東レ/ライフイノベーション事業拡大プロジェクト/社会に貢献する製品・技術力
2017年06月19日 (月曜日)
日本発の革新的な医薬品・医療機器などの創出によって、健康長寿社会の実現と国際競争力強化による経済成長への寄与を図る「ライフイノベーション」。そのライフイノベーションをグループにおける重点事業の一つに位置付けているのが東レだ。2014年度に本格的なスタートを切り、3年間で2千億円規模にまで拡大を見せた同事業。今後も「東レだからこそできる」製品・技術や事業の創出に継続して取り組み、社会的課題の解決への貢献を目指す。
2019年度を最終とする3カ年の中期経営課題「プロジェクト AP―G 2019」を推進中の東レ。
長期経営ビジョン「AP―Growth TORAY 2020」(ビジョン2020)達成への総仕上げとも言える現中経で、成長分野の一つとして全社横断で取り組んでいるのがライフイノベーション事業拡大(LI)プロジェクトになる。
LIプロジェクトは、前中経「プロジェクト AP―G 2016」において、従来の基本戦略に加わる新たな視点としてスタートしたもの。
「先端材料のLI展開」「医薬・医療」の二つを柱に、13年度に1196億円だったライフイノベーション分野の売り上げ規模を、中経最終年度の16年度に1700億円に高めることを目標とした。
〈先端材料でライバルに差〉
ライフイノベーションは注目領域であり、キーワードとする企業も多い。同社ライフイノベーション事業戦略推進室の松村一也室長は「医療の質の向上や健康長寿に資するという目的は同じでも、先端材料・先端技術を活用できることが東レの強み」とし、「大手製薬企業や大手医療機器メーカーとは一線を画した化学メーカーとしてのライフイノベーションを進めている」と強調した。
先端材料のLI展開では、衛材用PPスパンボンドや病院用衣料、家庭用浄水器、エアフィルターなどの商材を「病院向け資材・システム」「先進診断装置・部材」「ヘルスケア衣料・製品」に積極展開。医薬・医療事業の拡大では領域を重点化して既存事業の拡大と新製品の創出を進めると同時に、先制医療関連の事業開発を加速している。
同社が有している特徴ある素材を見ると、機能性繊維・テキスタイル、極細繊維・ナノファイバー、炭素繊維複合材料、微多孔フィルム、微粒子、ナノアロイ、高機能性樹脂などが挙げられる。これらをヘルスケア製品、メディカル用途製品、メディカル製品材料・部材(医薬品医療機器等法対象分野)に投入する。
具体的には、クリーニングクロス「トレシー」で、内視鏡や腹腔鏡のレンズ拭き、病院内の医療機器細部の清拭、細菌ウイルス対策として薬剤との併用をはじめとする医療用途での展開が図られている。炭素繊維複合材料では、エックス線CT装置への適用や福祉用具(車いすや義足)などへの適用が進んでいる。
事業拡大・開発加速・新事業発掘については、戦略的パートナーとの連携推進による拡大、医療クラスターへの参画による医療ニーズの取り込み(神戸医療産業都市、米国ミネソタ州への拠点設置)が重点になる。新事業の創出では、患者用ケアウエア、防護服・感染対策、センシングウエア、先制医療、機能性補助器具などをポイントに取り組んだ。
その中から登場したものでは、乳がん患者向けケアウエア「ハグフィット(HugFit)」、安全性と快適性(暑さ、蒸れの抑制)を両立した感染対策衣などが挙げられ、これらは繊維の技術が用いられている。そのほか、センシングウエアの「ヒトエ」、先制医療に寄与する高感度新型DNAチップなども生み出された。
13年度約1200億円だったLIプロジェクトは、スタート初年度の14年度は1422億円、15年度1569億円と順調に拡大し、中径最終年度となった16年度は当初目標の1700億円を大きく上回る2千億円に達した。松村室長は「衛材用PPスパンボンドや病院用衣料など既存LI分野の拡大もあるが、新商材の開発・展開も順調だった」と説明する。
〈将来展望へ重要な3年〉
現中経でもLIプロジェクトは、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決を通じて社会に貢献するグリーンイノベーション事業拡大(GR)プロジェクトとともに重点が置かれている。現中経では17年度以降、3年間合計で2200億円規模の研究開発費の投入が計画されているが、その4分の1をライフイノベーション関連の研究・技術開発に充てる。
LIプロジェクトのこの3年間は年率で約10%の拡大を図り、最終19年度の売上高は2700億円(全社売上高に占める割合は10%)に到達させる。
20年度近傍を見据えた長期経営ビジョンでは、3千億円(全社の売上高は3兆円)を掲げており、それを達成するための大事な3年間になるとしている。
松村室長は「チャレンジングな目標だが、14年度からの実績を考えると超過達成も十分可能」とし、「これまでにはない製品の開発・上市はもちろん、欧米や中国、ASEAN地域など海外への展開も加速していく」と話した。さらに「ライバルは多く、競争は激化すると予想している。“東レならでは”の強みを前面に競争に打ち勝つ」と力を込めた。
〈健康・長寿を支える〉
東レは今春、ギニア共和国に感染対策衣を1万着寄贈した。「リブモア」と名付けられた、この感染対策衣はLIプロジェクトから生まれたもので、不織布とフィルムの融合による新たな価値(製品)と言える。ライフイノベーション事業戦略推進室の松村室長は「健康・長寿に貢献する製品はこれからもまだまだ出てくる」と強調する。
リブモア(LIVMOA)は、防護服の基材(中間層)に高機能防水・透湿フィルムを用いた多層構成で、安全性と快適性を両立した。ギニア共和国への寄贈は、エボラウイルス病のアウトブレイクを経験した同国の保健省からの要請に応えたもの。日本では高通気タイプの「LIVMOA3000シリーズ」を6月に発売した。
リブモア以外でもLIプロジェクトからはさまざまな製品が誕生している。その一つが乳がんの患者が治療中にも快適に着用できるハーフトップ「ハグフィット」(乳がん患者向けケアウエア)だ。体に優しくフィットするほか、バストを優しくホールドする。皮膚への刺激も極力低減が図られている。
全国数十の病院で販売(東レ・メディカルを通じて)されているほか、東レグループの公式通販サイトでも取り扱う。病院内でのモニター評価などでは「柔らかい素材が使われていてありがたい」といった反応が返ってきている。また、ファッション性が加味されたケアウエアによって精神面での負担軽減にもつながっているという。
そのほかのメディカル関連では、高感度新型DNAチップの開発を推進。医療の現場では先制医療(早く見つけて、優しく治す)が重要視されており、同製品がその一助となる。スポーツ用途で先行しているセンシングウエア「ヒトエ」では、バイタルサイン計測の広がりに期待がかけられている。
〈繊維の出番増える可能性〉
松村室長は「LIプロジェクトは社長直轄の組織であり、全社横断的な取り組みが可能なことが強み。このため、メディカル関連でも疾病そのものへのアプローチだけでなく、先制医療を含めた予防から治療、そしてケアまでトータルで対応できる」とし、さらに「メディカルだけでなく、ヘルスケアも対応領域になるのが特徴」と述べた。
LIプロジェクトの売上高は、この数年間で順調に拡大してきたが、20年近傍に向けて、さらなる大きな目標(3千億円)を掲げている。前中経(プロジェクト AP―G 2016)では既存LI分野が成長の原動力になった部分も少なくないが、「現中経で上市する製品は多く、今後は新開発品との双方で成長を引っ張る。繊維の活躍も増える」(松村室長)と強調した。




