2017秋季総合特集(28)/top interview/ユニチカ/複合繊維技術が強み/取締役上席執行役員 機能材事業本部長兼 繊維事業本部長 長谷川 弘 氏/増産投資で反転攻勢へ
2017年10月24日 (火曜日)
「汎用品から撤退したことで現在は2成分複合繊維など差別化繊維が残っている。こうした技術が当社の独自性」――ユニチカの繊維事業本部長を務める長谷川弘取締役上席執行役員は指摘する。構造改革の完全に完了したことでポリエステル短繊維事業も勢いを取り戻した。差別化長繊維への引き合いも増えている。このため2017年度下半期(17年10月~18年3月)には増産投資も実施する計画である。「これまで繊維事業は縮小を続けてきたが、今下期は反転攻勢へのキーポイント」と強調した。
――これからを生き抜くための独自性とはどういったものでしょうか。
例えば25年前を振り返ると、当社の売上高は3400億円あり、そのうち半分が繊維でした。そして昨年度の売上高は1200億円台と半分以下の規模になっています。ところが、やはり半分は繊維関連が占めています。つまり規模が縮小する中でも繊維は常に一定の割合で残ってきたわけです。ただ、中身が大きく変わりました。汎用品からの撤退が進んだことで、現在では差別化商品だけが生き残っています。それが何だったのかと見れば、当社の場合はやはり2成分複合繊維などです。これはポリエステル短繊維も高強力ポリエステル長繊維もともにそうです。
当社は15年にポリエステル短繊維で汎用わたから撤退し、生産規模を3分の1にまで縮小しました。現在は年産約1万トン規模で差別化品に集中していますが、その中でも複合繊維を求める市場が拡大しています。例えば不織布用途、あるいは2成分複合ポリエステル長繊維「メルセット」も引き合いが増えています。つまり、複合繊維の技術が当社の独自性として生き残っているわけです。
そのほか、当社にはモノフィラメントもあります。最近では3Dプリンター材料としてポリ乳酸繊維「テラマック」のモノフィラメントが注目されていますし、今年は温度によって形態を変化させることのできる感温タイプなども発表しました。規模は小さくてもユニークな商品を開発していくことに取り組んでいますが、ここに来て小粒でもピリリと辛いといった商品が増えています。そして、これらもまたポリマーの技術がベースにあります。共重合技術や改質技術によって素材を大本から変化させてきました。こうした技術もまた、当社の独自性と言えるでしょう。
――2017年度上半期(17年4~9月)の繊維事業の商況はいかがでしたか。
分野によってバラツキがありますが、ポリエステル短繊維は好調が続いています。特に衛材用途がリードし、機能紙用ショートカットファイバーも販売量が伸びています。ポリエステル短繊維は構造改革で連続重合からバッチ重合に重合方式が変わったことで小ロット生産が可能になりました。このため小回りが利くようになり、顧客と連携した生産と供給ができていることが好調の要因です。ただ土木や建材用途は需要がやや弱かった。東京オリンピックも控えているのですが、やはり全体的に遅れ気味なのでしょう。漁網など水産資材も海苔網など一部の用途を除いて思わしくありませんでした。
一方、高強力ポリエステル糸ではメルセットの引き合いが順調です。現在の主力用途はネットなどですが、機能性に対する評価が高まってきました。
こうした中、15年のポリエステル繊維の構造改革に続いて、昨年3月にはビニロン繊維の生産を停止し、在庫も今年度中に取引先への引き渡しが終わります。これによって繊維事業の構造改革は完了しました。今下半期からは、増産に向けた投資を行います。
――具体的には、どのような増産計画となりますか。
ポリエステル短繊維は現在、年間1万1千トンの生産能力ですが、既存設備の改造でボトルネックを解消し、生産性を高めることで1万3千トンに拡大する計画です。増産した分は衛材用途と機能紙用ショートカットファイバーが中心になるでしょう。本年度第4四半期(18年1~3月)中か来期初には改造設備を稼働させたいと考えています。また、メルセットも増設を検討します。現在は1系列での生産ですが、需要が順調に伸びていますから、今期中には増設に関する何らかの意思決定をしたいと思います。
いずれの増産もユーザーの声に応える商品をさらに供給することが狙いです。これまで繊維事業は縮小が続いてきましたが、今回の増産投資によって下半期からは反転攻勢に向けたキーポイントとなります。
――そのほか課題は何でしょうか。
課題は海外市場の動向でしょう。当社の産業用繊維は輸出が比較的多いですから。そこで米ニューヨークに事務所を設け、独デュッセルドルフ事務所と合わせて海外拠点としての活用で海外での販売拡大に取り組みます。特に重点提案するのは、やはり2成分複合のポリエステル短繊維や機能紙用ショートカットファイバーです。日系企業だけでなくローカル企業への販売を拡大することが重要になります。
もう一つは国内の既存ビジネス。土木や建材は荷動きが鈍かったのですが、これは総選挙もあって需要家が様子見になっているという面がありました。ですから、選挙も終わり需要も動き出すでしょう。いよいよ東京オリンピックも控えていますから、場合によっては急な受注が増えるかもしれません。そうした動きに対して、今のうちからしっかりと準備しておくことが大切だと考えています。
〈25年前のあなたに一言/常に成長を考えろ〉
「25年前と言えば、経営企画部の末席だったころ。今振り返るとじくじたる思いがある」と言う長谷川さん。バブル崩壊後だったが、当時の経営企画部のメンバーは「いずれ景気は底入れする。それまでは動かずにじっとしのぐしかないという考え方が主流だった」。それはユニチカに限らず、日本全体が“待ちの姿勢”に支配されていたとも。しかし現実は底入れどころか“失われた20年”に。「あの時、何か動くためのアイデアが出せたのではないかと今でも思う」。それだけに「『常に成長を考えろ』と当時の自分に言いたい」と言う。やはり企業活動にとって流れを止めることが最もダメなことだと指摘。そうした思いは、今期から始まる設備投資にも込められている。
〔略歴〕
はせがわ・ひろし 1977年ユニチカ入社、2011年執行役員、13年上席執行役員不織布事業本部長、14年取締役、15年取締役上席執行役員機能材事業本部長、16年4月から取締役上席執行役員機能材事業本部長兼繊維事業本部長。