全国テキスタイル産地特集Ⅱ(2)/示せ!日本のモノ作り力

2017年07月28日 (金曜日)

〈ショーワ/“奇麗め”で特徴出す〉

 テキスタイルメーカーのショーワ(岡山県倉敷市)はトップス向けの提案充実を図る。髙杉哲朗社長は「デニム調の生地であってもラグジュアリーな雰囲気を持ち、滑らかな生地表面を持った企画の支持が強い」と指摘する。ロープ染色など同社の特徴も強調する。

 9月にパリで開催される「プルミエール・ヴィジョン」には、ロープ染色をしたキュプラ糸を経緯に用いる企画など“奇麗め”の提案を継続する。さらに、原料コストをかけ、しっかりとした素材を使うことで、採用できる後加工の種類が増えることや、製品になってからの風合いの変化を楽しめる点なども含めた提案を続ける。

 自社製ロープ染色糸をチーズアップで販売する事業も今年から始めており、本格化に向けた設備投資、体制作りも進める。

〈菱友商事/営業体制を刷新〉

 カジュアルテキスタイルを取り扱う産元の菱友商事(広島県福山市)の2017年4月期決算は、42億4100万円(前期46億8900万円)、経常利益9429万円(1億234万円)、純利益6546万円(5387万円)と減収だった。前期は特別損失を計上したため、最終段階では増益となった。

 期中は全般的に販売が振るわず、特に17年1~3月は厳しい商況が続いた。花田充民社長は「年明け以降の商況を考えると、健闘できた」と振り返る。

 今期に入ってから5、6月は昨年並みの売り上げを確保できているという。

 今期から営業部門を2部制とし、マネージャー制度を導入した。各営業部門に、より幅広い裁量権を与え、独立性の高い営業政策を進める。

 営業体制の刷新で多様化する販路への対応を図り、ネット販売などの小売業態開拓も進める。

〈小橋/撚糸業として信頼性追求〉

 撚糸業の小橋(岡山県倉敷市)は、納期、品質の安定性に加え、40台のダブルツイスターを所有するキャパシティーの大きさが強みとなる。

 現在、織物用途の受注に回復の動きが出てきたことに加え、前年から続く、産業資材用途の堅調が続く。2017年5月期は売上高20%増の見込みで、増収は3年連続となる。

 国内の織布業では、エアジェット織機など効率の良い織機の設備投資が行われていることもあり、同社への発注量も増える傾向にあるという。

 小橋淳一郎社長は「織物用途は受注量の変動が大きく、それを一カ所で吸収できる規模の撚糸業が産地内になくなった」と背景を語る。

 引き続き、火災を未然に防ぐため、照明のLED化や電源施設の更新など、撚糸業としての信頼性を高める投資を続ける。

〈丸進工業/海外にも帆布アピール〉

 帆布製造の丸進工業(岡山県倉敷市)は、2016年中に複数の海外展示会に出展。そこで得た情報を製品企画に反映する。

 米国・ニューヨークで開催のデニムカジュアルの展示会「キングピン」に、帆布をジーンズ生地として提案した。ジーンズ用途では生地だけでなく、加工の組み合わせによる提案が必須となっており、同社でも今後の提案に反映する。

 タイの現地展示会にはタケヤリ(倉敷市)などと共同経営するバイストン(同)の「倉敷帆布」ブランドでアピールした。トートバッグを展示し、現地のショップでスポット販売されるなど成果も得た。さらに商品の志向や展開価格帯などのデータを得られたとしている。

 武鑓篤志社長は「国内展示会でも高付加価値化をアピールする」とし、インターネットでの情報発信も強化する。

〈篠原テキスタイル/自社企画提案が奏功〉

 デニムメーカーの篠原テキスタイル(広島県福山市)はシャトル織機を活用した独自企画のデニム開発を充実する。

 17秋冬向けには、甘撚りコンパクト糸使いで、滑らかな肌触りの「ソフトクリームデニム」の裏起毛タイプを追加するなど、バリエーション拡大を図る。このほか、緯糸の打ち換えによるバリエーション展開を進める。

 用途拡大にも積極的に取り組む。このほど配布が始まった、もみじ銀行のノベルティーグッズの通帳ケースに生地が採用されたほか、建築用壁紙用途に綾織りデニムを継続的に供給するなど、用途開拓を模索する。

 27、28日にラ・コレッツィオーネ(東京都港区)で開催する「レンチング・マテリアルコネクション in  東京」にも「テンセル」使いの生地を中心に独自企画を多数提案する。

〈荻田撚糸/産資用途の受注拡大〉

 荻田撚糸(岡山県倉敷市)は、徹底した品質管理を追求、産業資材用途を中心に受注を増やしている。

 2013年にノットレス(糸の結び目がない)かつ、大捲量を撚糸できるラージパッケージのダブルツイスター撚糸機を導入。今年初めに工場内の主要な合糸機のセレナル(原糸の欠点を検出し、合糸段階で除去する装置)の更新を終えるなど、より高度な産業資材用途にも対応できる設備投資を進めた。計画的な投資が奏功し、14~16年度の3年連続で増収増益を果たした。

 長短複合の豊富なノウハウを生かし、ワークウエア用途の制電糸など、長繊維関連の受注も増えている。荻田洋司社長は「高度な品質管理、中小ロットへの対応力のアピールのほか、技術背景を生かした独自提案も進める」方針を示す。

〈日本綿布/18年に新工場棟を建設〉

 デニムを中心とするテキスタイルメーカーの日本綿布(岡山県井原市)は3台のジャカード織機をオンスごとに使い分け、生産を効率化している。このジャカードやドビーなど柄生地提案を充実させており、2月の「プルミエール・ヴィジョン(PV)・パリ」の出展で海外のバイヤーから高い評価を得た。9月開催のPVへの参加も決めている。

 2018年4月には新工場棟が竣工する。地上3階建て、各階約990㎡で1階に織機を設置、2階は同社敷地の接する土手部分から直接トラックが横付けできる倉庫となる。3階に各種準備工程を設置するほか、新規に導入する全巾対応のインクジェット捺染機を設置する予定。新工場について川井眞治社長は、「多品種小ロット短納期への対応力をさらに高める。国内にモノ作りの仕組みを残しておきたい」と展望する。

〈杉岡織布/“ご飯とおかず”、両立へ〉

 杉岡織布(滋賀県高島市)では、2017年3月期こそ大幅減収だったものの、「商談自体は活発」(杉岡定弘社長)な状況が続いている。今後は「ご飯もおかずも必要」との観点から、新規開拓と同時に、「定番品の良さを発信する」。

 展示会出展を通じて大阪の婦人服アパレルから新規の着分見本依頼が寄せられ、実契約が間近。近年力を入れる先染め糸使いのグラデーション生地が関心を引いた。島精機製作所のデザインシステムを駆使した提案も奏功した。同デザインシステムを用いて提案したメランジ糸使いの紺色グラデーションも引き合いが強いという。今後もこうした柄開発を加速し、新規顧客(おかず)の獲得を狙う。

 一方、「最近はこれまで当たり前に受注があった定番品がまた来年もあるという保障が無くなってきた」。織機の安定稼働のためには定番品(ご飯)も必要なため、定番品の価値を改めて発信し、安定稼働を目指す。

〈マスダ/レピアの優位性生かす〉

 マスダ(滋賀県高島市)の現在の織機稼働率は7割と、「この時期(閑散期)としては健闘の部類」(増田英信専務)だ。先行きは不透明感を増しており、既存取引がなくなることもあるが、新規受注でそれをカバーしながら「悪いなりにしのげてはいる」という。

 高島産地では次シーズンに向けて定番品を備蓄しておき、出荷指図を待つという形態が一般的だが、同社は備蓄生産をほとんどせず、バイオーダーが基本。ただし、開発と提案には力を入れており、2、3月の産地総合展「ビワタカシマ」でも大手インナーアパレルとの新規取引がほぼ決まったという。

 今後の開発の方向性は「リネン、ラミーが基本」となる。麻はエアジェット織機での製織が難しいため同社が保有するレピアが優位。この優位性を生かして開発を加速する。製品展開にも注力中で、ストールが国内外で好評を得る。ストールでも新商品を投入予定。

〈木村織物/多品種・小ロットが加速〉

 多品種・小ロット型機業の木村織物(滋賀県高島市)は保有する18台のエアジェット織機で、平均12種類の規格を織る。多いときには15品番になることもあるが、「生き残るために必要なこと」(内藤茂社長)として今後もこの体制に磨きをかける。

 ただ、効率は常に追求する。例えば、経糸を共通にして緯糸で変化を付ければ、発注側、受注側の双方にコスト面などでメリットが生まれる。こうした事実を発信、丁寧に説明することで効率化を図る。

 2017年8月期は減収がほぼ確定している。これは手張りではなく賃織りが増えたためで、仕事量としては例年通りという。賃織りはユニフォームや雑貨、産業資材向けなどで、手張りの部分と比べて受注の安定感はある。

 今後は先染めonプリントなどの開発を推進し、全体の生地値引き上げを目指すとともに、新規開拓を狙う。

〈駒田織布/顧客と一緒に特殊品開発〉

 資材系機業の駒田織布(滋賀県高島市)の2017年3月期決算は、売り上げが横ばいも増益を果たした。今期もここまで受注は安定。今後は「顧客と一緒に特殊なものを開発」(駒田勤社長)しながら利益率にこだわったモノ作りを追求する。

 前期の好業績にはテントシート向けなど合繊帆布の受注拡大が寄与した。東京オリンピックに向けて需要が拡大している模様で、今期も同需要ではフル稼働が続く。綿帆布も安定しており、堅調操業を支えている。

 同社はレピア織機21台(うち17台がドビー搭載)とカム開口のエアジェット織機3台を保有し、「他社にはできない肉厚な織物」を強みとする。整経機、撚糸機、合糸機なども保有し、糸からの付加価値化を推進、品質管理と独自性のある開発力には定評がある。「設備投資は一段落した」が、4号や6号の帆布が織れる中古の優良織機があれば、購入したいと考えている。

〈高橋織物/「情報収集」最重視〉

 一般衣料向けを主体とする高橋織物(滋賀県高島市)は「顧客からの情報を収集すること」(高橋志郎社長)を重視している。そこから次シーズンの売れ筋を見極め、生産を采配する。

 17春夏向けは「想定通り」微減だった。顧客の情報を事前に収集した結果、シーズン前からそのように生産を調整した。18春夏向けは「まだ読めない」。9月に開かれるアパレルの展示会が終わったころに情報を集め、生産数量を判断する。見通しは衣料品不況の中で全体として芳しくないが、柄数を増やしたりと攻めの姿勢の顧客も存在。価格ありきの先も減ってきているという。

 同社は、ステテコや寝装向けが主力の同産地にあって早くから一般衣料向けへのシフトを進めてきた。「コダワリノヌノ」展や「ビワタカシマ」展に継続出展するのもその一環で、市場の方向性を見極めた上での独自のモノ作りには定評があり、ファンやリピーターを形成している。

〈高島晒協業組合/広幅設備を年内導入〉

 高島産地唯一の染色加工場、高島晒協業組合(滋賀県高島市)の17春夏向け受注数量は前シーズン比1割減少した。衣料品不況と供給過剰がその背景だったと見る。今後は開発を強化し、反転を狙う。

 一昨年6月に広幅のヒートセッターを導入した。産地機業の要望に応えた広幅化だったが、今年中に同様の目的で広幅の検反機と丸巻き機も広幅化を予定する。

 今後の反転の鍵を握るのは産地の柱となるような新商品の開発だとみる。綿100%がほとんどの同産地だが、異素材を絡めた織物を糸、織り、加工の三位一体で開発し、それを、補助金を受けながら推進中の海外販路開拓にもつなげる。

 繁閑差対策として中肉素材の開発にも改めて力を入れる。同産地は夏物が主力だが、「冬物は無理としても秋物は可能」として、産地機業と一緒になって新素材を開発していく考えだ。

〈高麻/和紙糸100%織物へ挑戦〉

 マット地などを主力とする高麻(滋賀県高島市)の商況は「昨年よりも良くない」(中村正博社長)。2016年が良かった反動もあるが、2月ごろまでが前期比4~5%ダウンで、3~6月は10%ダウンと苦しい。ただ、15年と比べれば増えている。今年の特徴として、小口化の顕著さを挙げる。

 同社は11台のレピア織機を保有し、全台にドビー開口装置を搭載する。280センチなど広幅織機がほとんどで、産地の中では衣料向けと資材向けの中間のような立ち位置で異彩を放つ存在だ。

 産地総合展「ビワタカシマ」に継続出展するなど開発、提案をルーティーン化しており、成果も出ている。展示会では和紙糸使いの人気が非常に高く、今後は経糸、緯糸の両方に和紙糸を配した100%和紙素材にもトライするとともに、「価格がネック」のため、コストを抑えたバージョンも投入し、新規開拓を狙う。今後も広幅織機を活用して開発を加速する。

〈川島織布/営業力強化がテーマ〉

 川島織布(滋賀県高島市)の17春夏向け生産と出荷は、「定番品がなかなか動かなかった」(川島好行専務)ものの、全体として数量は維持できた。

 今後は営業力強化を図る。18春夏で定番品の在庫量を少しでも減らすためにも営業力の引き上げが必要だとみる。「社長と二人三脚で」営業機会を増やす考え。

 ツールも工夫する。これまでは数点の開発生地を抱えて取引先を訪問していたが、それでは全ての開発生地を見せることができない。「出し惜しみせず」全ての開発生地をサンプルブックに収録し、商談後にそれを置いていくなどで顧客の興味を高められたらと考えている。その際は自前だけでなく、取引商社とも連携する。

 同社は豊田自動織機製エアジェット織機25台(うち1台が広幅のドビー)を保有する機業。近年はドビー織物の開発に力を入れており、「1台では足りない」。そのため、ドビー搭載織機の購入を検討する。

〈本庄織布/既存顧客基礎に新規も狙う〉

 本庄織布(滋賀県高島市)の稼働状況は、昨年末から依頼を受ける車両資材向けの仕事が寄与し、例年よりも長い稼働時間になっている。

 同社はドビー搭載2台を含む49台のエアジェット織機を保有する衣料向けでは産地最大手の機業。設備投資に関しては、日産社製の旧型織機がまだ相当数あるため「使えるところまで使いながら順次更新していく」(本庄剛専務)考え。

 大手だけあって大手インナーメーカーが取引先に名を連ねるが、近年は新規顧客開拓にも余念がない。綿100%ながら二度撚りの糸と晒しの技術で「超ハイストレッチ」を実現した織物が新規顧客に採用されたほか、来シーズンに向けては、吸水速乾性や軽量性に優れた綿・ナイロンの機能糸を使った新たな織物開発にも着手する。

 「既存取引先との商売が基本」としながら、今後も新商品開発と展示会などを通じた提案を加速する。

〈井脇織物/小ロット多品種深める〉

 高野口パイル産地の井脇織物(和歌山県橋本市)は編み機の台数充実で小ロット多品種を追求し、「ありそうでない素材」の開発を深掘りする。

 同社は天然素材を軸に「手間がかかり、他が手を付けない」ニッチで高付加価値な素材に特化し、小ロットで生産する。

 今秋冬でもトレンドのベロア素材で海外製の定番品の対極を行く、「いかに肉厚で高密度にできるかという発想」で綿ベロアを開発。この開発姿勢をより強化するため、生地種の充実も続ける。編み機も継続的に台数を増やし、現在約80台。丸編み機では稀少なローゲージ機のほか10~28ゲージまで2ゲージ刻みで多彩な機種をそろえ、糸種など要望に応じて編み機を臨機応変に変更し、答えを二つ三つ出せる体制を整えていく。

 製品での生地提案にも着手。改造したシールメリヤス機を開発したリブとパイルの裏毛風ダブルフェース素材ではパーカも試作し、今後、生地展でも製品サンプルを訴求する。

〈妙中パイル織物/化粧パフ地で横展開ねらう〉

 高野口パイル産地の妙中パイル織物(和歌山県橋本市)は、細繊度の合繊長繊維を使った化粧パフ生地の販路・用途開拓に取り組む。合繊使いの良質なパフは現在、日本製以外になく、5月に出展したドイツの資材系展示会「テクテキスタイル」でも一定の感触をつかんだ。

 同社は、パフメーカーからの加工依頼を機に、製織加工一貫の開発に取り組み、5年がかりで製品化。2015年ごろから販売量が増加し、現在は液晶用ラビングクロスや家具インテリア素材と並んで同社の販売品目トップ3の一角を占める。パフ用も、新たな糸種による素材開発が進むが、他用途開拓も今後の課題に掲げる。既に和装履物業界では、同素材を応用した鼻緒用素材の採用が進み、高級草履で手織りビロードの代替の地位を獲得しつつある。「開発に苦労し、時間もかかっただけに、衣料や雑貨への積極的な横展開を狙う」と意気込む。

〈岡田織物/新設備使い裁断サービス本腰〉

 高野口パイル産地でフェイクファーを専門に販売する岡田織物(和歌山県橋本市)は、新導入の自動裁断機を活用し、裁断・縫製した素材出荷の取り組みを加速する。

 同社は、大半が袖や襟などの副資材に用いられるファー素材を、以前から手作業で裁断・縫製して出荷してきた。新設備導入で、最大年2万パーツ程度だった効率は10倍近く向上。パーツ数が大きく、多いアウター用では効率的なパターン作成で、約20%の生地ロス削減を実現する。

 今年は輸送費や生地ロス削減の効果検証に当て、来秋冬向けから裁断・縫製のサービスを、取り組み先の生地商社や副資材商社の理解も得ながら本格的に始動する。

 製品OEMを起点に、同社には製品プレゼンやファー生地の活用提案の依頼も多い。近年は生地展より製品展出展を優先し、来場者に加え、ときには出展する同業者も対象に「ファー素材の料理の仕方」を提案していく。