特集 事業戦略を聞く(3)/ダイワボウノイ/科学の力でファイバー戦略/挑戦的に考え、慎重に実行/社長 斉藤 清一 氏
2017年02月22日 (水曜日)
「独自原料・加工を活用する“ファイバー戦略”は第2段階に入った。今後はさらに科学の力を活用する」とダイワボウノイの斉藤清一社長は話す。不採算品からの撤退など構造改革を進めたことで収益性が改善している同社だが、さらなる技術戦略の高度化を進め、新たな市場の開拓に取り組む。ダイワボウ情報システムの協力を得て情報分野の知見の活用にも取り組む。
――今期(2017年3月期)の商況はいかがですか。
前期までに不採算品や将来性の見込めない商権からの撤退など事業構造改革を進めたことで減収ながら増益で推移しています。インドネシア縫製子会社のダヤニガーメント・インドネシア(DGI)の撤収に伴う処理費用が発生しましたが、それを除けば国内外の子会社も全て黒字を維持しています。テキスタイル事業は苦戦していますが、これはアパレル業界の低迷など構造的な問題でしょう。ただ、コート地の販売量などは劇的には減っていません。
海外縫製についてはインドネシアでDGIからダイワボウガーメント・インドネシア(DAI)への生産移管も無事に完了しました。カジュアル、インナー、シャツ、コートともに好調ですし、米国向けトランクスも堅調な受注となりました。今後は、いかに生産効率を高めていくかが課題です。
中国の蘇州大和針織服装はカジュアル分野に特化して安定していますし、大和紡工業〈蘇州〉も成形衣料の受注が増加傾向です。インナーだけでなくアウター的な製品の引き合いも増えてきました。中国での縫製は小ロット対応を含めたフレキシビリティーが重要。第三者監査などオーディットに対応できることも欧米アパレルから評価されています。今後も東南アジアでは対応できない商品に力を入れています。大和紡績香港を通じた販売も順調に拡大しました。
――独自原料・加工を活用する“ファイバー戦略”を推進してきました。
フタロシアニン加工が羽毛消臭の用途で利益に貢献し始めました。次は羽毛の洗浄剤の開発も目途が立っています。マスターバッチの機能材「マジカルアシスト」も開発し、主に抗菌防臭機能材として洗面容器やゴミ容器、枕の中材用樹脂パイプ、不織布といった用途向けに出荷も始まっています。
紙糸も動き始めました。靴の中材としてイタリアへの輸出が決まっています。国内でもデニム向けに販売が続いています。ポリプロピレン(PP)では、マスターバッチの技術を応用し、親水性を持たせた制電性ファイバーの開発を進めています。こうした成果を踏まえて、ファイバー戦略は第2段階に入ったと言えるでしょう。今後はさらに科学の力を活用して戦略を推進します。
――来期に向けた戦略のポイントは。
これまで各分野とも挑戦的にトライを続けてきました。来期は、特にそういった“挑戦的であること”が重要になります。一方、現在はあらゆる分野で不確実性が高まっている危険な時代でもあります。あらゆることの変動幅が拡大し、場合によっては真逆の方向となるケースも多い。ですから、チャレンジングに思考して、慎重に行動することが重要です。
技術戦略もこれまで以上に実証的に取り組みます。素材・加工ともにメカニズムの解析やエビデンス(科学的根拠)を明確にし、最終的には特許戦略などにつなげていくことが狙い。そのため、既に研究部門を置いている信州大学繊維学部のキュレーション施設「Fii」に、これまでダイワボウポリテック播磨工場内に設置していたテクノステーションも移転させます。信州大学との共同研究を強化するほか、人材育成にも取り組みます。
――具体的な開発も進みますね。
特にマスターバッチの技術を活用し、素材改質の開発に力を入れます。また、紙糸についても従来のマニラ麻だけでなく針葉樹などさまざまな原料の活用もあるでしょう。ほかにもPPや機能レーヨンもあります。そのためにグループ各社との連携が重要になります。
その点でダイワボウ情報システム(DIS)との連携にも取り組みます。今後、IoTなどが新たな市場を生み出すでしょう。SNSに象徴されるようにメーカーも消費者との“共感”をベースにした営業が必要になります。そこでDISからITや情報関連の知見について教えてもらうぐらいの形で社員全員の意識改革をしたいと思います。それができなければ、スマートテキスタイルやビッグデータの活用など新たなビジネスの可能性についていくことができません。
そして、既存の取引先に対しては、何を求めているのか、困っていることは何かということをしっかりとフォローするようなソリューション型のビジネスを広げていきたいと考えています。