特集 2017夏季総合(9)/わが社の新領域

2017年07月25日 (火曜日)

〈日清紡ホールディングス/新規事業創出へPT発足〉

 日清紡ホールディングスは、2025年度に売上高を1兆円、ROE(株主資本利益率)を12%超にすることを目指している。日清紡テキスタイルは、この目標達成に向けて同社として何をすべきかを検討するために昨年10月、事業戦略室を発足させた。

 事業戦略室は、六つのプロジェクト・チーム(PT)を設け、新規事業の創出などに取り組んでいる。今年度中に方向性を打ち出し、その後フィジビリティスタディー(実行可能性調査)に入る方針だ。

 検討課題の一つは、外部の先進技術と同社の技術の組み合わせによる新商品の創出。組み合わせに適する技術の調査を現在進めている。例えば、セルロースナノファイバーと同社技術の融合などを考えているという。

 産業資材関連の新規事業も検討している。不織布やポリウレタン・エラストマーの新規用途開拓などを進める方針。シャツの小売り事業の周辺事業開発や、海外展開も考える方針だ。既存の海外法人の将来構想も練る計画。

 日清紡グループのエレクトロニクス事業を担う日本無線(東京都中野区)や新日本無線(東京都中央区)の技術と日清紡テキスタイルの技術を組み合わせたスマートテキスタイル関連事業も検討している。

〈ダイワボウノイ/毎月「R&D推進会議」〉

 ダイワボウノイは、技術部門と営業部門の管理職が参加する「R&D推進会議」を2年前から毎月1回のペースで開催している。信州大学繊維学部内の施設に拠点を置く同社「テクノステーション」もテレビ会議システムで参加する。5年先を見据えて今何を研究開発すべきかについて、技術陣と営業部門の認識を統一し、目標に向かって着実に歩めるようにするのが狙いだ。

 同会議が重視している研究開発テーマの一つは、高齢者、介護分野向け提案。この分野に向けては既に、軽失禁パンツを開発し、OEM供給している。現在もさまざまなニーズに対応するための開発を進めている。

 環境、衛生、エコロジーをキーワードとする開発にも力を入れる。消臭や抗ウイルス技術などを活用し、さまざまな開発を進めている。エコロジーをキーワードとする商品の海外生産にも力を入れる。例えばインドネシアには、ダイワボウの開発室を備えた協力工場がある。このような工場を活用しながら、エコロジー素材を開発する方針だ。

 安全、安心、防災も重要なキーワードだととらえている。東アジアでは同社のみがライセンスを得ている防炎加工「プロバン」などの提案を強化する方針だ。不織布使いのインナーの試作も進めている。

〈シキボウ/消臭加工「デオマジック」〉

 シキボウは衛生分野を新たな事業領域として位置付ける。臭気対策用の薬品やウイルス感染リスクを低減する不織布シートが新たな需要を生み出しつつある。

 消臭加工薬剤「デオマジック」がその切り札の一つ。山本香料(大阪市中央区)と2011年に共同開発し、畜産業界向けに提供する。

 何十種類もの香料の成分をブレンドして作られる芳香品の多くには、実は糞便臭のような不快と感じる臭いの成分が少量含まれている。ここに着目し、良い香りの香料から予め糞便臭成分を除いた香料を調合したのがデオマジック。散布により空気中の糞便臭を取り込み、より深みのある良い香りに変化する。

 排せつ物の臭気対策だけでなく、バキュームカーやごみ収集の現場でも活躍しており、職場環境の改善にもつながると期待を集めている。

 二つ目は4月の展示会で初披露した抗ウイルス加工不織布「ノロガードシート」。

 SEKマークを取得済みの抗ウイルス加工を不織布シートに施したもの。ウイルス減少率は99・9%以上という。吐しゃ物、排泄物によるウイルスの拡大を防ぎ、安全に処理できるようにする。

 公共交通機関、介護施設、学校などでの活用を想定し、今期から販売を強める。

〈オーミケンシ/特殊レーヨンを中国内販〉

 練り込み技術によって特殊機能を付与したオーミケンシのレーヨン短繊維が、中国のフェースマスクなどに採用され始めた。衣料用途も含め、中国における特殊レーヨンの市場をさらに拡大することを同社は狙っている。

 中国市場への販売拠点となっているのは、2006年に設立した近絹〈上海〉商貿だ。同社は、日本向け製品の素材を中国の日系企業へ供給することを主業務としていた。しかし、日系企業が製造拠点を東南アジアへ移したことで採算が悪化。日本市場には期待せず、オーミケンシの特殊レーヨンを中国市場へ拡販する方針を昨年打ち出す。

 そのためには、中国市場に精通する現地スタッフが必要だとして、昨年春から人材を水面下で探し、昨年秋までに5人を採用した。うち4人が青島在住だったこともあり、昨年11月に青島分公司も設けた。これら現地スタッフと、日本からの派遣要員で昨年の11月以降に中国企業約60社に提案した。

 結果、椿油を練り込んだレーヨン「紅椿」をフェースマスク向けに年間200トン供給することが決まるなど成果が出てきた。極細レーヨンを年間200~300トン供給する契約も同用途向けに決まりそうだという。備長炭成分を練り込んだ「紀州備長炭繊維」も2年前から同用途へ販売していた。その規模は昨年、2年前の年間50~60トンから180トンへ拡大した。これを受けて類似品が出回ったが、今年度も100トンの販売を見込んでいる。これに、紅椿や極細レーヨンが加わる形になる。

 衣料用途でも、期待材料が出てきた。青島のアパレルメーカーが、秋冬向け内見会で温度調節機能を持つ「97・6●」や、保湿性のある「パポリス」使いの製品を披露した。今後、メディカル分野向けの提案も強化する。

(●はFの左上に゜)

〈東亜紡織/ベトナムで梳毛織物生産〉

 東亜紡織は2009年に、ベトナムに梳毛織物製造合弁、ドンナム・ウールン・テキスタイルを設け、スーツ地などの生産に取り組んできた。その生産が軌道に乗り、月産規模が当初目標としていた1千反に達した。

 同合弁はベトナムのナムディンシルクと、トーア紡の中国での合弁パートナーとの3者で設立された。東亜紡織の出資比率は20%。ナムディンシルクは、ポリエステル・レーヨン混生地の織布・染色加工を行っている。

 同合弁は、トップ染めとビゴロ染め、紡績、連続煮絨機などの整理設備などを保有。織布はナムディンシルクの設備を活用する。ウール業界特有の業務である補修の経験者がベトナムにいなかったため、自ら養成し、現在30人を確保している。

 当初はスラックス素材を中心に生産していたが、14年にスーツ地の生産も開始した。現在は8割以上がスーツ地となっている。生産品種は、ポリエステル70%・ウール30%混や、ポリエステル50%・ウール50%混のトップ染め生地。

 現在生産している生地は日本市場向けだが、欧米や豪州への輸出も狙う方針。余力のある紡績設備を活用してニット糸も生産し、東南アジアへ販売することも検討している。

〈フジボウテキスタイル/特定顧客専用糸を紡績〉

 紡績会社にとって糸販売は当然の事業だ。しかし、製品輸入の増加にともなって日本の糸需要は、かつてとは比較にならないほど小さくなっている。糸販売事業を維持するには、これまでとは異なるビジネスモデルが必要。フジボウテキスタイルはその構築に取り組んでいる。

 大分市にあるフジボウテキスタイル唯一の国内紡績工場。同工場を使って定番糸の備蓄販売も行っていたが、その規模は輸入糸との競合で年々減少した。このため、汎用品の備蓄販売をやめるために2015年度に紡機1万錘を削減し、1万5千錘体制とした。残した設備を使い、個々の顧客の要望に合わせた専用糸を受注することに注力している。200キロという少量の発注にも対応する。

 現在、30社弱へそれぞれのために開発した専用糸を提案している。顧客の半分ほどはアパレル関連企業だが、今治や泉州のタオルメーカー4、5社、富士吉田と尾州のスカーフ・ストールメーカー各1社、さらにはメディカル・ユニフォーム関連企業へも供給している。これら顧客の要望に対応するため、毎月10種以上の新しい糸を試紡しているという。使用綿花を売りにしたいとの要望も多いため、現在、エジプト綿3種を含む9種の綿花を備蓄している。

〈クラボウ/熱中症リスク情報提供へ〉

 「この地域のこの部屋にいるAさんに熱中症の危険がある。同じ部屋の他の2人にも注意した方がいい」。そんな情報をクラボウは来年4月から、該当者が保有するスマートフォンや、管理者が見るパソコンなどを通じて提供する計画だ。現在、モニター調査に協力する建設関連企業8社、運送関連企業2社の作業員が、信州大学とクラボウが共同開発した肌着「スマートフィット」を着用している。同肌着には、心拍数、衣服内温度、さらには歩いているか座っているかなども分かるセンサーが組み込まれている。取得したデータは、作業者が保有するスマホを通じ、クラウドサーバーへリアルタイムで送られる。大阪大学が、この情報と、日本気象協会が提供する着用者がいる地区の気象情報、消防局などが提供する同地区の緊急搬送情報を組み合わせ、熱中症発症リスクを評価するためのアルゴリズムの構築に取り組んでいる。

 クラボウはこの仕組みを、建設業界や運送業界に向けて提案し、来年4月にスマートフィットの納品を開始する計画だ。企業のリスク管理への関心が高まっていることに加え、作業員の高齢化が進んでいることもあり、ニーズは高いという。

〈新内外綿/編み地で海外市場開拓〉

 新内外綿は2012年に、海外戦略室を設けた。その狙いの一つは、同社の特殊糸を使った丸編み地の海外市場開拓だ。

 米国に向けて、同社営業員が出張するとともに、ニューヨークに置いた販売代理店を通じても提案。婦人服を中心とする米国の高級アパレルメーカーが3年ほど前から同社生地に関心を示し、1年半前に採用した。この生地をその後も、マイナーチェンジしながら毎シーズン採用し続けているという。長年に渡る地道な提案が、実を結んだ格好。同アパレルへの提案やフォローのために、現在も年に5、6回出張しているという。

 改めて言うまでもなく、同社の生地の魅力は、紡績子会社のナイガイテキスタイルが生産する特殊糸を使っていること。珍しいことが売りであるため、「同一地域の複数の企業に採用してもらう性格の素材ではない」として、今度は米国の西海外での新規顧客獲得を狙う。現在、ニューヨークの販売代理店とともにサンフランシスコの企業へ提案している。

 欧州向け提案も強化する方針で、既に販売代理してもらう契約を欧州企業と結んだ。タイの糸販売子会社であるJPボスコ、あるいは日本商社と組んで、欧州向け生地販売も拡大する。