2017春季総合特集(21)/帝人フロンティア/社長 日光 信二 氏/独自の高付加価値品を創出/繊維で豊かな社会実現

2017年04月25日 (火曜日)

 帝人フロンティアは4月から帝人の産業資材用途のポリエステル繊維関連事業を譲り受けた。日光信二社長はポリマーから原糸、縫製品まで一貫で開発できるようになったことをポイントの一つに挙げる。帝人フロンティアの強みと帝人が蓄積してきた技術を融合し、新しい技術の開発に注力する。新中期計画では、利益をいかに向上させるかに主眼を置き、高収益企業を目指す。

  ――半歩先を見て繊維で注視すべき状況変化とは何でしょう

 足元では原油価格や為替の変動、政治・経済などの問題があります。日本の市場が成熟して大きな伸びが望みにくい中で海外市場の重要性が高まっていますが、米国トランプ政権の動向、例えばメキシコをどうするかなどは注視すべき事項です。また、TPP凍結でベトナムをどうするかということですが、こちらは欧州とのEPA締結を見据えて、欧州市場もみながらどう手を打つかを考える必要があるでしょう。

 繊維では中国がどうなるかも見ておかなければなりません。改めて立ち位置をしっかり認識し、競争力がどこにあり、どこでプレゼンス、機能を発揮できるかを見極める必要がある。合わせてASEANを含む近隣諸国の動向も注視する必要があります。

 ただ、中国はここから大きな変化はないとみています。マーケットはありますので、今ある世界の中で自分達が新しい価値創造をできるかどうか。外部要因よりも自分達がどう変化するかを考える必要があります。われわれは4月から帝人のポリエステル繊維事業が移管されて新体制となりましたが、新しい価値が認められるよう常に半歩先、一歩先を行かなければなりません。それにより、豊かな社会の創造に貢献していきます。

  ――ポリエステル繊維事業が移管されたことは強みとなる。

 ポリマーから原糸、製品まで一貫で開発でき、さらに小売りまで持った製販一体の組織となりました。今回の移管は長繊維の販売には大きな変化はありませんが、短繊維は研究所、ポリマーと原綿の製造が統合されたので、スピード感ある開発ができる体制になりました。顧客の声を聞き、すぐにポリマーまでさかのぼって開発できる体制ができました。

 帝人「テトロン」は導入して60年(本格生産開始は1958年6月)を迎えます。その節目の時期に新しい帝人フロンティアが発足しました。これまでの技術の蓄積、今創り出している技術を融合して新しい繊維を生み出していきます。

  ――これまでグローバルコンバーターとして機能を高めてきましたが、生産機能が加わったことで新しい形になるのでしょうか。

 原糸は台湾、中国、韓国、インドネシアなどさまざまなところから調達しています。そこにタイのTPL、TJTが加わり、生産拠点が広がりました。これまではコンバーティング中心でしたが、原糸、ポリマーを開発できる仕組みが加わります。他の合繊メーカーにはない組織ですので、そこから新しいモノを生み出していきます。当社は衣料用長繊維、短繊維のほか、産業資材用もあり、各分野でピラミッドの頂点からコモディティーまでそろいます。松山、タイをマザー工場として半歩先、一歩先を行く技術を開発していきます。加えて各用途で競争力を持つパートナーとも取り組みます。

  ――4月から新中計画がスタートしました。帝人フロンティアの方向性は。

 帝人グループの新中計にあるように、われわれも高収益企業を目指します。利益をいかに向上させるかに主眼を置き、そのために独自の高付加価値なモノを創造していきます。ただ、規模もやはり必要ですので、衣料、産業資材とも成長を狙い、ヘルスケアなど新しい市場を開拓しながら、高付加価値化を進めていきます。

  ――高付加価値品の開発に注力する。

 「暮らしは繊維で進化する」を掲げ、高付加価値品を創造していくことで豊かな社会の実現に貢献していきます。現在、ウエアラブル、睡眠・快眠、病院・介護などをテーマに、パッケージでの研究開発に取り組んでいます。例えば病院という空間を快適にするための総合的な開発を進めていくものです。かつての帝人フロンティアは商社機能の中でのコンバーティングでしたが、帝人が蓄積してきた技術を融合して新しい技術、新しいパッケージを創り出す。旧帝人商事の機動力、旧日商岩井の組織力を生かし、百貨店、GMS、SPA、メガスポーツブランドなど主要顧客はほぼ全ての分野を網羅しています。それぞれのニーズをつかむことができ、単なるプロダクトアウトではなくマーケット視点のモノ作りができる強みがあります。

  ――産業資材の方向性は。

 産業資材はこれまでも業界でナンバーワンだと自負しています。そこに帝人の高機能繊維事業本部が展開していたポリエステル繊維が加わったことで、さらに幅広い領域を網羅できるようになります。強みの自動車だけでなく、フィルトレーションなどの分野も強化していきます。

  ――投資についてはいかがですか。

 エアバッグは今後も投資していく方向で、今年も20%は増強します。まずは中国ですが、もう一つどこの国でやるか検討中です。タイのタイヤコードはこれまで承認作業を進めてきましたが、17年度は本格生産が始まりますので期待しています。南通帝人は過去最高益となった模様で、スポーツに加えて、スポーツカジュアルがSPA向けで拡大しています。今後も南通帝人、タイナムシリインターテックスとも投資しています。縫製は、一昨年にミャンマーで始めましたが、今後はベトナムの増強やインドネシアなども検討します。

 研究開発は松山、南通帝人に加え、タイのTPLにも機能を持たせ、日本、中国、タイのそれぞれで開発できる体制を整えました。3拠点の強みを生かし、横串を入れてトライアングルで研究開発を加速します。

  ――ところで16年3月期はいかがでしたか。

 衣料関連は市況全般が悪い中でも健闘し、ほぼ計画通りで推移しました。産業資材関連はタイヤコードの承認作業の遅れで計画に対してマイナスではありますが、その他のプラスでカバーし、全体ではほぼ計画値となった見通しです。衣料は12年にNI帝人商事と帝人ファイバーが統合して帝人フロンティアとなったことで、生地+縫製品で販売する形が増えています。機能を持った生地を生かすために、縫製品まで取り組む形が15年、16年と急拡大しており、統合の成果が出てきています。特に壁をなくしたことで商社とメーカーの両方の視点で開発ができるようになりました。

  ――「ソロテックス」なども順調に拡大しています。

 「ソロテックス」は順調に拡大しており、今後は年率30~40%の拡大を狙います。「デルタ」もよく売れており、ニットジャケットなど展開も広がってきました。先人の苦労もあって、今収穫時期を迎えている形です。今後はまとう化粧品「ラフィナン」もしっかりと拡大していきたい。データも蓄積しながら、新しい商流を作っていきます。

 にっこう・しんじ 1979年旧帝人商事入社。2003年NI帝人商事〈タイランド〉社長、10年NI帝人商事〈USA〉社長、13年6月帝人フロンティア常務産業資材部門長兼工繊・車輌資材本部長、14年6月専務衣料繊維第二部門長、15年4月から帝人グループ執行役員製品事業グループ長兼帝人フロンティア社長。17年4月帝人グループ常務執行役員繊維・製品事業グループ長。

〈思い出の味/タイ駐在時の味〉

 日光さんの思い出の味は、タイ駐在時によく食べたというプーパッポンカリー。カレー風味のカニ料理で、カニみそも入ったカニの味とカレーの風味が合わさった独特の味をよく楽しんだ。特にタイのごはんにかけて食べると「非常においしい」そうだ。タイの寄せ鍋であるタイスキ(コカスキ)とともに、タイに顧客が来たときは一緒に食べに行った料理で、時には週に3度ほどプーパッポンカリーという時もあった。タイスキと違って油が多めなので、続いた時には他の味を楽しみたいという日がなかったわけではないが、お客さんにタイの味を楽しんでもらうために足を運んだことも思い出に残っている。