尾州産地総合特集(2)/尾州との商社の取り組み

2017年03月28日 (火曜日)

〈タキヒヨー/出来ることはまだある〉

 タキヒヨーのテキスタイル1部は、百貨店で販売されるアパレル用の生地を受注生産してきた。同部売上高の80%が、この業務によるものだ。その生地の主要生産拠点は、尾州。同部が扱う生地の80%が尾州産となっている。尾州の親機約20社と取り組み、顧客のニーズを形にしてきた。

 同社は2014年に、英式梳毛紡績機やションヘル織機を備えた工場を愛知県一宮市に設けた。「モノ作り面の人材育成」が最大の狙いだと滝一夫社長は当時語っていた。現在は、同工場をベースに開発した独自糸使いのビジネスも拡大傾向にある。百貨店アパレルのネット販売分野へ、同工場を活用したカラー展開の提案も検討していると小林元志部長は言う。

 今後も百貨店アパレル向けの提案を重視するが、新たなマーケットを開拓するための準備も進める。別注の受注を主体としながらも、自社リスクによる生地備蓄も拡充。さらに、尾州産地との取り組みを強化し、小刻みな発注にクイックに対応する機能にもさらに磨きをかける。このような対策により、さまざまな顧客のニーズに対応する体制を整える方針だ。加えて、生地を製品に仕上げて納めてほしいとのニーズへの対応力も高める。

 尾州産地を取り巻く環境は厳しいが「出来ることはまだある。それをひたむきにやる」と小林部長は語った。

〈瀧定名古屋/尾州への期待は上昇〉

 瀧定名古屋の婦人服地部では、尾州産地を活用する各課がそれぞれに、尾州の3~4社と組んで生地を開発し、備蓄販売している。秋冬向けが主体の尾州にとって、閑散期の仕事をどう確保するかは大きな課題だが、同部は計画生産によって主力取引先の稼働率が安定するように努力してきた。

 生地を備蓄販売する同部にとって、同じ生機を加工でさまざまに変化させることができる尾州のノウハウは不可欠だ。また、1反単位でなく、10メートルからの試作に短納期で対応してくれることも魅力だという。

 百貨店の販売不振にどう対応するかが、尾州産地の大きな課題になっているが、同部は既に手を打っている。これまで、百貨店向けアパレルへの提案に力を入れつつ、セレクトショップや駅ビル向けアパレルへの販売も拡大してきた。ここへ来ての、衣料品B2C普及にも対応している。「これまでは資金力のあるアパレルでないと事業拡大は難しかったが、ネット販売の定着で、デザイン力で拡大を図れる可能性が高まった」と瀧浩之部長は分析する。このため、既存顧客への提案を維持、強化しつつ、ネット販売などでの成長を目指す新たな顧客の開拓に注力している。これら顧客の原価率は総じて高い。高価な尾州の生地であっても採用は十分に可能。このため、尾州への期待はむしろ高まっているという。

〈豊島/無から何かを生み出す力〉

 豊島では、梳毛糸を中心に、化合繊複合糸、紡毛糸、羊毛トップなどを一部が、綿糸を二部が、「テンセル」糸を三部が尾州産地へ供給。東京の紳士、婦人服部門が尾州の生地を製品化している。ここでは、尾州と多面的つながりを持つ同社の、生地輸出機能を紹介する。

 生地輸出を担っているのは三部だ。輸出の拡大に意欲的でレスポンスのいい尾州の親機約10社と組み、欧米や中国、韓国の顧客向けに生地を受注生産している。

 顧客のアイデアを尾州で形にすることもあれば、尾州の企業や同社が開発した生地を提案することもある。輸出実績が多いのは尾州が開発した生地。同社輸出額の70%ほどがそのような生地だ。「顧客が展開している生地のマイナーチェンジ能力はもちろんだが、無から何かを生み出す能力が尾州は高い」と、濱野貴志部長は語る。その尾州の能力が、顧客の新たなアイデアの触発にもつながっているという。

 日本では、尾州産地の生地の主販路だった百貨店が苦戦している。この現象は、欧米や中国でも同じだ。このため、さらに上に行くのか、もっと下か、あるいはその両方を狙うのかを尾州産地の企業は考える必要があると濱野部長は分析する。その判断の材料となるよう、海外バイヤーとの接触をより密にし、生の情報をリアルタイムで提供したいという。

〈モリリン/尾州の複合素材に貢献〉

 モリリン・マテリアルグループの強みの一つは、こだわりの糸の開発だ。合繊メーカーとの取り組みによるさまざまな複合糸はもちろん、ウールにしても綿にしても、一味違う糸を提案してきた。例えば、ニュージーランドのオタゴ地方で産出される羊毛の中の厳選原料を用いた「オタゴウール」、厳選したファインウールを用いた「ヴィヴィアン」など、差別化につながるさまざまな糸を提案している。

 このような糸の提案を行っているのは同グループの1部だ。今後、1部を通じた差別化糸の提案に加え、丸編み地販売を担う2部の機能を活用し、1部が提案する糸の尾州産地でのテキスタイル化にも力を入れる方針だ。

 尾州産地は、ウールだけでなく、複合素材のテキスタイル化も得意としている。その能力は、世界的に見ても高い。そこにさらに磨きをかけることは、尾州の重要な課題の一つとなっている。「尾州ならではの機能、質感を備え、かつ顧客満足度の高い複合織物の開発にも貢献したい」と水谷智廣統括部長は語る。

 尾州産地の生地の輸出にも力を入れる方針だ。中国の同社法人、上海茉莉林紡織品の上海マテリアル部が、そのための体制も整えた。既に輸出実績も出ている。今後、高級ゾーンで展開している顧客との関係をより緊密にし、輸出のさらなる拡大を狙う。