生地輸出拡大への課題/在名商社輸出座談会/環境、スピード、人材が鍵

2017年10月13日 (金曜日)

〈出席者(社名五十音順)〉

瀧定名古屋 国際貿易推進部長 黒田 剛臣 氏

タキヒヨー 国際営業部貿易部長 岩田 昇 氏

豊島 三部長 濱野 貴志 氏

 国内市場の縮小が続く中で、海外市場をいかに開拓するかは繊維業界の共通課題の一つ。その一翼を担うのが繊維専門商社であり、テキスタイル輸出における彼らの重要性は年々高まっている。瀧定名古屋、タキヒヨー、豊島のテキスタイル輸出担当者に、輸出拡大の課題について語り合っていただいた。

〈魅力ある商品作り第一〉

  ――まずは各社のテキスタイル輸出の概要についてお聞かせ下さい。

 黒田氏(以下、敬称略) 国際貿易推進部は主に紳士服地、婦人服地の輸出を行っています。マーケットに応じて商品開発したものが全体の約3割、残り7割は国内向けに企画提案している商品を海外市場向けに目付、色柄、仕上げなどでモディファイしたものから成り、両者を合わせたハイブリッド提案を行っています。

 輸出先はアジアが最大市場である中国のほか、韓国、香港、台湾。香港は地場ではなく、主に欧米向けにオペレーションを行う企業に対する提案が主体となります。欧州向けは2年前に瀧定欧州事務所をオランダ・アムステルダムに設け、そこを拠点にして、いかに市場へ根を張るかに取り組んできました。

 その中で欧州市場では当社のテキスタイルが十分通用する魅力的な市場であると感じていますので、さらに一歩踏み込んでいきたいと考えています。米国・カナダの北米向けは東海岸と西海岸を中心にして展開しています。

 岩田 国際営業部貿易部は輸出621課と輸入622課で構成しており、輸出入を兼ねている部となります。その面では海外の情報交換などはやりやすい体制です。

 テキスタイル輸出の仕向け地は欧米が6割、米国3割、アジア1割の構成比率です。今後、伸ばすべき市場は分かっています。さまざまな課題はありますが、アメリカ、イタリア、アジア地区の事務所や現地エージェントおよび各メーカーと協力しながら海外に向けてより良い商品を拡大していきたいと考えています。

 濱野 当社には現在、輸出専門の部署はありません。三部傘下で、精製セルロース繊維「テンセル」や国内の織物販売を行う10課がテキスタイル輸出も手掛けています。輸出先は北米、欧州、中国がほぼ均等の形です。これは1年前と大きく変化していません。

 三国間取引を含めた当社の輸出売上高の大半を綿花が占めますのでテキスタイルは輸出全体の10%ぐらいです。その面ではまだまだ伸ばしていかねばならないと考えています。

 新規開拓は地道に行っているのが現状です。輸出を担当して1年になりますが、与信面を考えるとあまり広範囲に広げるのは危険な部分もありますので、当社の商品等にマッチする需要家に深く入り込むスタイルで進めていきたいと考えています。

〈為替変動は意識しない〉

  ――昨年の同時期に為替相場は1ドル=100円ほどでしたが、現状は110円強です。為替の変動も含めて輸出環境はこの1年でどのように変わったと考えておられますか。

 岩田 円安によるメリットはあると思いますが、円安になっただけで売れるわけでもありません。その時々の販売努力や開発努力を地道に行わないと、マーケットは広がっていきません。

 やはり、世界的に競争力のあるテキスタイルを開発することが鍵を握ると思います。いかに魅力ある商品を産地企業の皆さんと共同で開発するか。日本でしか作れない商品を追求していかないと、海外市場を開拓するのは難しいと思います。

 濱野 円高だから値上げするというのは通用しません。逆に円安だから安くしろという要望もありません。やはり、テキスタイルに価値があるかどうかに尽きます。

 テキスタイル輸出では為替動向に左右されるのではなく、売れるものをしっかり作る。もちろん、昨年の同時期に比べれば円安ですから採算は改善しています、しかし、それで数量が伸びているわけでもありません。その面で輸出環境が大きく変化したとは考えていません。

 黒田 為替相場はそもそも動くものなのであまり意識していません。また日本品はもちろんの事、三国間貿易も行っているため、円とドル、ユーロの関係だけに注視するのではなく、ドルとユーロ、豪ドルとドル等、幅広く相場を見る必要はあります。皆さんと異なるのは当部が輸出専門の部署である点です。

 その面では為替相場の影響を受けない、ドル仕入れ・ドル販売を増やすことは為替リスクを軽減させる一つの手法です。仮に円高によって円換算が目減りしたとしても、ポイントが下がるわけではありませんから。最も大切なことは、日本製テキスタイルを中心にメッセージ、ストーリーを付けて、いかに提案していくかが重要です。

  ――輸出環境という面で、日本と欧州連合(EU)とのEPAが大筋合意しました。自由貿易の進展によるテキスタイル輸出への期待はありますか。

 濱野 為替相場と同じで、本当に必要な商品であれば関税に関係なく購入しますよ。

 岩田 関税はあまり関係ありません。輸入は多少プラスになるかもしれませんが、その分の日本の製造業が厳しくなります。そうなると、産地を守るにはどうするか考えねばなりませんが、消費者目線でどのような商品開発をしていけば世界で受け入れてもらえるかを追求していくことが大切ですし、それが競争の本質だと思います。

 黒田 あまり意識したことがありません。為替と同じです。今後は複数国の協定よりも1対1の自由貿易協定が加速するように思いますが、そうなったときも付加価値の商品をいかに早く作るかに重きを置きます。もちろん、ライバルになる国、合繊なら韓国、綿やウールだと中国が、どのような協定を結んでいるかは勉強の必要はあります。

〈環境配慮 重視される〉

  ――為替相場や自由貿易の進展以上に、輸出環境の変化はありますか。

 黒田 大きく変わったと思えるのは環境配慮型の重要性です。サステイナビリティー、トレーサビリティーなどいかに地球環境に配慮したモノ作りに取り組んでいるかが、欧州市場ではより重要になっています。商品以上にその企業がどのように環境問題に取り組んでいるか姿勢が問われています。それをどう発信するかが大切です。

  ――仏「プルミエール・ヴィジョン」(PV)ではブースで環境配慮型企業である点を瀧定名古屋さんは訴求されていましたね。

 黒田 これまでPVはいかに物を売り込むかに重点を置いた展示を行っていましたが、9月展ではあえてブースの3分の1を環境に配慮している姿勢を発信する場に変えました。

 これを見た、これまで商いのあるスポーツアパレルのファッション衣料担当者が他の担当者も呼んでくれました。来場者が他の来場者を連れてきてくれたわけです。その面で会場ではいかにメッセージを発信することが重要かということを感じました。

 日本では強く意識することはありませんが、リサイクルはじめ地球環境、動物愛護などが欧州ではより重視され、各社が関心をより強く持っています。

 濱野 サステイナビリティーという面ではテンセルを製造販売するオーストリアのレンチングがかなり力を入れていますね。そのために多額の資金を投入しています。ただ、環境配慮素材はどうしても量が限られコストも高くなってしまいますし、市場は限られてしまうのではありませんか。

 黒田 そうですね。現在は環境配慮素材ということで海外では10円、20円高くても買ってもらえていますが、いずれ環境配慮素材だから高いというのは通用しなくなると思います。ですから、いかに他の商品と同等価格で提案できるかも重要です。

 もう一つ、環境の変化という意味ではスピードですね。期近での発注が増えていますので、リードタイムが短くなっています。今後はテキスタイルから縫製までの輸送期間も究極ゼロにまで、いかにして実現するかも課題になるでしょう。今後こうしたニーズが表れてくるのではないでしょうか。つまり、一貫生産の提案です。

 岩田 伝達能力の発達によって、世界的に時間というか、流れが早くなりましたね。

 黒田 繊維と関係ない業界の方も違う角度で参入されていますので、別次元の動きもあります。

 岩田 その面ではITと組み合わせないと、難しい時代になっています。

 濱野 米国では大手小売業ほど厳しくなり、逆に電子商取引(EC)が伸びていますね。

 岩田 ECの成長は米国が特に顕著です。また、変化という意味では天然皮革が不足しているといわれています。米国人の牛肉を食べる量が減ったことが要因の一つです。そこに中国が高品質の天然皮革を調達するため、高品質品が玉不足になっています。動物愛護の観点で毛皮からフェークファーへの動きもあります。

 さらにサステイナビリティー、トレーサビリティーに加え、CSRなどに対して若い人ほど敏感になっています。その面ではこれからも市場は変化すると感じています。

〈輸出向け開発強化必要〉

  ――その変化の中で、日本製テキスタイルの優位性はどこにあると考えていますか。

 岩田 生産管理体制がしっかりしていることでしょうか。気配りができ、信頼性があり、先方が求めていなくても顧客のためになることを進んで行う点だと思います。

 濱野 一方で、私は先日のPVを見て、他国に比べ優位性を失いつつあるのではないかと危機感も感じました。国内市場に活気がないことが一因と思えます。これまで国内向けに良い商品を作って、それを海外にも発信する手法でしたが、国内向けに良い商品を作りにくくなっています。その面では今後、輸出向けにもっと開発を強化する必要があると思います。

 日本の合繊メーカーは常に進化し、機能性も向上させています。ただ、そうした素材が欧米など海外企業の素材に比べて思うように伸びていないようにも感じます。

 黒田 それは海外企業のブランディング戦略に長けている面です。かける資金も違います。ここだと思えるものにはスピード感をもって思い切り投資する。テキスタイルも同じです。若干のモディファイ、例えば毎年仕上げ加工を変えて打ち出すのではなく、これだと決めた商品を10年、20年提案してブランドを育てる覚悟が、メーカーだけでなく当社も含めて取り組まないと。我慢強く続けることも必要です。

 岩田 合繊メーカーもさまざまな素材名というかブランドがたくさんありますが、それのアピールが世間に浸透していないのはもったいないような気がしますね。

 黒田 日本のアパレルが作っている衣料品も世界一だと思います。これらを各国のトレンド、規模に合わせて世界に発信したら伸びるのでは。スーツ一つとってもそこまでの発想がよくできるなと思うことがあります。例えばウオッシャブルスーツは裏地をメッシュにしたり、穴を開けたりして水が流れる。ちょっとしたことなのですが、その発想が日本の素晴らしさでしょう。消費者のニーズを取り込んだ作り手の気配りは世界を見渡しても日本は世界一。これらを海外に発信すれば大きな可能性と商機があると思います。

 日本製テキスタイルの優位性を考えると、合繊であれば加工技術でしょう。そして同じものを再現できるのは強みだと思います。

 濱野 私も日本のテキスタイルの強みは加工だと思いますが、瀧定名古屋さんのようなストックサービスも世界的に評価される優位性なのではありませんか。リスク力やその機能は海外にないと思いますが。

 黒田 モノをリスクするだけで売れる時代は終わりつつあるとも感じています。先程申し上げたストーリーが重要になっていますから。しかし、アパレル・消費者は速さを求めます。つまり、いかに早くモノを作れるかという時代になりつつあると思います。

 もちろん、テキスタイルを備蓄して販売する手法がゼロになるわけではありません。ただ、ファッションに対する関心よりも、環境配慮などを通して社会でどう生きるか、どのようなライフスタイルを追求するかという方向に消費者が変化しています。そうなると十人十色。

〈現地化がミッション〉

  ――同じもので量をまとめないとコストが高くなります。

 黒田 コストに加え、同質化するリスクをはらむ半面、需要家は細分化されるということです。つまり、相反することをしなければなりません。そう考えると、リスクの仕方がモノをストックするだけでよいのかとも考えています。今まで2カ月かかっていたテキスタイル生産を、2週間でやれるところはないのかなど、時代のニーズに合致した形を追い求める必要があります。

 例えば、繊維に対する本気度からするとイタリアは全く違います。在庫がなくても2週間で仕上げてしまう。パントーンカラーの糸を用意しておき、その中なら先染めジャカード織物を1週間で作ります。プリントも朝に色柄が決まれば夕方に仕上がってくる。だからリスクが要らない。

 アジア市場と同じく、当初は欧州でもこのストック機能が生きると思っていましたが、思ったほど武器にはなっていない。そこにはイタリアという国があって本気でモノ作りをやっているからです。そのスピード感は全く日本と違います。トルコも早い。

 岩田 イタリアは輸出がメインの国ですから、そうしたことにたけていますね。優良なメーカーほど生産管理でのロボット化を含め効率化が進んでいます。

 黒田 イタリアは機械化も進んでいてコスト競争力が高まっています。中国に本気で勝とうとする姿勢があるから設備も変える。真剣に考えています。「自分たちはできません」では、これから通用しなくなるかもしれません。

  ――最後に各社のテキスタイル輸出拡大における課題をお願いします。

 濱野 総合商社がテキスタイル輸出に力を入れなくなる中で、その規模は縮小してきました。その面で現在はわれわれ繊維専門商社がテキスタイル輸出を立ち直させる役割を担う段階にあると考えています。

 そのためには人材が不可欠です。将来を見据えて人材を投入していくことが重要でしょう。今はエージェント通じた販売が多いですが、プロパーが生産背景、モノ作りなどを説明して、客に入り込む。その形を目指していくべきだと考えています。

 日本は染色仕上げ加工に優位性があるのですから、日本のテキスタイルを評価されるように、国としてのブランディングも重要だと思います。

 岩田 日本のテキスタイルをいかにして世界にアピールできるかが課題ですが、現地でキメ細かいサービス、マーケティング、開発ができれば伸びると考えています。将来、各地域に拠点を設けられるような体制に持っていきたい。その環境づくりにはやはり人材が必要です。

 黒田 輸出で外部環境に左右されないようにするために必要なのは、消費者が何を求めているのかをいかに早く察知できるかです。その面では皆さんがおっしゃるように、現地化させることが課題です。本社も現地も当社の社員が同じ価値観を持って話し込んで売れ筋をつかんで生産背景を構築する。同じ温度で物を供給するには現地化が最大のミッションです。そうなると、課題は人になる。

 短期的ではなく中長期で考えると、20代の人間を世界に出し、苦労しながらノウハウをつかんでいけば、これからも輸出事業は大きな可能性と明るい未来で満ちあふれています。

 それによって、日本からの輸出というだけでなく、三国間貿易も含めた貿易事業を確立したいと考えています。

  ――本日はありがとうございました。