小学生服特集(1)/突き詰める“制服の役割”

2017年02月16日 (木曜日)

 「地道に制服の良さを訴えていくしかない」――標準服(学校が定めた服装)を含め、全国の小学校の制服比率は以前から8~9%で推移し、市場は一向に広がっていない。地域によっては全く制服が採用されていないケースもあり、そのような地域の学校に対して制服採用につなげていくのは至難の業と言える。動きの少ない市場だけに、業界を挙げて、改めて“制服の役割”を発信していく必要がありそうだ。

〈商品の付加価値高める/潜在需要、掘り起こせるか〉

 文部科学省の「学校基本調査」によると、2016年の小学校数は2万313校で、10年前に比べ約2500校も減っている(グラフ参照)。児童数も648万3515人で、10年前の718万7417人から70万人も減少した。

 ただ学生服アパレル各社は、学校数や生徒数の減少で小学生服の分野で売り上げを落としているかというと、そうでもない。確かに販売数量を見れば減少する傾向にあるが、商品の差別化や付加価値の向上に努め、単価を上げてきたことで、売り上げを伸ばしていないものの減らしてもいないというのが実情だ。

 菅公学生服(岡山市)は、「カンコータフウォッシュ」が2017年の入学商戦で売り上げ、出荷量が前年に比べ40%増え、「販売から3~4年がたつが、予想以上の伸び」(曽山紀浩取締役開発本部長)と好調。タフウォッシュは、家庭洗濯ができさらに洗濯を繰り返しても劣化しにくいことや使用時の高耐久性などが評価され、主に口コミで購買層が広がりつつある。

 トンボ(岡山市)は、販売5年目となる「トンボ・ジョイ」が、同社の店頭販売の制服の中でも既存商品との置き換えが進み7割を占めるまでに比率が変わってきた。これまでのパターンを見直し、撥水(はっすい)や抗菌防臭など中高生の制服と同じように機能性を強化したことで、「良さが認知されてきた」(恵谷栄一執行役員MD本部副本部長兼スクールMD部長)。

 明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC、岡山県倉敷市)は、消臭・抗菌・防汚機能を持つポロシャツをはじめ、抗ピリング性で破れにくいといった特徴を持ったニットベストや、ブラウスに近いデザインの女子向けポロシャツ「ガールズポロ」など小学生向けの企画を充実。これらはいずれも価格帯が高めとなるが、価値を認めて購入されるケースが目立ち、「購入単価が上昇している」(江藤貴博スクール第一販売部長)と言う。

 標準服の場合、制服やポロシャツは量販店やカジュアルチェーンでもプライベートブランド(PB)商品として売られているケースも多く、どうしても価格競争に巻き込まれやすい。しかし、共働きの家庭の増加などライフスタイルの変化によって、決して価格だけで商品が選ばれるわけではなくなってきた。

 一部では標準服の指定がない公立小学校でも購入するケースが出てきており、付加価値型の提案を受け入れる潜在的な需要に「自信を持った」(明石SUCの江藤部長)と、手応えを示す企業もある。

〈市場開拓 その秘策は/制服の必要性訴える〉

 トンボは毎年、小学校のモデルチェンジ校を15校から20校ほど獲得している。既に制服を採用している学校に対しては「どう制服を提唱し、選んでもらうか」(恵谷執行役員)となるが、制服を採用していない学校に対しては「時間がかかる」との見方で、これはトンボに限らず各社とも一致した意見となる。

 ただ、制服を採用していない学校の中には、かつて採用していて廃止となった学校も少なからずある。その場合、「廃止した理由を探るとともに、制服の良さを提唱する」(恵谷執行役員)ことが、地道ではあるが、市場開拓のきっかけとなる。

 実際、大阪市立榎本小学校(大阪市鶴見区)は2016年4月、制服を導入した。約20年にわたる私服通学から一転、制服を導入するケースは大阪市立小学校の中ではまれという。同校では毎年、保護者に向けて学校の運営方針についてアンケートを実施し、「制服を導入してほしいという保護者の要望が近年、増えていた」(勝本孝夫校長)と言う。

 制服復活にはさまざまな理由はあるが、「近年、公立小では私服の格差が激しくなってきた」ことがある。経済格差が広がる中、服装によってはいじめにつながるケースもあり、制服の必要性を訴える余地が出てきた。

 オゴー産業(倉敷市)では、「一度廃止になっても、校長の方針や保護者の理解を得られれば、復活に積極的に取り組む事例も出ている」(片山一昌営業本部経営企画部長)と、機能面や導入のメリットを長期的に説明し、課題解決にも具体的な方策を示すことで採用につなげる。

 もちろん、制服そのものを着用する文化がない地域へも制服の必要性を改めて発信していかなければいけない。今後、小学生服市場を広げていくには「業界全体が市場を掘り起こさなければいけない」(トンボの恵谷執行役員)、「業界自体が信念を持って取り組んでいかなければいけない」(菅公学生服の曽山取締役)との声も聞かれ、素材メーカーも含め、各社が連携しながら市場を掘り下げる動きも改めて考えていく必要がありそうだ。