特集 2017夏季総合(7)/事例研究3 スマートファクトリー~製造革新の兆し~/ファッションの自動化は可能か

2017年07月25日 (火曜日)

 縫製を中心とする衣料品生産は長く、コスト低減を求めて産地移管を続けてきた。労働集約的な側面が強い点がその最大の要因だ。しかし、ここへ来て、IoT(モノのインターネット)との組み合わせなどによる技術革新で生産工程を自動化する動きが出てきている。ファッション生産の自動化、究極の効率生産を目指す取り組みを探る。

〈デザインから出荷まで一元管理/島精機製作所〉

 島精機製作所はこのほど世界初のニット業界向けプロダクト・ライフサイクル・マネージメント(PLM)システム「シマ・ニットPLM」を発表した。製品のデザイン・企画から編み立て、リンキングや2次加工、出荷までIoTによって一元管理する。

 シマ・ニットPLMは「SPP」「SPC」「SPR3」で構成する。ユーザー企業は3Dデザインシステム「SDS―ONE APEX3」などで作成したデザイン・企画を具体的な生産計画に落とし込み、それを編み機に入力する。

 この生産計画をSPPに接続することによって稼働スケジュールや機台割り当てなどを自動的に設定。SPCを通じて各横編み機へと送信し、稼働状況をSPR3でリアルタイムにモニタリング・管理する仕組み。作業は全てオンライン化され、SPR3はクラウドで提供される。工場経営者や管理者は遠隔地にいながらパソコンや携帯端末から全世界の複数の工場の稼働状況の確認とオペレーター管理が可能になる。

 自動ハンガーシステムのテックゼンとETSのシステムともリンク可能だ。編み立て後のリンキングや2次加工など最終仕上げ工程の状況もRFIDなどを通じて管理したデータをSPR3にフィードバックする。

 シマ・ニットPLMは生産情報のデジタル化と可視化、さらなる自動化、生産効率の向上を実現する。課金制とするなどサブスクリプション型ビジネスへの挑戦でもある。アパレル・ニット業界のソリューション・プロバイダーとしても存在感を発揮することを目指す。

〈メンテナンス効率高める/村田機械〉

 村田機械の「ムラテック・スマート・サポート(MSS)」は、渦流精紡機「ボルテックス」や自動ワインダーの生産・稼働管理システムをオンラインでつなぐことでユーザーが複数の工場設備の稼働状況などをリアルタイムでモニタリングすることを可能にする。さらに収集したデータは村田機械に送られ、分析することでメンテナンス効率を大幅に高めることができるシステム。

 MSSは、ボルテックスと自動ワインダーの稼働データをボルテックス用稼働管理システム「V―LABOⅢ」と自動ワインダー用稼働管理システム「ビジュアル・マネージャーⅢ」によって統合管理する仕組みだ。各機台の稼働データを一元管理し、村田機械へとオンラインで送信する。村田機械は収集したデータのパラメーターを独自のアルゴリズムで分析し、結果は週1回もしくは月1回のペースでユーザーにレポート配信する。

 これにより機台の状態がリアルタイムで把握され、メンテナンス効率が大幅に高まる。さらにメンテナンス後の状態もモニタリングすることで改善状況の把握も容易。専用ポータルサイトを用意し、機械のユーザーや管理者が全工場の生産状況の管理を遠隔地から行うことができる。工場内でも専用のアプリ「MSSウェブアプリケーションズ」を使用することで、生産状況の管理のみならず、トラブルシューティング、メンテナンス管理などをパソコンや携帯端末などで確認できる。

 こうしたシステムをソフトだけでなくハードまで自社で用意していることも強みとする。機台とV―LABOⅢやビジュアル・マネージャーⅢとの接続は有線のほか無線も可能だが、無線デバイスもグループ会社のサイレックス・テクノロジーが工場環境に最適化した機器を供給する。

 既に全世界で約250社がオンライン接続している。現在はメンテナンス効率向上に主眼を置いたシステムだが、将来的には機台や生産ロットごとの生産コスト管理にも対応することを検討するなど、さらなる進化を目指している。

〈アディダス/即時供給で機会損失なくす/全自動生産がもたらすもの〉

 アディダスは2016年9月21日「フューチャークラフトM.F.G.」をドイツ国内で発売した。同商品は、全自動工場「スピードファクトリー」で生産された最初の商品で、独南部のアンスバッハ工場で製造された。自動化による省人化、コスト削減で約20年ぶりに独本国での生産を可能にした。

 同工場は生産工程をロボットの導入により自動化している。コンピュータープログラミングにより、アッパー素材となる編み地を生産し、レーザー裁断もこなす。同社によると、靴のパーツを1枚ずつ、層を重ねていくように製造する積層製造技術が特に重要な役割を担っているという。

 現状、アディダスが靴生産で産地としているのはアジア。全生産量の97%を占める。16年に同地域から調達した靴は3億6千万足に上る。前年比で5900万足増やした。20年までに売上高を年率10~12%の割合で拡大する事業計画を掲げる中、同地域からの調達を今後も拡大する方針を示す。

 スピードファクトリーでの生産はアンスバッハのほか、米アトランタにも大規模工場を立ち上げ、それぞれ年産能力を50万足に引き上げる。アジアを主力産地と位置付ける一方、スピードファクトリーは納期短縮と消費者の要望に応じた生産の柔軟性を訴求する考え。

 これまで製品の設計・開発から生産、出荷を経て店頭に並ぶまで約18カ月を要したが、スピードファクトリーの導入でこれを数日~数週間に短縮し、トレンドへの対応力を高める。部品・部材のサプライチェーンを高度化することで、さらに短縮していくという。製造工程に形状や性能、デザインへの柔軟性を持たせることで、消費者が求める商品を欲しいタイミングで供給し機会損失も極小化する。

 高性能商品の効率改善と同時に、製造技術革新の可能性も検討して新しい製品への横展開も研究課題としている。