シリーズ事業戦略/第一紡績/他にない糸で提案/荒尾の一貫工場基軸に/社長 乾 義和 氏

2017年09月22日 (金曜日)

 第一紡績は、海外生産による量販店向け縫製品OEMから撤退し、熊本県荒尾市にある自社の紡績から編み立て、染色加工、縫製までの一貫工場を基軸としたビジネスモデルに軸足を移した。他にない糸に絞って紡績することで特殊糸のコスト競争力を高め、その糸の組み合わせと編み方の工夫で生地のバラエティーを確保。従来から得意とするインナー用途だけでなくアウター用途へも拡販した。この戦略が奏功し、染色加工場は今、24時間フル稼働している。2017年4~9月期は、微増収で増益になる見込みだ。

  ――2017年4~9月期の業績見通しを。

 微増収で増益になりそうです。かつてはインナー素材が中心でしたが、その販売はそんなには増えていません。一方で、セレクトショップやコンバーター向けのアウター素材の販売が増えています。今期は、生地売上高の70%をアウター素材が占める見込みです。

  ――海外縫製による、量販店向け製品OEMからは撤退しました。

 採算が悪化したためです。当社は熊本県に、紡績から編み立て、染色加工、縫製までの一貫工場があります。この工場を基軸としたビジネスモデルに軸足を置くことにしました。名実ともに製販一体にするために、本社も工場所在地へ移しました。

 当社は、村田機械の「MJS」「RJS」「ボルテックス」、そしてボルテックスを独自に改造した「IPX」などの特殊紡機で、独自性の高い糸を生産しています。これらの糸で作った生地を、アウター用途へはあまり提案していませんでしたが、提案したところ、新鮮さを感じてもらえました。セレクトショプだけでなく、コンバーターの採用も増えたことで工場操業の安定化にもつながりました。

 かつて当社は、設備規模は維持しながらも、人員を減らすことで生産能力を削減し、海外生産を増やしてきました。今は逆で、人員を増やして生産能力を拡大しています。海外で作るのは一部の糸だけです。生地と製品は全て国内生産です。

 当社では戦略糸と呼んでいますが、展開する素材を他にはない糸に絞り込んでいます。MJSで紡績した「アーサ」、RJSで紡績した「クリアーコット」、ボルテックスで紡績した「ドライ―X」、IPXで紡績した「タフコット」などが戦略糸です。ドライ―X」については年中生産しています。そうすると、生産効率が上がりコスト競争力が強まります。これら糸の組み合わせや、編み方の工夫で、生地のバリエーションを出します。

  ――RJSとは、どんな紡機ですか。

 村田機械が、MJSの後、ボルテックスの前に発売した紡機です。短期間で販売をやめたので、現在それを保有しているのは世界でも当社だけだと思います。合繊のような、毛羽が非常に少ない純綿糸を紡績することが可能です。

  ――設備投資について。

 新しい糸を開発するために昨年、ダブルツイスターを1セット導入しました。ボルテックス機の更新も、今期から徐々に進めます。

 染色加工部門は5月から、24時間フル稼働体制になりました。今期中に高圧液流染色機を数台、増設する計画です。

  ――今後の課題を。

 紡績品種を戦略糸に絞り、それでさまざまな生地を作るという仕組みを機能させるには、それに合う販売戦略が必要です。現在はアウター、スポーツ、アスレジャー用途を狙っていますが、介護、メディカル、スポーツ分野のユニフォーム素材も展開する方針です。

  ――縫製品の展開は。

 自社工場で縫っているのは全て、自社ブランド品です。

 高級肌着「荒尾の和糸」を3年前に、熊本の百貨店1店舗で展開し始めましたが、現在は関東を中心とする百貨店80店舗強で販売しています。

 荒尾の和糸は、本体価格がスタンダード品で1枚当たり3500円なので、客層は50代以上です。複数の百貨店から、30~40代を狙った商品も欲しいとの要望があり、「A―ライト」というブランドを17夏にデビューさせました。価格は2500円です。

 荒尾の和糸のアウター版とも言える、インナーメーカーが作ったTシャツ「ワイト(WAITO)」は、三越伊勢丹さんが肌着売り場で3月に行ったフェアでデビューしました。4月以降、百貨店への拡販を進めています。

 防寒肌着として展開してきた「ヌッカ」は、18春夏からコンセプトを変え、スポーツ、アスレジャーのブランドとして再出発します。ただ、北欧のイメージは変えません。生地は当社で作りますが、縫製は協力工場に委託する予定です。

 「エシウエア」ブランドのTシャツも発売しました。7月からセレクト系が店頭展開しています。当社の荒尾工場は3、4年前にフェアトレードの国際的認証機関である国際フェアトレードラベル機構の認証を、日本の繊維工場としては初めて得ました。同じくその認証を得たセネガルの綿を使ったTシャツを、荒尾工場で一貫生産し、エシウエアとして展開しています。