特集 環境新書/素材からソリューションまで/有力企業の環境戦略(1)

2017年06月15日 (木曜日)

 いまや企業活動にとって欠くことのできないファクターとなった“環境”。繊維企業も例外ではない。環境に配慮した素材提案から、環境負荷を低減する生産プロセスの革新、そして環境問題を解決するソリューションまで、その内容は多様化・高度化している。ここでは、有力繊維企業の環境戦略について紹介する。

〈国際認証取得で信頼感/「ベンベルグ」「ロイカ」ともに/旭化成〉

 旭化成はキュプラ繊維「ベンベルグ」、“プレミアムストレッチファイバー”として打ち出すポリウレタン弾性糸「ロイカ」ともに環境負荷低減などに関する国際的な認証の取得を進めている。欧米のスポーツや有名ブランドを中心に環境配慮素材へのニーズが高まる中、第三者による認証で信頼性を強化し、採用を拡大している。

 ベンベルグは今年、テキスタイル・エクスチェンジのGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証を取得した。GRS認証はリサイクル材料の量やトレーサビリティーを公的に裏付ける認証プログラム。今回の認証では繊維として本来使用されないコットンリンターを100%原料とし、化学薬品の管理や環境に配慮した生産技術が整ったベンベルグの特徴が評価された。

 旭化成ではベンベルグをアウター、民族衣装、裏地、インナーの重点4分野への提案を進めている。しかし、スポーツアウターやインナー用途では機能性の面でどうしても合繊との競合で劣勢になりやすい。このためセルロース繊維の強みである環境への優しさを打ち出すことで存在感を発揮する戦略である。

 一方、ロイカも2016年に生産工程で発生する不使用糸などを再処理して生産する「ロイカEF」でGRS認証を取得した。ポリウレタン弾性糸でGSR認証を取得しているのは世界でロイカEFが唯一。このため世界的にも注目されている。旭化成スパンデックスヨーロッパが生産する染色時に洗浄などの水使用量を削減できるエステル系スパンデックス「ロイカV550」もある。こちらも現在、持続可能な環境配慮型デザインなどの認証「クレードル・トゥ・クレードル」の取得を進めている。スパンデックスは従来、環境配慮商品の原料として適さないと考えられてきた。旭化成の取り組みはこうした既成概念を覆すものになると言える。

〈バイオ原料PET普及へ/緑化プロジェクトにも参加/東レ〉

 地球環境や資源・エネルギー問題に対してソリューションを提供する「グリーンイノベーション(GR)事業」を推進している東レ。繊維分野でも、その活動への注目が高まっている。特に期待が大きいのが開発を進めている完全バイオマス原料ポリエステル(PET)である。

 東レのGR事業は、省エネルギー・新エネルギー、バイオマス原料、水処理、空気清浄、環境負荷低減、リサイクルといった課題に対してグループの総力を結集してソリューションを提供することを目指している。

 繊維分野でも省エネとして保温・涼感素材の提案を進め、環境負荷低減としてフッ素フリー加工やノンハロゲン、溶剤使用量削減など生産プロセスの革新を実行してきた。こうした中、注目が高まっているのがバイオマス原料PET。

 PETは高純度テレフタル酸(PTA)とエチレングリコール(EG)を重合して生産する。このうちEGをバイオマス原料由来に転換することを進めている。さらにPTAも植物由来とする100%バイオマス原料PETの開発にも取り組んでおり、今年からパイロットプラントでの生産が始まる。既に自動車関連やスポーツ、ユニフォーム分野などで関心が寄せられている。

 バイオマス関連ではポリ乳酸(PLA)繊維を活用した砂漠緑化プロジェクトにも参加する。南アフリカでは金鉱山跡の残土による砂漠化が問題となっているが、ここに東レとミツカワ(福井県越前市)が開発したPLA繊維製ロールプランターを使い、点滴灌漑法で緑化を目指すものだ。PLAの生分解性と高耐候性を生かす。作物もバイオ燃料用作物の栽培を提案しており、緑化だけでなくアフリカの農業生産性向上にも貢献することを目指している。

〈用途広がる「テンセル」/レンチングの環境戦略と連携/双日〉

 レンチングの精製セルロース繊維「テンセル」を輸入販売する双日。環境に優しい繊維としての特徴を打ち出し、レンチングの環境戦略とも連携しながら用途開拓に取り組む。

 テンセルは木材を原料とする植物由来のセルロース繊維であり、レンチング社の生産設備は完全循環型のため製造に用いる溶剤は99%回収・再利用できる。このため環境への負荷を最小限に抑えたセルロース繊維の代表格である。

 衣料はもとより寝具寝装、資材など幅広い分野で活用されているが、最近ではフェースマスク、制汗シートなど不織布製品向けへの販売が拡大した。レーヨンと競合する分野だが、テンセルの低環境負荷、さらに物性面での優位性が評価されている。

 このため双日では不織布用途を中心にテンセルの用途開拓を進める。例えば赤ちゃんのおしり拭きなどウエットティッシュ用途はレーヨンスパンレースが高いシェアも持つ用途だが、ここでもテンセルの物性などを生かした用途開拓を目指す。

 そのためにも製造元であるレンチングとの連携も欠かせない。レンチングはこのほど新たな環境戦略を打ち出した。5月にはレンチングのサスティナブル・チームが来日。双日ともワークショップを実施した。こうした取り組みを含めてレンチングの環境戦略とも連携しながらテンセルの提案を進める。

〈物性生かす用途展開/生分解性へのニーズ高まる/ユニチカ〉

 ユニチカは植物由来原料のポリ乳酸(PLA)繊維「テラマック」を早くから実用化している。バイオマス原料由来の樹脂・繊維であり、生分解性へのニーズは徐々に高まってきた。ポリエステルなどとは異なる物性を持つことから、その物性を生かした用途の開拓を進める。

 PLA繊維の最大の特徴は生分解性。この特徴を生かし現在、テラマックは繊維分野での活用が中心となっている。特に根強い人気を維持しているのがティーバッグ用モノフィラメントメッシュ織物であり、欧州市場での販売が多い。欧州ではコンポスト(堆肥)の普及率が高いため、使用済み茶葉をテラマック製ティーバッグに入れたままコンポスト製造容器に投入できることが評価されている。同様に土木資材でも生分解性はメリットとなる。テラマック製不織布による防草シートは、土中に放置するだけで最終的に分解される。

 生分解性以外の物性への評価も徐々に高まってきた。例えばボディータオル用途での販売がジワジワと伸びている。ナイロンなどに比べると風合いがソフトであり、肌当たりの良い点が評価された。融点の低さが生きる用途として注目なのが3Dプリンター用フィラメントだろう。溶融時に臭気が発生しない点も他の合成樹脂と比べて評価される点である。

 このためユニチカではテラマックの物性が生きる用途開拓を進める。特に欧州では合成樹脂を環境負荷の面から忌避する傾向が強まっている。自然界に流出する人工的な高分子のリスクが無視できないという考え方も強まっている。こうしたリスクに対してテラマックの生分解性という特徴は一つの対応策としてますます注目が高まる可能性を秘めている。

〈実力秘める「エコトーク」/素材制限なくリサイクル/クラレトレーディング〉

 繊維は工業製品の中で最もリサイクルが遅れている分野である。その理由の一つが、さまざまな素材が複合して使われており、その分別・回収が難しいことがある。この課題に答える実力を秘めているのがクラレトレーディングの「エコトーク」ケミカルリサイクルである。

 エコトークのケミカルリサイクルは、クラレトレーディングと新日鐵住金が共同で実施しているもの。環境省の広域認定も取得している。クラレトレーディングが回収した使用済み繊維製品を破砕した後、新日鐵住金の君津製鉄所のコークス炉で「コークス炉化学原料化法」によって炭化水素油、コークス、コークス炉ガスなどに分解して再利用する仕組み。

 最大の特徴は、繊維製品の素材や副資材に合成繊維・合成樹脂が含まれていれば素材混率などに制限されずケミカルリサイクルが可能な点。処理過程や処理後に廃棄物もほとんど出ない。このため繊維製品のケミカルリサイクルの方法として極めて効率的なのである。もちろん対象製品は「エコマーク」にも対応している。

 現在、エコトークのケミカルリサイクルシステムには学販体育やユニフォームを中心に数社が参加している。まだまだ参加企業数は少ないものの、クラレトレーディングではシステムのポテンシャルを打ち出しながら、拡大を進める考えという。

 クラレトレーディングはケミカルリサイクルのほか、低温染色可能なポリエステル繊維「ピュアス」など環境配慮型商品のラインアップも充実させてきた。注目度が高まるバイオマス原料ポリエステルの準備も進めている。環境配慮に焦点を当てた幅広い選択肢を提供し続ける考えを示している。

〈地下水飲料化の先駆者/持続可能な街作りに貢献/ウェルシィ〉

 三菱ケミカルグループのウェルシィ(東京都品川区)は、地下水膜ろ過システムの製造・販売などを手掛ける企業。地下水飲料化業界をリードする先駆者として、持続可能な街作りを支えてきた。国内での事業展開を主体とし、導入実績は1197件(2017年4月末時点)を誇る。

 同社のシステムは、高度な膜ろ過処理によって地下水を安全・安心な飲料水に変える分散型給水システム。災害時に、給水ライン確保によって事業継続性を高めるほか、断水時の水の提供で地域住民に貢献できる。上水道料金削減という経済性、環境保全などもメリットとなる。遠隔監視も実現している。

 災害に対する強さは大きな特徴で、東日本大震災や16年4月の熊本地震では、公共水道が断水した中で全システムが稼働した。

 熊本地震の際は、病院の災害時用蛇口を通じて近隣住民らに水が無償提供された。これらは高く評価され、納入先と地元自治体などが締結した災害協定は29に上る。

 同社は、三菱ケミカルホールディングスと共に、第4回プラチナ大賞(プラチナ構想ネットワークなど主催)で「地下水膜ろ過システムによる国内外の持続可能なまちづくりへの貢献」で優秀賞を受賞した。レジリエンスジャパン推進協議会の国土強靭化貢献団体認証(レジリエンス認証)も地下水飲料化事業として初めて取得している。

 海外では、ケニア・ナイロビ近郊のルイル市内で現地の水道公社との連携による実証試験を終え、400世帯(約千人)に安全な水を供給するに至る。宮田栄二社長は「ケニアで小学生ぐらいの少女が川の水をくんでいる光景を見た時に何とかしたいと思った。まだ千人に水を供給しているだけ。もっと広げていきたい」と話した。

 そのほか、ミャンマーでも事業を開始する計画で、「現地のエンジニアリング企業と合弁会社を設立して、水道水の水質分析事業を7月にもスタート」(宮田社長)する。その後は、飲料化装置の設計・製造や河川の環境モニタリングなども展開したいとしている。

〈光発熱素材 スポーツに/ロス低減で環境に優しく/セーレン〉

 セーレンが18秋冬物からスポーツ市場に投入する光発熱素材「ヒートポイント」は、特殊樹脂と「レジスタック」手法の応用から生まれた機能マテリアル。赤外線吸収による高い発熱性能を有しているが、必要な部位に必要なだけ利用できることも特徴とする。無駄が排除でき、それだけ環境にも優しいと言える。

 同素材は、赤外線を吸収して発熱する機能性微粒子を複合した特殊樹脂シート。独自の手法によって自在な柄表現を可能にしているほか、樹脂は柔軟性に優れているため着用時の不快感や運動時の違和感を抑制する。一般のポリエステル生地と比べて生地の表面温度が約2℃高くなり、低温環境シーンでも衣服内を暖かく快適に保つ。

 特殊樹脂シートであるため、生地の全てに使用することなく、例えば肩部や背中部など必要な部位にピンポイントで活用できる。ロゴマークなど顧客の要望に応じた意匠表現も可能だ。同社は「ロスや無駄が少なくなり、環境負荷低減につながる」と話し、スポーツウエア用途を中心に積極提案を図っていく。

 そのほか、同社が展開する環境対応商材では、デジタルプロダクションシステム「ビスコテックス」が挙げられる。自社開発のインクジェットプリンターを核に全工程をITで制御することで、企画から製造までの短納期化を可能にしたほか、多品種・小ロット・在庫レス生産を実現した。

 そのビスコテックスを応用したのが、パーソナルオーダーブランド「ビスコテックス メイクユアブランド」。型や柄、色、サイズを自由に組み合わせることができ、自分だけのお気に入りの1着を作れるのが魅力の一つとなる。環境負荷低減につながるものとしての注目度も高い。

〈繊維応用でクールルーフ/保水性コンクリート板を開発/東洋紡STC〉

 先進国では都市部を中心にコンクリート・アスファルト建造物増加によるヒートアイランド現象が大きな問題となっている。これを解決する建材として東洋紡STCの東京工業材料グループが開発したのが保水性コンクリート板。繊維を応用することで室内温度を下げるクールルーフを可能にする。

 ヒートアイランド現象は室内温度を上昇させ、結果として冷房による電力消費と二酸化炭素排出量を増加させることから大きな問題となる。このため建物屋上をクールルーフ化することで室内温度を下げる必要がある。そのため屋根に遮熱性の高反射塗料を塗る方法が一般的だが、反射した熱が外部に放出されることや性能の持続性の面で課題がある。一方、屋上緑化は効果的な方法だが、コストが高く、メンテナンスも必要なため普及のハードルは高い。

 この問題に取り組んだのが、東洋紡STCが開発した保水性コンクリート板。コンクリートに無機繊維を複合することでコンクリート内部に給水チャネルと保水スペースを作り出した。保水した水が日射で蒸発することにより蒸発潜熱で材料表面温度が低下する冷輻射効果を発現させる。

 これを仕上げ材として屋根に設置することで、屋上緑化と同様のクールルーフ化が可能になる。保水性に富むため、屋上緑化のような頻繁な給水も必要なく、メンテナンス性が高い。実験では未加工屋根と比較して空調の電力消費による二酸化炭素排出量を約40%削減する効果を確認した。家庭だけでなく工場建屋などに使用することで作業環境の改善にも効果を発揮する。

 現在、歩行可能な陸屋根用のGタイプと金属屋根に設置するWタイプをラインアップしている。施工を含め専門業者を通じてテスト販売を始めている。

〈シンク・エコが起点/商材、取り組みを浸透させる/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは環境活動方針として「THINK ECO(シンク・エコ)」を掲げ、地球環境への負荷低減貢献するビジネスを展開しており①リサイクル②バイオ由来③省エネ④オーガニック⑤環境負荷物質の低減⑥有害化学物質の仕様削減――に続き、「気候変動への適応」も注力課題に加えた。

 リサイクルではPETボトルのほか繊維、フィルムなどポリエステル製品を分解・精製し、繊維に再生する「エコPET」「エコPETプラス」を広げている。

 バイオ由来はサトウキビ由来のエチレングリコールを使った「プラントペット」をユニフォーム用で訴求しているほか、部分バイオのポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」もファッション衣料向け戦略素材と位置付ける。

 環境負荷物質の低減では、産業資材分野の取り組みが課題となる。エアフィルター、水処理フィルターなどの商材を、今後に向けて環境規制強化が見込まれる新興国の要望に対応させて行く考えだ。

 有害物質の使用削減で代表的な取り組みの一つと言えるのがフッ素フリーの耐久撥水(はっすい)素材の展開だ。欧米の顧客が全面的にフッ素系撥水剤の使用を取りやめるロードマップを掲げ、国内でもこうした流れがスピードアップして波及していくとみる。素材供給や製品OEM/ODMで、海外収益拡大が欠かせなくなる中、同社としても早急な対応が必要となっている。

 7番目の課題とした「気候変動への適応」は、温暖化の進行に伴う健康被害や自然災害に備えるもの。機能素材やオーガニック素材、産業資材のアプリケーション開発を、省エネへの貢献や環境負荷低減だけでなく、快適・防災に貢献する適応型製品としての切り口で提案し、シンク・エコを通じた事業拡大につなげる。