ジーンズ別冊17AW(5)/Textile/Accessories/Trading/新たな仕掛けを探る素材・副資材メーカー、商社

2017年09月25日 (月曜日)

 消費構造が変わる中、素材・副資材メーカーや商社の開発姿勢や供給体制も大きく変わりつつある。移ろいやすいトレンドや消費者のニーズを的確にとらえながら、ジーンズ業界の活性化を常に支える。

〈クラボウ/デニムの領域広げる〉

 クラボウは、5月に東京で開いた「クラボウグループ繊維展」で、「クラボウデニム・プライムブルー」の中核を担う新しい戦略商品として「アクアティック」を披露した。北畠篤代表取締役常務執行役員は「デニムの領域を、パンツ以外の用途へ広げるための“スタートのスタート”」を切る商品だと位置付ける。

 アクアティックは、ブルー・デニム独特の白混じりの色を、糸の「中白」染めではなく生地段階の染色で表現した純綿デニム。通常のデニムのように縫製後の処理によって部分的に色を落とし意匠性を付与することもできるが、通常品とは異なり、こすれたときに他のものに色移りしたり、雨に濡れた際に色落ちしたりするといった心配はない。このため、白色や淡色の生地と組み合わせて使用することも可能になる。デニムの領域をパンツ以外に広げるためのスタートの商品だと北畠代表取締役が語るのはこのためだ。

 メンズ・レディースのトップス・ボトムスなど衣料全般や、靴・帽子・バッグなどのファッション雑貨、さらにはカーテンやソファーカバーなどのインテリア雑貨などさまざまな用途へ向けてこの生地を提案する。生産は、愛知県安城市の同社紡織工場と徳島県阿南市の同社染色工場で行う。

〈大正紡績/多彩なGOTS認証糸〉

 大正紡績は、さまざまな国のオーガニックコットン使いの糸を、トレーサビリティーを確保できる形で展開している。全ての糸について、オーガニック繊維製品の世界基準である「GOTS」の認証も得ている。

 合成染料で染めた段階でGOTSの認証は取れなくなるが、少なくとも糸の段階で認証を得た素材が欲しいとの声が増えているという。海外からも、同社のオーガニックコットン糸への引き合いがあるそうだ。

 同社が展開しているオーガニックコットンは、米国産をはじめ、インド、トルコ、エジプト、ウガンダ、ペルー産など多彩。米国では、高級綿として有名な「シーアイランドコットン」をルーツとする超長綿を、ニューメキシコ州の契約農場でオーガニックコットンとして栽培。加えて、超長綿の「スーピマ」やサンホーキン綿も、米国の契約農場でオーガニックコットンとして栽培している。両綿のオーガニック栽培も非常に珍しい。インドでは、現地農場と組んで、超長綿「スビン」をオーガニックコットンとして栽培している。

 10年以上に及ぶロングセラーで、デニム市場でも有名な落ちワタ使いのムラ糸「ラフィー」も、オーガニック糸として供給することが可能だという。

〈レンチング/「リフィブラ」採用進む〉

 レンチングが商品化した、廃棄綿布を原料とする精製セルロース繊維「リフィブラ」が、欧米中心に注目されている。デニム素材としても、18春夏向けに採用された。

 リフィブラは、廃棄綿布をパルプ化し、木材パルプと組み合わせて、「テンセル」と同じ製法で作った“リボーン・テンセル・ファイバー”だ。廃棄綿布のパルプ化はレンチングの協力工場で行う。商業ベースでそれをパルプ化するのは世界初だとみられる。

 サステイナブル(持続可能)なモノ作りを志向する欧米企業に注目されており、17春夏から著名ブランドのニットセーターなどとして店頭に登場している。ジーンズについても、欧米を中心にサステイナブルをキーワードとしたモノ作りを志向する動きが出ており、18春夏からリフィブラを採用した製品が登場する見込み。

 同社は1年ほど前から、「カーブド・イン・ブルー」と題したブログを米・ニューヨークから発信している。このブログでは、最新のデニムコンセプトを「サステイナブル・デニム・ワードローブ」と位置付け、サステイナブルなインディゴ色のパジャマ、シャツ、メンズスーツ、イブニングドレスなどでいっぱいの洋服ダンスを紹介している。

〈イスコジャパン/縦に伸びて戻るデニム〉

 トルコの大手デニムメーカー、イスコの日本法人イスコジャパン(東京都渋谷区)は、縦に伸びて、戻るデニム素材「ストレートストレッチ」で、デニムのストレッチ素材に新たな時代を開く。

 ストレートストレッチは、サンプル製品を見て、触っても、横に伸びないため、一見何の変哲もないビンテージ風のデニム素材に見える。しかし、ストレートストレッチのポイントは縦に伸びて、しっかり戻るところにある。「伸びるだけでなく、しっかり戻ることが重要」(山﨑彰也社長)で、「そこにデニム作りの匠の技が生かされている」(同)。

 人間の動作は歩くときや、しゃがむときなど縦方向の動作に屈伸が多い。それだけに縦方向に伸びて戻るストレッチ素材は体の動きに適合しやすく、製品サンプルを着用するとその快適性がすぐに分かるという。

 緯糸は綿100%のため、ダメージ加工などで表面を削っても、不自然な違和感を残すことなく、自然な加工が可能になる。既にストレートストレッチを活用して商品生産に入っているジーンズメーカーもあり、早いところはこの秋冬から店頭に商品が並ぶ。「他とは違うものを作る」と言うイスコのストレッチ素材。その進化は止まらない。

〈アヤベ/永井織布との“融合”進展〉

 綿紡績のアヤベ(大阪市中央区)は産地の機業やニッターとの協業による商品開発、用途開発を進めており、松田有右社長によると幾つかのアイデアが進展中という。昨年末に一部の設備と商権、人員を譲受した永井織布との“融合”も進む。

 原糸の生産、供給という“裏方”の立場であるため同社の開発品が大々的に世に知られることは少ないが、例えば売り上げの3~4割を占めるデニム向けでは三備産地の機業などとの商品開発が進んでいる。切り口の一つは「ジーンズ以外」で、デニムを使った雑貨などに向けた商品開発に取り組んでいる。

 ジーンズ向けでもリネンやラミー糸使いで「夏場に涼しいジーンズ」の開発を検討。既に同様の商品は店頭に並んでいるが、改良を加えて「売れる麻ジーンズ」を狙う。

 デニム以外に例えば資材用途向けにも商品開発と用途開発を続けており、その際は昨年末に設備と商権を譲受した永井織布との「技術の融合」も本格化していく。松田社長によると「永井織布が持つ“昔ながらの味”のような商品は当社にはなかった」。この融合を試み、半年から一年後には新商品を投入する予定だ。

〈YKK「オールドアメリカン」/1940~50年代を復元〉

YKKはビンテージジッパー「オールドアメリカン」を2011年から販売する。これは、1940~50年代の米国ビンテージジッパーを元に復刻したもの。リアルビンテージとしてだけでなく、現代のファッションにも寄り添い、スペックも現代の最先端である。

 ファスナーのスライダーはプレス製で、針金、くさりタイプなどをそろえる。スライダーのロゴも「ユニバーサル」を採用。上下止もプレス製で、上止はコの字型、U字型などを用意する。こうしたパーツやコットンテープの風合いが、深みのある味わいを演出する。

 当初のサイズは№3、4、5だったが、レザー・ミリタリーなどの重衣料用途を視野に№10も投入した。№10はスライダーカバーに機関車のようなロコモーション型を開発。中のロック機能も設計から専用設備まで新たにし、カバーに「UNVSL」と刻印している。

 YKKグループは3月に横浜市で開かれたビンテージファッションを中心にした「クラッチコレクション横浜ショー」にも参加。会場では1970年代の米ユニバーサル社のボタン工場内を撮影した16ミリフィルムをデジタル化した映像をブース内で流すなど、ビンテージファンの足を止めた。

 ジーンズ向けでは、厚めのエレメントで強度を持たせ、耐薬品性にも優れる金属ファスナー「YZiP(ワイジップ)」も販売する。洗い加工に耐えられるジーンズ用定番商品である。デニムはジーンズだけでなく、総合アパレルの婦人服でも定着している。ビンテージからカジュアル、きれい目のテイストまで幅広く企画され、ニーズに合わせてジッパーも進化する。

〈YKKスナップファスナー/アクセサリーで差別化を〉

 YKKスナップファスナーはジーンズ・カジュアル分野のアクセサリーとして「メタルクリップ」「ループバックル」などを提案する。顧客の差別化に対応したものだ。

 メタルクリップは数年前から販売。ポケットなどに挟み込み、YKK専用の取付機械でかしめて装着する。簡単には抜けないよう、裏に生地留めが施してある。「ドッグタグ(兵士の認識票)の形など豊富なバリエーション展開。ボタンやリベットを使わないジャージー分野でも使用」されている。

 ループバックルはバックルに見えるフェイクの飾り。テープに後付けできる。「スタンダード商品が変わりつつある。伸縮性が高じて軽量化が進み、金属付属を避ける傾向に対しては、商品の差別化がかなうメタルアクセサリーを提案」する。

 9月に大阪(27~28日、マイドームおおさか)、10月に東京(5~6日、YKK60ビル)で開かれる「YKKファスニングクリエーションフォー2018」にはオールアルミの糸付けボタン「スーパーライト」、小さいサイズの「スモールバー」、陶器調でガラスのような質感の「ミルキーフィニッシュ」、ゴム質感の「SG&FGフィニッシュ」を出品する。

 スーパーライトは軽量化に対応したもの。タックボタンやリベットバーの原材料は黄銅(ブラス)を中心に、丹銅、白銅などが使われる。オールアルミ製でボタンを作れば、ブラスに比べ半分以下に軽量化できる。デニムジャケットにボタンを多数付ける場合などに最適だ。アルミはメッキがしにくい素材だが、表面に特殊加工を施して可能にした。

〈豊島/課題解決に貢献する機能強化〉

 カジュアル製品OEM/ODMで強みを持つ豊島。松田敏彦常務執行役員東京三部部長は「それぞれの顧客が抱える課題の解決に貢献する機能を提案し、パートナーシップを深掘りする」と基本方針を語る。素材起点の提案から企画力、生産までサプライチェーン全体で顧客に貢献する機能を磨く。

 素材軸の提案で主力となりつつあるのが、布帛調ニットの「ワンダーシェイプ」。360度のストレッチ性と優れたキックバック性は快適機能の要望に合致するもの。ニットとは思えない布帛調の外観も付加価値として評価され、ボトムス用途を中心に採用を広げる。

 「モノ自体で感動させることができる素材」(松田常務執行役員)として、国内はもちろん、海外展開の戦略素材とする。こうした実績を素材開発チームや製品ビジネス部署ごとの取り組みに、発展させる形で落とし込んでいく。

 実需期まで引きつけて発注する傾向が継続して強まる事業環境を受け、QR体制の強化は特に重要な機能だ。企画から生産まで全体を高い精度で迅速かつ円滑に行う仕組みが必要となる。

 店頭販売に確実に貢献できる企画精度にするためには「消費者理解にどれだけ踏み込んで行けるか」がポイント。市場トレンドを加味しながら、発信力も打ち出せる差別化要素も求められ、さらに、素早く生産に移る「流れを停滞させない判断力も重要」とする。

 生産面も人材確保難や環境規制強化が続く中国生産で、工場管理の重要性が増す。「品質管理チームが協力工場にしっかりと入り込んでコントロールする」。貢献度の高い企画提案力は、協力工場との信頼関係を固めるためにも重要な取り組み課題と言える。

〈モリリン/高品質ミシン糸安定供給〉

 モリリンは中国やベトナムなどにミシン糸の生産拠点を持ち、国内はもちろん南米や欧米、ASEANなどに販売する。現在、日本のミシン糸メーカーで紡績工場を持つのは同社だけとみられ、この強みを生かし、同一で高品質なミシン糸を安定的に供給する体制を築いている。

 ジーンズ向けとしては、「MSC」と「エムセル」が好評。MSCは鞘部分が綿、芯部分がポリエステルとナイロンの2タイプから成り、高強度が特徴。エムセルは精製セルロース繊維「テンセル」100%使いで、染色性に優れ、製品染めに対応する。特殊な紡績方法により、ポリエステル並みの高い強度を実現した。

 同社は短納期化やコスト削減を図るため、年内をめどに、ベトナムでミシン糸の現地調達を始める。これまでは中国子会社で供給した糸をベトナムで染色していたが、ベトナムで製造したミシン糸をそのまま同国内で染色する。

 現地調達にはベトナムの協力工場を活用。同社の技術者が常駐して、紡績などのノウハウを提供し、同国内で紡績から染色までの製造を始める。製造されたミシン糸の8割は同国内向けで、残りがASEAN向けになる予定という。

〈グンゼ・繊維資材事業部/種類豊富なジーンズ専用糸〉

 グンゼの繊維資材事業部のジーンズ用ミシン糸は種類が豊富なのが特色。

 今年は“ガウチョ”タイプのふっくらとしたボトムスに人気が集中した。来シーズンに向けてもこのトレンドは続きそうな気配で、デニムを採用したものも多くあることからジーンズメーカーもアイテムに追加するところが目立つ。デニムはトレンドのカジュアルアイテムになくてはならないことを証明する。

 同社の主力商品となるミシン糸はポリエステルフィラメントを芯にして、その周りを高級綿でカバーリングした商品の「コアー」。コアーは強力で適度な伸度を持つ。しかも高速縫製での糸切れや目飛びを減らした綿糸に似た風合いが大きな特徴。皮膚に対してもやさしく、安心・安全な高品質商品である。

 他に綿ナイロンの「ナイロンコアー」がある。ナイロンフィラメントを芯に、周りを高級綿でカバーしたのが特色で、製品染めにも使える。高付加価値型のジーンズでの採用を想定して、綿の混率を高めた「綿リッチコアー」も同社の柱糸の一つ。綿・ポリエステル混のこの糸は限りなくコットンの風合いに近づけたコアーで、ビンテージ、ハード加工に対応できる。

〈フクイ/ジーンズの顔作る副資材の技〉

 アパレル向け副資材製造・卸のフクイ(東京都台東区)は、ジーンズの魅力を引き出すファッションパーツの技術で定評を持つ。特にパッチ/ラベルはボトムスに付属し、製品の一部としてブランドの個性を発揮する大切なパーツ。本革・合皮・生地など、ベース素材のバリエーション、刺しゅう・印刷などロゴの表現方法により、ブランドの世界感に応じてさまざまな表情を演出する。

 プロモート商品の「ビストロ」は独特のシボ感とテラコッタ模様が魅力の革ラベル。カラーはトリュフ、チャバタ、カマンベールの洗練感のある3種類。ほかにホルマリンを含まない「ノンホルマリンソーバー」、岡山県倉敷市のイグサを使用したオリジナルラベル「井草ラベル」、中にスポンジを入れた立体感のあるラベル「キルティングパッチ」など、意匠性とアイデアの高さが伝わる。

 ジーンズ市況が今一つ振るわない中だが、土屋哲朗社長は「80年代回帰や、オフィスカジュアルによる着用シーンの広がりといったトレンドは動いている」と指摘。「『ブランディングのサポート』という原点に戻り、商品を単体で良く見せるのではなく、ブランド全体を魅力的に発信できるよう取り組みを深めていきたい」との姿勢は揺るがない。

〈泉工業/洗い加工対応ラメ糸も用意〉

 ラメ糸メーカーの泉工業(京都府城陽市)は、これまでもデニム・ジーンズ用途へラメ糸を積極的に提案してきた。テキスタイルメーカーやコンバーターへ直接アプローチすることで販売量を伸ばしている。

 デニム向けのラメ糸は、セルビッヂデニムの耳部分に採用されるものが多い。通常は赤などの色糸を使用するのが一般的だが、ラメ糸を使うことで一段のプレミアム感を演出できる。また、織りネーム用途も有力NBのレディースジーンズで採用が続く。

 ジーンズに欠かせない洗い加工に対応したラメ糸も同社の特色ある商品である。縫製糸「ピムストTW」は、ケミカルウオッシュ、バイオウオッシュなどダメージ加工してもラメの光沢が残る。

 藍染めラメ糸も用意する。同社の反応染色可能なラメ「反応ジョーテックス」にレーヨン短繊維を接着し、インディゴ染色した。これを使ったデニムやジーンズを洗い加工することでラメ糸上のレーヨン短繊維が部分的に剥げ落ち、露出した部分からラメの光沢が見える。アルカリ処理加工しても光沢が劣化しないため、デニムの仕上げ加工にも対応できる。

 そのほかにも刺しゅう糸「エンブライト」や、ストレッチラメ糸などユニークな商品もそろえ、デニム・ジーンズ分野でラメ糸の活躍の場を広げることに取り組んでいる。