”として、いかに一格上の価値を訴求して行くかです。
価値を見極める消費者が育っているので、製品や素材が持っている機能の説明を、消費者に届く形でしっかりとアピールしていくことも重要になるでしょう。例えば、当社が化粧品ウエアとして打ち出した「ラフィナン」は、業界内で注目を集めており、デサントやトリンプとの取り組みが始まりましたが、販売はまだまだこれからです。ブランドとしての価値訴求が欠かせません。
実店舗がデモンストレーションの場となり、購入チャンネルとしてのEコマースの存在は今後、ますます重要になって行くでしょうから、帝人グループ商材の通販サイトである「くらし@サイエンス」を通じた拡販、認知向上の手法も考えなくてはならないでしょう。B2Cのアピール力に欠けているので、こうした機能を高めなければなりません。
――産業資材の方はいかかですか。
「ヘルスケア」は外せないでしょう。グループ会社の帝健が京都大学との共同研究で開発した心電計測ウエアラブル電極布はその一環ですし、モーションセンシングの研究開発もさまざまな形で出てきます。介護・医療の現場で働く人や患者が快適に過ごせるウエアや空間の開発にいかに貢献できるかがポイントの一つです。防災関連も同様で、現時点でも色んな商材を持っていますが、これについてもアピール力の強化が必要でしょう。
――海外市場の開拓する重要性についてはいかがですか。
中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)地域へ広がった生産地は落ち着くとみています。5年前、9割を中国で生産していたものが、今は中国が6割。ASEAN地域生産が4割になっています。当社の場合、カジュアルウエアは依然として中国が7割ですが、スポーツウエアはすでにASEAN地域での生産が7割となっており、これで落ち着いています。地理的要因と品質でゆるぎないステータスが中国にあるからです。
外需の取り込みでは、中国とASEAN地域の消費市場化が見過ごせません。ASEAN地域では特にインドネシアが人口3億人をうかがう勢いで市場化の傾向を見せており、ベトナムも9000万人の人口を抱えることを考えると見過ごせません。中国は完全に消費国としての対応が必要でしょう。中国での事業展開は数年後には現状に比べて倍の売上高にする道筋が見えています。
――その施策は。
南通帝人の機能が軸になります。技術をしっかり持っており、協力会社ともコラボレーションしながら、キャパシティー以上に販売しています。衣料ではカジュアル、アウトドア、スポーツで内販が増えてきています。
また、自動車生産台数が2500万台を超え、世界一です。エアバッグや補強材、タイヤコード、カーシートなど当社が得意とする産業資材分野で伸ばすことができます。日系メーカーの販売台数が既に日本を上回っており、日本にある部品メーカーの規模がそっくり、中国にも必要という状況になっています。この需要を取り込む施策はしっかりと行っていかなければなりません。
――国内外ともに、メーカー機能がポイントになりそうですか。
われわれは商社ですが、確かにモノ作り機能に重点を置く企業になっています。こうした機能を持っておかなければ、これからは厳しいというのが鮮明になっている気がします。頼まれ仕事では独自性を発揮できない傾向が強くなっていくでしょう。他にない製品で新たな価値をいかに創造していくかがこれからのミッションです。当社の場合、そのためには原糸・ポリマーの開発力がないと、未来がありません。帝人グループの技術を軸にして、衣料・アパレルと産業資材、両方で強みをさらに強化して行きます。
〈好きな街/癒やしのハンブルグ〉
1988~98年の10年間に頻繁に赴いた独ハンブルグの街は日光さんを癒やしてくれる街だった。緑豊かな住宅地の上を通って空港に降り立つ時には心がほっと落ち着いたと言う。欧州で最も歴史ある商業都市であることも理由か、ハンブルグは「ウインドーショッピング発祥の地」であるという。ウインドーディスプレーの鮮やかさは特に印象的だったそう。街全体に花が多い彩りの豊かさも理由だ。日照時間の少なさがこうした街づくりにつながった理由の一つかもしれない。「太陽の光が差すと自ずとそこに人が集まってくる」のが、ハンブルグならでは光景だという。
〈経歴〉
にっこう・しんじ 1979年、旧帝人商事入社。2003年NI帝人商事〈タイランド〉社長、13年6月帝人フロンティア常務産業資材部門長兼工繊・車輌資材本部長、14年6月専務衣料繊維第二部門長、15年4月帝人グループ執行役員製品事業グループ長兼帝人フロンティア社長。