村田機械/繊維機械で新たな領域を切り開く

2017年07月31日 (月曜日)

 繊維機械の新たな領域を切り開いてきた村田機械。その営みは現在も止まることなく続いている。独自の渦流精紡機「ボルテックス」や自動ワインダーの開発と進化は、繊維製品の新たな付加価値を創造してきた。

〈付加価値を創造する/「ボルテックス」〉

 村田機械の渦流精紡機「ボルテックス」は、前身機である1981年発表の「ムラタジェットスピナー(MJS)」、ボルテックス精紡機の最初のバージョンである97年発表の「ムラタボルテックススピナー(MVS)」から、現在の最新鋭機である「ボルテックスⅢ870」まで絶え間ない進化を続けてきた。高速空気流で繊維を開繊・紡績するというアイデアは革新精紡機の分野でも独自の存在感を発揮している。現在、ボルテックス精紡機の販売台数は累計3500台を数える。特に近年は導入企業が急速に増加した。

 革新精紡機の最大の利点は生産性の高さである。スライバーから粗紡、精紡、ワインディングという3工程を経てパッケージとするリング紡績に対して、革新紡績はスライバーから直接精紡し、そのまま糸をパッケージとして巻き取る。中でもボルテックスは生産性に優れ、現在ではリング紡績の約20倍の生産性を実現している。革新精紡機として一般的なロータリー方式オープンエンド精紡機と比較しても約3倍の生産性となる。

 ボルテックス精紡機が評価されたもう一つの要素が、糸に新たな付加価値を生み出したこと。ボルテックス精紡機による紡績糸は、空気の旋回流によって繊維が独特の構造を形成する。このためリング紡績糸とは異なる特徴を有する。毛羽が少なく抗ピリング性に優れることなどである。また、独特のハリ・コシ感が生まれることも特徴。

 こうした特徴がリング糸とは異なるカテゴリーを開拓した。その一例がレーヨンなどセルロース系繊維の紡績だろう。ボルテックス精紡機によるセルロース系繊維の紡績糸は生地にしたときに独特のハリ・コシ感が生まれる。このためシルエットを構成するデザインが可能になった。それまでセルロース系繊維の紡績糸はインナーなどが主力用途だったが、ボルテックス精紡機による紡績糸の登場でレディースアウターでもセルロース系繊維の活用が一気に進んだといえよう。

 ボルテックス精紡機による糸の付加価値を村田機械は積極的にPRしてきた。糸のブランドとして「ボルテックス」を商標登録し、ボルテックス糸を使った製品に商標を使用できるようにしている。繊維機械メーカーが糸のブランディングを行うことで、独自の糸の特徴を付加価値として認知させることに成功したのだ。

 ボルテックス精紡機は現在も進化を続けている。精紡室の改良によって紡績可能な原料のバリエーションも広がった。最近ではポリエステル100%糸の紡績でも評価が高まってきた。さらに稼働データ管理システム「ボルテックス・ラボ」は紡績工場のIoT化へとつながるシステムである。今後も新たな価値を創造し続けることになるだろう。

〈パッケージ品質追求/自動ワインダー〉

 現在、自動ワインダーは日欧の繊維機械大手3社が熾烈なシェア争いを続けている。村田機械はその一角として高い評価を得てきた。現在、世界シェアは36%に達する。常に最新のテクノロジーと革新的な機構を搭載してきたのが村田機械の自動ワインダーである。

 村田機械の自動ワインダーを世界に知らしめたのが1976年に発表した歴史的名機「No.7マッハコーナー」である。本格的な単錘駆動方式を実用化した。さらに79年には糸つなぎ装置「マッハスプライサー」搭載機を発表し、ノットレスヤーン時代の幕開けを主導する。2001年には「No.21Cプロセスコーナー」を発表。世界的な大ヒット機となる。そして11年、現在の最新鋭機の前身である「プロセスコーナーⅡQPRO」と「プロセスコーナーⅡFPRO」が登場した。

 村田機械の自動ワインダーがここまで評価されてきた理由が、生産性の高さと省エネルギー性能である。競合メーカーの機械に比べ生産単位当たりの使用エネルギー量が少ない。新興国などでは恒常的な電力不足から省エネルギー性が生産性に直結するケースが多い。それに加えて機械の扱いやすさやワインディングの品質も評価され、高いシェアへとつながっている。

 15年に発表した現在の最新鋭機である「プロセスコーナーⅡQPROプラス」は、こうした村田機械のテクノロジーが投入されている。単錘駆動に加えて、各種挙動部分もステッピングモーターにより独立制御することで従来機では不可能だった挙動を実現。省エネルギー性もより向上している。

 さらに最新のテクノロジーを投入した高付加価値機が「プロセスコーナーⅡFPROプラス」。パッケージへの糸誘導に、従来のガイドドラム方式ではなく、アームトラバース方式を採用した。ガイドドラム方式では難しかったパッケージ形状をフレキシブルに制御できる。このため低テンション巻きやパッケージのエッジ補正などが可能で、多彩で高品質なパッケージを生産できる。近年、ワインディング工程ではパッケージ品質への注目が一段と高まっている。このためアームトラバース方式の自動ワインダーへの注目も高まっていくだろう。

 村田機械は今後もボルテックス精紡機、自動ワインダーともに進化を加速させる。省人化や省スペース化といった恒常的なニーズにも着目し、さらにIoTなど新たな技術潮流も逃さない。これまでの機械の概念にとらわれず、紡績工場のあるべき姿を提案する村田機械が目指す理想の先には、繊維機械の在り方そのものを変革するようなイノベーションが待っているかもしれない。

〈ハード、ソフトとも独自技術で〉

 独自の技術で革新精紡機と自動ワインダーの進化を追求してきた村田機械。IoT(モノのインターネット)など新たな技術潮流にも積極的に取り組む。繊維機械事業の今後について正井哲司取締役繊維機械事業部長に聞いた。

  ――繊維機械事業の今後の戦略についてお聞きします。

 おかげさまで渦流精紡機「ボルテックス」、自動ワインダーともに堅調な販売が続いています。折しも今年、弊社社長の村田大介が日本繊維機械協会の会長に選出されました。当社はさまざまな事業を展開していますが、やはり創業から続く繊維機械事業に対して思いを新たにしているところです。2025年には現在の売上高を倍増することを目指しています。そのためには、引き続きユーザーの利益につながる良い機械を作ることしかありません。

  ――IoTなど新しい技術への注目も高まっています。

 もちろんIoTの導入を進めます。独自開発のデバイスとアルゴリズムでユーザーのニーズに応えることを目指しています。当社の繊維機械事業は、早くから自動化や管理システムの開発に取り組んで来ました。制御・ソフトウエアに関しても1980年代から研究してきた蓄積があります。さらに、情報機器事業で培われた通信技術や、ネットワーク関連機器のサイレックス・テクノロジーをグループ内に有しています。独自の無線ネットワーク機器も既に開発しています。工場は電磁波などの環境が一般とは異なりますから、民生用ではなく専用の産業用機器が必要なのです。IoT戦略もハードからソフトまで独自に取り組むことが基本です。

  ――実際の導入状況はいかがですか。

 既に旧バージョンも含めると約700社がシステムを導入しています。機械の稼働データが当社に送られ、様々なパラメーターを分析したレポートを自動的に送信します。これにより、どういったメンテナンスが必要なのかが分かり、メンテナンスの効率を大幅に高めることができます。当社にとってIoTに取り組む目的は、ユーザーの生産性向上に尽きます。ですから、そこに集中してシステムを開発しているのです。

  ――そのためにも開発がますます重要になりますね。

 引き続き現行機種の改良、そして新機種の開発を進めます。開発のポイントは高生産性、オペレーション・システムのフレキシビリティー、そして省エネルギー性などでしょう。どれも当社が地道な努力を続けてきたもので、今後もそれは変わりません。