2017春季総合特集(32)/ダイワボウホールディングス/取締役専務執行役員 繊維事業統括 門前 英樹 氏/想定外に備える“身軽さ”を/部門超えた連携めざす

2017年04月26日 (水曜日)

 「いくら変化を予想しても、想定外の変化は起こる。それに素早く対応できる“身軽さ”が事業にとっては重要だ」――ダイワボウホールディングスの門前英樹取締役専務執行役員繊維事業統括は指摘する。そのための事業構造改革に成果が上がる中、今後は繊維セグメントの中で、部門を超えた連携の強化に取り組む。「次のステップに向けた基盤作りを進める」ことを目指す。

  ――近年、繊維産業を取り巻く環境の変化がモノ作りの過程や流通構造の変化といった形で顕在化しています。

 現在、ダイワボウグループの繊維事業は国内15社、海外10社の体制となっており、合繊・レーヨン、産業資材、衣料生活資材の3部門でバランスのとれた売上高構成となっています。そして、今後予想される変化とその影響という意味では、部門ごとに事情が異なってきます。例えば為替や原料事情などハード面で業績が大きく左右される部門もあれば、海外の消費動向や流通構造の変化と言ったソフト面での変化に影響を大きく受ける部門もある。このため各部門で想定される変化に対して対応できることについては常に準備をしてきました。しかし、“想定外”の変化は必ず起こるもの。これにどう備えるかが重要でしょう。共通して言えることは、想定外の変化に直面したときに、素早く対応できる“身軽さ”を各部門とも持つことです。具体的には在庫など減らし、稼働していない設備は適切に処分していくことです。そういった改革をここ数年、実行してきました。

 さらに重要なことは、マーケティング。世の中の流れを的確にとらえる情報収集が必要です。そして、どんな変化があっても開発を続けること。日本のメーカーが日本製の商品によって世界で戦うためには開発しかありません。この姿勢は変わりません。そのため、例えば当社はダイワボウの機能材料研究開発室の機能を信州大学繊維学部のインキュベーション施設「Fii」に置いています。さらに4月からはダイワボウノイのテクノステーションの機能もFiiに移転しました。基礎研究と並べて営業ライン上の開発機能を置く必要があると判断したからです。

 これは流通構造の変化についても当てはまります。商流がインバウンド、そしてEC(電子商取引)への流れが加速しています。例えば中国の衛材の分野ではEC、専門店、一般小売りがありますが、ECは日本製、一般小売りはローカル品のシェアが高い。専門店は両者が半々といったところでしょう。

 こうした動きに対応するためにECには日本製、専門店には日本企画の現地生産品、一般小売りには現地企画・現地生産品を提案する必要があります。そこで当社ではダイワボウポリテック播磨工場の増設、インドネシアの不織布製造子会社であるダイワボウ・ノンウーブン・インドネシア(DNI)、そしてさらなるグローバルアライアンスによってそれぞれの商流に対応することを目指しています。

  ――2016年度も終わりましたが、繊維事業の商況はいかがですか。

 16年度はブラジルの紡績子会社やインドネシア縫製のダヤニガーメント・インドネシア(DGI)の撤退に伴う処理費用が発生しましたが、それを含めてもしっかりと利益を確保できています。しかし、売上高は大きく伸びていません。利益重視で臨み、開発品比率を高めるなど事業構造の中身が大きく改善しています。

 特に衣料生活資材部門は大幅な増益で推移しました。ダイワボウノイは独自素材の活用で成果が出ていますし、ダイワボウアドバンスも専門店重視の営業が成功しました。インドネシア縫製のダイワボウガーメント・インドネシア(DAI)も1000人規模となり生産アイテムもトランクスだけでなく婦人ショーツ、DGIから移管した寝装品、パジャマ、医療用コルセットなどに拡大しました。中部ジャワ地区に立地することを生かしたローコストオペレーションがうまくいっています。

 中国縫製の蘇州大和針織服装もオーディット(第三者監査)対応工場としてブランド向け小ロット生産に重点を置くことで順調です。繁閑格差が課題だったコート縫製を大和紡工業〈蘇州〉に移管したことも収益性向上の面で効果が上がっています。

 合繊・レーヨン部門はダイワボウレーヨンとダイワボウポリテックの連携でフェースマスクなどコスメ分野を攻めるといったグループ協業と川下戦略が加速しました。防炎関係でも新しい開発が進んでいます。ダイワボウポリテックの合繊も4~6月がインバウンドの影響で絶好調でした。7月以降はトーンダウンしましたが、10月からは実需が回復しています。また、米国向けの建材も伸びています。このため加工設備も一部増設しました。DNIも2系列が順調に稼働し、16年度は単体で黒字化しました。1系列は全て日本向けの生産ですがもう1系列は現地の日系企業向けに生産しており、これが伸びています。さらにローカル企業向けの販売も始まりました。そのために現地の日系合繊メーカーともアライアンスを組み、現地生産の原料を活用する取り組みが進んでいます。

 産業資材部門はカンボウプラスを中心とした樹脂加工が好調でした。原燃料価格の低下も収益を下支えしました。今後はカンボウプラスの自社ブランド製品の海外販売が重要になります。ダイワボウプログレスの産業資材織物などは国内外へ広く販売する体制が整いました。このため従来の商品別から顧客別対応に営業体制も変更しました。また、大和紡績香港に1人、インドネシア子会社に2人、技術の分かる営業担当者を置いていますから、国内生産品とインドネシア子会社であるダイワボウ・インダストリアルファブリックス・インドネシア(DII)、ダイワボウ・シーテック・インドネシア(DSI)の生産品を一緒になって販売していくことになります。

  ――17年度の課題と重点戦略は何でしょうか。

 繊維事業の共通戦略は、やはり海外市場の開拓になります。しかし、現在は全てを自前主義でやれるような時代ではありません。そこで製販ともに、いかにグローバルアライアンスを組んでいくのかが重要になります。これを繊維セグメントとして一体的に実行しなければなりません。そして、事業会社の連携も部門ごとに行うのではなく、繊維セグメントとしの利益を考えた形で行わなければなりません。そうなれば、アライアンスのための投資のやり方も変わってくるでしょう。

 17年度は3カ年中期経営計画の最終年度です。その目標を達成した上で、次期中計では繊維セグメントとしてさまざまな投資を行うことが必要になるでしょう。例えばアライアンスのために異なる部門の事業会社が共同出資するようなケースもあるかもしれません。そういった次のステップに向けた基盤作りも17年に実行しようと考えています。

 もんぜん・ひでき 1974年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2003年取締役、09年常務執行役員、10年取締役常務執行役員、16年取締役専務執行役員。

〈思い出の味/思い出は“味”よりも“人”〉

 「食事の思い出はたくさんあるのだけれど、何を食べたのか、どんな味だったのかは一向に思い出せない」という門前さん。その代わり、誰と一緒だったのか、何を話したのかははっきりとに覚えているケースが多いとか。「結局、『食事』よりも人との『会話』の方が好きなんでしょうね。ついつい食べることよりも議論に夢中になってしまう。だから、何を食べたのか、どんな味だったのかは忘れても、交わした議論の中身はいつまでも鮮明に覚えています」と笑う。門前さんにとって思い出は“味”よりも“人”であり、思い出の味は、その時に交わした議論の味ということなのだろう。