Uniform Fair 2017 Spring & Summer(2)/細分化する市場に立ち向かう

2017年01月06日 (金曜日)

 2017年のユニフォーム市場は、どうなっていくのだろうか。一般衣料アパレルのユニフォーム事業強化や、異業種を含めたアパレル各社の電動ファン付きウエアの発売など、これまでにあまりなかった動きが活発化し、業界が大きく変わる可能性が出てきた。ユニフォームそのものの価値を改めて問い直し、販売に向けた戦略を練り直す必要がありそうだ。

〈新たな市場創出へ/ターゲットを明確にする〉

 この10年、ワークウエア業界の中で変化したものと言えば、アイテムかもしれない。コンプレッションにカーゴパンツを着用するという着こなしは、西日本を中心に定着しつつある。

 そのコンプレッションや「無重力ゾーン」を中心としてパンツ単体の企画という新しいジャンルを投入してきたのが藤和(広島県福山市)だ。これからも「新しい市場を創り出すことに力を入れたい」と藤原洋明専務。スポーツなど異分野を参考に、新しいアイテムを創出し、市場を生み出すことはアパレル各社に課せられた使命と言える。

 しかし、新しいものを生み出すのは難しい。以前であれば定番的な商品をある程度備蓄すれば、ビジネスが成り立っていた。情報化社会に加え、同質化を避けて“ほかにない”商品が好まれる市場になる中、ターゲットを全方位的に置いた商品はもはや売れなくなってきた。

 ビッグボーン商事(福山市)の内田隆之社長は「少子高齢化やファストファッションの隆盛で、世の中の価値観が変わってきた」と指摘する。「コアでニッチな積み重ねが重要になってきた」。同社は最近、「スマートワークウエア(SWW)」「ブラックラダー」といったブランドを投入、決して安くない価格設定だが、「ターゲットを明確にする」ことで順調な販売を見せる。

 この“ターゲットを明確にする”という動きは、これからの市場を開拓していく上でキーワードになりそうだ。高視認性安全服などはその一例となる。タカヤ商事(福山市)は高視認性安全服「ナイトナイト」で昨年秋冬から接客を必要とする場面でも着用できる新ライン「リフレクティヴモード」を投入、今春夏からはカットソーアイテムを充実させる。谷口太志執行役員ユニフォーム事業部長は「常に新しい切り口で打ち出していかなくてはいけない」と話す。

 細分化する市場の中で、ターゲットをより絞る動きも加速する。菅公学生服グループのシーユーピー(岡山市)が10年以上前から運送業やビルメンテナンスなど業種を絞ってユニフォームの市場開拓に既に乗り出していたが、その戦略が少しずつ業界全体に広がる。

 社会進出が目覚ましい“女性”向けの商品企画も増えてきた。これまでSS、Sサイズを女性向けサイズとしてきたが、女性の体形に沿った専用パターンを導入した商品も増加。土木建設業など業種によっては、女性がまだまだ少ないが、鉄道で女性の運転手や車掌がもはや当たり前であることを考えれば、もっと商品開発を強化すべき分野ともいえる。

〈価格設定 より重要/利益追う時代こその戦略〉

 ここ数年、業界全体で値上げが進んだことに加え、物余りの時代だけに“他にない”ユニフォームを求める動きから、価格的に高いゾーンの商品でも受け入れられるケースが増えてきた。

 寅壱(岡山県倉敷市)は昨年秋冬、関節部分に蛇腹プリーツを採用し、細身のシルエットながらも着心地や動きやすさを追求したワークウエア8930シリーズを開発。小売価格はこれまでより一格上だが、販売が好調で、村上國治郎社長は「高い値段設定であっても、他社にない商品であれば売れる」と実感する。今春、一般アパレルを強く意識したバイカーファッションスタイルの2810シリーズを投入し、徹底したデザインの差別化で市場のニーズを捉える。

 少子高齢化で労働者人口が減る中、今後企業にとって人材確保が一番の課題だ。その中でユニフォームが果たす役割は決して小さいとは言い切れない。実際、藤和の藤原専務は「企業価値を高めるため、価格よりもデザイン性を重視したモデルチェンジが増えている」と話す。

 しかし、高い価格帯でもそれなりの理由がなければ当然売れない。ユニクロをはじめ、一般衣料の業界が再び値下げに転じ、デフレマインドが強まる中、価格設定の重要性が一段と増してきた。これまで2980円の商品が、一連の値上げによって3980円となり、元々の2980円の価格帯の商品に品薄感が出てきた中、再び2980円の価格設定のモノ作りができるかどうか、アパレルの力量が問われつつある。

 エスケー・プロダクト(福山市)は今春、メランジ調半袖ツナギ服「グレース・エンジニアーズ」GE―145シリーズを投入。限定品として価格は最安値となるスペシャル・プライスの敢行を予定し、池本誠治社長は「店頭にとって売りやすい価格帯に設定することで、販路を広げたい」と話す。

 もちろん利益を度外視してまで、単に売り上げを追う時代でもない。サンエス(福山市)では、意味のない値下げ、いわゆる“特値”では売らない方針を掲げ、価格競争に巻き込まれない戦略を貫く。妹尾均専務執行役員は「若い世代に魅力ある業界にしていくためにも、今は踏ん張り所と考えている」と強調する。

 さらに価格設定で重要な要素となるブランド力の強化も各社にとって大きな課題だ。販売代理店やワークショップチェーンなどが、プライベートブランドを打ち出す中でも取引を続けてもらうには、消費者にとって認知されているブランドであることが重要だ。

 ただ、どんなにブランドでも一朝一夕で消費者への認知が浸透するわけではない。コーコス信岡(福山市)が「ディッキーズ」、ビッグボーン商事が「ブラックラダー」など海外ブランドを展開するが、そのような海外の著名ブランドを取り扱うことで、自社ブランドを相対的に高める発想もすべき時代になりつつある。

〈将来の市場規模100億円/発売相次ぐ電動ファン付きウエア〉

 今年春夏からワークウエアアパレル数社が、電動ファン付きウエアの新商品を相次いで打ち出す。これまで空調服(東京都板橋区)とサンエス(広島県福山市)が展開してきた「空調服」が市場の主導権を握っていたが、数年前から工具メーカーなど異業種が参入。今年はアパレル各社からも新商品として打ち出すことで、一気に市場が広がる可能性がある。

 空調服(東京都板橋区)とサンエス(広島県福山市)が服にファンを装着し、中に風を送り込む「空調服」を発売したのは2004年だった。当初はあまり販売が進まなかったが、11年の東日本大震災を機に節電意識の高まりで企業納入としての採用が増え、需要が急速に拡大したのはここ数年のことになる。バッテリー性能の向上やファン軽量化など製品そのものが進化し、実用性が出てきたことも大きい。

 数年前から異業種も参入。総合電動工具メーカーのマキタ(愛知県安城市)は充電式ファンジャケットとして、昨年4月の初投入分が完売。今夏はその5倍の販売量が売れ、来年夏に向けて投入量をさらに増やす計画だ。ファンジャケットのバッテリーは、ドリル、チェーンソー、グラインダーなど、他のさまざまな工具に使うことができ、利便性が高い。

 サンエスの妹尾均専務執行役員繊維部門長は、空調服を含めた電動ファン付きウエア全体の市場規模として「40億~50億円ある」と推測する。現在は、建設や農業、製造業などワークウエアが中心となるが、20年の東京五輪までに「スポーツなど他の分野へも広がる可能性があり、市場は100億円規模にまで成長する」と話す。

 これからの需要拡大をにらみ、今春からアパレル数社が電動ファン付きウエアの新商品を投入する。バートル(広島県府中市)は、世界的なダイカストメーカーのリョービ(同)と連携し、「エアー・クラフト」として販売に乗り出す。「通気性にテクノロジーを加えた高機能ウエアは今後さらにニーズが増える」と大崎諭一社長。高いデザイン性のあるウエアで市場開拓を進める。

 村上被服(同)は、熱中症対策商品を企画・販売するチロル(大阪府堺市)と取り組み、「H・鳳皇(ほうおう)」V7快適ウエアシリーズとして発売する。村上泰造社長は「安全性を求める需要はますます増えてくる」と述べ、高所での建設現場などを想定し、ハーネス(安全帯)を取り付けることができるタイプをラインアップすることで、他社との差別化を図る。

 他にも水面下で開発を進める企業が数社あり、近日中の発表を目指す。

 一方で空調服の開発元であるセフト研究所(東京都板橋区)とサンエスは、諸般の事情で連携を解消し、互いに独自路線を歩むことになる。

 サンエスは「空調風神服」として、来春9マークの新商品を投入する。昨年、空調服全体で37万着を販売し、うち16万着をサンエスが販売した。今年はその16万着からさらに「大増産する」(妹尾専務執行役員)考えで、ビッグボーン商事(福山市)やアタックベース(同)といった同業他社と連携した販売戦略を進める。

 生産はサンエスが担い、ビッグボーン商事は「銀鷲」「アーリーバード」、アタックベースは「ザ・タフ」ブランドの空調風神服シリーズとして販売する。「これ以上の異業種のシェア拡大は食い止めていきたい」と、今後も他の同業他社との連携を模索。類似品に対しても特許や意匠の侵害がある場合「しかるべき措置を取る」と強い姿勢で臨む。

 空調服も4マークの新商品を投入。市ヶ谷透社長は「来年のオーダーはさらに倍近くなる」と述べ、需要が多い建設、電設業に限らず、製造業に向けても展示会を通じて販路開拓を進める。

〈若手が活躍できる環境へ/世代交代で新たな活力生む〉

 カジュアルワークがトレンドの中で、商品企画でどうしても必要となってくるものが、若い世代の感性だ。逆に言えば、ヒット商品が多い企業の特徴に、企画や営業を大胆にも若手に任せているケースがある。若手が活躍できる環境をどれだけ整備できるかが、今後企業の成長にも大きくつながってくる。

 ジーベック(福山市)は、今年10月17~20日にドイツ・デュッセルドルフ市で開かれる世界最大規模の労働安全衛生分野の見本市「国際労働安全機材・技術展(A+A2017)」(メッセ・デュッセルドルフ主催)に出展する。同社にとって初めての海外展で、セーフティーシューズを中心に展示する。

 同社は今期(17年7月)、各部門の責任者に若手を抜擢するなど将来を見据えた組織体制の強化を進めており、A+Aの出展を人材育成にもつなげる。後藤昇社長は「すぐに結果が出るとは思っていない。これをきっかけに若手がチャレンジ精神を持ってくれれば」と話す。

 中塚被服(福山市)は、豊富なカラーで展開するワークウエア「dimo(ディモ)」の販売が好調だが、同商品は若手が中心になって企画したもの。「苦労しながらも商品を生み出し、それが良い評価になれば、彼らの成長にもつながる」と中塚恭平社長。社員自らが自社のワークウエアを着用して営業するなど、地道な活動が市場開拓につながってきた。

 アパレル各社に世代交代の波も押し寄せる。16年12月期の売上高が過去最高の208億円となる見通しのアイトス(大阪市中央区)は、今年創業100周年を迎え、伊藤崇行常務が新社長に就任。伊藤新社長は、課題の一つとして「幹部社員の育成」を挙げ、「自らが主体的に“もっとこうしていきたい”と思って働く幹部を育てたい」と、全国にエリアごとの戦略を練る幹部を置き、チームとして連携できるような組織づくりを進める。

 他の企業の中にも「そろそろ交代を考えている」と漏らす首脳も少なくない。ただ、後継者だけでなく、その後継者を支える若い世代の育成も重要だ。活躍の機会を与え、積極的に育成していくことこそ企業の活力につながる。――「若さを信頼できなくなった企業は死ぬ」(実業家・藤沢武夫の言葉)