不織布新書17春(7)

2017年03月24日 (金曜日)

〈帝人/原綿開発に改めて注力/注力素材の次期増設を検討〉

 帝人の不織布向けポリエステル繊維販売は今期、産業資材用がフィルター向けを中心に堅調な一方、生活資材や自動車分野は伸び悩んだ。衛生材料用は低調な時期もあったが、後半は回復に向かった。

 ショートカットや「エルク」などは堅調に推移した。中国向けがけん引する水処理分野のショートカットは特に前半が好調に推移した。後半はややペースダウンしたものの、来期に向けた引き合いは活発で、今後もさらなる拡大を見込む。高機能フィルター向けなど極細ショートカットも堅調に伸びた。「エルク」は特に欧州の寝具向けが順調に拡大している。

 タイへの生産移管は、一部高機能品に若干の遅れはあるものの、17年末の完了に向けておおむね予定通りに進行している。今春には「エルク」の移管も始まり、ほぼ全ての銘柄がタイでそろう。品質管理体制も整い、日本と同水準の製品供給を実現しているという。

 新中計が始まる来期は構造改革を完了するとともに、素材開発に改めて注力する方針だ。各注力素材の次期増設の検討も始める。

 特に衛材向け高機能品、新規ショートカット、機能詰め綿などでの原綿開発に取り組む考えで、改めてマーケットニーズやVOC(顧客の声)の収集を始めている。ニーズ収集のため欧州の「INDEX」に初出展する。

 カートリッジフィルター、高機能バグフィルター、軽量天井「かるてん」など2次製品・最終製品では、専業の開発・販売組織を立ち上げた。「ナノフロント」や「ベルオアシス」などコア素材をベースとした不織布・紙のシート展開も検討していく。

 4月から帝人のポリエステル繊維事業は帝人フロンティア(TFR)に移管され、新しい体制となる。事業移管に伴い、原綿販売組織と2次製品以降の開発・販売組織を明確に分けた。原綿はTFRが工場の稼働責任を持ってメーカー機能を強化するとともに、グローバルオペレーションによる最適生産で供給力をさらに強化する。2次製品は、帝人グループの高機能・独自素材をコアとした強みの発揮できる分野で、サプライチェーンを伸ばすダウンストリーム戦略を加速する。両戦略ともTFRの国内外の営業販売力・商圏・人的資源などを十分に活用し、スピード感を持った展開を目指す。

〈髙安/中国工場がフル稼働/日本同等品質を評価〉

 髙安が、2004年に中国江蘇省に設立した原着ポリエステル短繊維製造工場、髙安工業〈江陰〉がフル稼働している。

 髙安は日本に、月産能力520トンの再生ポリエステル短繊維工場を持ち、うち90%を不織布用途、10%を紡績用途などへ向けている。不織布用途のうち80%は外部へ販売しているが、20%は自社で使用している。同社は、ニードルパンチ不織布機3台と、日本では3社しか保有していないとみられるアラクネ機も3台保有している。

 髙安工業〈江陰〉は、この日本工場と同等品質の原着ポリエステル短繊を製造している。2年前、設備の改造で月産能力をそれまでの450トンから600トンへ増やしたが、フル稼働している。中国で販売される日欧米中の各国自動車メーカーの内装材に採用されたためだ。中国国内で生産されている原着ポリエステル短繊維の中で、各自動車メーカーの耐光、摩擦堅ろうどなどの品質基準を満たしたのが同社製のみだったためだという。同社は現在、生産能力の97~98%を同内装材向けに充てている。残りは、中国の新幹線メーカー1社の空調フィルター向けだ。昨年から採用されているという。

〈髙木化学研究所/顧客の要求を形へ/再生エステル短繊維で〉

 髙木化学研究所は、再生ポリエステル短繊維製造のパイオニアで、1970年代初頭から同繊維を生産している。現在の月産能力は、500トン。顧客が要望する性能・品質の繊維を試作し、受注生産する。

 多品種小ロット生産を得意としており、1トン以下の本番生産にも対応するという。生産品種は、月間数十種。撥水(はっすい)性、親水性、抗菌性、難燃性などさまざまな機能を繊維に付与する技術や、中空、異型断面などの形状変化技術を駆使し、顧客の要望を形にしてきた。

 自動車向けを中心に、インテリア、土木、紡績、寝具などさまざまな用途に向けた繊維を生産している。自動車向けでは、中部経済産業局の地域創造技術研究開発費補助金の助成を受けて開発したハロゲンフリーの難燃再生ポリエステル短繊維「ヒガード」が注目されている。同社によれば、「性能的にはチャンピオン」。このヒガードを、同社がその後開発した中空タイプの繊維と組み合わせて自動車用不織布に採用する事例が増えている。

 同社はポリエステルだけでなく、塩ビやナイロンのリサイクルでもパイオニアだ。1951年に、ビニール製品の廃棄物を利用し、国内初のケミカルシューズを発売。54年には、ナイロンゴミをビニールレザーに再生する技術も確立している。

〈ダイニック/環境など切り口に開拓を/埼玉工場も以前の体制へ〉

 ダイニック(京都府京都市)は、日本不織布産業の先駆者だ。1956年に不織布事業に進出し、多彩な技術を組み合わせた“個性派”の製品を世に送り出してきた。自動車内装材、インテリア・カーペット、一般不織布という三つを事業の柱としながら、「環境」や「介護」を切り口に新用途の開拓を図っている。

 60年にわたって不織布事業を展開してきた同社は、2次・3次加工による差別化にも早い段階から取り組んできた。開発力(機能付与)は大きな強みであり、多孔質化によって比表面積をアップする吸拡散技術や生乾き臭などを抑える抗菌防カビ技術が高い評価を得ている。滋賀工場(滋賀県犬上郡)には評価試験ルームも持つ。

 新用途として力を入れている環境領域では、フィルター分野などの開拓を図ってきたが、そこから派生した一般空調向けの展開が拡大している。吸湿放散技術が除・加湿用途で評価を集めているもので、「省エネにも貢献している」(大野雅春第三事業部長)と言う。

 供給体制も安定してきた。埼玉工場(埼玉県深谷市)は、「今期(2017年3月期)にも14年の雪害前の生産供給体制に戻すことができる見通し」(大野事業部長)で、インドネシア拠点のダイニックTPCも順調だ。ダイニックTPCは増設を予定しており、生産能力は倍増する。

 今後のさらなる成長に向けて、商材の開発にはこれまで以上に力を入れるとし、機能性を有する新しいシート材などの展開を視野に入れている。仕上げ・加工機など必要なものについては、埼玉工場を中心に積極的な設備投資も実施する。

〈金井重要工業/ケミカルボンドで新規用途/不織布事業の利益率高める〉

 短繊維不織布製造の金井重要工業(大阪市北区)は、ケミカルボンド不織布の技術を生かした新規用途開拓を加速する。付加価値の高い機能性不織布で主力の自動車天井材、空調フィルター、研磨材に続く新しい用途を創っていくもので、「ニッチな市場をターゲットに機能性の高い不織布で複数の新しい用途を創り、着実に売り上げを伸ばしながら不織布事業全体の利益率を高めていく」(安達隆久取締役不織布事業部長)。

 同社はこの数年、ケミカルボンド技術による機能性付与で新しい不織布の開発に取り組んできた。ケミカルボンドによる用途は日用雑貨や工業用研磨材などがあるが、そのほかにもさまざまな用途で可能性を探っているという。そろそろ芽が出始めそうな用途も出てきており、「長期的な視点でさまざまな用途の開拓を進めている。一部で結果が出るのが遅れている部分もあるが、各分野で取り組みが進み出した」とする。炭素繊維による不織布の技術開発にも注力する。

 同社は既にPAN系、ピッチ系とも加工できる技術を持っているが、炭素繊維市場の今後の広がりに備えて、さまざまな可能性を見据えながら加工技術をさらに整備していく考えだ。

 このほか、金井重要工業グループ全体で新しいビジネスの創出に向けた取り組みを進めている。不織布以外を含めて各事業の開発者が集結した横断型の独立した開発部隊を創って取り組みを進めているもので、各事業の知見を融合して新しい事業創出を狙う。

〈アクシス/原反生産し非アパレルへ/機能品開発も強化〉

 アクシスは2015年に稼働したベトナム・ダナン工場で、ポリプロピレンスパンボンド不織布(PPSB)の原反生産を開始した。2000トンの年産能力のうち現状5割の稼働率を早期にフル生産に高める。

 そのポイントになるのは用途拡大だ。同社の主力は外部調達したPPSBを中国とインドネシアの自社工場で縫製・加工し、ショッピングバッグやスーツカバーの最終製品に仕上げる事業で、特にスーツカバーは郊外店チェーンや百貨店向けで国内トップシェアを占めるが、アパレル不況やEコマースの台頭で今後の大きな伸びが期待しにくい状況にある。

 自ら原反を生産することでコスト競争力を高めるほか、素材開発に取り組み非アパレル分野を開拓する。三輪信一郎専務は「アパレルと非アパレルの売上高の比率を5年後に平準化する」と語る。

 PPSB原反は中国とインドネシアの自社加工拠点で一貫生産体制に活用する。OEM受注や開発素材の販売にも着手する。開発素材は紡糸段階で剤を投入する機能性を付与した素材に注力する。防虫、防カビなど衛生をテーマにとしたテストを始めており、顧客へ提案している。抗菌タイプのOEMや燃焼時に二酸化炭素を吸着する剤を混ぜる環境関連の機能素材の生産もスタートしているという。

 主力のアパレル向け製品加工事業は競争力を高める投資を進める。中国では印刷機や溶着設備の導入など機械化による省人化を進める。インドネシアでも人件費が増加傾向にあるため、委託加工先をベトナムで開拓しており17年度にはベトナムとインドネシアの生産量が逆転するという。

〈イリス/欧州の機械を日本に紹介/在籍のエンジニアも強み〉

 イリス(東京都品川区)は、産業機械などの輸出入を手掛ける企業。アンドリッツ・キュースターズ社(ドイツ)の日本国内総販売代理店として約40年にわたって、カレンダー機などを不織布業界に提案してきた。ボニーノ社やノマコグループの機械・装置も取り扱っており、不織布メーカーの幅広い要求に対応できる体制を整えている。

 ドイツ・ハンブルクに本社を置くイリスグループだが、発祥の地は日本。江戸時代末の1859年にドイツの貿易商人であるルイス・クニフラーが商館を開設したことに始まるが、「日本初の外資系企業」(イリス)と言う。現在は日本法人のイリスなど16の拠点を持つ。

 イリス(日本法人)が不織布業界に届けてきたカレンダー機とは、平滑なロールに製品を通すことで、厚みの調整や光沢感を付与するものだが、ロールが自重でたわんでしまう場合があり、補正が必要になる。アンドリッツ・キュースターズ社のカード機はロール自体を油で膨らませることで細かな補正・調整を可能にしている。

 イタリアやドイツの新興企業が欧州市場を中心に販売している機械・装置の取扱も行う。「ハイエンド機に準ずる性能を担保しながら、コストメリットも享受できる」(イリス)とする。

 イリスには、7人のサービスエンジニアが在籍し、機械設備の状況を見ながらメンテナンスや修理ができ、そうしたサービスが強みの一つ。今後も機械メーカーの日本出先機関のような役割を果たしていくほか、“地道”な営業活動で存在感を発揮していく考え。

〈グンゼなど/iPS細胞培養に不織布〉

 京都大学・物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)の陳勇特定拠点教授、亀井謙一郎特定准教授、劉莉特定拠点助教授らの研究グループはグンゼと共同で、ヒトES/iPS細胞の大量培養を可能とする細胞培養基材の開発に成功した。大量培養を可能とする「布」を足場とした基材の開発は世界で初めてだという。

 開発したのはマイクロファイバーとナノファイバーを組み合わせた「ファイバー・オン・ファイバー」という細胞培養基材。ナノファイバーを細胞の人工的な足場とし、ヒトES/iPS細胞の未分化状態を維持したまま増殖を促進する。ヒトES/iPS細胞だけでなく、さまざまな接着系の細胞を大量培養するための基材としての利用も期待できるという。

 ナノファイバーは材料としての弱さから、大量培養に応用することが困難だったが、物理的な強度があるマイクロファイバーを組み合わせてファイバー・オン・ファイバーとした。

 ヒトES/iPS細胞は再生医療や創薬などで活躍する細胞として期待されるが、従来の培養皿やフラスコを用いた2次元(平面)細胞培養では空間をうまく活用できず、十分な細胞数を得ることが困難だった。大量細胞培養法として液体に細胞を浮遊させて行う培養法もあるが、これでは不規則な細胞凝集や撹拌によるストレスがヒトES/iPS細胞の品質に影響を及ぼしていたという。

 今回の開発では、ファイバー・オン・ファイバーをガス透過性のある細胞培養バッグに封入し、バッグ内の空間をうまく使って細胞にストレスをかけずに大量培養できる方法の開発にも成功している。