第一紡績 創業70周年/先進国型繊維産業の可能性を追求/九州・荒尾事業所

2017年05月29日 (月曜日)

 第一紡績は今年2017年、創業70周年を迎えた。70年に渡って同社の繊維事業とモノ作りの力の源泉であり続けたのが、創業の地であり、現在は本社も置く九州・荒尾事業所(熊本県荒尾市)である。紡績、編み立て、染色加工、縫製までの一貫生産機能を持つ工場としては国内唯一の存在である。結束紡績や特殊仕上げ加工など独自性のある技術を生かし、先進国型繊維産業として国内生産の可能性をこれからも追求する。

〈紡績工場/多彩な設備で個性的糸作り〉

 第一紡績のモノ作りの特徴の一つが、荒尾事業所の紡績工場が保有する多彩な紡績設備である。通常のリング精紡機のほか、村田機械と協力して結束紡績や渦流紡績といった革新精紡機をいち早く導入し、革新精紡機を活用した糸開発のパイオニア的存在であり続けた。現在でも「MJS」「IFS」そして「ボルテックス」精紡機に独自の工夫を加えた「IPX」という異なる革新精紡機を保有する。

 こうした設備が、これまで多彩な差別化糸を生み出してきた。MJSによって開発した吸汗速乾・ドライタッチ綿糸「ASA」、今や世界に数台しかないIFSで生産するフィラメントライクでハリコシ感とドライタッチに優れる「クリアーコット」、IPXが生み出した抗ピリング性とドライタッチが特徴の「タフコット」と綿ライクで抗ピリング性に優れるポリエステル紡績糸「ドライ―X」などだ。さらにIPXには長短複合装置も搭載されており、さまざまな素材組み合わせが可能な長短複合糸「センターアイランド」シリーズも生み出した。

 第一紡績の紡績工場の強みは充実した紡績準備工程にもある。カード機、コーマ機の多くのラインがあり、それぞれを原料に応じて使い分けている。さらに練条機のスペースも精紡能力と比較して大きい。このため綿糸だけでなく合繊紡績糸、各種混紡糸など多彩なラインアップを可能にし、小ロット生産にも対応している。特に革新精紡はスライバ―を直接紡績するため、スライバ―品質の確保が極めて重要になる。ここにも第一紡績のノウハウが隠されている。

〈ニット工場/貴重な小寸ベア天竺編み機も〉

 結束紡績など革新精紡機で生産した糸は、通常のリング紡績糸と特性が異なる。このため実際に編み地にし、染色加工することで本当の評価ができると言える。第一紡績は自社に編み立てと染色加工工程を持つため、この点でも強みを発揮できる。

 現在、荒尾事業所のニット工場には各種組織の丸編み機を保有する。最新鋭の丸編み機のほか、小寸ベア天竺編み機も保有している。小寸編み機で編み上げたニット生地は、開反せずに使うことで肌着の胴部分などをシームレスにできるため根強いニーズがあるが、最近では編み機メーカーも新たな機種を開発していないことから、その希少性は高い。

 紡績が自家工場に編み立て工程を持つ優位性は生産能力以外にある。それは、編み立ての技術的ノウハウを開発・蓄積できることである。

 特に結束紡績糸は通常のリング紡績糸と糸特性が異なる。このため結束紡績糸の編み立てには独特のノウハウが必要。こうしたノウハウを第一紡績は自社で蓄積してきた。このノウハウはニット生地の自家生産だけでなく原糸販売でも生かされている。原糸の供給先であるニッターやコンバーターに対して編み立てのノウハウを提供するケースもあるからだ。

 紡績と編み立て工程が相乗効果を発揮しているのが第一紡績の強みの一つと言えるだろう。

〈染色加工場/独自の漂白や仕上げ加工に強み〉

 染色加工工程もまた第一紡績が競争力を発揮してきた分野である。現在、常圧液流染色機と高圧染色機を保有するほか、独自の漂白設備と仕上げ加工設備への注目が高まっている。

 繊維業界では以前から“白の奇麗さがイチボウのニット生地の特長”と言われてきた。これを実現してきたのが漂白工程である。通常の酸化系漂白のほか、塩素系漂白の設備も保有する。現在、日本国内で塩素系漂白をやれるところはほとんどないと言われる。酸化性漂白と比較して塩素系漂白は、やはり白の奇麗さがひと味もふた味も違うと言うのが関係者の評価だ。

 もう一つ第一紡績の染色加工の強みとして挙げることができるのが、独自の仕上げ加工「CF加工」だろう。ニット生地を未開反のままアルカリ処理することで光沢を出しながら、ソフトさも維持する。通常、光沢を出すためにアルカリ処理する場合はカセイソーダによるマーセライズ加工が一般的だが、この場合はどうしても風合いが硬化しやすい。これに対してCF加工は特殊なアルカリ溶液を使用し、さらに反応速度などを独自ノウハウで制御することにより綿のソフトさを残しながら光沢を付与することに成功した。加工機も特注品である。現在、CF加工は「ピュアブリーズ」の名前で打ち出す。

 そのほかにも二つのシリンダーの回転差で防縮仕上げを施す仕上げ機や小寸編み地を未開反で仕上げる専用セッターなどユニークな設備も揃える。特に小寸編み地用のセッターは第一紡績で独自に開発・改良したものだ。

 第一紡績は自社で販売するニット生地のほか、双日ファッションの備蓄販売生地「VANCET」ニットの生産も担ってきた。その意味で双日グループの繊維事業の中でも大きな役割を担ってきたと言えるだろう。

〈縫製工場/注目高まる「荒尾の和糸」〉

 荒尾事業所は小規模ながら縫製工場を持つ。隣接する染色工場から運び込まれたニット生地を自家で縫製することが可能だ。ニット生地は縫製段階で初めて問題点が明らかになるケースも多く、その意味で、やはりニット生地の編み立て。染色加工との相乗効果も大きい。

 こうした強みを生かしながら生み出された商品の代表が自社ブランドの高級肌着「荒尾の和糸」である。糸から縫製までこだわったモノ作りは、九州・荒尾の地で生産されているというストーリー性も含めて人気を集めており、百貨店を中心に販路が広がってきた。当初は紳士肌着だけだったラインアップも婦人肌着にまで拡大し、さらに若者向けにアウターとしても着用できるTシャツタイプを「WAITO」ブランドとして打ち出した。そのほかにも防寒ウエア「ヌッカ」など自社ブランド製品の拡大が進められている。

 荒尾事業所は70年に渡って第一紡績のモノ作りを支えてきた。だが、その役割は今後、ますます大きくなるだろう。消費構造が大きく変化し、合わせて流通構造も激変する現代。消費者が求めているのは“モノ”ではなく“コト”であると指摘されて久しい。そのニーズに応えるためには商品の背景となるストーリーが必要だ。九州・荒尾の地でモノ作りを続けてきた証である荒尾事業所の存在は、地域社会と共存しながら付加価値を生み出すという先進国型繊維企業としての可能性を追求し続けている。

〈第一紡績 社長 乾 義和 氏/挑戦し続けることを忘れない〉

 第一紡績は1947年に熊本県荒尾市に産声を上げ、70年の歴史を迎えることができました。創業以来、時には存亡の危機に見舞われることもありましたが、他とは違うことに挑戦することで新しい価値を生み、環境や社会に貢献をしてきました。

 当社はモノ作りの基本理念として「心・思・愛」を掲げています。「人と地球に優しく、生活に潤いをつくる」をモットーとして、21世紀の企業のあるべき姿に「心」を留め、人と地球の未来に「思い」をはせ、本当の豊かさを追求するため常に「愛」という初心に帰るというものです。この精神を基本に今後も繊維事業は「紡績屋」から「総合繊維メーカー」へ発展し、皆さまにより安心して喜ばれる商品作りに挑戦します。今後も「挑戦し続けることを忘れない」第一紡績グループにご期待ください。

〈トピックス/テキスタイルスクールも開講〉

 第一紡績は春と秋の年2回、荒尾事業所で「イチボウテキスタイルスクール」を開講している。繊維業界の様々な分野の人が参加し、綿花から縫製までの一貫工場で講義と工場実習を行い、最後には受講者全員がオリジナルタンクトップを作成する。繊維のモノ作りの実際を体験できる貴重なスクールとして参加者も増加している。第一紡績ではこうした取り組みで繊維業界全体の底上げにも貢献することを目指している。