特集 事業戦略を聞く(9)/新内外綿/産地の声を聞く/輸出拡大へ種まき続ける/取締役紡績部長 田辺 謙太朗 氏

2017年02月23日 (木曜日)

 「糸売りは産地に足を運び、産地の声を聞くことが重要。アナログでも、あえて原点に戻って取り組みたい」――新内外綿の田辺謙太朗取締役紡績部長は強調する。アパレル不況の影響から織編み物産地で糸需要も鈍り、同社の糸売りも勢いがないが、だからこそ産地が求めるサービスを追求することで需要の掘り起こしに努める戦略だ。輸出拡大に向けて海外展示会出展など種まきも続ける。天然由来染料トップ染め杢糸「ボタニカルダイ」などヒット商品も成果を上げ始めた。

  ――今期(2017年3月期)の商況はいかがですか。

 ここまでは減収ながら増益で推移していますが、印象としては大苦戦という感覚です。本来であれば年末から糸の出荷はピークを迎えるはずですが、例年に比べてまるで勢いがありません。当社の糸は婦人アウター向けなどが多いのですが、アパレルの店頭市況が極めて悪く、百貨店やアパレルの店舗閉鎖などで売り場面積自体が減少してきました。そのため、特に百貨店アパレル向けに生地を生産している産地企業も競争が激化しています。どうしても産地で春物向け生地の荷動きが悪くなり、この影響が糸の販売にも出ています。

 一方、「ボタニカルダイ」は認知度が高まってきました。しかし、やはり春夏向けが多いのでアパレル製品の店頭商況の影響を受けざるを得ない状況です。ただ、「ギフト・ショー」などに出展して提案したことでアパレル向けだけでなく綿毛布といった寝装品など従来とは異なる用途への販売もできてきました。

 輸出にも取り組んでいますが、こちらはまだ種まきの状態で、実りを刈り取る段階になっていません。こちらもボタニカルダイが中心です。

  ――来期(18年3月期)に向けた戦略をお伺いします。

 生産子会社であるナイガイテキスタイルの生産量の半分は杢糸など色糸ですから、これを主力にするということは変わりません。しかし、海外品との競合もあります。デフレから脱却できるような特化した糸へのシフトを進めることになります。その場合、“高くても新内外綿から買ってもらえる”ためのサービスを提供しなければなりません。そのため工場の技術者も営業担当者と一緒になって産地を回っています。ニーズに応じたモノ作りをすることで、生産ロスも削減できます。さらに1コリや1コリ未満といった小ロットの販売にも対応します。やはり糸売りは産地に直接足を運んで、現場の声を聞くことが重要。どういったニーズがあるのかをリサーチしなければ。アナログ的ですが、あえて原点に戻っての提案を進めます。

 そして“一歩先を行く提案”として、糸の販売先の次の工程に対しても市場開拓に取り組みます。その場合、糸の販売先である産地企業と協力して、その産地企業の生地販売先へ一緒になって提案する。そのためにも産地企業からの信頼が必要なのです。

  ――輸出にも力を入れています。

 今年もイタリアの「FILO」展や中国・上海での「スピンエキスポ」など海外展示会に出展し、種まきを続けます。特にスピンエキスポはセーター用原糸を求める声が多いので、セーターや靴下用途がターゲットとなります。テキスタイル輸出に取り組んでいる産地企業への糸販売がますます重要になりました。そこで「プルミエール・ヴィジョン」など海外展示会で情報を収集しそれを産地企業に提供します。

  ――設備投資も進めています。

 新たに村田機械の渦流精紡機「ボルテックス」を導入しました。これを活用し、従来とは異なる切り口の開発を進めます。ここに来てカジュアルのトレンドが合繊使いでも強まってきました。ボルテックスを活用することで合繊使いの課題である抗ピリング性への対応が可能になりますから、精製セルロース繊維「テンセル」・ポリエステル混といった新しい商品にも挑戦します。ある程度は定番として備えることのできる糸を作っていきたい。ユニフォームなどの用途も視野に入れています。

  ――テキスタイル・製品事業との連携についてはいかがですか。

 新内外綿としてのカラーを打ち出すような原糸をテキスタイル・製品事業に供給する体制に既になっています。タイ子会社のJPボスコと国内のナイガイテキスタイルの糸を供給することで量的な対応もできますから。

  ――JPボスコの状況は。

 JPボスコは日本向けが逆風ですが、日本以外への輸出の開拓を進めています。そのために現地の展示会にも出ました。ここに来て日本企業からもタイで現地供給して欲しいとの声が上がっています。海外でも糸を供給できる体制を作ることも来期の目標となります。