特集 環境(2)/わが社の環境戦略
2017年12月06日 (水曜日)
〈東レ/バイオマス原料を拡大/PTT繊維はエコマーク取得〉
東レは地球環境や資源・エネルギー問題に対してソリューションを提供する「グリーンイノベーション(GR)事業」を推進している。繊維分野でもさまざまな取り組みが進む。
東レのGR事業は、省エネルギー・新エネルギー、バイオマス原料、水処理、空気清浄、環境負荷低減、リサイクルといった課題に対してグループの総力を結集してソリューションを提供することが目標。繊維分野で原料面からのアプローチとして注目が高いのがバイオマスPET。
PETは高純度テレフタル酸(PTA)とエチレングリコール(EG)を重合して生産する。このうちEGをバイオマス原料由来に転換することを進めている。さらにPTAも植物由来とする100%バイオマス原料PETの開発にも取り組んでおり、今年からパイロットプラントでの生産が始まった。自動車関連やスポーツ、ユニフォーム分野からの関心は高い。
もう一つのポリエステル系繊維である「エコディア」PTT(ポリトリメチレン・テレフタレート)でも新たな動きが。エコディアPTTはデュポン・スペシャルティ・プロダクツの「ソロナ」ポリマーを原料とする。ソロナポリマーは植物の糖を発酵させて作る1,3―プロパンジオールとテレフタル酸を共重合したバイオベース合成ポリマー含有率(植物由来割合)約37%の部分植物由来PTT樹脂。
このほどエコディアPTT複合繊維とテキスタイルがエコマーク商品類型No.104「家庭用繊維製品」の紡織基礎製品として認定を受けた。PTT繊維製品がタイプⅠ環境ラベル(日本ではエコマーク)に認定されるのは、世界で初めてとなる。PTT複合繊維はストレッチ素材ブランド「プライムフレックス」などでスポーツ分野を中心に活躍している。
〈旭化成/国際認証も積極取得/「ベンベルグ」「ロイカ」とも〉
旭化成はキュプラ繊維「ベンベルグ」、“プレミアムストレッチファイバー”として位置付けるスパンデックス「ロイカ」ともに環境に配慮した繊維素材としての打ち出しを強化している。いずれも欧米など海外市場での販売を重視しており、その際に環境配慮型素材であることは必須条件となっているからだ。このため国際認証なども積極的に取得した。
ベンベルグは天然由来のセルロース再生繊維であり、環境に優しい素材とされる。こうした信頼感をさらに強めるために今年、テキスタイル・エクスチェンジのGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証を取得した。GRS認証はリサイクル材料の量やトレーサビリティーを公的に裏付ける認証プログラム。今回の認証では繊維として本来使用されないコットンリンターを100%原料とし、化学薬品の管理や環境に配慮した生産技術が評価された。
一方、ロイカも環境に関する第三者認証を積極的に取得した。スパンデックスは通常、環境配慮型商品の素材には適さない考えられがちだが、そういった認識を刷新することが狙いだ。2016年に生産工程で発生する不使用糸などを再処理して生産する「ロイカEF」でGRS認証を取得。ポリウレタン弾性糸でGSR認証を取得しているのは世界でロイカEFが唯一である。
旭化成スパンデックスヨーロッパが生産する染色時に洗浄などの水使用量を削減できるエステル系スパンデックス「ロイカV550」も持続可能な環境配慮型デザインなどの認証「クレードル・トゥ・クレードル」を取得した。
こうした第三者機関による認証を打ち出すことで、環境配慮型商品へのシフトが進む欧米市場などでさらなるシェア拡大を進める。
〈クラレグループ/生産工程の環境負荷低減/ケミカルリサイクルにも取り組む〉
クラレグループは独自性のある商品で繊維製品の生産工程の環境負荷低減に取り組む。独自のケミカルリサイクルシステム「エコトーク」も大きな可能性を秘める。
クラレグループの独自素材の代表がポリビニルアルコール(PVA)繊維。その研究から生まれたのが、クラレトレーディングが販売する新規水溶性繊維「ミントバール」である。綿やウール、合繊と混紡・混繊した糸によるテキスタイルを最終工程で熱水処理するだけで糸中のミントバールが全溶融し、残った糸の間に空隙は生まれる。これによって無撚糸のソフトさや軽量化、かさ高性などを付与できる。
ミントバールの特徴が環境への優しさ。通常、減量加工など繊維の一部を溶融させる加工は大量の薬剤を使用し、大掛かりな廃液処理も必要。しかしミントバールは熱水だけで繊維が溶融する。他の水溶性繊維よりも細繊度のため溶解量が少なく、廃液処理の負担も小さくなる。近年、新興国でも加工時の廃液処理などに関する規制が強まっていることから、ミントバールのメリットは大きい。
加工工程での環境負荷低減という観点では、低温染色可能なポリエステル繊維「ピュアス」も注目される。一般的なポリエステル繊維は130~135℃の高温・高圧下で染色するが、ピュアスは105℃で染色可能。染色段階で石油使用量を削減しCO2発生を約20%削減できる。
クラレトレーディングが新日鐵住金と共同で実施するケミカルリサイクルシステム「エコトーク」も独自の取り組み。クラレトレーディングが回収した使用済み繊維製品を破砕した後、新日鐵住金のコークス炉で炭化水素油、コークス、コークス炉ガスなどに分解して再利用するもの。素材混率などに制限がなく、廃棄物もほとんど出ない点が大きな可能性を秘める。
〈ユニチカ/生分解性へのニーズ高い/生活資材から3Dプリンターまで〉
ユニチカはポリ乳酸(PLA)樹脂・繊維「テラマック」を製造販売しているが、ここに来て欧米を中心に生分解性樹脂・繊維への関心が急速に高まるなどで注目が高まる。生活資材から3Dプリンター原料まで幅広い用途で需要掘り起こしを進める。
PLA樹脂・繊維の最大の特徴は生分解性。近年、欧米を中心に生分解性樹脂・繊維への関心が高まる。海洋中のマイクロプラスチックへの懸念が高まるなど、自然界に人工的に合成した高分子化合物を放出することによる環境への悪影響を懸念する声が高まっているからだ。
こうした中、テラマックも欧州を中心に根強い人気が続く。例えばティーバッグ用モノフィラメントメッシュ織物は欧州市場での販売が堅調。欧州ではコンポスト(堆肥)の普及率が高いため、使用済み茶葉をテラマック製ティーバッグに入れたままコンポスト製造容器に投入できることが人気の秘密である。土木資材でも生分解性は大きなメリット。テラマック製不織布による防草シートは、土中に放置するだけで最終的に分解される。そのほかボディータオル用途での販売も伸びている。こちらはナイロンなどに比べると風合いがソフトであり、肌当たりの良い点が評価された。
PLAの課題は融点の低さによる耐熱性の弱さだが、逆にこの点を強みにした用途として注目なのが3Dプリンター用モノフィラメントだろう。3Dプリンターの原料フィラメントはABS樹脂などが一般的だが、溶融時に臭気があることが嫌われる。これに対してテラマックは溶融時に臭気が発生しないことから評価が高まっている。
ユニチカでは引き続き生分解性などテラマックの性質が生きる用途での需要創出に取り組む。
〈東洋紡グループ/素材・技術駆使し環境変える/繊維の技術で植物工場も〉
東洋紡グループは「環境、ヘルスケア、高機能で社会に貢献する価値を作り続けるカテゴリー・リーダー」を目指している。その観点から独自の素材や技術を通じて環境保全に貢献することを目指す。こうした取り組みを訴求するため、7~9日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される環境展示会「エコプロ2017」に出展する。
今回の展示会では「自然×素材=環境~素材が変われば、環境は変わる」をテーマに独自の素材や製品を紹介する。ポリエチレンテレフタレート(PET)を超える機能を持つ100%バイオ樹脂であるポリエチレンフラノエート(PEF)やリサイクル樹脂使用比率が世界最高レベルのポリエステルフィルム「サイクルクリーン」、海水を濾過して飲料水に変える高性能水処理膜「ホセロップ」などを紹介する。
一方、繊維の技術を応用した新しい取り組みも始まった。その一つが富山大学大学院医学薬学研究部と提携し、富山事業所庄川工場(富山県射水市)にある完全閉鎖型植物栽培ラボ「HAL」で薬用植物の栽培技術確立と抽出成分を含む工業的生産・販売を目指す試み。
同社はこれまでもHALで栽培技術の基礎研究などを進めてきた。栽培時の空気、水、光などの管理・制御には紡績の生産・品質管理技術を応用し、葉野菜のほか、工場栽培が難しいとされる根菜などの栽培にも成功している。
さらなる高付加価値植物として薬用植物に着目。薬用植物研究で実績のある富山大学薬学部の黒崎教授と同大学の薬学部付属薬用植物園と連携し、薬用植物の工業的生産の基礎研究を進める。現在、漢方薬などの原料となる薬用植物は輸入品が大勢を占め、乱獲や野生植物の減少、天候不順や自然環境の変化などで供給に限界があるため、植物工場で生産する高付加価値作物として有望とされる。
〈三菱ケミカルアクア・ソリューションズ/PVDF膜製品に注目/中国など海外の動き順調〉
膜分離活性汚泥法(MBR)向けにPVDF膜モジュール製品を展開している三菱ケミカルアクア・ソリューションズ(東京都品川区)。省スペースや高度な処理水が得られるといった特長が国内外で高い評価を得ており、2017年度も大きな成長を見込んでいる。
MBRは、標準活性汚泥法(CAS)では必須の沈殿槽が不要なため、3分の1程度のスペースで済むことなどから世界各国の下排水処理設備での採用が拡大傾向にある。繊維技術と高分子コントロール技術が融合された同社のPVDF膜モジュール製品は高い膜集積率やばっ気洗浄性を実現し、世界でも高いシェアを誇る。
現在は中国や韓国、欧州などでの展開が中心だが、特に伸びているのが中国だ。農業集落排水用の需要が拡大(市場規模は16年比2~2・5倍)しているもので、さらなる伸長が期待できるとみる。中国向けは産業排水用も順調な推移を見せている。
韓国は半導体を中心とする産業排水用の動きが良好。欧州市場は旧東欧諸国向けの需要が旺盛で、スロバキアの工業団地の排水処理用で採用された。日本については食品工場などへの提案を強めていく。
今後はこれらの国・地域への拡販を一層強化する。メンブレン事業部の堀内大光メンブレン部長は「世界的な水不足から今後は下・排水の再利用が増加することが予想されており、MBRのマーケットも拡大する。再利用の用途では膜の信頼性や耐久性などが求められるため、当社の高性能品を積極提案する」とした。
中国や韓国のメーカーが台頭するなどライバルもひしめくが、一層の品質向上によってこれからも市場をリードしていく。中国に生産拠点を設けており、コスト抑制要求にも対応していく。
〈帝人フロンティア/シンク・エコが起点/ナノフロントで環境負荷低減〉
2015年9月の国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」の12番目の項目として「持続可能な生産と消費」が盛り込まれている。帝人フロンティアは「THINK ECO(シンク・エコ)」という環境活動指針を掲げ、SDGsの目標に沿う事業を衣料繊維、産業資材繊維両面で進めている。
衣料繊維では、戦略素材のポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」の拡販がバイオ由来素材を広げる取り組みに貢献する。ソロテックスを構成するポリマーの一部には、バイオマス由来の植物性原料が使われている。その割合は、全ポリマーの37%を占めており、新たな化石資源の消費を抑えて温室効果ガス排出の低減に貢献する。
分子構造を背景とした適度なストレッチ性や形態回復性といった機能がファッション衣料に快適性を求めるニーズの高まりに伴って販売数量を伸ばしている。
産業資材用途で拡販に力を入れるのが、髪の毛よりもはるかに細いポリエステルナノファイバーの「ナノフロント」。スポーツ衣料、ヘルスケア、コスメ用途で展開してきたものを広げ、高機能のエアフィルター、水処理フィルターでの採用拡大に期待する。世界最細クラスの同素材をバグフィルターに使用すると、低い圧力損失でも高い集塵性能を発揮。フィルター寿命を長くしてコスト削減につながる。生産効率も落とすことなく、シンク・エコの具体的な取り組みテーマである「環境負荷物質の低減」にも貢献する。水処理フィルターでもカートリッジの提案を進めており、水資源の有効活用につながる点を訴求する。
環境規制強化や省エネに対する関心が世界的に高まる中、国内の高機能化需要を取り込むだけでなく、グローバル市場にも販路を求めていく。
〈セーレン/無駄排除できる素材/春夏の冷感タイプも投入〉
セーレンは、18秋冬シーズンのスポーツ市場にボディーマッピング光発熱素材「ヒートポイント」を投入する。特殊樹脂と「レジスタック」手法の応用から生まれた機能マテリアルで、赤外線吸収による高い発熱性能を有している。必要な部位に必要なだけ利用でき、無駄の排除による環境への優しさも特長の一つとなる。
同素材は、赤外線を吸収して発熱する機能性微粒子を複合した特殊樹脂シートだ。一般的なポリエステル生地と比べて生地の表面温度が2℃高くなり、低温環境シーンでも衣服内を暖かく快適に保つことができる。独自手法により自在な柄表現を可能にしているほか、柔軟性に優れている樹脂が着用時の不快感や運動時の違和感を抑える。
特殊な樹脂シートであることから、衣料品の全てに使用しなくても良いのが大きなメリット。背中や肩など必要な部位にピンポイントで活用することができるほか、顧客の要望に応じた意匠表現(ロゴマークなど)も可能になる。ロスや無駄の排除による環境負荷低減に期待がかかる。
19春夏からは冷感ボディーマッピング機能を実現した「アイスブラストセカンド」を打ち出す。シート状の特殊樹脂を繊維に転写プリントすることで特定部位や形状に冷感機能を付与することができる。
そのほか、同社が展開する環境対応商材では、デジタルプロダクションシステム「ビスコテックス」が挙げられる。自社開発のインクジェットプリンターを核に全工程をITで制御することで、企画から製造までの短納期化を可能にしたほか、多品種・小ロット・在庫レス生産を実現した。新たにプリント生地の裏面も染めたタイプを用意し、ファッション性を高めている。
〈日本バイリーン/電池セパレーター供給/技術力生かし市場支える〉
燃費の良さや環境性能の高さで知られるハイブリッド車。各メーカーのラインアップも充実を見せているが、ハイブリッド車になくてはならない部材の一つが電池セパレーターだ。時代の要望に合ったセパレーター(ニッケルカドミウムやニッケル水素電池用など)の供給を続けてきたのが日本バイリーンであり、技術力で市場を支えている。
同社では電池用材料を幅広く手掛けている。民生用二次電池や電動工具電源用電池のセパレーターが全体の60%以上を占めているが、その中でもメインとなっているのがハイブリッド車に使用される動力電源用電池セパレーターとなる。最適な設計の設備で生産するなど顧客からの信頼と評価は高い。
日本でハイブリッド車の本格展開が始まったのは1990年代後半と言われている。以来、新製品の登場やモデルチェンジ(マイナーチェンジ)が実施されるなど進化を遂げてきたが、そうした動きに合わせるかのように、動力電源用電池に用いられるセパレーターも着実にバージョンアップが図られてきた。
例えば同社では、生産開始当初に乾式だった製造方法を湿式へと変更しているが、これによってシートの均一性が格段に向上した。さらに原料メーカーと共同で開発した特殊繊維を用いるようにもなっている。こうした取り組みによるセパレーターの高度化で、電池の長寿命化や出力アップに貢献している。
自動車などに用いられる二次電池は、リチウムイオン電池の需要が伸びているが、ニッケルカドミウム電池・ニッケル水素電池も確実に需要を堅持している。セパレーターは高度化や新製品開発の余地を残しており、同社の開発力や技術力には引き続き期待が寄せられている。