不織布新書 17秋(3)

2017年09月28日 (木曜日)

〈東レ/高機能材料の活用も強化長繊維から短繊維まで全方位〉

 東レは今期スタートさせた中期経営課題“AP―G2019”の中で掲げる「Future TORAY―2020s(FT)プロジェクト」でも不織布を重点分野と位置付ける。新たに不織布事業部を立ち上げ、長繊維から短繊維まで全方位で取り組む姿勢を鮮明にした。高機能材料の活用を強化し、より高度な用途での市場開拓に取り組む。

 これまで積極的な投資を続けてきたポリプロピレンスパンボンド(PPSB)は韓国、中国、インドネシアで年産15万3千トン体制となった。今期も好調を維持している。用途である紙おむつは中国や東南アジアで日本メーカー品の人気が続いており、18年4月には韓国でさらに年1万8千トンの増設を実施する。

 松下達不織布事業部長は「日系だけでなくローカルの紙おむつメーカーへの供給も増やしていきたい」と話す。そのためには商品バリエーションの拡大が必要として、滋賀事業所に導入する研究開発機も活用する。「今後もアジア市場がターゲット」となる。

 ポリエステルSBも堅調。土木用途はやや勢いを欠くが米国向けを中心にフィルター用途が好調に推移する。こちらも中国での拡販を目指しており、東麗繊維研究所〈中国〉での開発が進む。

 短繊維不織布分野の基盤強化も進んだ。特にエアスルー不織布用複合繊維は愛媛工場のほか、韓国のトーレ・ケミカル・コリア、インドネシアのインドネシア・トーレ・シンセティクスの3拠点での供給体制が整った。不織布事業部として「長繊維と短繊維を俯瞰的に取り組む」として短繊維不織布原反にも取り組むことを検討している。

 PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、フッ素繊維など高機能原料を活用した不織布製品の拡販も目指す。難燃・遮炎不織布「ガルフェン」などで欧米市場を開拓するほか、吸音材や絶縁材といった分野で不織布の市場創出に取り組む。

〈ダイワボウポリテック/不織布のシェア拡大/複合繊維は8千トン増設〉

 ダイワボウポリテックの不織布関連事業は、スパンレース不織布、エアスルー不織布用熱融着性複合繊維、そしてインドネシアの子会社、ダイワボウ・ノンウーブン・インドネシア(DNI)を通じて展開するエアスルー不織布の三つに分類できる。

 スパンレース不織布分野には後発で参入したが、品質が安定していることなどが評価され、たとえばおしりふき市場では、数量ベースで約40%のトップシェアを既に確保した。

 フェースマスクと制汗シート向けも、割繊タイプのマイクロファイバーなどを素材として活用し、シェア拡大を狙う。スパンレース不織布後発の同社の中でも最も遅く、7、8年前に提案を開始した除菌シート向けも伸びているという。ターゲットを絞って開発するという戦略が奏功した。

 紙おむつに使われるエアスルー不織布用の熱融着性複合繊維は、需要が拡大しているため生産能力を増強する。現在の年産能力は2万8千トン。8千トンを増設し、来年春に稼働させる計画だ。これにより、「日本、中国、韓国、ASEAN地域のプレミアム・ゾーンの紙おむつ市場への一段の拡販を狙う」(大槻昌弘取締役)。

 DNIは、前年度に黒字化を達成し、今年度は黒字の規模が拡大している。今後、原綿の現地調達を増やす。同時に、日本向けの販売を減らし、インドネシア国内と中国への販売を拡大する。

〈JNC/一貫生産体制が整う/中国に加えタイ、日本も〉

 紙おむつに使われるエアスルー不織布と、同不織布の素材である熱融着性複合繊維を製造するJNC(東京都千代田区)は、中国に加え、タイと日本でも同不織布の繊維からの一貫生産体制を整えた。今後、それぞれの国での「地産地消を目指す」(鈴木正康繊維事業部長)。

 中国では、広州ES繊維が繊維(年産能力1万トン)と不織布(7800トン)を生産。チッソ無紡材料〈常熟〉が不織布(1万200トン)を生産している。加えて、米ファイバービジョンズ社との折半出資会社であるESファイバービジョンズの蘇州工場も繊維(1万4千トン)を生産する。同社は増設によって、年産能力を2019年に2万8500トンへ増やす計画だ。

 タイでは、JNCノンウーブンズタイランドが不織布(4800トン)を生産している。加えて、ESファイバービジョンズのタイ工場が繊維(1万4500トン)の商業生産を1月に開始。タイでも一貫生産体制が整った。

 日本では、JNCファイバーズ(滋賀県守山市)が繊維(同2万5千トン)を生産。加えて不織布の生産も6月に開始した。年産能力は3600トンで、来年からフル稼働させる計画。これにより日本でも一貫生産体制を構築した。

 JNCグループは、生産する繊維の70%を外部へ販売し、30%を自社グループの不織布工場へ向けている。

〈三井化学/海外でも高機能不織布/付加価値品需要を取り込む〉

 三井化学はタイと中国で、紙おむつなど衛生材料向け高機能不織布を生産する。5月に発表した柔軟高強度不織布「エアリファ」をタイで今年度中、中国で来年度中をめどに生産開始する。汎用品主体だった両拠点で付加価値品の生産を始めることで、海外戦略を積極化する顧客に向けた供給網を強化。取り組みの深掘りにつなげる。

 衛材向けポリプロピレンスパンボンド(PPSB)不織布は不織布事業部の主力分野。内需で国内トップシェアを持つ。原料樹脂から一貫で開発・生産できる体制を強みに、ソフト性や柔軟性に優れた高機能不織布の展開を重視する。

 エアリファもその一環で開発したもの。独自のポリオレフィン紡糸技術で、均一性が高い薄肉中空構造を持った素材を開発し、難度の高かった柔らかさと強度の両立を実現した。

 4月から始めた内需向け営業活動は順調。タイ、中国での生産に着手する。両拠点は汎用品PPSB不織布の生産が多いが、海外メーカーとの競争が激しくなるだけに、収益を確保するためにも海外での高機能品生産は重要なテーマ。外需の取り込みを狙って顧客も海外進出を積極化していくため、今後の事業拡大には消費地での高機能品供給力が求められる。各拠点の現有設備を生かす形で準備を進めているという。