特集 抗ウイルス加工・素材/食中毒や感染症流行で関心高まる

2017年10月31日 (火曜日)

 繊維製品への抗ウイルス加工が広まっている。繊維評価技術協議会(繊技協)の「SEK抗ウイルス加工マーク」の認証開始から2年半で取得社数は20社33マークとなっている。急速な増加の背景には毎年のように発生するウイルス性の集団食中毒や国内外での感染症の流行がある。日本で始まったともいえるこの機能加工・素材の現状と素材メーカーの最新の取り組みをリポートする。

〈「SEKマーク」広がる〉

 清潔や衛生分野の機能加工・素材で、重要なのが性能への公正中立な試験方法と評価基準だ。国内素材メーカーが相次いで抗ウイルス加工を打ち出すようになったのは2006年ごろのこと。

 ところが各社で試験方法が異なり、効果も不明確だったため、統一規格が求められるようになった。

 そこで、繊技協などが中心になって抗ウイルス性試験方法・基準を作成。国際標準化機構に提案し、14年に国際標準(ISO)規格として発行された。試験方法がISO規格となったことで繊技協は「SEK抗ウイルス加工マーク」を新設し、15年4月に認証をスタートした。指定検査機関はカケンテストセンター、ボーケン品質評価機構、日本繊維製品品質技術センター、ニッセンケン品質評価センターが行う。

 SEK抗ウイルス加工マークへの関心は高く、17年10月時点で昨年より3社増え20社33アイテムで認証マークが取得されている。20社の内訳は次の通り。

 シキボウ▽クラボウ▽東洋紡▽プロテクティア▽岐セン▽田村駒▽日清紡テキスタイル▽ダイワボウノイ▽帝人フロンティア▽NBCメッシュテック▽エヌエスブレーン▽ハラダ▽カイタックファミリー▽東レ▽積水マテリアルソリューションズ▽倉敷繊維加工▽サカイオーベックス▽セロリー▽グンゼ▽小松精練

 15年の認定開始から2年でこのペースは異例の拡大と言える。順調なマーク認証拡大に対して繊技協の須曽紀光理事は、「国内外で発生するウイルス性の感染症がメディアで大きく取り上げられるようになり、社会的な関心が高まっているからではないか」と話す。

 繊技協は15年にも海外販売を許可しているSEKマーク繊維製品に抗ウイルス加工マークも追加することで海外市場での普及にも期待が高まる。来年には洗濯耐性についての回数も表記できないか検討を進める。

〈異業種からも繊維分野に〉

 抗ウイルス加工・素材への関心の高さを物語るのが、異業種からの参入事例の多さだ。大阪大学発のベンチャー企業、プロテクティア(大阪府茨木市)は、感染症対策商品の研究開発・販売するが、繊維分野の実績はSEK抗ウイルス加工マーク認証を取得したマスクが最初となる。

 関西ペイント(大阪市中央区)とグループの関西ペイント販売が、漆喰(しっくい)塗料「アレスシックイ」で抗ウイルス性を確認し、これを応用した弾性漆喰塗料の販売を始めた。SEKマークを取得していないものの、織・編み物や不織布、紙などに塗布することが可能な機能性塗料として提案する。

 異業種が参入する背景には、繊維分野に国際標準化された評価方法・基準がある。繊維以外の分野でのこうした統一基準はあまり例がなく、企業が安定的に研究開発や販売を継続することが容易ではない。

 このため機能製品の市場として繊維分野の新規参入の増加につながっている。

〈法令違反せず提案を〉

 抗ウイルス加工・素材の販売には配慮しなくてはならない点もある。つまり、医薬品医療機器等法や景品表示法に抵触しないよう商品を提案することだ。

 抗ウイルス加工・素材は、繊維上に付着した特定ウイルスの数を減少させる機能であり、あくまでも清潔・衛生機能加工の一つという分類にある。病気の治療や予防を目的としたものではなく、感染症に対する具体的な効果・効能をアピールすることは法令違反となる。こうした法的なリスクの観点からSEK抗ウイルス加工マークは法令順守のための注意表示の記載が必須事項となっている。

 抗ウイルス加工・素材の用途展開は幅広い。医療や介護現場での白衣やユニフォーム、シーツなどのほか、嘔吐物からの二次感染を防ぐシートとしても需要が拡大している。業務用だけでなく、一般生活繊維製品においてもメーカーは提案を進める。インテリア・リビング製品など身近なところにも抗ウイルス加工は普及しつつある。

〈「ヴァイアブロック」/衣料や生活資材へ提案/東洋紡〉

 東洋紡の抗ウイルス加工材「ヴァイアブロック」は表面にアニオン(陰イオン)性官能基を高密度に持つ変性アクリル材料で、表面のアニオン性官能基が繊維表面の特定ウイルスの数を減少させるほか、アンモニアやアミンなどの悪臭の原因となる物質を吸着する。

 2015年に「SEK抗ウイルス加工マーク」を取得した。繊維状と微粒子状の2タイプがある。繊維タイプは不織布などへの混綿加工が可能で、微粒子タイプは水などに分散させて、生地に塗布する後加工剤として使用する。衣料用途だけでなく各種フィルター用不織布素材や後加工用コーティング剤としても使える。

 衣料分野ではヴァイアブロックを使用した生地・製品を東洋紡STCが「ナノバリアー」ブランドで実用化。主に白衣などのユニフォーム、寝装やリネンサプライ向けでも提案する。

 一方、生活産業資材分野では、マスク用・家電用フィルター、カーペットに使用する不織布素材のほか、壁紙やカーテンなどの後加工用コーティング剤として販売する。特に人工皮革や合成皮革の後加工材として相性が良いことから、インテリア分野にもアピールする。

 今年2月には抗ウイルス性を持つ不織布「ヴァイアブロックNW」の販売を始め、年内にもSEK抗ウイルス加工マーク認証を取得する予定だ。

〈「クレンゼ」用途拡大へ/学生服分野にも提案/クラボウ〉

 クラボウの抗ウイルス繊維加工技術「クレンゼ」の用途が広がっている。これまで病院や食品加工場の白衣、子供用肌着、シーツをはじめとする寝装関連で実績がある。来年度には、学生服分野でも採用が広がりそうだ。今年、三甲テキスタイルにクレンゼを提供することにより、抗ウイルス加工の学生服地が登場した。今後は体操服やスクールシャツ用途でも提案を始める。

 クレンゼの大きな特徴は人体への安全性の高さにある。口腔内消毒剤として開発された抗菌成分を活用していることによる。幼児用繊維製品でも安心して使える。

 クレンゼは繊維上の特定ウイルスの数を減らすだけでなく抗菌防臭や制菌性もある。「SEK抗ウイルス加工マーク」に加え「抗菌防臭加工」「制菌加工(一般用途)」「制菌加工(特定用途)」の各SEKマークも取得し、さらに試験対象ウイルス・菌種も含めて20種類のウイルス、細菌、真菌に対して効果がある。

 クラボウでは2015年度、16年度の冬期に繊維事業部内で「インフルエンザ“0”活動」としてクレンゼを使った予防対策にも取り組み、効果を上げており、今年秋からはこの活動を社外にも広げようと「クレンゼキット」の販売を始める。

 クレンゼキットは、クレンゼに使う成分を含むスプレー▽クレンゼ加工のマスク・タオルハンカチ▽予防法を啓発するDVDとポスター――をひとまとめにしたもの。企業・団体、学校などにアピールする。

〈「ノロガード」販売進む/吐しゃ物からの感染防ぐ/シキボウ〉

 シキボウは、抗ウイルス加工「フルテクト」「ノロガード」の採用拡大に力を入れる。2015年に「SEK抗ウイルス加工マーク」を取得、衣料から資材まで幅広い分野で採用実績を重ねる。抗ウイルスの効果の実証試験にはバイオハザードの危険が伴うため高度な設備が必要だが、シキボウ江南の工場内で自前の試験設備を持つ。

 フルテクトは、エンベロープがあるインフルエンザウイルスを試験対象ウイルスとしてマーク認証を取得した。医療機関などで使う業務用マスクのほか、パジャマ、医療・食品工場用白衣にも使われる。

 ノロガードはノロウイルス代替であるエンベロープなしのネコカリシウイルスを試験対象にマークを取得しており、より高い抗ウイルス性を実証する。ノロガードの用途として近年、販売が好調なのがノロガードシートだ。ユニフォームメーカーや学生服地商社とも連携して新たな販路開拓に力を入れる。

 ノロガードシートは介護・宿泊施設、飲食店、学校などで嘔吐(おうと)物を処理するために活用される。ノロウイルス感染者の吐しゃ物にかぶせることで二次感染のリスクを抑えられる。

 業務用に加え、一般家庭用の繊維製品にも抗ウイルス加工の普及を進める。タオル、ハンカチ、パジャマなどでの採用を狙う。

〈「クリアフレッシュV」/高齢者インナーに重点/ダイワボウノイ〉

 ダイワボウノイは、抗ウイルス加工素材「クリアフレッシュV」の販路開拓に取り組む。2015年に「SEK抗ウイルス加工マーク」を取得したこの加工は繊維に付着した特定のウイルスの数を減らすだけでなく、制菌、抗菌防臭機能も付加できる。「制菌加工」「抗菌防臭加工」でもSEKマークを取得済み。

 クリアフレッシュVは、綿やレーヨンといったセルロース系繊維に加えポリエステル、ナイロンをはじめとする合成繊維への加工もできるため、展開できるアイテムも幅広い。パジャマ、寝具、ユニフォーム、ジャケット、タオル、子供服にもアピールする。

 これまでとりわけ実績が多いのはパジャマ、寝装、肌着としての採用。近年は、ニーズが高い高齢者や介護用インナーへの提案にも力を入れる。軽失禁対策インナーでの防汚加工や抗菌防臭、消臭加工で積んだ実績を生かす。

 クリアフレッシュVは、エンベロープ(ウイルス粒子に見られる膜状の構造)があるインフルエンザウイルス、エンベロープがないネコカリシウイルスの両方を試験対象にSEK抗ウイルス加工マークを取得している。国内と海外の両方で加工が可能なことから、海外販売も視野に入れる。そのため、人体への安全性を強調するため、「エコテックス」認証基準に合った素材作りに取り組む。