特集 環境新書/素材からソリューションまで/有力企業の環境戦略(2)

2017年06月15日 (木曜日)

〈「ループラス」展開開始/一歩先のゼロエミッション/クラボウ〉

 クラボウの繊維事業部は、縫製工程で発生する“裁断くず”を資源として利用する「ループラス」の展開を6月に始めている。長年にわたって積み重ねてきた開繊・反毛のノウハウに、紡績や編織そして染色・加工の技術を組み合わせることで衣料品などへの再利用を可能にした。取引先であるアパレルやSPAなどからパートナーを募る。

 ループラスは、「“もったいない”から生まれた“もっといい”」をコンセプトにしたサステナブルな取り組みと、そこから生まれる繊維製品や紙製品、プラスチック製品の総称。使用生地量に対して10~20%発生(アイテムなどで異なる)する裁断くずの活用で、金属やプラスチックと比べ低いといわれる繊維のリサイクル率向上に貢献する。

 具体的には、裁断くずを縫製工程との連携により同じ組成や色に分別して集め、さまざまな繊維製品の原材料として再資源化し、衣料品をはじめとする身近なファッションアイテムによみがえらせる。反毛は海外の協力工場で行い、国内の自家工場で紡績する。将来は「日本を含めた適地で反毛も手掛けていきたい」(クラボウ)という。

 反毛・繊維製品へのリサイクルは珍しい取り組みとは言えないが、「クラボウの場合は、反毛の時に長い繊維を取り出す技術を有しており、さまざまな糸を紡績することができる。このため、付加価値の高いファッション衣料への応用が可能」(クラボウ)と、他との違いを語った。

 スタートは綿100%となり、バージンコットンと複合するが、将来はポリエステル綿混生地にも対応する。さらに、できる限り裁断くずの再資源化を図りたいとし、紡績が難しいような短い繊維については、紙製品やプラスチック製品の原材料として活用する。

〈身近な繊維から始めよう/「エコフレンド」を提案/ダイワボウノイ〉

 ダイワボウノイは2008年から、エコ関連素材戦略「エコフレンド」プロジェクトを推進している。環境や安心・安全のために「エコ」「省エネルギー」「安全・安心」「人と地球に優しい」の四つのテーマで素材開発を行ってきた。「持続可能な社会を作るためには、一人一人ができることから取り組むことが大切。そこで、まず身近な繊維製品から始めよう」という提案だ。

 エコフレンドプロジェクトから生まれた人気商品の一つが、5、6年前に発売した、ソイルリリース性を持つ綿素材「エコリリースW」。薬剤に頼らず、綿の持つ潜在能力を引き出すことで皮脂汚れなどを自ら追い出す力を生地に与えた。生地に付着した皮脂汚れは、水に浸すだけで取れる。洗濯時の洗剤使用量は従来の半分でも十分だという。綿本来の吸水性、拡散性も向上する。

 綿はセルロース繊維であるが、実は不純成分も含んでいる。同社は、特許技術でこの不純成分を丁寧に除去し、皮脂汚れなどを自らの力で追い出す力を引き出し、エコリリースWを商品化した。薬剤の使用は、必要最低限にとどめている。精練、晒し、染色、仕上げの各工程で、ソイルリリース性を阻害する成分を丁寧に取り除いた。

 日本では、インナーや寝具カバー素材として好評を得ている。香港へも提案しており、インナーやTシャツ素材としての関心が高まっているという。

 ポリエステル高率混生地の防汚加工として「ミラクルリリースW」も展開している。これは、「SEK」の防汚加工認証第一号となった。ケチャップ、ミートソース、ワイン、コーヒーなどの食品油汚れにも効果がある。シャツ素材の加工などに用いられている。

〈優しいレーヨン追い求める/練り込み技術で機能付与/オーミケンシ〉

 平和を願って日本をはじめ世界中から広島に届けられる折り鶴。オーミケンシは、その一部をレーヨンとして再生している。人と暮らしと地球に優しい、エコロジー・クリーン・ファイバー(ECF)としてのレーヨンの可能性を追求している同社らしい取り組みだと言えるだろう。

 ECFとしてのレーヨンの可能性追求の原点とも言えるのは、20年ほど前に開発した「クラビオン」だ。廃棄されていたカニ殻から、優れた抗菌効果を持つキチン・キトサンを抽出し、レーヨンに練り込むことで、抗菌防臭性、消臭性などを備える繊維、クラビオンを開発した。この開発で1997年に、リサイクル推進協議会のリサイクル推進功労者等表彰事業で、通商産業大臣賞を受賞した。

 クラビオンの開発を皮切りにさまざまな練り込みレーヨンを商品化。アンチエイジング効果のある白金(プラチナ)ナノコロイドを練り込んだ「プラチナレーヨン」、保湿性のある椿オイルを練り込んだ「紅椿」など、コスメティックを意識したレーヨンもそろえている。両レーヨンは、フェースマスクなど、不織布用途への需要の広がりが期待されている。

 生活環境の変化に対応するための開発にも力を入れている。生地への後加工技術としては、部屋干し臭対策の「インドアフレッシュ」や、花粉や黄砂、PM2・5など微小粒子物質の付着を抑制する「ダストブロック」を既に商品化している。練り込み技術を駆使して、抗アレルゲンや、防ダニ性などをレーヨンに付与するための研究も現在進めている。

 可食セルロースも開発した。無味無臭が特徴で、ネットでの販売拡大を狙っている。味を付けたタイプの発売も予定しているという。

〈多彩なオーガニック綿糸/「GOTS」認証も取得/大正紡績〉

 大正紡績は、さまざまな国のオーガニックコットン使いの糸を、トレーサビリティーを確保できる形で展開している。全ての糸について、オーガニック繊維製品の世界基準である「GOTS」の認証も得ている。

 同社が展開しているオーガニックコットンは、米国産をはじめ、インド、トルコ、エジプト、ウガンダ、ペルー産など多彩だ。米国では、高級綿として有名な「シーアイランドコットン」をルーツとする超長綿を、メキシコ州の契約農場でオーガニックコットンとして栽培。「アルティメイトピマ」と名付け、糸として展開している。

 アルティメイトピマは、超長綿であることに加え、昼夜の寒暖差が30℃もある標高1200メートルの高地で栽培されているため、中空率が高く、ハリとコシの表現に適する。

 欧州の著名ブランドが、極細番手の同糸をストールに3年連続で採用するなど、「従来のオーガニックコットンとは一線を画した」(同社)素材として注目されている。ユーザーは年々増えており、用途も、婦人・紳士服、タオル、雑貨類など多様化してきた。

 米国では、アルティメイトピマだけでなく、超長綿の「スーピマ」やサンホーキン綿も、契約農場でオーガニックコットンとして栽培している。両綿のオーガニック栽培も非常に珍しい。インドでは、現地農場と組んで、超長綿「スビン」をオーガニックコットンとして栽培している。

 大正紡績の保有紡機は1万5千錘。毎日、その5分の1で生産品種を切り替え、月間100種もの糸を生産する。この体制で純綿ムラ糸「ラフィ」の備蓄販売に加え、「志を同じくする顧客」(藪雅次社長)向けに、見本糸の場合で50キロ、本番生産でも200キロからの別注に対応している。

〈植物由来染料でメランジ/注目の「ボタニカルダイ」/新内外綿〉

 新内外綿の「ボタニカルダイ」は、植物から抽出した染料と化学染料を使って染めたわたを紡績したメランジ糸だ。最新の染色技術で天然染料と化学染料を結合させ、天然染料使いならではの色調を表現しつつ、天然染料のみでは不可能だった実用的な堅ろう度を確保した。オーガニックコットン100%タイプ、「テンセル」100%タイプの他、別注で混紡タイプも生産している。

 オーガニックコットン100%タイプは、オーガニックの混率が95~100%であることを認証する「OCS100」を取得している。別注で生産する「テンセル」70%・オーガニックコットン30%混のボタニカルダイについては、オーガニックの混率が5%以上95%未満であることを認証する「OCSブレンディド」の認証を得ている。これらの糸をニット製品としてOEM供給する場合も「OCS」認証製品であることを示すロゴマークを付けることが可能だという。

 オーガニックコットン100%のボタニカルダイ30単糸については、果実シリーズ7色、四季の花シリーズ10色を備蓄。テンセル100%40単糸についても、四季の花シリーズ10色を備蓄販売している。

 発売したのは3年前。ファッションやライフスタイル分野での世界的ボタニカル(植物)ブームに乗って、ヒットした。パリと上海で開催された「スピンエキスポ」展、イタリアで開催された「フィロ」展でもアピールしたことで、海外でも認知されつつある。米国の大手SPAへの販売実績もある。

 同社は紡績子会社であるナイガイテキスタイル(岐阜県海津市、保有紡機2万5千錘)を活用し、究極の多品種小ロット生産を行っていることで知られる。

〈廃棄食料 染料に/フードテキスタイルを展開/豊島〉

 豊島は廃棄食材を染料として活用するテキスタイルブランド「フードテキスタイル」を展開している。同プロジェクトのコンセプトを説明しながら認知を高め、原料調達先を広げており、今後の新規顧客も国内外で開拓する。

 フードテキスタイルは協力先の企業などから原料となる廃棄食材を調達し、協力工場でパウダー染料化。国内染工場で特殊染色する綿を中心とした素材ブランドで、16春夏向けから提案を開始した。タリーズコーヒー、カゴメグループ、キューピーグループといった企業の参画を得ている。

 名古屋本社八部の取り組みとして提案を進めるが、同社全体としてもオーガニック綿の普及を目指すブランド展開「オーガビッツ」に続く環境関連商材の“柱”にしたい考え。廃棄食料の利活用というモノ作り手法を発信している。

 取り組み先では、製品ビジネスでの既存顧客のほか「これまで接点がなかった業種、業態への切り口にもなっている」(八部)。幅広い品ぞろえのライフスタイル発信型小売り業態との取り組みなど、フードテキスタイルのモノ作りと親和性の高い販路を想定する。

 この過程で、原料調達先が国内の農園にも広がった。地方ごとの有力な小売り業態が扱うライフスタイル雑貨に展開するなど「マス市場とは違う目線で、地域に根付いた取り組みの作り方も考えられるようになった」という。

 海外販売も視野に入る。「インターテキスタイル上海アパレルファブリックス」には16年9月、17年4月と継続出展。バイヤーから高い反応を得て、少量ながら、豪州アパレル向けの販売を決めた。「エシカルに対する意識は海外企業が鮮明」として、同展へ継続的に参加する考えだ。

〈サステイナブル戦略を一新/「ナチュラリーポジティブ」/レンチング〉

 精製セルロース繊維「テンセル」やHWMレーヨン「モダール」を製造するレンチング。これまでも環境配慮をビジネスモデルの中核に置いてきたが、このほどサステイナブル戦略を一新し、取り組みを高度化させている。

 新たなサステイナブル戦略「ナチュラリーポジティブ」は、世界にサステイナブルな繊維を開発し、供給し続けること、人と地球にポジティブなインパクトを与えること、それによって経済的に成功することをビジョンとして掲げる。

 そのために「ピープル」「プラネット」「プロフィット」という三つの観点から「樹木源の確保」「ウオーター・スチュワードシップ(水資源の責任ある管理)」「脱炭素化」「サステイナブル・イノベーション」に取り組むことを掲げている。

 5月にはサステイナブルチームが来日し、双日、新内外綿、モリリン、クラボウなど有力需要家とワークショップを開いた。さらに大手小売り・SPAなどとも対話の機会を持ち、世界の繊維原料のサステイナブルトレンドやレンチングの素材の評価について意見交換した。

 今後も引き続きレンチングにとって環境というテーマは、テンセルやモダールといった素材販売とビジネス戦略の中核に位置し続けることになる。

〈森林認証「FSC」取得/「エコテックス」認証も/ダイワボウレーヨン〉

 「FSC」という国際的森林認証制度がある。適切な森林管理が行われていること、その森林からの木材・木材製品であることを認証する制度で、NPOであるFSC(フォレスト・スチュワードシップ・カウンシル=森林管理協議会)が運営している。ダイワボウレーヨンは今年3月、その認証を得た。日本のセルロース繊維製造会社としては、同社が初だという。欧米へのレーヨン短繊維輸出を拡大するために取得した。

 同社は、水解紙の素材として、レーヨン短繊維を欧米へ提案している。水解紙はその名の通り、水に触れると、絡み合った繊維が速やかに分離し、水中に分散する。トイレに流せる便座シートや、赤ちゃんのお尻拭きなどの素材として使われており、欧米で需要が拡大しているという。主素材はパルプだが、それだけだと強力が不足して拭くという作業に耐えられないため、補強材としてレーヨンが使われる。このニーズを狙って同社は3年前から欧米への提案を強化。「少しずつ実績もでき始めた」(中島龍巳部長)

 提案の際にFSC認証を要求されることが多いため、取得した。FSC認証を取得した3月、「エコテックス100クラス1」の認証も取得した。これらの認証取得を背景に輸出規模拡大を狙う。

〈3型そろえ本格販売へ/暑熱環境下の熱中症対策/帝国繊維〉

 帝国繊維は、暑熱環境下での体力消耗や熱中症の対策に最適な冷却ベストを3型に拡充し、本格的な販売に乗り出す。首筋や脇の下などベスト内に張り巡らせたチューブ内を冷水が循環し上半身を快適に冷やす。ベスト本体は洗濯も可能だ。宇宙航空研究開発機構、日本ユニフォームセンター、島精機製作所とのコラボで誕生し、帝国繊維は製造販売を手掛ける。

 冷却水タンクを使用した既存のタンク型は、1・5キログラムの軽装備で冷却持続時間は30~60分。新型コントローラーを採用し、冷却水の循環速度を変えられるよう改良した(セット価格7万2000円)。

 動きやすさを重視したリュック型は、冷水バッグを保冷剤で挟む仕様のため60~120分間ほど連続使用できる上、保冷剤の交換により毎回の水交換も不要となる(同9万8000円)。床置きの冷凍氷温水チラーを使用したチラー型は、電源のある場所ならずっと冷やせるタイプで冷却水の温度調節もできる(同29万円)。

 5月の「2017NEW環境展」に出品し、建設、物流、産廃処理など多くの業界から注目された。特にリュック型は来年の本格発売を前に試験着用販売の話も来ており、工業・農業関連の専門商社からも引き合いがあった。

 労働環境改善の流れを背景に、冷却ベストへの関心は年々高まっており、タンク型の使用者からは「効果を実感している」との声が多い。同社は7月の「第3回猛暑対策展」でも訴求するとともに、消防関係にも引き続き提案していく。

〈第5次環境経営方針開始/低炭素社会の実現めざす/YKK〉

 YKKグループは4月から「第5次中期環境経営方針」(2017~20年度)をスタートさせた。「持続可能な社会づくりへの貢献~技術に裏付けられた価値創造による低炭素社会の実現」を目指す。

 これは高い技術力を裏付けとした「ものづくり」として、社会的課題の解決に貢献する商品や技術の開発を推進するもの。超臨界流体染色という水を使用しない染色技術をファスナーに応用した「ECO―DYE」もその一つ。「ものづくりの会社として環境に配慮し、技術を生かした新しい価値を創造することで、低炭素社会を追求し、人々の暮らしを豊かにし、持続可能な社会づくりに貢献」していく。

 同方針では「社会にプラスの貢献をしていく」「社会への環境影響を最小化する(ゼロを目指す)」をテーマにし、環境政策や目標達成に向けたアクションプランを設定した。事業活動に伴うCO2や水、廃棄物、化学物質などの環境負荷をできる限り最小化させるとともに、環境配慮、安全・安心、健康に貢献する商品群の充実・拡販など社会や生態系にプラスになる活動を加速させる。

 第4次では従来からの省エネへの取り組みに加え、高効率の生産体制や省エネ技術、設備開発などの技術力を生かした施策を遂行。黒部事業所では目標であるエネルギー原単位20%削減(10年度比)を達成した。